15.『いってらっしゃーい。』『行ってくる。達者でな。』かまぼこ板に乗った神様が遠ざかるのを見送って。
かまぼこ板に乗る神様。
和風フィギュアと言えないこともない。
かまぼこ板には、和装が様になる。
様になるけど、神様のことが、心配になってきた。
俺は、掌にかまぼこ板を乗せた。
「神様、今さらだけど、スイムスーツは、着なくて平気?
いつもの格好で、かまぼこ板サーフィンできる?
波が荒れてきたよ。
服って、水を吸ったら重くなって、沈むらしいから。
映画で見たことがあるんだ。
神様が、泳いでいるところを見たことがないんだけど、泳げる?
かまぼこ板から、落ちない?
神様のサイズの救命胴衣はさすがに、売ってないし。
せめて、浮き輪の代わりになるもの、探す?」
神様は、かまぼこ板の上から、海を見ている。
「志春。案ずるな。常世への道はひらかれておる。
かまぼこ板から、落ちることもなければ、溺れることもない。
志春は、かまぼこ板を海に押し出したら、早く浜から離れよ。
波が、かまぼこ板をさらいにくる。
志春の御守のマグロは、海を泳ぐには向いておらん。
波が来る前に、マグロと共に逃げるがよい。」
と神様。
神様の目は、海の彼方を見ている。
神様の意識は、常世に向いている。
「御守のマグロは、ぬいぐるみだから、海水吸ったら、ずっしり重くなる。
俺も、ダウンが海水吸ったら、危険。」
「志春。危険を予測して、危険を回避するのは、小童の知恵。」
と神様。
神様が、俺を振り返る。
「もう、時間が来た?」
分かっていても、確認してしまう。
「そうだ。達者でな、志春。」
と神様。
「ありがとう。神様。神様と一緒に暮らせて、毎日、楽しかった。」
俺は、波が押し寄せたタイミングで、かまぼこ板を波に乗せた。
波が引いていくときに、神様が乗っている、かまぼこ板も引っ張っていく。
「神様、いってらっしゃーい。気をつけて。」
俺は、さようなら、もバイバイも、言いたくなかった。
永遠の別れになると分かっているけれど、俺からは、神様との縁は切らないという意思表示。
だから、お見送りの言葉は、『いってらっしゃい』にした。
神様をお見送りする、と決めてから、なんて言って、見送るか考えていた。
神様を笑顔で見送りたい。
俺は、笑顔で、手を振り返る。
神様は、一度だけ、振り返った。
「行ってくる。志春達者でな。マグロと仲良く暮らすがよい。波が来る。逃げよ。」
と神様。
俺は、『逃げよ。』を聞いて、砂浜を走った。
灌木の生えているあたりで、立ち止まって、海に向き直る。
先ほどまでとは規模が違う大きな波が寄せて、スピードあげて、沖へとひいていくのが見えた。
神様の乗っているかまぼこ板は、どんどん沖へとすすんでいく。
俺は、神様の背中に声を張り上げる。
「家に帰って、一度神棚に置いたら、今日は、マグロと一緒に寝るよ。
明日も、明後日も、マグロと仲良く、元気にやっていくから。
神様も元気で。」
神様の乗っているかまぼこ板は、すぐに見えなくなった。
目をこらしても、目の前にあるのは、冬の海。
俺は、鞄の中にある、マグロのぬいぐるみに、声をかける。
「家に帰ろう。これからよろしく。」
マグロのぬいぐるみは、話をしない。
ぬいぐるみは、話さないもんだよな。
マグロのぬいぐるみを見るたびに、神様との思い出を思い出す気がする。
俺は、電車に乗るために駅に向かった。
日が落ちてきて、空気が冷えてくる。
神様がいない帰り道は、寒さプラス、寂しい地獄を想像していた。
電車に乗ってみたら、案外ケロッと過ごせた。
神様が、俺に、楽しい思い出と、マグロの御守をくれた。
俺は、立ち直れないほどには落ち込まなかった。
俺は、神様をお見送りにいって、マグロと帰ってきた。
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