第三話 いたいけないちごぱんつ③
遠くからキャンプの様子を眺めている間に空が茜色に染まりはじめる。
バーベキューを終えた家族連れも片づけをしながら帰りの準備をしている。
河原で遊んでいた子供達お手伝いをしていた。
(もうすぐ陽が暮れるわ。今日はここまでのようね)
結局手に入れられたカワイ子ちゃんの生ぱんつは5枚だけになった。
子供達は中々ひとりにはならないから生パンツを奪う機会がなかったのだ。
まあ、でも1日目で生ぱんつを5枚も手に入れたのは大きな成果だ。
この調子でいけば短期間で目標を達成できるだろう。
(最初はどうかと思っていたけど楽勝だわ。とっととカワイ子ちゃんの生ぱんつを集めて元の姿に戻るわよ)
(その意気じゃ)
家族連れ達はテントを畳んで馬車に荷物を積み込んでいる。
(それはいいけど問題は夜ね。野宿なんて嫌だから街を見つけないと)
(それならあの者達の後をついていけばいい)
(それもそうね。きっと近くに街があるんだわ)
家族連れは馬車で荷物を運んで来たようだから近くに街があるはずだ。
あまり遠くだと時間がかかるから子供を連れてキャンプに来ないだろう。
それに子供がいると言うことは、この森は比較的安全な場所なのだ。
(ねぇ、ちょめジイ。スマホを召喚してよ。今どの辺にいるか確認したいの)
(この世界に悪影響の出るものは召喚できないのじゃ。それに電波が届かないじゃろう)
(そんなことを言って。ちょめジイだって童話の本を召喚したでしょう)
(書物は異世界を知るための道具になるからいいのじゃ)
(チッ、ケチ)
現代っ子になっている私にとってスマホは命に匹敵するほど大切なものだ。
スマホがあればいろんな情報を得られるし、わからないことも調べられる。
それに”ななブー”の近況も知りたかったからぜひとも召喚して欲しかったのだ。
もし、この世界の時間と日本の時間が同じ速さで流れているなら3日後に”アニ☆プラ”のサードシングルの発売記念のイベントがある。
それまでには日本に戻らないと”ななブー”に会えるチャンスがなくなってしまうのだ。
(ねぇ、ちょめジイ。モノを召喚できるなら”カワイ子ちゃんの生ぱんつ”も召喚すればいいじゃない)
(それでは醍醐味がないのじゃ。やっぱり”カワイ子ちゃんの生ぱんつ”はひとつずつ手に入れるのが楽しいのじゃ)
(ちょめジイは何もしてないじゃない)
(ワシはお主のサポート役じゃからな)
結局のところちょめジイは犯罪者になりたくないから私にさせている。
しがないジジイがカワイ子ちゃんの生ぱんつを集めていたらすぐに捕まってしまう。
痴漢と窃盗と器物損害の罪でちょめジイは処刑されてしまうだろう。
だから、私を召喚してカワイ子ちゃんの生ぱんつを集めさせているのだ。
(私の目を通して世界を見ているってことはないわよね)
(そんなことはしておらん)
(怪しいわ。私のアングルから世界を見ればスカートの中は覗き放題なのだから)
(おっ、それはいいかもしれんのう。ムフフフ)
(やっぱり変態ね。もう、ジジイなんだからエッチなことから引退すればいいのに)
(男は何歳になっても現役じゃ)
本当に男ってクズばかりよね。
女子のスカートの中を覗きたいだなんて非常識だわ。
ぱんつは変態に見られるために履いている訳じゃないのよ。
そんな会話をしている間に家族連れは荷物を全て馬車に積み込み終わっていた。
(バカ話をしている場合じゃないわ。後をつけないと)
しかし、馬車は出発することなくその場にとどまっている。
よく見ると生ぱんつを奪われた女の子達がママ達に何か話していた。
(何だか雲行きが怪しいわね)
すると、ママ達の顔色が急変してソワソワしはじめる。
辺りを確認するように森の中を覗き込むように見ている。
その様子を見ていた男達はママ達のところへ集まって来た。
(バレちゃったかな)
さすがに幼い女の子達の生ぱんつが奪われたら心配するだろう。
この森の中に変態が潜んでいるのではないかと警戒するはずだ。
幼い女の子達がおしっこをする時にぱんつを置いて行ったとは考えにくい。
しかも、ひとりではなく5人もの女の子達が同時にそんなことする訳ないのだ。
男達は事情を把握すると棒切れを拾って森の中を確認しに出かける。
ある程度間隔を置きながらローラー作戦のように調べはじめた。
(ちょっとマズいわ。ここから離れないと)
私は男達から逃げるように森の奥へと入って行く。
もしこんなところで捕まりでもしたら何をされるかわからない。
私のことをモンスターじゃないかと思って討伐することも考えられる。
こんな見た目だしモンスターと間違われる危険性は高いのだ。
しかし、私の歩みは鈍いので男達との距離がだんだんと縮まって行く。
後を振り返るとすぐそこまで男達が近づいていた。
(ねぇ、ちょめジイ。私を転送して。このままじゃ捕まっちゃうわ)
(ワシは召喚はできても転送はできん。自分で何とかするのじゃ)
(そんなことを言わないでよ。私が捕まったら”カワイ子ちゃんの生ぱんつ”は一生手に入れられないのよ)
(そのことは何も問題はないのじゃ。お主の代わりなどいくらでもおるからな)
(薄情者!捕まったら一生恨むからね)
私のサポート役だんなんていってただ傍観しているだけじゃない。
こんなピンチの時に役に立たないサポート役なんていてもいなくても同じだわ。
そんなやりとりをしている間に男達はすぐそこまで近づいていた。
草むらを押しつぶす男達の足音が耳に届く。
棒で周りの草をかき回しながら森の中を調べている。
私はすぐに木の根元に寄り沿ってキノコに擬態した。
(動いちゃダメよ。動いたらバレちゃうわ)
「こっちには誰もいないようだな。おーい、そっちはどうだ」
「こっちにも誰もいない」
男は私のすぐ目の前で足を止めて他の男達に声をかけている。
まあ、幼い女の子達の生ぱんつを奪ったのは私なんだから変態なんてどこを探してもいない。
たとえ見つけたとしても森に迷った人だけだろう。
「ふぅ。とにかく早いところ村へ戻った方が良さそうだ」
男はホッと息を零すと空を見上げて日没の時間を計る。
空はすっかり茜色に染まって東の空に月が昇っていた。
そして男が回れ右をすると足が私にぶつかった。
「何だ?」
男は膝を折って屈むと私を見つけて不可思議な顔を浮かべる。
「随分とデカいキノコだな。新種か?」
(非情にピンチ。これじゃあ気づかれちゃうわ……)
男は私の体を触りながら様子を確認しはじめる。
(ブッ。ちょっと変なところ触らないでよ。くすぐったいじゃない)
男の指が容赦なく絡んで来るので私は思わず吹き出しそうになる。
「もしかしたら在来種を絶滅させる悪性のキノコかもしれんな。とりあえず抜いておこう」
男は私の首根っこを掴み上げると勢いよく引っこ抜いた。
「これで森の肥やしになるだろう」
男は私をポイするとみんなのところへ戻って行った。
(とりあえず助かったわ。結構危なかったけど)
(その見た目でよかったのじゃ)
”お前がこの格好にさせたのだろう”とツッコミを入れたくなったが止めておいた。
ちょめジイにあたっても何にも変わらないからだ。
私が元の姿に戻るには”カワイ子ちゃんの生ぱんつを100枚集める”しかない。
これが宿命なのだと諦めれば幾分か気持ちは救われた。
(とにかく陽が落ちる前に森を抜けないとね)
男達が戻ると家族連れは馬車を歩かせて村へと帰って行く。
安全なように子供達は馬車に乗せて男達が周りを取り囲んでいる。
もし、夜盗に襲われても直ぐに対応できる形をとっていた。
私はある程度距離を置きながら家族連れの馬車の後を追い駆ける。
だんだんと森の中は薄暗くなりはじめて足元が見えづらくなっていた。
(暗くて歩き難いわ。ちょめジイ、灯かりを出してよ)
(こんなところで灯かりを点けたら見つかってしまうぞ)
(もう、せめて私の眼を暗視にしておいてよ。気が利かないんだから)
ちょめ虫も一応虫なのだから複眼とか暗視とか身に着けていてもいいはずだ。
その方が虫らしいし便利になるから都合がいいのだ。
だけど実際の私は限りなく人間に近い虫に成り下がっている。
味覚もそうだし嗅覚も触覚も他の感覚も人間そのものだ。
ただ姿だけちょめ虫になっている人間と代わりない。
(ねぇ、ちょめジイ。何で私をちょめ虫にしたの?)
(それはバグじゃ。ワシはお主を人間として召喚したのじゃがちょめ虫になってしもうたのじゃ)
(……嘘っぽい。私に言うことを聞かせるためにちょめ虫にしたのだとしか思えないわ)
(まあ、よいではないか。消滅しなかっただけでもいい方じゃ)
(何?召喚に失敗すると消滅しちゃうの?)
(次元の狭間に落ちてしまい、そこから抜け出せなくなるのじゃ)
ヒーィ、恐ろしい。
そんな危険なことを冒してまで私を召喚するなんて。
召喚される方の身にもなってほしいものだわ。
(じゃが、召喚に失敗することは滅多にないのじゃがな)
そんなことが頻繁にあっても困る。
次元の狭間に街ができてしまうのだから。
目の前を見ると馬車に家族連れはランプを灯している。
辺りはすっかり暗くなってしまったから足元を照らすためだろう。
それに子供達は暗がりを怖がるから早めに灯かりを点したのだ。
すっかり私と家族連れの間に距離が生まれて灯かりしか見えない。
暗闇にユラユラと揺れる灯かりを頼りにしながら私は後をついて行った。
(もう、何で私の歩みは鈍いのよ。これじゃあはぐれちゃうわ)
(ちょめ虫じゃからのう。仕方ないのじゃ)
(せめて”瞬間移動”できる能力を備えておいてよ)
(ならば天界で修業をするのじゃ)
ちょめジイは漫画も召喚しているようだ。
広域で言えば漫画も書物に含まれるけどちょっと範囲を広げ過ぎだわ。
でも日本の漫画で日本語を勉強する外国人を見ればその限りでもないわね。
ある意味漫画は外国人のバイブルになっているのだから。
(何で漫画はよくてスマホはだめなのよ。学校の校則じゃないんだからいいじゃない)
(電波も届かないのにスマホを召喚して何になるのじゃ)
(なら、Wi-Fiも召喚すればいいじゃない。電波なんだから次元も超えるわよ)
(お主は楽をしようとし過ぎじゃ。人間は苦労を知らんとロクな大人にはなれん)
私にカワイ子ちゃんの生ぱんつを集めさせようとしているちょめジイに言われたくないわ。
他人の力を使って目的を果たそうだなんて他力本願もいいところよ。
別に私はカワイ子ちゃんの生ぱんつを欲しくないんだから自分ですればいいのよ。
(あーぁ、何で私なのよ。本当だったら今頃”アニ☆プラ”のサードシングルを楽しんでいるところだったのに)
(お主は選ばれた勇者なのじゃ。自信を持って良いぞ)
(都合のいいことを言っても納得しないからね)
(1000年じゃ。ちょめ虫は1000年生きるぞ)
口を開けば”1000年”と言って私を脅して来る。
こんなの理不尽に他ならないわよ。
そんな話をしている間に家族連れの姿は見えなくなっていた。
ランプの灯かりも届かないぐらい離されてしまった。
(もう。迷子になっちゃったじゃない)
(道なりに進んで行けば森を抜けられるのじゃ)
(道って言っても何も見えないのよ。どうやって歩けばいいのよ)
(……仕方ないのう。これはサービスじゃぞ)
そう言ってちょめジイは私のところへランプを召喚してくれた。
(今どきランプ?。せめて懐中電灯にしてよ。最近の懐中電灯は性能がいいんだから)
(文句を言うならやらんぞ)
(チッ、わかったわよ)
私は小さく舌打ちをしてちょめジイからランプを受け取った。
(で、これはどうやって使えばいいの)
(ランプの使い方も知らんのか。最近の若いのはダメじゃのう)
(だって現代はみんな電気だもの。ランプなんて使ったことないわ)
(ワシが教えてやる。しっかりと覚えるのじゃぞ)
ちょめジイは呆れながらも私にランプの使い方を教えてくれた。
さすがは伊達に年をとっていないようだ。
こう言う古い道具は年寄りに聞くのが一番よね。
(ランプが点いたわ。思っているよりも明るいのね)
(それじゃあ早う後を追い駆けるのじゃ)
(それはいいけど、どうやってランプを持てばいいの?)
(ちょめリコ棒と同じで念じればいいのじゃ)
手足のない私は基本念じてものを動かすようね。
まるで超能力者になったような気分だわ。
これで現代に戻ったら私は有名人ね。
テレキネシスでモノを動かす超人として称えられるわ。
まあ、姿はちょめ虫なんだけどね。
ちょめリコ棒を動かした時のように頭の中でイメージをするとランプが宙に浮いた。
(それじゃあ出発するわよ)
私は意気揚々とランプを浮かべながら家族連れの後を追って行く。
しかし、念じてものを動かすことはかなりのエネルギーを消費してしまう。
ものの十数メートル進んだところで力尽きてしまった。
(ハァハァハァ。これは疲れるわ)
(だらしないのう。これでは夜が明けてしまうぞ)
(仕方ないじゃない。この体になってまだ日が浅いんだから)
日が浅いと言うよりも十数時間しか経っていない。
それなのにランプを浮かべて歩けるなんていい方だ。
他の人だったらこんな風にはうまく行っていないだろう。
と言うか現実を受け入れることができなかったはずだ。
(お主にはもっと修業が必要じゃ。かの”ゴ〇ウ”も修業をして強くなったのじゃからな)
(私は”スーパー○イヤ人”になれないわ。ただのか弱い女の子だもん)
(今どきの女子は逞しいものじゃ。自ら剣を取って冒険に出ておる。お主も少しは見習った方がいいのじゃ)
(まあね。現代でも女性が活躍していることが多かったしね。私も”ななブー”を目標にしてアイドルになろうかしら)
そのためにもまずは元の姿に戻らないといけないわ。
私は少し休憩をした後でランプを持って森の中を歩いて行った。
十数メートルおきに休むから中々前に進めなかったけどなんとか森を抜けることができた。
(ふーぅ。やっと森を抜けることができたわ)
辺りを見渡すと広大な平原が広がっている。
その中にポツンと灯かりが点っている場所があった。
それはさほど大きくはないがいくつもの灯かりが見えた。
(あそこが街のようね)
(街と言うよりも村じゃな)
私のアングルから見える姿は巨大な都市そのものだがちょめジイから見ると違うようだ。
まあ、私の視点から見れば何でも大きく見えてしまう。
何せ全長が30センチしかないのだから猫と同じだ。
村の方を見やると家族連れの馬車が村に入るとことだった。
遠くでよく見えないが門番がいるらしくて荷物検査を受けていた。
(へぇー。やっぱり村に入るにもチェックが必要なのね)
(村人に扮した盗賊が侵入するかもしれんからのう)
(そんなにこの辺りは盗賊が多いの?)
(比較的モンスターが出現しない地域じゃから反比例するように盗賊が多くなるのじゃ)
(”人間の敵は人間”と言う真理はどこの世界でも変わらないのね)
(悲しいことじゃがそれが真実じゃ)
人が一人増えれば対立が生まれ、二人増えれば派閥ができる。
人間は弱い生き物だから仲間を作ってから同時に敵を作る。
そうすることで不満の矛先を敵に向けて自らの不安を取り除くのだ。
現代でもあたり前のように戦争や犯罪が起こり世の中を不安定にしていた。
それは人間の弱さから来るもので他者よりも優位に立ちたいと言う願望が根源となっている。
だから、戦争も犯罪も世の中からなくなることはないのだ。
(モンスターがいるのならば冒険者がいるってことよね)
(もちろんじゃ。冒険者達はモンスターから人間達を守っておる)
(いやーん。剣と魔法の世界だなんて萌えるシチュエーションだわ)
(何をそんなに興奮しておるのじゃ。お主はちょめ虫以外にはなれんぞ)
悲しいかな、それが私の現実だ。
ちょめジイがちょめ虫になんかするから私は冒険を楽しめない。
本来であれば私は勇者や大魔法使いになっていたはずなのだから。
(ねぇ、ちょめジイ。せめて私に魔法が使えるように設定しなおしてよ。念じてものを動かせるんだからできるでしょう)
(魔法は高度な知能が必要じゃからな。ちょめ虫であるお主には無理なのじゃ)
(そんなのちょめジイの力でちゃっちゃとしてよ)
(無理じゃ)
せめて魔法が使えたのならば私の不満も解消されたことだろう。
カワイ子ちゃんの生ぱんつを手に入れることしか使命にないだなんてあまりにも理不尽だ。
私はちょめジイのように超ド級の変態ロリコンジジイではないのだから。
それもこれもちょめジイが私をちょめ虫にしたことが原因なのよ。
(あーぁ、こんないたいけな私をちょめ虫にして喜んでいるなんてとんだクズだわ)
(何と言われても構わん。お主はちょめ虫以外にはなれんのじゃからのう)
(ふん。いいわよ。”カワイ子ちゃんの生ぱんつを100枚”手に入れればいいのでしょう。やってやるわよ)
(ムホホホ。その意気じゃ)
元の姿に戻ったあかつきにはちょめジイをボコってやるわ。
顔がわからなくなるぐらい殴ってすっきりするのよ。
その後でちょめジイの召喚術を覚えてちょめジイをちょめ虫にしてあげるわ。
私と同じ苦しみを与えることで自分の非を見つめ直させてあげるの。
そう考えただけでも救われるわ。
私はランプの灯かりを消して村まで歩いて行った。
ランプをつけたままだと見つかってしまうし危険だ。
それよりも夜の闇に紛れた方が安全だからそうしたのだ。
多少歩きづらさはあるが月明かりも届いていたので何とかなった。
(あとはどうやって村の中に入るかね)
村の入口には門番が警備をしていて近づけない。
それに村の周りには木の柵が設置されていて中に入れないようになっている。
恐らくモンスター避けの防壁なのだろう。
他に村に忍び込めそうな場所はどこにもなかった。
(これじゃあお手上げね。どうしようかしら)
(まあ、野宿しかないのう)
(いやよ、野宿だなんて。もし、モンスターに襲われたらどうするのよ。簡単に食べられちゃうじゃない)
(なら、どうするのじゃ。強引に村の中へ入るのか)
(それもいいわね)
私が思いついた作戦はランプを囮にするものだ。
暗がりでランプが浮遊していたら警備兵も驚くだろう。
それが何であるのか確かめるために門から離れるはずだ。
その隙をついて村の入口から中に入るのだ。
あいにく私にはテレキネシスがあるから可能だ。
ただ、問題となるのはどの程度距離が稼げるかだ。
(ねぇ、ちょめジイ。私のテレキネシスってどこの範囲までカバーできるの)
(お主の能力次第じゃから有効範囲は無限じゃ)
(案外便利な能力じゃない。でも今の私なら3メートルが限界ね)
私は木陰に身を隠すと念じてランプを離れたところに浮かべる。
そしてフワリフワリとランプを揺らしながら村の入口へ近づいて行った。
「おい、そこのお前。ランプを翳して姿を見せろ」
警備兵は槍の切っ先をランプの方へ向けて威嚇する。
しかし、ランプの灯かりは何も照らさないので警備兵は驚きの顔を浮かべる。
「お化けだ。死人が幽霊になって乗り込んで来たんだ」
「何を馬鹿なことを言っている。そんなことがある訳ないだろう」
ひとり怯える警備兵に喝を入れてもう一人の警備兵はランプの方へ近づいて行った。
その瞬間、私は念じるのを止めてランプを地面に落とした。
「ヒィー。やっぱり幽霊だ」
「そ、そんな訳あるか」
警備兵達がランプに気を取られている間に私は門を抜けて村の中へと入った。
我ならがらうまく行った作戦だったので私も満足した。