12.観覧車と家族の思い出。神様についていってもいい?一人になりたくない。一人は寂しい。
観覧車は、小さいとき家族で乗った。
俺とお母さんが並んで。
お父さんは、向かいに座っていた。
三人で乗ったときは、乗るときも降りるときも、揺れる、揺れる、と騒いだ。
一人でなら、自分以外の誰かのタイミングや体重で、ゆらゆらしないから、スムーズに乗れた。
知りたくなかった。
知らないでも、良かった。
神様は、観覧車の中でも俺の肩に乗って、興味深そうに、周りを見ている。
良かった。
俺が、色々ぶちまけた後も神様は、何にも変わらなかった。
神様が、俺の肩には、もう乗りたくない、と言ったら、俺は、立ち直れないと思う。
神様が、俺に優しいと知っているから、ぶちまけたけど。
友達にぶちまけるには重すぎるし、面倒過ぎる内容だって、自覚している。
神様だから、話せた。
神様が、もう二度と会うことがない友達だから。
観覧車は、風にゆらゆらしながら、ゆっくりと上がっていく。
「半分の高さです。」
と機械音声。
俺は、足元の風景をじっと見てしまう。
「神様、足元が心もとないと、不安にならない?
俺、自分で上り下りできる以上の高さに行くのは、今後、止めようと思う。」
「小童は、慎重に生きる方が長生きする。」
と神様。
長生き?
先のことまで、考えられない。
「神様が、いなくなったら、寂しいなあ。
今夜から、家の中が静かになる。」
「気に入った一匹、連れて帰るか?」
と神様。
マグロもエイも、山のふもとに住む俺が飼育するのは、難しい。
「生き物は、ちょっと。」
「売店という店で、生きていないマグロが売られていたのを志春も見ただろう。布の塊の。」
と神様。
「ぬいぐるみのこと?」
「ぬいぐるみか、よい呼び名だ。ぬいぐるみは、人の発想と技術の結晶だ。」
と神様。
「ぬいぐるみを持って帰って、ぬいぐるみを神様だと思って話しかける?
一人暮らしなら、誰かに見られることもないし。」
「ぬいぐるみは、今日の思い出を持ち帰るのに、ちょうど良かろう。
志春の思い出が、寂しいものになるのは、誰の望むところでもない。」
と神様。
俺と神様は、観覧車を降りたら、売店に行くことにした。
「頂上です。」
と機械音声。
俺は、神様に解説することにした。
「神様、海と空の境目の手前にある船は、きっと、タンカーだよ。
小さく見えるけれど、近くにいくと、めちゃくちゃ大きくて、長いんだ。
高層ビルが、見えるあたりは、都会だよ。
家は、見えないけど、右手奥方向かな。
今、駅に止まっている電車は、俺と神様が乗ってきた電車と、同じ電車。
電車に平行している道路は、高速道路かな。
信号が、無さそう。
高速道路は、渋滞しなかったら、早く着くんだ。」
「志春は、物知りだ。」
と神様。
「うん。」
俺が、神様に解説したのと似たような話を、子どもの俺は、母さんの隣で聞いていた。
父さんは、観覧車に乗ったら、家族に同じように話をする?
小さい俺は、父さんの話に、ちっとも食いつかなくて、公園で遊びたいと不機嫌になっていた。
大学四年生の俺は、父さんが話しかけてくれたら、笑顔で返事ができるよ、父さん。
俺は、分別がついたから、観覧車の中で、ジュースが飲みたい、と、もう騒ぐことはないよ、母さん。
父さん母さん、今の俺となら、落ち着いて、外の景色を楽しめるよ。
ちゃんと、分かっている。
期待なんて、しない。
父さんと母さんは、もう、俺と観覧車に乗ったりしないんだ。
父さんにも、母さんにも、一緒に観覧車に乗る家族が別にあるから。
目の前がぼやける。
景色が滲んでくる。
「神様。」
「志春、どうした?」
と神様。
神様の顔は、近すぎて見れない。
「俺も神様についていっていい?
一人は寂しい。
一人になりたくない。」
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