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第五十五話 MV撮影の準備

ルイは2、3度繰り返しただけで「スマイル」の歌詞を全部覚えてしまった。

その早さと正確さにはさすがの私も下を巻いた。

ミクは”こんなのはあたり前だよ”と言っていたが驚きでしかない。

ただ、歌詞を歌えるようになっただけで歌詞の意味は理解していない。

音として言葉を発しているだけのレベルだった。


「こんな感じだけど、どう?」

「ちょめちょめ」 (本当にすごいわね。私だって歌詞を覚えるのに時間がかかったのに)

「ルイは耳コピして言葉を覚えて来たから慣れているの」


ルイは少し誇らしげにしながら胸を張っている。

どうだと言わんばかりの態度にさすがの私も頭が上がらなかった。


「ちょめちょめ」 (歌詞は覚えたようだけどルイの歌は歌じゃないわ。機械が音を発しているだけのボカロのようなレベルね)

「ボカロって?」

「ちょめちょめ」 (その説明は省いておくわ。簡単に言うと機械が音を出しているってこと)

「確かに。ルイの歌に気持ちを感じない」


ミクが正直な感想を言うとルイはガックリと肩を落とした。


「だって言葉の意味がわからないんだもん」

「ちょめちょめ」 (その辺は私が丁寧に教えてあげるわ。ルイの歌の完成度を高めるためにも必要なことだからね)


私はテレキネシスを使って紙とペンを持つと『スマイル』の歌詞を書く。

そして要所要所の言葉の意味をわかりやすくメモ書きした。


「ちょめちょめ」 (こんなところね。ミク、ルイに説明してあげて)

「これをルイに説明すればいいのね。フムフム、なるほど」

「お姉ちゃんばかりズルい。ルイにも早く教えてよ」


ミクが私の書いた歌詞にじっくり目を通しているとルイが羨ましそうに催促して来た。


「まずはタイトルになっている”スマイル”の意味からね」

「”スマイル?”」

「”スマイル”は笑顔のことだよ」

「笑顔か。私、得意」


ミクの説明を聞いてルイはニコニコしながら笑顔を見せる。

その笑顔はまるで天使のようで私の心は釘付けになった。


「じゃあ、次は楽曲の”ストーリー”を教えるね」

「”ストーリー?”」

「”ストーリー”は物語のことだよ。ルイは好きでしょ」

「うん。私、お話大好き」


普段から部屋にこもりっきりなので外の世界を知らない。

だから、ミクのママが話してくれる物語にすごく興味を持っているのだ。

物語は聞く人の想像力を掻き立ててイメージを何倍にも膨らましてくれる。

その物語が実際にあるかのように思えてしまうのでルイは夢中なのだ。


「”スマイル”は素敵な笑顔をみんなにあげて幸せにさせる物語よ。笑顔は幸せな気持になれたり、心を温めたり、みんなを元気にしてくれるものなの。お天道さまやお月さまに負けないぐらい魅力的なのよ」

「へぇ~。笑顔ってすごいんだね」


ルイはまるで他人ごとのようにミクの話を聞いている。

無敵の笑顔を持っているのにまるで自覚がないようだ。


「ちょめ」 (当事者はそんなものかな)


狙って笑顔を作っているよりも自然な方がいい。

その笑顔を武器にして男子を魅了するような女子にはなって欲しくない。

ルイはあくまで純粋で無垢で自然な笑顔を保ち続けてほしいものだ。


「だから、歌う時は”笑顔でみんなを幸せにしてあげる”ような気持で歌うのよ」

「わかった」


私の的確な説明を聞いてルイも理解してくれたようだ。

実際に『スマイル』がそう言う意味を持った楽曲であることは知っている。

”アニ☆プラ”のファーストシングル『スマイル』が発売されるときに調べたのだ。


やっぱりファンとして歌詞だけでなく楽曲のストーリーや意味まで知っておくのは必須だ。

楽曲が発表されてから”アニ☆プラ”ファンの間で考察し合うのが楽しみのひとつだからだ。

ただ、”アニ☆プラ”の楽曲は簡単なものが多いから深く掘り下げられることはないのだけど。


話題になったのは”誰がどんな状況で笑顔を誰にあげているのか”と言うことだ。

”アニ☆プラ”の見解では”主人公の少女がが好きな人にあげている笑顔”と言うことになっている。

だが、歌詞をよく見直してみると”彼女が別れた彼氏にあげる最後の笑顔”と言う解釈もできるのだ。

まあ、あくまで”アニ☆プラ”ファン達の間で盛り上がっている憶測の域を越えない解釈なのだ。


「なら、今度は歌詞の意味をひとつひとつ教えてあげるね」

「お姉ちゃん、お願い」


それからミクは私の書いた説明を詳しくルイに話して聞かせた。

『スマイル』は、けして難しい歌ではないからルイもすぐに理解してくれた。


それから再びラジカセをかけてルイに『スマイル』を歌ってもらった。

『スマイル』のストーリや意味を知ったので歌い方がガラッと変わった。

歌詞のひとつひとつにルイの気持ちが込められていてハッとさせる。

ただ、テクニックはないので完成度はあまり高くなっていない。


「ちょめちょめ」 (前よりよくなったわ。ただ、テクニックが全然ないわ)

「歌を歌うのにテクニックがあるの?」

「ちょめちょめ」 (そうよ。強弱はもちろんのこと、こぶしやがなりなんてテックニックもあるの。まあ、けど『スマイル』にはそれは必要ないけどね)

「そうなんだ。はじめて知った」


ミクはどちらかと言うと歌に疎いのでテクニックがあることに驚いていた。

ただ、ルイは興味を持ったようで目を輝かせながら私に言って来た。


「ちょめ太郎。私、もっと上手に歌いたい。だからテックニックを教えて」


そんなルイの純粋な要求に応えるべく私は知っているテクニックをルイに伝授した。

その後でルイにもう一度歌ってもらったが、俄然うまくなっていた。

ルイが『スマイル』を自分の歌にしてしまうのもそう遠くはないだろう。


「ちょめちょめ」 (歌はこのぐらいでいいわ。次はダンスの練習よ)

「ダンスをやるの?」

「ちょめちょめ」 (『スマイル』には振り付けがあるからね)

「私、お歌だけでいい」

「ちょめちょめ」 (ダメよ。歌とダンスが合わさってこその楽曲だからね。ルイも”アニ☆プラ”に近づかないといけないの)


私の意見を聞いてルイは自信なさげに項垂れる。


歌は自信満々だったけれど踊りには自信がないのだろうか。

だけど、アイドルを目指すのであればどちらもこなさないといけない。


「ちょめちょめ」 (それじゃあちょっと時間をちょうだい。『スマイル』の振り付けを図にするから)


直接、教えられないのでもどかしさを感じるが今はこれしか方法はない。

細かなポイントまでは伝えきれないが大まかなところは教えられる。

まずはミクに覚えてもらってからルイに教え込む手段を選んだ。


私は1時間をかけて『スマイル』の振り付けを図に描き起こした。


「ちょめちょめ」 (それじゃあ、ミク。この図のように踊ってみて)

「これを真似すればいいのね」


ミクは描き起こした図を眺めながら振り付けを覚えて行く。

普段からあっちこっち飛び回っているからダンスには自信がありそうだ。

ただ、歌の方はルイの足元にも及ばない……と言うかミクは音痴だ。


「ちょめちょめ」 (ムフフ。お互いの穴を埋めるように得意分野が違うなんて、さすがは姉妹だ)

「ちょめ太郎。何を笑っているのよ」

「ちょめ」 (別に何でもないわ)

「私がうまく踊れないって思っているんでしょ?残念でした。私はダンスが得意なの」


そう言ってミクは覚えたての振り付けを踊ってみせる。


「ちょめちょめ」 (へ~ぇ。中々やるじゃん。なら、音楽に合わせて踊ってみてよ)


私はラジカセの再生ボタンを押して『スマイル』をかける。

すると、イントロが流れはじめて『スマイル』の世界を描き出す。


踊りがはじまるのは歌い出しと同じタイミングだ。

だから、ミクは足でリズムをとりながら歌がはじまるのを待っていた。


”白紙のページに 言葉を並べて”

”自分だけの ストーリーを 作ろう”

”ワクワクだらけの 冒険活劇”

”魔法と剣、モンスターも飛び出す”


歌がはじまると同時にミクは踊りはじめる。

それは私が描き起こした振り付け通りだった。


「ちょめ」 (ふむ。いい感じじゃん)

「お姉ちゃんすごい」


普段は見ないミクの姿を目の当たりにしてルイは羨望の眼差しを送る。

歌ではミクを突き放していたけどダンスではミクに負けているようだ。


それから『スマイル』の楽曲が終わるまでミクは踊り通した。

途中で振付を間違っていたところもあったが中々の仕上がりだ。


「どう、ちょめ太郎。私を見直した?」

「ちょめちょめ」 (それだけ踊れれば大満足よ。後はルイに伝授するだけね)


私はミクを褒めてからルイに視線を向けた。

すると、ルイはバツが悪そうな顔をして視線を逸らす。


「さあ、ルイ。はじめるよ」

「ヤーダ。私、お歌だけでいい」

「ワガママを言わないの。アイドルになりたいんでしょ」

「そうだけど……」


ルイは下を向きながら足をモジモジさせて時間を稼いでいる。

よほどダンスを踊るのが嫌だと言う気持ちだけは伝わって来た。


「ちょめちょめ」 (音楽に合わせると難しいからはじめはミクの踊りを覚えるのよ)

「まずは右手を斜め上に翳して手首を左手はマイクを持って顔の前に移動させるの。やってみて」

「こう?」

「うまいうまい。デキてるじゃん」

「このぐらい誰だってデキるよ」


どんな運動音痴でも簡単にデキる振り付けをさせてミクはルイをべた褒めする。

褒めると伸びるタイプなのかわからないが、あまり誇張し過ぎると逆に取られてしまう。


「じゃあ次はちょっとムズかしいよ」

「どんなの?」

「左足はつま先を軸にして踵を左右に動かすの。同時に右足は膝を曲げてリズムをとるのよ」

「え?こう?」

「”違う違う。そうじゃ、そうじゃない”」


ルイのヘタッピなステップを見てミクはどこかで聞いたことのある台詞を吐く。

なんでミクが”鈴木○之”の歌を知っているのかはひとまず置いておこう。

それよりも今はルイの踊りの方だ。

左足を意識すると右足がついて行って、右足を意識すると左足がついて行ってしまっている。

それは運動音痴の人に共通に見られるシンクロ、そのものだった。


「うぅ……うまくできない」

「諦めないで。まずは左足の練習からね。つま先を軸にして踵を左右に振るの」

「こう?」

「そうそう。それができたら右足を合わせて行くよ。左足を左右に動かしながら右足でリズムを刻むの」

「あーん。左足と右足が同じになっちゃう」


ルイは顔をしわくちゃにしながらうまく踊れないことに苛立ちはじめる。

自分の体なのだから自分でうまく操ってくれと思うが思うだけだ。

ルイのような超運動音痴には反復運動を何度も繰り返して覚えさせるしかない。


「ちょめちょめ」 (なら、左足の踵を左に振ったら右足の膝を伸ばして、左足の踵を右に振ったら右足を膝を曲げるの。そうすればリズムをとりやすくなるわ)

「さすがはちょめ太郎だね。これならルイにもデキるわ」

「二人だけで納得していないで早く教えてよ」


私は紙に振り付けのポイントを書き記してミクに教えているとルイが焼きもちを焼く。

私とミクが二人っきりで盛り上がっていたから仲間に入りたくなったのだろう。


「じゃあ、お姉ちゃんの真似をしてね」


ミクは私に教えられたとおりにルイにお手本を見せて真似をさせた。

すると、ぎこちなさは残っていたがあらかた形になりはじめる。

傍からルイの踊りを見ると骸骨が踊っているかのように見えておかしい。

私は笑いを堪えながら心の中で爆笑していた。


「じゃあ、次は上半身の振り付けだよ。両手を胸の前に持って来てワクワクさせるのよ」

「こう?」

「そうそう。うまいじゃん」

「こんなの誰だってデキるよ」


さすがのルイも超簡単な振り付けを褒められてちょっとイラつく。

ワクワクポーズは小さな子供だってデキるほど簡単な振り付けなのだ。


「それじゃあ、さっきの振り付けに合わせてワクワクさせてみて」

「えー。そんなのデキないよ」

「簡単って言ったじゃん」

「それとこれとは違うの」


運動音痴にとって上半身の動きと下半身の動きを同時にこなすことは超難しいことだ。

どちらかを意識すればどちらかがつられてすぐにボロボロになってしまう。

ルイも同じで上半身の動きにつられて下半身でリズムを刻んでいた。


「ちょめちょめ」 (”ダメだ、こりゃ”。うまくなるまでに相当時間がかかりそうね)


私はどこかで聞いたことのある台詞を吐いてガックリと肩を落とした。


「もう、ヤダ」

「ダメよ。アイドルになりたいんでしょ」

「アイドルはいい。ミュージシャンになるから」


うまい切り返しをして来たと思ったがそれはミュージシャンを馬鹿にした言い方でもある。

ミュージシャンなら踊りは踊らないから自分でもできると思っているようだけどそんなに甘くはない。

ミュージシャンにはアイドルを凌駕する絶対的な歌唱力が必要になるのだ。

おまけにシンガーソングライターを目指すならば自分で作詞作曲をしなければならない。

今のルイは踊りから逃げたくてミュージシャンになると言っているだけだ。


「ちょめ太郎からも何とか言ってよ」

「ちょめちょめ」 (仕方ないわね。最初の頃の気持ちを思い出しなさい。チラシで見たアイドルはどうだった?輝いていた?ルイはその時に何を感じたの?)


私はルイへの質問を紙に書きなぐってミクに手渡す。

すると、ミクがその質問を読み上げてルイに聞かせた。


「ルイ。アイドルのチラシを見た時にどう思ったの?」

「カッコイイなって思った」

「なら、そのアイドルはどう見えたの?」

「キラキラと輝いていてお星さまのようだった」

「ルイはその時に何を考えた?」

「私もアイドルになりたいって」

「ちょめちょめ」 (”真実は○とつ”。それが答えよ)


私はどこかで聞いたことのある台詞を吐いてから答えを示した。


「ルイはアイドルになりたいんだよね」

「うん。でも、ダンスをうまく踊れない」

「最初はみんなそんなものよ。繰り返し練習をしてうまくなるものだもの」

「ルイもうまくなれるかな」

「なれるよ。ルイは私の妹だからね」

「お姉ちゃん」


ミクがルイのことを自慢と思っていることを知ってルイは感激してミクに抱きついた。

感動的な姉妹愛はひとまず置いておいてダンスレッスンの続きをしなければならない。


「ちょめちょめ」 (次は歌とダンスを合わせるわよ)

「えーっ。まだ早いんじゃない」

「ちょめちょめ」 (早くはないわ。実際は歌いながら踊るんだから最初からやっておいた方がいいの)

「ルイ、自信ないな……」


私の言葉を知ってルイは表情を曇らせてガックリと項垂れる。


本来であればダンスがある程度固まって来てから合わせるものだ。

ただ、それだどいつになるのかわからないし、一度体験しておいた方がいい。

どこのタイミングでどんな振り付けをするのか体に覚えさせるのだ。

とりわけ超運動音痴なルイの場合、歌をベースに覚えさせる方が早い。


「ちょめちょめ」 (考えていてもはじまらないわ。はじめるわよ)

「ちょめ太郎。私も踊った方がいいかな」

「ちょめちょめ」 (お手本があった方がルイも助かるでしょ。任せたわよ)

「わかった。ルイのために頑張る」


と言うことで私はラジカセのスイッチを入れてレッスンをはじめた。

ミクは踊りをマスターしているので曲に合わせてダンスをして行く。

その踊りを見本にしながらルイは手足を動かしてミクについて行こうとする。

しかし、すぐに頭の中がこんがらがってしまってしどろもどろになってしまう。


「あーっ。デキないよ」

「ちょめちょめ」 (デキないじゃないの。やるの。歌もはじまったでしょ。歌いなさい)

「ハクワク……あわわわぁ」


ルイはダンスに翻弄されてまったく歌にも集中できない。

歌に集中しようとするとダンスがおろそかになるし、その逆もしかりだ。

ルイは思うように動かない自分の体に苛立ちながらも歌と踊りを続ける。

そんなひたむきな妹の姿を見てミクは気合を入れ直してお手本になった。


そして確たる成果を得ることなく歌は終わってしまった。


「ちょめちょめ?」 (どう?歌と踊りを合わせてみた感想は?)

「こんなのデキっこないよ。ルイをイジメないで」

「ちょめ太郎……ちょっと早かったんじゃない」

「ちょめちょめ」 (これがアイドルの壁よ。アイドルになるってのは簡単じゃないの。誰よりも練習をして経験を積んでクオリティを高めて、はじめてデビューデキるの。アイドルになりたい人はいっぱいるわ。だけど、実際にデビューデキるのはほんの一握りの人達だけなの)


私がアイドルの何たるかを力説するとルイは萎縮してしまう。

自分が想い描いた夢が間違っていたのか心の中で疑っていた。


「ちょめちょめ」 (でもね。ルイが魅了されたようにみんなアイドルに夢中になるわ。それだけアイドルには人を惹きつける魅力があるものなの。その点、ルイは合格ね。だって、その笑顔で周りの人達を元気にさせているんだもん。私もルイの笑顔が好きよ。だから、”アニ☆プラ”の『スマイル』を教えたのよ)

「ちょめ太郎……そんなにもルイのことを考えていたのね。ありがとう」


私の本音を知ってミクは目にいっぱい涙を溜めて喜ぶ。

ミクからしてみたら厳しい私がルイをイジメているのではないかと心配していたようだ。

だが、それは裏を返せばすべて愛のムチなのだ。

愛情を感じているからこそ厳しくできる。


「ルイはアイドルになれるかな」

「ちょめちょめ」 (もちろんなれるわよ。だから、MVを撮影してアイドル気分を味合わせてあげるわ)

「MVって何?」

「ちょめちょめ」 (MVってのはミュージックビデオのことよ。簡単に言えば楽曲を紹介するための映像ね)


私の説明を聞いてもピンと来ない二人はポカンとしていた。


「ちょめちょめ」 (とりあえずここで待ってて。MVを撮影するには道具が必要だから)


私はミクとルイをその場で待たせておいてひとりでミクの部屋に戻る。

そして誰もいないことを確認してからちょめジイに念話で語りかけた。


(ねぇ、ちょめジイ。お願いがあるんだけど)

(何じゃ。また要求か)

(あれ?今日は早いのね)

(ワシだってそう忙しい訳じゃない)


いつものちょめジイなら何度か呼びかけないと答えないものだけど今回は違った。

あまりの反応の良さに帰って疑いの気持ちを持ちたくなる。

まあ、でも今は用があるので用事を優先させた。


(ねぇ、召喚した私物からビデオカメラとパソコンを召喚してほしいのだけど)

(条件次第じゃな)

(あれ?いつもだったら”この世界に影響を与えるものはダメじゃ”と言うのに。どうした風の吹き回し)

(ワシは頑固ジジイじゃないからのう。それよりどうなのじゃ)


ちょめジイが目くじらを立てなかったことはありがたい。

すんなりと話が進んでくれた方が私にとってもいいことなのだ。

ただ、”条件次第”と言ったことが気になる。


(条件って何なのよ)

(そうじゃな。カワイ子ちゃんのぱんつが見たいのじゃ)

(カワイ子ちゃんのぱんつなら見ているじゃない)

(そうではない。カワイ子ちゃんがぱんつを履いている姿を見たいのじゃ)

(それって私に盗撮をしろって言うこと?)

(知見を広めるためじゃ)


ちょめジイはそんなことを言っているがただのスケベ根性だ。

自分ではカワイ子ちゃんの生ぱんつが見れないから私に犯罪を進めている。

たしかに私のアングルから見ればぱんつは見放題だ。

だからと言って犯罪に加担するようなことはしたくない。


(イヤよ。犯罪者になんてなりたくないわ)

(なら、この話はなしじゃ)

(くぅ……)


私の足元を見てちょめジイは優位な立場に立つ。

ビデオカメラとパソコンが欲しいのは私であってちょめジイの要求は敵わなくてもいい。

私が絶対に引かないとわかっているから盗撮をさせようと大きく出て来たのだ。


(どうするのじゃ。ワシはどちらでもいいぞ)

(わかったわよ。カワイ子ちゃんのぱんつを盗撮すればいいんでしょ)

(商談成立じゃな。ほれ、望みの品じゃ)


そう言ってちょめジイは自分の部屋にあったビデオカメラとパソコンを召喚した。


(ぱんつの盗撮映像なんて誰なのかわからないから、その辺のおばさんのぱんつでも盗撮しておけばいいわ)

(聞えておるぞ)

(はっ、しまった。念話を切るのを忘れていた)

(ズルはなしじゃからな。カワイ子ちゃんのぱんつじゃぞ。それ以外は認めんからな)


うっかり手の内をちょめジイに明かしてしまって……”下手こいた”。

と頭の中でどこかで聞いたことのある台詞を吐く。


とりあえず目的のビデオカメラとパソコンが手に入ったのだから良しとしよう。

ちょめジイの要求は後でするとして今はルイのMVを撮影するだけだ。

だてに”アニ☆プラ”のオタクはしていないから腕には自信がある。

私の腕にかかればMVのひとつやふたつちょちょいのちょいだ。


さっそく私はビデオカメラとパソコンを持ってルイの部屋に戻った。


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