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第六十三話 あどけないひよこぱんつ③

お風呂を上がってからリビングへ向かうと笑い声が聞えて来る。

パパとママはすっかりご機嫌で客人であるナコルをもてなしていた。

テーブルにはあとでおやつにしようと思っていた高級ケーキがある。

私はそれを見るなりナコルに怒りの感情を持った。


「ちょめちょめ」 (何であんなやつに高級ケーキなんて出すのよ。あれは私達のおやつじゃない)

「仕方ないよ、ちょめ太郎。ナコルさんはルイの命の恩人なんだから」

「ちょめちょめ」 (命の恩人だなんて、あいつは何か企んでいるのよ。絶対にそうだわ)


イジメっこのナコルがいい人になる訳がない。

私やルイミンをさんざんいたぶった奴なのだから。

きっとパパやママに取り入ってお金を踏んだ来るのだろう。

でなければルイを助けるなんてことはしない奴なのだ。


「ルイもケーキ食べたかったな」

「あとでママが別のおやつを用意してくれるよ」


ルイは指を口に咥えながら物欲しそうな目で高級ケーキを見ていた。


「ナコルさんは王都からやって来たんですか」

「もしかしてセントヴィルテール女学院の方ですか?」

「まあ……そんなところです」

「実は私もセントヴィルテール女学院に通っていたんです。いい学院ですよね」

「はぁ……」


パパとママはすごくご機嫌だけどナコルは少し引き気味だ。

一方的にママが話をするので答えに困っていた。


「部活は何をやられているんですか?」

「ギャル部を……」

「ギャル部なんて私が通っていた頃にはありませんでしたわ。学院も変わったんですね」

「はぁ……」

「私は茶道部に入っていましたよ。精神を鍛えられると言うか心がキレイになるんですよ」

「そうですか……」


ママは懐かしそうにセントヴィルテール女学院の思い出話をする。


ママが茶道部に入っていたなんて初耳だけど納得はできる。

普段の所作やモノを大事にするところに経験が活かされている。

きっと茶道部では部長をやっていたはずだ。


「私は部長をやっていましたけどナコルさんも部長さんですか?」

「まぁ……」

「やっぱり。そうじゃないかと思っていたんですよね。ナコルさんってオーラと言うかリーダーって感じの雰囲気を持っていますから」

「そうですか……」


ナコルはすっかりママのペースにハマって会話から抜け出せずにいる。

すると、様子を見守っていたパパがママに注意した。


「ママ、ちょっと喋り過ぎだぞ。ナコルさんが困っているじゃないか」

「あら、ごめんなさい。つい昔のことを思い出しちゃって気分がよくなったから」

「別にいいですけど……」

「ささ、ケーキでも食べてください」


パパに進められるままナコルはホークで高級ケーキと切り分ける。

そして一切れ高級ケーキを口に運んでパクリと食べてしまった。


「ちょめちょめ」 (あーっ、それは私のおやつなのよ。悔しいー)


ナコルは高級ケーキのありがたみも感じずに咀嚼して飲み込んだ。


「いかがです?」

「おいしいです……」

「そうですよね。私もそのケーキを好きなんですよ」

「そうですか……」

「しっとりとした生地にブランデーの香りがして口に入れると幸せな気分になるんですよ。外側のチョコレートが甘くなくて隠し味のブランデーを殺していないところが美味しさを倍増させていますよね。このケーキなら何個でも食べれそうです」

「……」


パパの饒舌な食レポにナコルは返す言葉も見つからずに黙っている。


「パパ、ナコルさんが困っているじゃない。ごめんなさいね。パパはスイーツに目がなくて」

「そうですか……」

「見た目は熊のようなのにスイーツ好きなんて面白いですよね」

「ひとそれぞれですから……」


パパとママが交互に話をするのでナコルはドン引きしていた。


「ちょめちょめ」 (もう、パパもママもナコルに気を使い過ぎよ、あんな奴、とっとと追い返せばいいのに)

「ちょめ太郎はナコルさんのことが嫌いなの?」

「ちょめちょめ」 (嫌いよ。あんなやつ豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまえばいいのよ)

「死ねばいいだなんてちょめ太郎も冷たい人なんだね」


ミクから貶されようが私はナコルを絶対に許さない。

私だけでなく親友のルイミンまでイジメたんだからね。

絶対に敵をとるまでナコルを許さないんだから。


「ルイのケーキ……」


そんなことを考えているとルイがフラフラと歩いて行った。


「ルイ、もうお風呂に入ったのか?」

「うん」

「ミク達は?」

「そこにいるよ」


ルイがうっかり私達が隠れていたことを話してしまう。

仕方ないので私とミクはリビングへ入って行った。


「ミク。お風呂が終わったのなら声をかけてくれなくちゃダメじゃないか」

「ごめんなさい」

「もしかして盗み聞きしていたの?」

「そ、そんなことしないよ」


ママに盗み聞きしていたことを指摘されてミクは慌てて否定する。


隠れて話を聞いていたが盗み聞きをしようと思っていた訳じゃない。

パパとママのテンションが高かったから声をかけずらかっただけだ。


「ルイもケーキ食べたい」

「あとでね」

「それよりミク。ルイを部屋に連れて行って休ませてくれ。夜通し歩いていたから疲れているだろう」

「わかった。ルイ、行こう」

「ルイのケーキ……」


パパにそう言われてミクはケーキを欲しがっているルイを連れてルイの部屋に向かう。

ついでに私もついて行ってルイが眠るまで見守ることにした。


ルイの部屋に着くとルイはベッドに寝かされる。


「お姉ちゃん、まだ眠くないよ」

「眠くなくても寝なくちゃダメ。体は疲れているんだから」

「ケーキ」

「起きたらたくさん食べられるからね」

「今、食べたい」

「ワガママ言わないの」


すっかりミクはママのようになってルイを宥める。

さすがはお姉ちゃんと言ったところだ。


「なら、絵本を読んで」

「わかったわ」


ルイにせがまれてミクは本棚から絵本を持って来た。


「むかし むかーし。あかずきんは おばあさんの おみまいに いきました」

「それで」

「わるい おおかみが やってきました。”おはなを つんで いったら?” ”いいわね” あかずきんは よりみちを しました」

「うん……」

「そのあいだに おおかみは おばあさんを たべてしまいました」

「……」


ミクか優しく語りかけるように絵本を読むのでルイに睡魔が襲って来る。

虚ろな目をしながら天井を見上げてミクの話に耳を傾けていた。


「あかずきんは ふしぎにおもって ききました。”おばあちゃんんの おみみ どうして そんなに おおきいの?”」

「……」

「”おまえの こえを きくためさ” ”どうして おめめが そんなに おおきいの?”」

「……」

「ちょめちょめ」 (ミク。ルイ、もう寝ているよ)


ルイを見るとスヤスヤと寝息を立てていて夢の世界へ行っていた。


「やっぱり疲れていたんだね」

「ちょめちょめ」 (このままにしておいて私達はリビングへ戻ろう)

「そうだね」


ミクはルイの手を布団の中に仕舞ってから部屋を出て行く。

部屋の灯かりは消してぐっすり眠れるようにしておいた。


「ルイ、眠ったよ」

「ありがとうな、ミク」

「いいよ。いつものことだから」

「ミクはすっかりお姉ちゃんしていてママも嬉しいわ」


私とミクがリビングのソファーに座るとママが紅茶を出してくれた。


「それじゃあ家族会議をはじめるか」

「家族会議?」

「今回のようなことがまたあったら大変だからみんなで話し合うんだ」


パパがそう言うとすんと真面目な顔つきに変わる。

さっきまでの様子が嘘かと思えるような変化だ。


「ちょめちょめ」 (家族会議なのに何で部外者がいるのよ)

「パパ、ナコルさんがいてもいいの?」

「ナコルさんは当事者だからな。詳しい話を聞かせてもらうんだ」

「私は構わないですよ。そのことを伝えたいと思っていましたし」


ようやく本題に移ったのでナコルも一安心したようだ。

いつまでもパパとママの談笑につき合わされていたらたまらなかっただろう。


「それじゃあ、ナコルさん。ルイと出会った経緯を教えてください」

「私がルイちゃんを知ったのは精霊の森へ来たときです。家の前を通ると2階の窓からルイちゃんが外を眺めていたので気になったのです。あまりに寂しそうな顔をしていたので」

「そうですか」

「そんなことが何度か続くとルイちゃんが私に気づいてくれました。声はかけませんでしたけど、手を振って合図を送っていました。私を見るとルイちゃんがニコリと笑うのが印象的でした」

「ふむ」


パパとママはナコルの口から意外な事実を聞いたので言葉を詰まらせている。

自分達の知らなかったルイの一面が聞けて嬉しさともどかしさを感じているようだ。


「私の方もルイちゃんがいつも外を眺めているのか気になりました。普通の女の子だったら外に出て駆け回っているものです。しかし、ルイちゃんを見かけるときはいつも2階の部屋の窓でした」

「……」

「そんなことがたびたび続いて私はある考えを持つようになりました。ルイちゃんを連れだしていっしょに遊びたいと思ったのです。それができたら楽しいだろうと思いました」

「……」


ナコルの正直な話を聞いてパパもママも顔を抑えて苦悶していた。


ルイが普通の女の子だったら友達といっしょに外で遊べたはずだ。

そんなごく普通のこともさせられないことにパパもママも苦しんでいる。

ルイが病気を患っているからあたり前のことをさせられないのだ。


「そこで私はルイちゃんを連れだす作戦を考えました。2階からロープを垂らしてルイちゃんが降りて来れば外に出られると」

「……」

「その作戦を紙に書いてルイちゃん部屋に投げ込みました、すると、ルイちゃんは私の考えた作戦通りシーツをロープにして2階から降りて来たのです」

「ルイがそんなことを……」

「その後はご存知の通り精霊の森へ出掛けておぼこぼさま探しをしていました。だから、ルイちゃんは悪くないんです。みんな私がしたことですから」

「そうだったんですね」


ナコルの説明にパパとママも納得して大きなため息を吐いた。


「やっぱり、私が毎日、精霊の森の話をしていたことがいけないのね」

「ミク。自分を責めるのは止めなさい。ミクはルイのことを思ってしていたことなんだから」

「ママ」

「ママの言う通りだぞ。これはみんなの問題なんだ」


ルイの今回の行動は誰のせいでもない。

もちろんルイのせいでもない。

ルイが不治の病にかかっていることが原因なのだ。

もし、ルイの病気が治るものだったら今回のことは起こっていなかっただろう。

だから、誰かに責任を負わせるのではなく、みんなの問題として話し合う必要があるのだ。


「もう、起こってしまったことをあれこれ言ってもはじまらない。だから、同じことが二度と起こらないようにする必要があるんだ」

「それって、ルイが黙って外出しないってこと?」

「そうだ。お医者さまからもルイを外出させないように言われているんだからな」


パパの言い方は少しオーバーだがルイが外出できるのはお医者さまから許可をもらった時だけだ。

それも昼間は外出できないから自然と夜になってしまう。

おまけに庭に出るだけしかできないからとても不憫だ。


「なら、ルイにしっかりと言い聞かせるしかないわね」

「もちろん、それも必要だがパパはカギを増やそうかと思ってる。カギがかかっていれば物理的に外に出ることはできなくなる」

「それって軟禁じゃない。ママは反対だわ」


パパの提案はもっともな方法だがママの言うように軟禁になる。

悪い罪を犯した者に罰を与えるのではないからもっと緩くしてもいい。

そうしないと返ってルイのストレスを溜める原因になるだろう。


「なら、ママはどうしたらいいと考えているんだ?」

「ママは今まで通りでいいと思うわ。ルイだって今回のことに懲りて二度と同じことはしないはずよ」

「私も今まで通りでいいと思うよ。じゃないとルイが可哀想だもの」


ミクの言うように一番配慮しなければならないのはルイの気持ちだ。

ルイがどう思って、どう感じるのかを考えて具体的な方法を考えないといけない。

でないとルイは思い悩んで、病気が悪化してしまうかもしれないのだ。


「ただな、パパとしては何もしないってことは許可できない。また、同じ過ちを犯してしまう可能性が残るのだからな」

「大丈夫よ。ちゃんとルイに言い聞かせれば守ってくれるわよ」

「ママの主張は精神論じゃないか。パパは実質的な方法をとりたいんだ」

「実質的って、パパはルイを家に閉じ込めていたいだけでしょう」

「パパはルイの体のことを心配しているんだ」

「ママだって心配しているわよ」


パパとママの意見がエスカレートして行くと自然と声が荒ぶる。

すると、見かねたミクが二人の間に割って入った。


「パパもママも落ち着いてよ。これはケンカじゃないのよ」

「あ、ああ。すまない」

「ごめんなさい」


パパとママは気まずそうにしながら気持ちを落ち着かせた。


「さっきからお二人の話を聞かせていただいて思いました。お二人ともルイちゃんのことをすごく心配されています。しかし、その気持ちがルイちゃんを過保護にしてしまっているのです」

「「それは……」」

「短い時間でしたが私がルイちゃんといっしょに行動してみた感想を言います。ルイちゃんは年の割にはしっかりした子供です。私に自己紹介できますし、病気のことも話してくれました」

「……」

「ルイちゃん自身、黙って家を出て来たことを後悔していました。ご家族を心配させてしまったと。ルイちゃんは自分のことだけでなくご家族のことも考えられる子なんです」

「「ルイ……」」


本当か嘘かわからないがパパとママはナコルの言葉を信じて傷心している。

ナコルの説明だけ聞くといかにルイがしっかりした子供なのかがわかる。

ただ、私としてはそれが本当のことなのか疑いを持っていた。


確かにルイはしっかりした子供だけどミク程、大人ではない。

ちゃんと子供らしさを持っていてどことなく頼りなさを感じさせる。

いつもミクに甘えてばかりいてミクの手を焼いているのだ。


「ちょめちょめ」 (あいつ、嘘を言っているわよ)

「まだ疑っているの?」

「ちょめちょめ」 (普段のあいつは丁寧な言葉づかいなんてしないんだから。猫を被っているのよ)

「何のために?」

「ちょめちょめ」 (パパとママを信用させるためによ。パパとママを信用させてお金を踏んだくるつもりでいるんだわ)

「うちはそんなにお金持ちじゃないよ」


お金持ちとかお金持ちじゃないとかは関係ない。

盗れるところから盗るのが詐欺師のやり方だ。

ナコルは遊ぶ金欲しさにルイに近づいたのだろう。


「だから、ルイちゃんの行動を制限するようなことはしないでください」

「俺達はやり過ぎてしまっていたのだろうか……」

「そうかもしれないわね。ルイのことを思うがあまり制限していたのかもしれないわ」


すっかりパパとママはナコルの言葉を鵜呑みにして反省している。


「ルイちゃんは素直ないい子です。ですから、ちゃんと約束をすれば守ってくれるはずです」

「そうだな。俺達は自分の娘を信じきれていれなかったんだな」

「ルイのママとして恥ずかしいわ」

「なら、家族会議は終わりだね」


ようやく重たい議題が終わったことでミクは嬉しそうにしていた。


ナコルのおかげ?でルイは外出禁止にはならなかった。

そればかりか今回してしまったことも何のお咎めもなし。

それはどうなのかと私は思ったがパパとママにはそのつもりはない。

疑り深い私には出来過ぎている話しに聞えてならなかった。


「それでは私はこれで」

「もう、帰ってしまうのですか。まだ、何のおもてなしもできておりません」

「もう少し我が家にいてください。何ならば泊まって行ってもらってもかまわないんですよ」

「いえ、お気持ちだけ受け取っておきます」

「おい、ミク。お前からも何か言っておくれ」

「ナコルさんがいなくなったらルイが寂しがります。せめて1日だけうちに泊まってください。お願いします」


パパとママ、それにミクらからお願いされてナコルは戸惑っている。

ここで無下に断るのも失礼かと思っているようで返事に困っていた。


「なら、一晩だけお世話になります」

「おお、そうですか。それはよかった。ママ、ナコルさんをミクの部屋にお通してくれ」

「わかったわ。ナコルさん、こちらです」


パパに言われてママはナコルをミクの部屋に連れて行く。


「ミク。すまないが、今夜はルイの部屋でいっしょに寝てくれ」

「わかった」

「ちょめちょめ」 (私はどうなるのよ。あいつと二人きりなんて嫌だよ)

「パパ。ちょめ太郎はどうしたらいい?」

「そうだな……ちょめ太郎をルイの部屋に入れるのはマズいからナコルさんといっしょにミクの部屋だ」

「ちょめちょめ」 (えーっ!あんな奴といっしょに一晩過ごさなきゃいけないの。嫌だ―!)

「ごめんね、ちょめ太郎。今晩だけ我慢してね」


と言う訳で私は天敵であるナコルといっしょに一晩過ごさなければならなくなった。





夕食までの間、私とナコルは部屋で待つことになった。

ミクはママのお手伝いをしているので部屋にいない。

ルイは隣の部屋でぐっすり眠ったままだ。


ナコルは我が物顔でソファーに腰をかけながら私を見ている。

こんなに間近で見ているのに私のことを思い出さないのはいただけない。

私も負けじとナコルに鬼のような鋭いガンを飛ばした。


「何だよ、さっきっから。私に文句がるのか?」

「ちょめちょめ」 (もちろん文句があるわよ。とっとと、この家から出て行きなさい)

「”ちょめちょめ”ってな。それがお前の鳴き声か?」

「ちょめちょめ」 (下等生物のあなたには私の言葉が理解できないのね。可哀想)

「アホみたいな鳴き声だな。お前にお似合いだ」

「ちょめちょめ」 (私がアホならあなたはクズよ。どうしようもないぐらいのクズだわ)


私とナコルはお互いに言いたいことを言い合う。

話が全くかみ合っていないのでひとり言になっている。


「これで私の仕事も終わったな。普段から使い慣れていない言葉づかいをしたから疲れたわ」

「ちょめちょめ」 (ようやく本性を現したわね。あなたに丁寧な言葉づかいなんて似合わないわ)

「まあ、ルイの心配事がなくなってよかったな。人助けなんて私の柄じゃないけどたまにはいいな」

「ちょめちょめ」 (何が人助けよ。パパとママに取り入ってお金を踏んだくるつもりなんでしょ)

「この際、本当のルイのお姉ちゃんになってやろうかな」

「ちょめ!」 (なんてことを言うの!あなたのような輩がルイのお姉ちゃんになれるわけないでしょう!冗談は顔だけにして!)


ナコルはニタニタといやらしい笑みを浮かべながらとんでもないことを口にする。

とっさに私は声を荒げてナコルをここぞとばかりにこけ落した。


ルイのお姉ちゃんになるだなんて口が裂けても言ってはならない。

ルイのお姉ちゃんはミクひとりだけなのだから他人が入る余地はない。

それにナコルのような汚れが人間がそんなことを思うなんて甚だしい。


「そのためにはルイの病気を何とかしないといけないな」

「ちょめちょめ」 (あなたにそんなことができるわけないでしょ)

「おぼこぼさまはあてにならないから他の方法を考えた方がよさそうだ」

「ちょめちょめ」 (あなたは神にでもなったつもり?ルイの病気を治してやろうだなんてどんだ大馬鹿者だわ)


パパやママやかかりつけの医師だってルイの病気を治すことができない。

それをどこぞの馬の骨かわからないナコルが治すだなんてできるわけない。

馬鹿だとははじめから知っていたけどとんだ大馬鹿者のようだ。


ナコルひとり言を聞いて睨みつけているとナコルが気づいた。


「お前もそう思うだろう。ルイの病気が治ったら私は晴れてルイのお姉ちゃんになれるって」

「ちょめちょめ」 (あなたになんか絶対になれないわよ)

「ルイは素直なやつだから喜んでくれるな」

「ちょめちょめ」 (そうやっていたいけな幼女を騙して来たのね。鬼、悪魔、犬のクソ!)


ナコルの考えではルイの病気を治せることになっている。

とんだ大馬鹿者が考えそうな浅はかなことだ。

ただ、そのことをルイに伝えたら本気にしてしまうかもしれない。

ルイも病気が治ると信じてナコルの言うことを聞いてしまいそうだ。


そんなかみ合わない会話をしていると部屋の扉がノックされた。


「ナコルさん、ちょめ太郎。ご飯ができたよ」


夕ご飯の準備ができたのでミクが呼びに来た。


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