34.父さんの運転する車が停まったのは?父さんは、俺の身の安全を危惧して、父さんの新居に招いてくれたんじゃなかった?
父さんが、俺を褒めてくれたのは、賞をとったとき。
参加賞じゃなく、一人しか受賞者がいないような賞。
思い出せたけれど、大学在学中の俺は、四年間、賞と呼べるものには無縁だった。
賞をとれていたのは、小学生のときだけ。
小学校のときの夏休みの宿題は、母さんが色々準備していたと思う。
母さんのサポートがなくなった大学生の俺に、抜きん出るような優秀さは、なかった。
父さんに話せること、他に何かないかな?
ある。
「父さん、俺、イラスト描いているんだ。」
父さんは、無反応。
「イラストで賞をとったことはないけれど、イラストを気に入ってくれた人はいて。
俺のイラストにお金を出す価値があると評価してくれたんだ。」
俺は、ミラー越しに、父さんの様子をうかがいながら話をした。
父さんは、話しかけてこないけれど、俺の話は聞いているっぽい。
俺を無視している、というより、父さんが相手にする価値が、俺にはないと考えているような気がする。
俺がイラスト、と言ったときの父さんの表情は、
『イラスト?役に立たない趣味ごときで、自慢げに。』
と、父さんのスタンスを如実に物語っていた。
イラストじゃ、父さんの関心をひけないと理解した俺は、別の話題を探した。
でも、俺の世界のほとんどは、俺がイラストを描いて、カリスマ店員の神様が売るネットショップ〈神棚〉が占めている。
俺の店、ネットショップ〈神棚〉は、俺と神様のどちらが欠けても、軌道にのらなかった。
俺だけの功績じゃないものを俺のものとして、話すのはおかしい。
話題にできることがなくなった俺は、ミラー越しに父さんを見るのをやめた。
流れる車窓に目をうつす。
ワンルームに入居する日が、父さん母さんと俺の三人でする最後のドライブになった。
最後のドライブに出発する日、父さんも母さんも、機嫌が悪いようには見えなかった。
俺が大学生になって、手が離れたから、やっと、親の責務を終えて、離婚できる、と開放感に支配されていた?
父さんの心も、母さんの心も分からないことだらけ。
俺は、父さんと母さんに持て余されていた?
父さんの運転する車は、寂れた住宅地の、古ぼけた一軒家の駐車場に停車した。
両隣は、空き家かな?
背の高い雑草が枯れている庭。
開けられていない雨戸。
壊れている雨どい。
錆びている門扉。
父さんが車を停めた家は、人が住んでいる分、隣近所よりマシに見える。
新居って聞いたから、新しい家だと俺は、勝手に思っていた。
今日から、卒業式までお世話になる家だけど、山のふもとの我が家の方が、周りが寂れていないから、物寂しさがなくて、心穏やかに生活できる気がする。
俺は、車から降りて、布団と毛布を家に運び込む。
父さんは、玄関に立っている俺の後ろから入ってきて、鍵を閉めて、チェーンをかけた。
玄関ドアを背にした父さんは、淡々と俺に言った。
「志春は、卒業式に着ていく一式を買う金を持っていない。今から、志春が、自分で働いて稼ぎなさい。
仕事はある。
金が稼げないなら、卒業式は諦めなさい。」
え?父さん?
俺に仕事って、どういう意味?
犯罪現場となったワンルームにいたら、俺の身が危ないから、俺を避難させるために、父さんの新居に招いてくれたんだよね?
俺、父さんのメッセージを読み間違えていない、と思うんだ。
仕事については、一文も書かれていなかったよ、父さん。
俺は、ぽかんと、してしまった。
ぽかんとする俺に、父さんは、スマホを渡しなさい、と言った。
「嫌だよ。俺のスマホだよ?」
俺は、スマホを渡したくなかったから、拒否した。
俺は、わけがわからなすぎて、神様に会いたくてたまらない。
「使用者は、志春だが、契約して、金を払っているのは、誰だ?」
と父さん。
「父さんと母さん。」
俺は、払っていない。
使っているだけ。
「志春は、スマホ代を一銭も払っていないんだ。」
と父さん。
「うん。」
強調しなくても、その通りだよ、父さん。
「スマホ代を自分で稼げない志春には、スマホを持つ資格はない。
スマホが欲しかったら、スマホ代と服代を志春は、これから自分で稼がないといけない。
今のスマホは、解約する。
無駄遣いだからな。」
と父さん。
父さん、話が違いすぎる。
「スマホ代と服代って?
父さんは、こっちで着る服は、あるのを着なさいって、俺に言ったよ?
スマホ代と、日常の服代と、卒業式の一式の代金を俺が、今から、働いて稼ぐってこと?
卒業式まで、一週間しかないのに、間に合うわけがないよ。
父さん母さんが支払ってくれていたスマホは、いずれ解約するにしても、俺が自分で契約してからにして。
データのバックアップとって、新しいスマホに移したい。」
俺は、父さんに押し切られないように頑張った。
ゴンっと、頭頂部に衝撃が走る。
俺は、くらくらして、床に手をついた。
上着のポケットに入っているスマホが、床にあたって硬質な音を立てる。
「ここか。素直さが足りない。」
父さんは、俺の上着からスマホを取り出した。
俺、殴られた?
俺は、動けないまま、声を振り絞った。
「返して、父さん。そのスマホは、俺のだよ。」
「この家に、志春のものは、何もない。」
父さんは、玄関に置いてある布団と毛布を見て、安物だな、とコメントすると、玄関から続く廊下を歩いていく。
神様、どうしよう。
どうしたら、いい?
俺は、間違えたんだ。
俺は、痛む頭をおさえて、父さんが安物だと言い放った布団と毛布に倒れ込んだ。
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