4.神様とお別れする前に
神様いわく、神様には寿命があるらしい。
庭に霜がおりた日。
「冬が深まったら、志春とお別れだ。」
と神様が言ったから、俺は聞いてみた。
「神様の寿命は、正確に分かるもん?」
「分かる。常世に還る準備をしたくなる。」
と神様。
「常世には、どうやって行く?お迎えが来る?」
「海まで行って、海から、還る。」
と神様。
「どの海でも、海なら、還れる?」
「海は、繋がっておる。」
と神様。
俺は、勇気を出して、神様に頼みごとをした。
受験の年に神社へ参拝したときは、合格しますように、と、お願いすることに何の迷いもなかった。
一緒に暮らしているうちに、神様と楽しく過ごしたい、神様にも俺との暮らしを楽しいと感じてほしい、と考えるようになっていた。
神様にお願いした途端に、俺と神様の関係が壊れて、楽しくなくなるのは嫌なんだ。
でも、神様と、これっきりになる、と分かっているなら、嫌だ、とか言っていられない。
「俺は、神様が、海に還るとき、見送りに行きたい。
神様と別れる前に、神様と遊んだ思い出を作りたい。
神様が海から還るとき、神様と一緒に、俺が海に行くのは、神様的に、良くないこと?」
「良くないことはない。
志春がついてきたからといって、常世に行くことに影響などない。
志春が、海まで行こうとすると、志春の苦手な、人工物のある都会が目に入るのではないか?」
と神様は、俺を心配してくれた。
俺は、人が作ったものを見たくなくて、俺以外の人が住んでいない、山のふもとにいるから。
「神様。
小学校では、転校するクラスメイトがいると、お別れ会をしたんだ。
気の合う友達が転校するときは、転校前に遊んだりしてさ。
もう会うことがないと分かっていたら、元気でやれよ、と言って、送り出すんだ。
俺は、神様と暮らすのが楽しかったけど、ずっと家にいたから、神様と遊びに行って、思いっきり遊んでから、見送りたい。
俺は、小童なんだろ?」
神様は、俺を微笑ましく見ている。
「志春は、小童。小童は、遊びたがるものだ。最初で最後。小童の遊びに付き合ってやろう。
小童の遊びに付き合ってやるのも、人の世を知れてよかろう。」
と神様。
ありがとう、神様。
最高の思い出を作ろう!
「神様が見たい場所や、還りたい海があったら、そこに行こうと思うんだけど、リクエストある?」
「人の世ならでは、の海が良い。常世にはないものが良い。」
と神様。
「探してみる。」
常世に、何があるか、知らないけれど、神様が人の世だと実感できる場所を探そう。
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