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第五十六話 MV撮影

MVを撮影するにはテーマを決めなければならない。

テーマのないMVを撮影しても伝えたいことが伝わらない。

できればなるべく簡単なテーマにした方が都合がいい。

あくまでルイにアイドル気分を味わってもらうためのものだから簡単でいいのだ。


「ちょめちょめ」 (それじゃあMVのテーマを決めるわよ。何がいい?)

「テーマ?そんなものがいるの?」

「ルイは何だっていい」


はじめから良い答えが出るとは思っていない。

ただ、”何でもいい”はなしだ。

夕飯を決めている訳でもないのだから。


「ちょめちょめ」 (それじゃあダメなのよ。ルイは主役なんだからちゃんと考えて)

「そう言われてもな。テーマなんて考えたことないし」

「そうね。私はみんなにルイのことを知ってもらいたい」


ミクはお姉ちゃんならではの意見を出す。

ルイは部屋にこもりっきりだから他人と接触する機会は少ない。

せいぜい会ったとしてもかかりつけの医者ぐらいなものだ。


「ちょめちょめ」 (ルイのどんなところを知ってもらいたい?)

「特別なことじゃなくてもいいの。普段のルイを知ってもらいたい」

「普段のルイ。つまらなそう」

「そんなことないわ。みんなはルイのことを知らないのだから興味があるものよ」

「そうかな……」


ルイはいまいちピンと来てないようで困惑顔を浮かべている。

ただ、ミクが良い答えを出してくれたことで私はテーマを決めた。


「ちょめちょめ」 (じゃあ、テーマは”ルイの休日”に決まり)

「異議なし」

「え~。そんなのでいいの?」

「いいのいいの」


私の決めたテーマにミクはうむも言わず賛成してくれる。

しかし、主役であるルイの方は不満そうな表情をしていた。


「ちょめちょめ」 (それじゃあミク。テーマに合ったコーディネートをルイにしてちょうだい)

「ルイの休日のコーデか。どんなのがいいかな」

「ルイはカワイイのがいい」


ミクはルイの部屋にあるクローゼットの中から服を選びはじめる。

普段から外に出ることはないからルイが持っている服はシンプルだ。

たくさんあるのはパジャマばかりでどれも余所行きではなかった。


「う~ん。難しいな。パジャマじゃ合わないよね」


普段のルイの休日は平日と何ら変わりない。

部屋の中から出られないからいつもパジャマでいる。

だから、テーマに合わせたコーデを考えると必然とパジャマになってしまうのだ。


「ちょめちょめ」 (テーマは”ルイの休日”だけど現実に即している必要はないのよ。MVだから少しお洒落な感じがいいわね)

「お洒落か……なら、私の持っているドレスがいいかも。ちょっと待ってて」


ミクは自分の部屋に戻るとクローゼットから白いドレスを持って来た。


「私が昔に着ていたものだからルイに合うかも。着てみて」

「うん」


ルイはその場でパジャマを脱ぎ捨てるとミクの持って来た白いドレスに袖を通す。

ドレスはAラインのスカートでプリーツが何本も入っている小洒落たドレスだった。


「どう?」

「ちょっとウエストが緩いけどちょうどいい」

「それならよかった」

「ちょめちょめ」 (なかなか似合うじゃない。清潔感があって純粋そうな印象があるわ)


私にもルイぐらい純粋さがあったら天使になれたかもしれない。

今はちょめジイのせいですっかり心が汚れてしまったけれど。


「ちょめちょめ」 (さあ、撮影をはじめるわよ。まずはお花畑を歩いているシーンを撮影するわ)

「お花畑って。ルイは外に出れないんだよ」

「部屋の中を歩くだけでいいわ。後で編集すれば大丈夫だから」

「編集?」


私の言っていることが理解できないのかミクは小首を傾げて不思議そうな顔をする。

ただ、一から説明していると夜になってしまうので説明を省いて撮影をすることにした。


「ちょめちょめ」 (じゃあ、ルイ。お花畑で歩いている気持になって歩いてみて)

「こう?」

「ちょめちょめ」 (ダメダメ。カメラは見ちゃダメ。カメラを見ないで普通に歩いてみて)

「でもな。気になるんだよな」


ルイは普通に歩いているつもりでもついついカメラの方が気になってしまう。

実際はルイの部屋の中で撮影しているのだから仕方のないことでもあるのだが。

すると、ミクが気をきかせてカメラに映らないところへ移動してルイを手招きした。


「ルイ。お姉ちゃんのところに向かって歩いて来てみて」

「それならできるかも」


ミクの機転によってルイはカメラを意識することなく歩きはじめた。

私は引きでルイを撮影しながら少しずつ寄りに変えて撮影をする。

それは私の中でどんな映像にするのかイメージがあるからできるのだ。


「ちょめちょめ」 (はーい、カット。いい感じで撮れたわ。ちょっと確認するから待ってて)


私はビデオカメラを巻き戻しして最初から再生をする。

画角も動きも問題なかったけど何か足りないような気がした。


「ちょめちょめ」 (う~ん。何か違うんだよな……)

「ちょめ太郎。何を悩んでいるの?」

「ルイにも見せて。わぁ~、ルイが映ってる」

「私はカワイく撮れていると思うけど」

「ルイも」


撮影した映像を見てミクもルイも大満足をする。

思っていた以上にカワイく映っていたからだ。

ただ、私は物足りなさを感じていた。


「ちょめちょめ」 (そうよ。風だわ。外にいるんだから風が吹いていないとおかしい。ミク、扇風機ある?)

「扇風機って?」

「ちょめちょめ」 (羽がついていてクルクル回転して風を起す家電よ)

「羽がついていてクルクル回るって風車しか思い浮かばないけど風を起す魔導具ならあるよ」

「ちょめちょめ」 (それよそれ。それ持って来て)


ミクにお願いするとミクは2階の納戸から風を起す魔導具を持って来た。


「これが風を起す魔導具だよ」

「ちょめちょめ」 (これって羽なし扇風機じゃない。本当に魔導具なの?)

「魔導具は中に入っている魔鉱石の力で動くのよ。今、スイッチを入れるね」


そう言ってミクは両手を魔導具に翳して魔力を注いだ。

すると、風を起す魔導具は動き出して風を吹かせた。


「ちょめちょめ」 (本当に動いたわ。今、何をしたの?)

「魔導具は魔力に反応して動くものなの。たくさんの魔力は必要ないから子供の私でもできるんだよ」


改めてこの世界が魔法がある場所だと気づく。

想像しているような魔法とは違うけどすごい。

私がひとり関心に浸っているとミクが言った。


「ちょめ太郎の方が凄いよ。こんな魔導具を見るのははじめてだし」

「ルイも初めて見た」

「ちょめちょめ」 (そうだったわね。ビデオカメラもパソコンも魔導具ってことにしておいたんだわ)


つい自分が決めた設定を忘れてしまっていた。

ビデオカメラもパソコンも魔導具のような神秘さはないけど優れた精密機械なのだ。


「ちょめちょめ」 (じゃあ、ミク。その魔導具をその辺りに置いて)

「ここ?」

「ちょめちょめ」 (もうちょい右……その辺。そこでいいわ)


ビデオカメラの画角に入らない位置に風を起す魔導具を配置する。

そしてルイのドレスの靡き方を見ながら風の強さを調整した。

あまりに風が強くても不自然なのでそよ風が吹いている程度にした。


「ちょめちょめ」 (それじゃあ、ルイ。もう一度歩いてみて)

「わかった」

「ルイ、こっちだよ」


先ほどと同じようにルイは部屋の中を歩きはじめる。

私は引きのアングルから徐々に寄りに変えてルイを撮影する。

今度は風が加わったのでいい感じにルイのスカートが靡いていた。


「ちょめちょめ」 (はーい、カット。さっそく映像を確認してみるわ)


私はビデオカメラを巻き戻して撮影した映像を再生する。


「ちょめちょめ」 (映像の中に自然さが加わったわ)

「本当だ。さっきと全然違う」

「ルイもカワイく映ってる」


イメージ通りの映像に仕上がったことで私も満足だ。

それよりも満足していたのはルイの方で幸せそうな笑みを浮かべている。


「ちょめちょめ」 (じゃあ次は窓から外を眺めているシーンを撮るよ)

「ちょめ太郎、今はダメだよ。お日様が出ているから」

「お姉ちゃん、ちょっとぐらいなら大丈夫だよ」

「ダメよ。もしものことがあったら取り返しがつかなくなるのよ」

「それはそうだけど、ルイもお日様を見てみたい」

「……」


ルイの素直なお願いは私達からするとあたり前のことだ。

そのあたり前のことができないルイは可哀想過ぎて悲しい。

だから、せめてMVの中では願いが叶えられるようにするつもりだ。

”窓から外を眺めているシーン”は夜になってから撮影することにした。


「ちょめちょめ」 (なら、次はベッドシーンを撮るよ)

「ベッドシーン?」

「ちょめちょめ」 (変な誤解はしないでね。けっしてエッチな撮影じゃないから)

「エッチって……ちょめ太郎、そんなことを考えていたの」


少し大人なミクはベッドシーンの意味を理解したようで頬を赤らめる。

それに比べて何も理解していないルイは無邪気にはしゃいでいた。


「ちょめちょめ」 (じゃあ、ルイ。ベッドの上に横になって)

「うん、いいよ」

「ちょっと、ちょめ太郎」

「お姉ちゃん、顔が真っ赤だよ」


ミクはすっかり誤解してしまったようで頭の中で変な妄想を描いていた。


「ちょめちょめ」 (それじゃあ私は天井から撮影するわ。ルイ、体全身で嬉しさを表現してみて)


私はビデオカメラを持って壁を這って天井まで移動する。

そしてベッドの上にいるルイが映るようにビデオカメラを固定。

ルイにはありのままの自分を出してもらうような指示を出した。


「キャハハハ」

「ちょめちょめ」 (そう。そうよ)

「キャハハハ」

「ちょめちょめ」 (その感じでもっと続けて)


いいシーンを撮影しようと思ったら何テイクも必要だ。

一発で決まることもあるけれどそんなことは希だ。

より、演者の自然さを引き出すなら繰り返すのがいい。

はじめは演技しようと思ってしまうから不自然に映る。

だから、何テイクも撮影していい映像を厳選するのだ。


「ちょめ太郎、もう疲れた」

「ちょめちょめ」 (わかったわ。ちょっと休憩ね。ミク、ベッドのシーツをなおしてちょうだい)

「わかった」


ただ、演者が子供だと何テイクも撮影するのは飽きを覚えさせてしまう。

大人の演者だったら仕事だと割り切れるが子供の場合はそうは行かない。

だから、子供の演者を飽きさせないような工夫が必要になるのだ。


「ちょめ太郎。もう、撮影はいいから遊ぼ」

「ちょめちょめ」 (ダメよ。せっかくルイのMVを撮影しているんだから最後までやらないと)

「だって同じことばかりさせるからつまらないんだもん」

「ルイ。ワガママを言わないの。ちょめ太郎だって頑張っているんだよ」

「だって~ぇ」


ルイはすっかりおかんむりになって頬を膨らませてむくれている。

そんなルイを叱りながらミクは撮影を続ける準備をしてくれる。

私はこれ以上の撮影は無理だと判断してラストワンテイクだけに決めた。


「ちょめちょめ」 (なら、次を最後にするわ。だから、ルイも頑張ってね)

「いいの?ちょめ太郎」

「ちょめちょめ」 (あとは編集で何とかするから大丈夫よ。それじゃあ、はじめるよ)

「は~い」


終わりを決めたからなのか次のルイの演技はイメージ通りだった。

無邪気にはしゃいでいるルイの自然な映像を納めることができた。


「ちょめちょめ」 (これで撮影は終わりよ。窓から外を眺めるシーンは夜になったら撮るからね)

「終わったー。お姉ちゃん、遊ぼ遊ぼ」

「着替えてからね」


そう言いながらミクはルイを連れて自分の部屋に戻って行く。

その背中を見送りながら私はさっそく撮影した映像をパソコンに取り込んだ。


「ちょめちょめ」 (あとはどう編集をするかよね。テーマを壊さずに楽曲の『スマイル』と調和するように編集をしないとね)


私はルイが歩いているシーンの映像をパソコンに映し出す。

そしてルイの部分だけを切り取って背景と分割させる。

あとはお花畑の映像を合成すればシーンの完成だ。


「ちょめ」 (こんな感じかな)

「うわぁ~。ルイがお花畑で歩いている」

「すごい。こんなこともできちゃうんだ」

「ねぇ、他のも見せてよ」

「私も見たい。ちょめ太郎、お願い」


ミクとルイは完成したお花場だけで歩いてるシーンを見て感激する。

まるで魔法でもかけたかのような感じに見えたようで興奮していた。

そしてもっと他のことができないか要求して来た。


「ちょめちょめ」 (あ~。もう、邪魔をしないでよ。終わったら見せてあげるからあっちへ行っていて)

「別に怒らなくてもいいじゃん」

「ルイ、邪魔しちゃ悪いわ。あっちへ行くよ」


編集作業には意識を使うのでひとりになって作業がしたい。

編集のデキ次第ではMVの完成度が変わるから集中したいのだ。

ルイのためにしていることだから少しは我慢してもらわないといけない。

私はひとりになれるようにミクの部屋に籠ってひとりで編集作業をした。





それから1時間。

ようやくルイのMVが仕上がった。


「ちょめちょめ」 (終わったー。ふぅー、これで完成ね)


久しぶりの作業だったから目が疲れてしまった。

と言うか、この姿は顔が大きいので必然と疲れてしまう。

人間であった頃はブルーライトカットのメガネをかけていたから長時間も耐えられた。

今度、ちょめジイに頼んで私用のメガネを用意してもらおう。


「ちょめちょめ」 (後はルイの窓から外を眺めるシーンの撮影が残っているけれど、それはまた後でしよう)


そのシーンが入る場所は窓から外を見ている少女のイラストに置き換えておいた。

あくまでイメージが伝わればいいだけのものだから簡単でいいのだ。


「ちょめちょめ」 (さて、ルイのMVの鑑賞会をはじめようっと)


私は出来たてのルイのMVを持ってルイの部屋へと戻る。


「あっ、ちょめ太郎。終わったの?」

「ちょめちょめ」 (あたり前じゃない。私を誰だと思っているの)

「でも、もう3時間も経っているけどね」


ルイの部屋で待っていたミクとルイはオレンジジュースを飲んで寛いでいた。


「ちょめちょめ」 (それじゃあルイのMVを見せてあげるわ)

「この平たい魔導具で見られるの?」

「ちょめちょめ」 (そうよ。本当だったらプロジェクターを用意したいんだけど持ってないからね)

「はやく見せて見せて」


ミクとルイは目を輝かせながらパソコンに食いつく。

私は静かにパソコンのエンターを押してルイのMVを再生させた。


「うわぁ~、ルイが映ってる」

「すごい。こんな魔導具は初めて見るわ」

「ちょめちょめ」 (これからが本番よ。最後まで見たら感想を聞かせてね)


パソコンの画面にMVが映し出されると『スマイル』のイントロが流れる。

イントロ部分はルイの表情をスライドショー形式で編集した映像だ。

アイドルのMVと言うよりはホームビデオのような感じになっている。

それは私の狙いでもあって観ている人に親近感を抱かせるためだ。

私としてはルイに王道を行くアイドルを目指して欲しくない。

あくまでファン達の身近に感じられるアイドルにしたいのだ。


イントロが終わるとAメロ1がはじまる。

すると、映像が変わってルイがお花畑で歩いているシーンになった。


「あっ、これ。さっき撮影したやつ」

「ルイがお花畑で歩いているわ」

「どうやったの。おせーて、おせーて」

「ちょめ太郎って何でもできるんだね」

「ちょめちょめ」 (まあね。私にかかればこんなもんよ)


ルイとミクに驚かれて私はつい得意気になってしまう。


それは私がやったのではなく編集ソフトが優秀だからだ。

けど、純粋なリアクションは新鮮で気持ちよくなった。

日本にいた頃はこれぐらいはあたり前なので驚かれない。

同じアニ☆プラファン達と技術を競っていたぐらいだから。


「ルイのシーン終わっちゃった」

「ここはイラストなんだね」

「ちょめちょめ」 (やたらとルイを出せばいいってもんじゃないわ。あくまで『スマイル』の楽曲に合ったMVでないと意味がないからね)


ルイは自分のシーンがなくなると急に興味をなくす。

両肘をついて顔を乗せながらつまらなそうに顔をいじっていた。


女の子は自分に超関心があるから自分が映っていないと興味を持たない。

日本にいた頃も女子達はスマホで自撮りばかりしていたぐらい自分好きなのだ。

もちろん私も女子だから自分が好きだけど今はちょめ太郎だから関心はない。

それよりも早く”カワイ子ちゃんの生ぱんつを100枚集めて”元の姿に戻るのだ。


MVの方は2番に突入している。

またルイが出て来るシーンだったのでルイは目を輝かせていた。


「ルイ、カワイく映っているかな?」

「普段のルイもカワイイけどMVのルイもカワイイわ」

「やっぱりそうだよね。ルイもそう思っていたんだ」


わかり切っている答えを聞いてもルイの機嫌はよくなる。

ミクがそう答えるだろうと思って改めて聞いた質問だ。

自分で思うよりも他の人から「カワイイ」と言われた方が嬉しいものだ。

ルイはそのことをちゃんと心得ているからミクに質問したのだ。


「あっ、またイラストなっちゃった」

「このシーンて夜に撮影しようとしているシーン?」

「ちょめちょめ」 (そうよ。わかりやすいようにイラストにしておいたの。あとで撮影するから楽しみにしていてね)


私が返事を紙に書いてミクに渡すとルイに話して聞かせる。

すると、ルイはここぞとばかりに飛び上がって撮影を催促して来た。


「ねぇ、ちょめ太郎。今から撮影をしよう」

「ちょめちょめ」 (まだMVを最後まで観ていないじゃない)

「いいの。早く撮影してMVを完成したいの」

「ちょめちょめ」 (仕方ないわね。ミク、準備はできる?)

「もう陽も沈んでいるし大丈夫よ。いつでも撮影できるわ」


と言うことで私達は窓辺から外を眺めているシーンの撮影をはじめることにした。


外は暗いので部屋の灯かりを照明代わりに使う。

ただし、不自然にならないようにレフ板を使って調整した。

ミクはコーディネートだけでなく照明係もこなしてくれる。

おかげで私は撮影に集中できた。


「こう?」

「ちょめちょめ」 (もっと遠くを見つめるように目を細めて)

「ルイ、もうちょっと目を細めてだって」


ミクに言われた通りルイは窓辺で外を眺めながら目を細める。

その仕草は不自然でなく本当に外を眺めているような仕上がりだ。


「ちょめちょめ」 (いいわ。そうしたら優しく微笑んで)

「ルイ、優しく微笑んでだって」

「優しくってどのぐらい?」

「お月さまぐらいかな」


ミクが絶妙な例えをしてくれたのでルイの表情はイメージ通りになった。


「ちょめちょめ」 (はーい、カット。これで撮影は終わりよ)

「お疲れさま、ルイ。頑張ったね」

「早くMVが観たい」


ルイは休憩よりも完成したMVに関心があるようだ。

私はさっそく編集作業をしてMVを仕上げる。

そして再びMVの鑑賞会をはじめた。


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