26.父さんは、合鍵を持っていない。母さんは、合鍵を持っている。二人とも、ワンルームに来たことは、四年間、一度もない。神様、話そう。
空き巣の正体は、現場を抑えないと分からない、と言われた。
被害届は受理された。
鍵は変えた方がいい、というアドバイスをもらったから、不動産屋に行って、鍵を交換してもらう。
鍵を取り替えると、遅くなるから、今日は、ワンルームに泊まることにした。
ベッドも使用されているっぽいんだ。
自分のベッドから、自分のじゃない匂いがする。
俺は、掛け布団と敷布団と毛布を買ってきて、ベッドの隣に敷く。
弁当とペットボトル飲料も買ってきた。
スマホで、ネットショップ〈神棚〉のホームページを開く。
神様に会いたい。
神様に話したい。
ネットショップ〈神棚〉のホームページでは、神様は、ボーリングの最後のポーズを決めていた。
写真を撮りたいくらいだけど、神様は、写真には写らない。
スマホで撮っても、カメラで撮っても、写らなかった。
写らない理由は、神様だから、に違いない。
神社に行って、神様の写真を撮ろう、とか、神の正体見たり、とか、やったら、バチが当たると思う。
俺は、今の気持ちを勢いよく、神様に話した。
空き巣に入られた、と分かって、嫌な気持ちになったこと。
空き巣が、我が物顔で過ごした部屋にいる不快感。
空き巣が、また来るかも、という恐怖。
「神様、今日は、大変だったんだ。」
「志春は、怖い気持ちを抑えて、今後のために冷静に行動したのであろう。
小童の勇気と行動力は、大したものだ。」
と神様。
神様は、俺の話を聞いて、反応してくれる。
神様には、こんな嫌なことがあった、でも頑張った、褒めて、と、俺は、アピールできる。
神様に対しては、恥ずかしさも、照れ臭さもない。
神様に、頑張ったところを見せて、よく頑張った、と認めてもらえたら。
頑張って良かった、と心から思えるんだ。
父さんと母さんには?
空き巣が入った、と言う?
空き巣が入った、と言ったら、父さんと母さんは、俺のために、何かをしてくれる?
父さんと母さんは、俺と関わる気がないから、きっと何にもしない。
退去の立ち会いのときで、いいや。
父さんも母さんも、ワンルームに入ったのは、契約のときだけ。
父さんは持っていないけど、母さんは、ワンルームの合鍵を持っている。
俺に何かあったときのために、父さんより、新居が近い母さんが、ワンルームの合鍵を持つことになった。
母さんは、この四年、一度もワンルームに来なかった。
何のために、母さんは、合鍵を持っていたんだろう?
大学一年生の冬、俺は、インフルエンザで寝込んだんだ。
心細くて、体が辛かった。
春、お金がないから、出してほしい、と母さんに頼んで、断られてから、お願いなんてしてこなかったけど。
俺は、母さんに、二度目のお願いをした。
母さんには、赤ちゃんがいるから、とけんもほろろに断られた。
赤ちゃんは、親が見ていないと、生きていけないってことぐらい、俺だって知っている。
でも、俺も、赤ちゃんと同じく、母さんの子どもなんだ。
俺、今、元気な19歳じゃないんだ。
自分で、動けないくらいに苦しんでいるんだ。
親の手がいるのは、俺も一緒だよ、母さん。
俺は、赤ちゃんとは違って、目の前にいないから、気にならない?
俺のことは、気にしたくない?
俺は、動けるようになるまで、水道水を飲んで、寝て、過ごした。
水道水を直接飲める場所に住んでいて、良かった。
あのときほど、上水道に感謝した日はない。
寝るのが、不安だと神様にこぼすと。
「志春。空き巣が、入ってこようとしたら、ホームページを開けるがよい。」
と神様が励ましてくれた。
ホームページにいる神様の応援を聞きながら、俺は、いつの間にか、眠っていた。
楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の☆で応援してくださると嬉しいです。




