13.『御守をやろう。ぬいぐるみを持ち帰って、神棚に置くとよい。』
神様は、俺の肩に座ったまま。
「神と共にありたいと願うものは、いつの世にもいるが、神と共にあることは、人の身には難しい。その身における命を捨てることになる。」
と神様。
「命を捨てる?死ぬ?」
考えてなかった。
「そうだ。龍神と夫婦になった娘がいたが、娘は、死して召し上げられた。
龍神から離れなければ、彷徨うことはないが、さて、どうなったか。
小童の感情は揺れ動くもの。
いっときの感情で命を手放してはならん。」
と神様。
「ごめん、俺は、死にたいわけじゃない。
一人だと思い知らされながら生きていくのは、辛い。
神様と一緒なら、楽しいのに、って。
神様と離れたくないって、思ったから。」
「小童は、知らぬことがたくさんある。小童とは、そういうもの。」
と神様。
「神様、常世に還っても、話をしたりはできない?
常世に、テレビ電話は、ない?
俺、神様との縁を切りたくない。」
「常世に、人の世のものは入らぬ。
志春、ぬいぐるみを一つ、持ち帰るがよい。
志春に、御守を授ける。」
と神様。
「ぬいぐるみを通して、神様が話をする?」
お喋りロボット的な?
「ぬいぐるみが話をするのか?」
と神様。
「そういう作りなら。」
「御守は、作られている以上のことはしない。ぬいぐるみが、喋らぬ布なら、御守にしても喋らぬ。」
と神様。
「御守、御守か、ありがとう。神様、一緒に選ぼう。」
俺は、目尻の涙を拭う。
観覧車は、もうすぐ、出発点につく。
「神様、扉が開いたら、降りるから。」
係員の人が、扉を開ける。
俺は、ありがとう、と言って、外に出た。
神様と俺、二人分のありがとう。
神様は、俺の肩の上で、バランスを崩さない。
「志春。売店へ。」
と神様。
俺は歩きながら、肩に座っている神様に話しかける。
「今日は、人生で初めて、ぬいぐるみを買う日。」
今まで、ぬいぐるみに関心を持ったことなんて、なかったから。
丸っこい形のぬいぐるみなら、投げて遊んだけど。
「ぬいぐるみは、好まぬのか?柔らかい物体でも構わぬ。」
と神様。
「柔らかい?塩化ビニール製の人形?」
「塩化ビニールというのか。
御守は、布でなくても構わぬ。
持ち帰って、普段は神棚に置くとよい。
不安なときは、一緒に過ごすとよい。
小童には、御守がよく効く。」
と神様。
「丈夫で、長持ち、壊れにくそうな素材の方がいい?」
「志春が愛着を持てるものがよい。御守は飾るためではなく、志春のためになるもの。」
と神様。
俺と神様は、売店のぬいぐるみ売り場で、吟味した。
エイ、ウツボ、タコ、イカ、カニ、イルカ、オットセイ、クラゲ、ペンギン。
色々あったけれど。
「これかな。」
俺は、綿がぎっしりつまっていて、ずっしりと重い、流線型のフォルムのぬいぐるみを手に取る。
「良かろう。」
と神様。
レジで支払いを済ませて、店を出る。
神様に言われて、ぬいぐるみを両手で捧げ持つ。
神様は、俺の肩から降りると、ぬいぐるみに仁王立ちした。
「マグロよ、志春の御守となれ。」
と神様。
神様は、うむ、と満足して、俺の肩に戻り、腰をおろす。
「志春。今、マグロのぬいぐるみは、志春の御守となった。
安心して、達者で暮らすとよい。」
と神様。
俺は、御守となった、マグロのぬいぐるみに、よろしく、と頭を下げてから、鞄に入れた。
今日から、我が家の神棚には、マグロのぬいぐるみが鎮座する。
「神様、ありがとう。俺、何もしていないのに。」
神様にお礼を言う。
「小童は、謙遜しなくてもよい。ただ誇ればよい。
志春は、思い出を作るために、人の作ったものが溢れる場所に出ようと考えて、実際に出てきた。
志春は、頑張った。」
と神様。
神様は、俺の親でも、家族でもない。
俺の友達。
「俺は、今、友達に、頑張りを認められている!めちゃくちゃ嬉しい。」
飛び跳ねたいくらい嬉しい。
神様が肩から落ちたら嫌だから、飛び跳ねないけど。
「今日の思い出は、志春に捧げられたものではない。
御守は、志春がくれた思い出の礼だ。」
と神様。
楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の☆で応援してくださると嬉しいです。




