16.朝が来たら、神棚にマグロのぬいぐるみを置く。就活を再開したけれど?
俺の日課は、寝る前に、神棚から、マグロのぬいぐるみをおろして、布団に並べ、目覚めたら、神棚の掃除をして、マグロのぬいぐるみを神棚に置く。
「マグロ、今日もよろしく。」
顔を洗って、朝食を食べて、掃除や洗濯をしたら。
俺は、最大の難敵と向き合う。
就活。
就活。
この三月までに決めないと。
四月からは、父さんと母さんからの援助がなくなる。
大学の学費と大学の近所のワンルームの家賃と光熱水費なんかは、父さん母さんが出してくれていた。
大学生になってからの食費や、細々した出費は、父さんと母さんのどちらにお願いしても、どちらからもいい顔されなかったんで、バイトで稼いでいる。
俺は、高校まで、実家暮らし。
一人暮らしに慣れていないから、お金のやり繰りが分かっていなかった。
入学してから、二週間で、お金が足りなくなった。
新入生歓迎会や、新入生同士で遊びに行ったりしていたら、家にお金がない、って気づいた。
俺は、母さんに連絡した。
食事だけでも、作って、届けてくれないかと、期待したんだ。
大学生で一人暮らししている人の中には、自宅から、調理済みの料理を冷凍して送ってもらっている人がいた。
俺も、同じように、してもらえるんじゃないかって。
その人は、自宅が遠いけれど、母さんの新しい住まいは、俺の大学から、車で一時間くらいしか離れていない。
食べ物もお金もないから、ご飯を作って送ってほしい、と俺は、電話した。
俺は、想像していたんだ。
『大変だったわね。すぐに持っていくから、待っていなさい。』
と言われるのを。
『せっかくだから、今日は、母さんと一緒に食べる?』
と聞かれるのを。
俺は、自分の想像を疑っていなかった。
母さんは、今までずっと、ご飯を作ってくれていたんだ。
一緒に暮らさなくても、住む場所が違っても、関係は変わらない。
そう思っていた。
俺は、無邪気に、母さんを、俺だけの母さんだと信じていた。
電話越しに、母さんが不機嫌になったのが、よく分かった。
『一緒に暮らしていないのに、生活費まで面倒みなくちゃいけない?
うちには、これから、お金がかかる子どもが産まれるの。
うちで出せる分は、もう出している。
これ以上は、無理。
高齢出産になるから、体もきついの。
足りないなら、父親に頼んでみたら。
父親は、稼いでいるから、うちより、余裕があるわよ。
もう、タカリの連絡は寄越さないで。』
母さんは、俺が、何かを言う前に、一方的に電話を切った。
母さんが、新しい人と家庭を作るのも、新しい人と子どもを作って育てるのも、母さんの勝手で、俺には関係ないけれど、母さんは、俺が配慮するのが当たり前だと考えている。
俺は、父さんに連絡した。
父さんは、今回だけ、と、お金を渡しながら、俺に言い聞かせてきた。
『18歳は成人だから、自分で働いて稼ぐか、奨学金でなんとかしたら、どうだ?
いつまでも、どこまでも、親に頼りきりじゃ、社会に出たときに苦労する。
今から、親離れに慣れていかないと、志春のためにならない。
もう、大きいんだから、父さんに頼られても、な。』
父さんは、俺が、苦労していようと、いなかろうと、関わる気が微塵もないんだって、よく分かった。
山のふもとに引きこもる前、俺は、賄いつきのバイトをして、生きていた。
そんな父さんと母さんとの縁は、大学を卒業して、大学近くのワンルームを引き払ったら、切れる。
俺は、一刻も早く就活を終わらせて、卒業までの短期バイトを探さないと、初任給が入るまでの生活費が心配で仕方ない。
それなのに。
行き詰まっているというか、エントリーしても、選考に進めない。
新卒採用だけじゃなく、通年採用や、中途採用も調べている。
ない。
色々と、ない。
仕事を選ばなければ、どこか、決まる、とアドバイスされたこともある。
仕事を選ばない、と決めていたら、俺は、大学四年の冬になっても、就活を引きずったりしていない。
俺の家族は、バラバラで、俺には、大事にするものが何もない。
俺には、仕事がある、好きを仕事にしたんだ、って言いたいんだ。
誰に対して?
父さんと母さんに、かな。
神様は、今ごろ、常世で何をしているんだろう?
神様が、今の俺を見たら、なんて声をかけてくるかな?
神様に、小童って、また言われたい。
神様、元気かな?
いっそうのこと。
誰も俺を雇わないなら、俺が、俺を雇う?
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