35.父さんに与えられたもの。デスクに積まれた書類。暖房器具がなく、部屋の半分は、デスクと椅子で占められている陽の当たらない仕事部屋。
7月30日、複数話、投稿
俺が、玄関で布団に埋もれているところに戻ってきた父さんは、俺の頬を平手で叩いてきた。
「いつまで、休んでいるんだ。布団を抱えて、仕事部屋に行きなさい。」
と父さん。
俺は、父さんの家の中に入りたくない、と思った。
でも、入らないために、どうしたらいいのか、分からなかった。
父さんに逆らって殴られるのも、父さんの思う通りに動かないことで叩かれるのも、嫌だ、と俺は思った。
だから、言われるままに、父さんの後について、布団と毛布を抱えて、廊下を歩いた。
父さん母さんに存在を疎まれていたんだ、と察したときに、俺は傷ついた。
神様と仲良くなって、俺には神様がいるから、父さん母さんが、俺をいらない子にしても平気だって思うようにしていた。
本当は、あまり平気じゃなかったんだ。
俺は、母さんに、気にされていなかったことに改めてショックを受けた。
俺が、前向きに進んでいけば、いつか、俺のことを欲しがってくれるんじゃないかって思っていたんだ。
家族の中に入っておいで、仲良くしよう、と歓迎される日が、来るかもって期待していた。
父さんは、母さんから逃げようと考えていた俺に、逃げ場所を与えてくれた。
俺が息子だから、父さんは俺を新居に招いた。
騙して、連れてこられて、殴られて、部屋に閉じ込められて、仕事をさせられるのが、父さんの親子の情で、父さんの家族に入るために必要な義務だっていうなら。
俺は、父さんの家族に入らなくていい。
俺は、父さんの家族には、入りたくない。
父さんの家族にも、母さんの家族にも、入れて欲しいなんて、二度と思わないから、俺の家に帰りたい。
心の中で、俺は、神様を呼び続けた。
帰りたい、帰りたいよ、神様。
神様と過ごした、山のふもとの我が家に帰りたい。
意味のないことだと分かっていても、神様を呼ばずにはいられなかった。
神様には、ネットショップ〈神棚〉のホームページにアクセスしないと、会えない。
スマホを取り上げられた俺には、神様に会う手段がなかった。
痛む頭と増えた頬の痛みをこらえながら、父さんの言う通りに、布団と毛布を運ぶ。
父さんに連れていかれた部屋には、古そうなデスクと椅子が置いてあった。
デスクには、古い型のパソコンと、乱雑に積まれた書類が乗っている。
四畳ほどの広さの仕事部屋は、暖房器具もなく、家の中なのに、空気が冷たかった。
隣の家の壁が近くて、窓があっても、陽の光が入ってこない。
父さんが、俺に用意した部屋は、どんなに晴れた日中でも、陽の光がさしこまない、薄暗い仕事部屋だった。
「志春の部屋だ。
仕事は、机の上にあるもの全て。
仕事が終わったら、呼びなさい。
仕事が終わるまで、声を出さないように。」
と父さん。
俺が布団と毛布を持って、部屋に入っても、父さんは部屋に入ってこない。
父さんは、部屋の扉を閉めて、扉の前に、重石のような何かを移動させると、扉の前から立ち去った。
父さんは、仕事の説明さえしなかった。
痛む頭をおさえながら、机の上の書類を見る。
データ入力の仕事だ。
俺の飲食店のバイト経験が、書類の山に活きるとは到底思えない。
ネットショップ〈神棚〉の立ち上げで、ネットショップに関する決まりは、勉強したけれど、付け焼き刃の域を出ない知識しか、俺にはない。
書類の山の何枚かの社名を見て、一つの会社の書類だけじゃないと分かった。
色々な会社のデータ入力を受注したけど、入力する人がいないから、俺にやらせようという魂胆?
一週間未満のデータ入力で、スマホ代、卒業式に着る一式代、普段着代なんて、貯まる?
それに、ご飯と風呂、トイレは、どうなる?
この家には、父さん以外に、誰か住んでいるみたいだけど、誰がいる?
俺の頭の中に渦巻く疑問を解消できる父さんは、俺に質問を許さない。
父さんに、家においで、と誘われたときは、嬉しかった。
でも、今は。
俺、この家にいたくない。
帰りたい。
我が家に帰りたいよ、神様。
神様に会いたい。
ネットショップ〈神棚〉のホームページにアクセスさえ、できたら、神様に会えるのに。
俺は、はっとした。
スマホがなくたって、俺は、神様に会うことが出来る。
俺に与えられた仕事部屋には、パソコンがある。
インターネットができれば、神様に会える。
ネットショップ〈神棚〉のホームページにアクセスできれば。
俺は、希望を胸に、パソコン周りを確認してから、パソコンの電源を入れた。
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