表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/80

3.山のふもとの一軒家で神様と暮らした日々

俺は、山に修行、ではなく、山のふもとに休養にきている。


俺一人分の家事をして、家の掃除をして、庭の手入れにチャレンジしたり、周辺の散策をしたり。


山のふもとの一軒家。

俺の視界には、空と山と家に繋がる道路。


肩の力を抜いて、息ができる。


夏と秋は。

虫の多さと、大きさに、『虫のくせに栄養過多!』と大声をあげて、ハエ叩きで、ばしんばしんと叩いた。

どれ程、騒いでも、騒音の心配がない。


音か、気配か、風圧か。

虫は、ハエ叩きから逃げる。

虫にしたら、逃げるというより、避けるくらいの意識だと思う。


虫の棲み家に、俺が、お邪魔している感じだから。


就活前は、虫を見るだけで、騒いでいた。

今の俺は、騒ぎながら、ハエ叩きを振り回すことができる。


俺は、虫を追い払える大人に成長した。


神様は、俺が、いつ虫を見つけてもいいように、全ての部屋に、一本ずつハエ叩きを置いていくのが、新鮮だと面白がっていた。


ハエ叩きをとりにいっている間に、虫が移動して、夜中に、隙間から出てきたりしたら、嫌なんだ。


見つけたら、追い払うか、仕留める。


足が長くて、全長が人の頭くらいの大きさのクモは益虫らしいけれど、寝ているときに枕元を横断してほしくない。


寝ているときは、枕と布団と畳以外は触りたくない。


そして、冬。

山の冬だから、寒いのか。

周囲に人がいないから、なのか。


俺一人のために、暖房はもったいない。


家の中でも、コート、耳当て、帽子、手袋、モコモコスリッパ。


モコモコスリッパは、新品、おろしたて。


活動するのは、日の出ている暖かい時間。

寒くなり始めたら、体が冷える前に、布団に入る。


俺は、一人だけど、一人じゃない。


我が家には、神様がいる。


神様は、神棚が定位置だけど、お酒を飲み交わすときだけじゃなく、日常的に、神棚から出てきて、俺とお喋りするようになった。


俺の前の持ち主のときまでは、神棚から、人の暮らしを見ていた神様。


俺の暮らしぶりが、前の持ち主のときとは、違いすぎて、口を出したくなるんだって。


俺が寝ているとき以外、俺は神様とお喋りしていた。


「本来、神棚って、神様の家じゃないよな?」


「手作りの思いが込められた空間が心地よかった。」

と神様。


この家の神棚は、そのへんの木の枝を切って、工作した手作りの品。


いびつだけど、家に馴染んでいる。


「神様は、この家の神棚に来る前は、どこで神様をしていたんだ?


本体とか、御神体とか、ほっぽりだしてきてないよなあ?」


志春しはるは、何を心配している?」

と神様。


「俺の心配は、神様が、神社から家出してきて、この家にいるんじゃないか、ということだよ。


『うちの神様を誘拐しやがって!』

と神社の人が来ても、俺には匿えないからさ。


俺は、四年生の冬だけど就職先が決まらない、ただの大学生で、特別な力とか、ないから。


隠れるんなら、神様が、自分で頑張ってくれよ?」


自分で話しながら、傷つく俺に、神様は何も言わない。


「棲む場所が心地よければ、家に居着く。一度離れたら、元の家には戻らない。」

と神様。


神様は、元の家に戻らないんだ。

縁が切れるのかな。


「この家は、神様にとっても、居心地いいんだ?」


俺は、なんだか嬉しくなった。


「俺も、この家は住みたいと思ったから、買った。

俺と神様は、センスがいいと思う。」


志春しはるが住むようになってから、いっそう面白くなった。」

と神様。


「俺、神様に気に入られてる?俺、凄い?」


一緒にいて、生活が面白くなった、と言われたら嬉しい。



俺の第一印象は、なんでか、いつも、『なんか面白いやつ。』になる。


狙って、面白いことを言ったりしたりするわけじゃないから、時間経過と共に、がっかりされる。


小学校から、毎年、ゴールデンウィーク前には、勝手にがっかりされている。


気が合いそうな人と話せるようになるのは、毎年、半分は過ぎてからだった。


大学生になってからは、毎年の恒例行事がなくなって、快適になった。


俺と暮らしてみて、面白いと感じてくれた神様のことは、俺も気に入っている。


神様との暮らしが、いつまでも続いたらいいのにな、と思うくらいに。

楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の☆で応援してくださると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ