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カフェでの相談

 夜会翌日の朝、カフェで待ち合わせです。

 昼には令嬢は帰路に就くそうなので、朝から会うことになりました。


 出向いたのは私と旦那様とケビン様と、背後から護衛騎士が二人です。



 旦那様の懐中時計によると、現在は朝の8時半くらいで、かわいい外見のカフェに到着しました。

 白い壁に緑のツタが絡まり、風情があります。



 店内に入ると窓際の席に令嬢がいました。

 でも護衛騎士の一人も、メイドすら付けてません。

 ブラウスにスカート姿で、ちょっと身綺麗な平民の女性風コーデです。


 旦那様が令嬢の対面側のテーブル席で、私の為に椅子を引いてくださいました。

 紳士です。



「はじめまして、エリアナと申します。この度ゴードヘルフ・ラ・クリストロ小公爵様と結婚いたしまして、クリストロ家の一員になりました」


「はじめまして、ウーリュ男爵家のマリカと申します」


「私の自己紹介は省く。伝書鳥で簡単に伝えたとおり、妻のエリアナがウーリュ領地での虫害が気にかかっているので、話を聞かせて欲しい。対価は小麦か金で払う」


「あ、ありがとう存じます!」



 令嬢の表情が明るくなりました!

 ━━でも、一瞬のことでした。

 事情説明の段階で悲惨な事を思い出したのでしょう。



「当領地では畑……田んぼにイネという作物を育て、最終的にそれはコメとなり、それを主食としておりますが、農夫の説明によれば、小さな蝶のような蛾のようなものが大量発生しまして、稲を枯らしてしまったらしいのです。それで、沢山の者が飢えて……」



 マリカ嬢の表情と声は重く、それが絶望を物語っているかのようです。



「それで今後はどのような対策をとられるつもりかお聞きしても?」


「突然現れる虫は天災と同じく、対策の仕様がないのです」

「え、今後の防衛策はないのですか?」


 私は思わず心配になりました。


「はい……」

「確かに突然大量発生したイナゴやバッタの大群にやられる話もたまに聞く」



 私は旦那様の言葉を聞きつつも、手にしていたカバンから筆記用具とノートを取り出して、絵を描きました。



「もしかして、その小さな蝶のような蛾はこのような姿をしていますか? 色はキナリ色と言うか」

「はい! そうです! そっくりです! ほんとに肌色の小さいのが沢山」



「私が以前読んだ本によれば、それはウンカラと言うイネの葉につく小さな蛾の幼虫で、糸を吐いて葉をくるりと包み、鳥やトンボなどの捕食者から身を隠し葉を枯らすと書いてありました」


「それです! 葉が丸まったのを見ました!」

「そして管のような口でイネの栄養を吸うから枯れます」


「葉を包んで捕食者から身を守るなんて小癪な虫だな」



 さっきまで沈黙していたケビン様が会話に混ざってきました。



「本によると対策はとある地方で、古来、クジラの脂を田に撒いてイネの下の方を叩いてウンカラを落とすというやり方もしていたとありました」

「まあ、脂を!?」


 マリカ嬢はあわててカバンから手帳を出してメモを取り始めました。

 真面目で領民思いな方だと思いました。



「はい、多分脂で羽がやられて飛べなくなるんですね」

「でも脂なくても蛾や羽虫はよく水を入れた桶で勝手に死んでるな、あいつらマジでなんなんだ? 入水自殺マニアか?」


 ケビン様の疑問の答えも夢の中の図書館の本にありました。


「蛾などの昆虫は無駄なく飛行するために光を利用する性質があるため、自然と体が光の中心に近づいて行ってしまいますので、光を反射する水に飛び込んだら羽が濡れたり窒息したりして死んでいると思われます」


「うわ! そうだったんだ! そしてエリアナ姉上は物知りだな!」

「本で読んだだけです」

「よく本なんか読む気になるよなぁ」


 趣味なんですが、感心されてしまいました。


「光に飛び込む習性のせいか、あいつら火にも飛び込んで勝手に燃えるしな」


 旦那様も朝食メニューを開きながらそんな風に語られました。



「ウンカラという害虫も勝手に田んぼの水に入って全部溺死してくれたら良かったのに……」


 マリカ嬢がとても悔しそうです。

 さもありなんですわ。

 でも水面にびっしり羽虫の死体が浮いていればそれはそれでゾッとしますね。

 絵面的に。



「エリアナ、ようは脂を撒いて地道にイネを叩くしかないのか?」


「他には合鴨やトンボに成虫を食わせるという方法もありますが、一番有効なのが成虫が卵を産みつける前に農薬を使うことです」

「農薬? 食物となるものに使うのは危なくないですか?」


「虫に有害でもコメを食べる人間には無害な農薬を作ります、レシピはこのように」



 私は本で見た農薬のレシピメモを書き、それをマリカ嬢に手渡すと、そのレシピを見た彼女が目をむきました。


「こ、この竜種の血というのは入手困難では!?」

「ガラパオフという島に飛ばないトカゲのようなコモドーという魔獣がいて、その血も竜種と言えます、なお、血はものすごく希釈するので少量で大丈夫です」

「島!? そこはとても遠いのでは!?」


 マリカ嬢がまた表情を曇らせました。


「コモドー? それなら以前船旅をした時に寄った島にいて、私が倒したことがあるし、貴重な竜種だからといって血のサンプルも取ってあるぞ」


「まあ! そ、それを多少譲っていただいても!?」

「構わんぞ、特には使うこともなかったし」

「ありがとう存じます!」


 希望が見えてきました!


「あの、豊作の時でいいので、コメが収穫できたら当家でも買い取らせていただけますか? 食べてみたいので」

「はい! それは是非に!」

「では私の方からもお金で支援いたしますね」


 ここはあの公爵様からの小切手の出番とみました!

 コメのレシピで試してみたいものがありますし、

 それを公爵家で作って皆様に食べていただけたら!


 と、白紙の小切手を私が出そうとしたら、



「それはまだ取っておくといい、私の方で金と小麦を出すし、小麦は後で領地に届けさせる」

「小公爵様! ありがとう存じます! 本当に助かります!」



 また旦那様にお金を使う機会を取られました。

 私の小切手はいつ頃に出番が来るでしょうか?







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― 新着の感想 ―
[一言] こういう、展開になるんですな。物知りご令嬢賢者、誕生!
[一言] この世界観での小切手の立ち位置は知らないけど、リアルだとたしか発行した銀行に行って手数料を払う必要があったような? まぁこういうルールは時々変わるから今がどうなっているかは知らんけど。 とり…
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