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プロローグ 今日はなにぱんつ?

「ひゃっほーい。手に入れちゃった。「アニ☆プラ」のサードシングル。激推しの「ななブー」がはじめてセンターを勝ち取ったシングルだもんね」


私こと、鈴城マコ(14歳)は人目も憚らず小躍りしながら街を歩いて行く。

その様は傍から見たらバカのひとり祭りだ。


それも仕方がない。

大好きな声優アイドルグループ「アニマル☆プラネット」のサードシングルを手に入れたからだ。

「アニ☆プラ」は声優をしている早瀬なな(19歳)と森川あずみ(20歳)と広宮えりか(21歳)の3人で構成されている。

今年デビューしたばかりのほやほやの声優アイドルグループだ。

既にサードシングルまでリリースしていてオリコントップ50に入っている。

今注目の若手声優アイドルグループなのだ。


「アニ☆プラ」はその名前の通り動物を守護している星から生まれたアイドルと言う設定だ。

リーダーの広瀬えりかはウサギを守護している星のアイドルで通称「えりピョン」と呼ばれている。

絶対的センターの森川あずみはネコを守護している星のアイドルで通称「あずニャン」。

そして私の激推しの早瀬ななはコブタを守護している星のアイドルで通称「ななブー」なのだ。


その「ななブー」が絶対的センターである「あずニャン」を破ってセンターを手に入れたサードシングル。

アニメ『優秀なサラリーマンは声優アイドルに恋しない』、通称「サラ恋」のエンディングテーマソングなのよね。

もちろん「ななブー」がヒロイン役の「結川まとい」を演じているの。

今、私の手の中にある。

曲名は『stardust rain』。


「まだ歌詞は見てないから、早く家に帰って楽しも~っと♪」


足取りがいつもよりも軽くてフワフワ浮かび上がりそう。

それだけ私の心は嬉しさで踊っていて幸せで満ち溢れていた。


さっそく家に着くと私はお菓子とジュースを持って部屋に籠る。

そして手に入れたサードシングルをパソコンに挿入した。


「キャハッ。はじまった」


パソコンの画面にはテロップが浮かび上がると「アニ☆プラ」の3人が登場する。

センターを勝ち取った「ななブー」は中央に立ちその両脇に「あずニャン」と「えりピョン」が並んでいる。


(今回は「アニ☆プラ」のサードシングルを買ってくれてありがとう。私がはじめてセンターをすることになったサードシングルです。アニメ『優秀なサラリーマンは声優アイドルに恋しない』のエンディングテーマソングです。皆さんに届くように歌うので聞いてください。『stardust rain』)


「ななブー」が挨拶を終えると暗転してスポットライトが「ななブー」に降り注ぐ。

すると、イントロが流れはじめてステージ上の照明がリズムに合わせて踊り出した。


「サードシングルに相応しいカッコイイイントロだわ。カワイイで推して来た「ななブー」のイメージとのギャップがいいわ」


私はパソコンに食らいつきながらスピーカーから流れ出て来る歌に魅了される。

「ななブー」のカワイイ歌声がメロディーに合って『stardust rain』の世界観を造る。

パート分けしながら歌い継がれる曲に「アニ☆プラ」の魅力を感じた瞬間だった。


そしてAメロからBメロへと移り、一番盛り上がるサビへと移って行く。


(stardust rain ソラヲカケテ この想い解き放て♪ starfust rain ソマルヨウ二 心震わせながら♪)


「ソラヲカケテ!ソマルヨウニ!」


曲のタイミングに合わせて私も合いの手を入れる。


普通ならば節が終わってから合いの手を入れるものだが『stardust rain』は違う。

フレーズの途中で入れるのだ。

そこが今までのシングルとは違って新しい。


(stardust rain アオキヒカリ 夢夜空に描いて♪ stardust rain キエヌヨウニ キミの心に刻む♪)


「アオキヒカリ!キエヌヨウニ!」


さながらコンサート会場でライブを見ているかのようだ。

私の熱いビートは最高潮を迎えて大声を出している。

防音設備の整っていない実家だから家族は迷惑していることだろう。

私がとち狂ったかと心配しているかもしれない。


それでも私の興奮は冷めやらなかった。


「いいわ。「ななブー」最高!」


すっかり私は応援グッズを身に着けて曲を楽しんでいる。

こんなとことを家族に見られてでもしたらアウトだ。

娘がこんな格好をしてひとりで興奮しているなんて知ったら度肝を抜かれるはずだ。

とりわけ堅物の父親が見たら腰を抜かすだろう。


それでも――。


「「ななブー」、こっちを見て!私を愛して!」


私はすっかり『stardust rain』の世界にどっぷりと染まっていた。


すると、急にパソコンの画面が消えて真っ暗になる。


「何?停電?」


部屋を見回してみるが天井の蛍光灯はついている。

エアコンもスマホの充電もパソコンのスイッチも入っている。

それなのに画面だけは真っ暗になって消えてしまった。


「ちょっと、壊れたの?まだ、買ったばかりなのよ」


せっかく盛り上がってたムードも消えて最悪な状態に変わる。

急にカウンターパンチを食らったような衝撃が走ったようだ。


私はパソコンのスイッチを長押しして強制終了させる。

その後で再びスイッチを入れて起動するか確かめた。


「何よ、壊れたの。最悪なんですけどー」


DVDも取り出せなくなっているし、画面は消えているし、最悪だ。


私はパソコンのキーボードをでたらめに押しながら反応するか確かめる。

そして怒りに任せてEnterを強く押すと急に画面が光り出して私を包み込んだ。


「うぅ……眩しい」


それからどのぐらいの時間が経っただろう。

私は強く閉じていた瞼をゆっくりと開いて辺りの様子を確かめた。


部屋の中は一面緑色になっていて生温かい風が流れている。

外にいるでもないのに虫の鳴き声が聞えて来て……って!


(ここどこよ!)


さっきまで自分の部屋にいたはずなのに今は外にいる。

それもやたらと大きい樹と言うか草みたいなものに取り囲まれている。

亜熱帯のジャングルにでも迷い込んだかのように周りの草がデカい。

それに何故だか地面が妙に近くに感じられた。


(何よ、これ?ドッキリ?)


芸能人でもないのにドッキリなんてあり得ない。

だけどドッキリかと思わせるような状況に立たされている。

これがドッキリでないとしたら何なのか説明がつかない。


「アニ☆プラ」のDVDを見ていて急に光に包まれて、気がついたら知らない世界。

これってまさに転生ってやつよね。

もしかして私、異世界に転生でもしたの?


「気がついたようじゃな」

(誰?)


不意に声が聞えたので顔を上げると見知らぬ老人が立っていた。

頭はハゲ上がっていないが髭がモジャモジャしていて如何にもって感じだ。

しかも着ている服が異世界そのもので日本を感じさせなかった。


「ワシはちょめジイ。お主を召喚した者じゃ」

(ちょめジイって……)


名前が非常に気になったがそれよりも召喚って言葉が耳に止まった。


(召喚って何よ。私はあなたに召喚されたって言うの?)

「そうじゃ。お主は選ばれた勇者なのじゃ」


勇者ってことは私はこれから魔王を倒しに行かないといけないの。

異世界転生あるあるだわ。

私が他の誰よりも優れているから選ばれたのね。

伊達に「アニ☆プラ」にハマっていた訳じゃないようね。


(それであなたが私に聖剣をくれるのよね?やっぱりエクスカリバーかしら。最強剣士ここに誕生てね)

「聖剣?何の話じゃ」


私の言葉を聞いてちょめジイは訳の分からなそうな顔を浮かべる。


(違った?なら、最強魔法あたりね。聖剣もよかったけど魔法も悪くないわ。大魔法使いマコなんてね)

「さっきから何の話をしておるのじゃ?」

(何の話って。あなたが私を召喚したのだから最強の武器や魔法をくれるのでしょう?でないと魔王とは戦えないわよ)

「お主は勘違いしておるようじゃな。魔王となんて戦わんでもよい」

(へ?)


話の意図が見えてこない。

魔王と戦わなくていいのならば何で私は召喚されたのか疑問だ。

普通、こう言う話の流れの場合は世界を救う救世主として異世界に召喚されるものだ。

今まで読んで来たラノベも決まってこう言う設定のものが多かった。

それなのに――。


「まずはお主の姿を見てみるのじゃ」


そう言ってちょめジイは手鏡を取り出して私の姿を映した。


(ん?……何、これ?)


鏡に映し出された姿は緑色をした目が大きめのキノコのような緑色の芋虫だった。


「それがお主の今の姿じゃ」

(ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、冗談を言わないでよ。私は14歳のカワイイ女の子なのよ。胸はまだペタンコだけど将来は巨乳を約束された体なの。こんなへんてこな生き物じゃないわ)

「信じられんかもしれんがそれが現実じゃ」


私が強く否定するとちょめジイは顔を横に振って憐みの目を向けて来た。


(まさか……本当に今の私はこんなへんてこな姿なの?いやーん)


あんまりじゃない。

普通にいい子にして暮らして来たのよ。

「アニ☆プラ」にはだいぶ投資したけど。

これじゃあ罰ゲームよ。


(元に戻してよ。こんな姿じゃ表を歩けないわ)

「それは出来ん質問じゃな」

(あなた、私を召喚したんでしょ。元の世界に帰してよ)

「それもできん質問じゃ」


ちょめジイは私の要求を聞き入れることなく断って来た。


(勝手に私を召喚しておいて酷いじゃない。あなたは心が痛まないの。カワイイ女の子をこんな醜い生き物に転生なんかして)

「それが定めじゃ」

(何よ、こんな時にカッコつけないでよ。もう私の人生は終わったわ……グスン)


あまりの衝撃的な事実に私の心はすかっり折れてしまう。

悲しいぐらい涙が溢れて来てポロリと零れ落ちた。


「そんなに元の姿に戻りたいのか?」

(あたり前じゃない。私の元の姿は世の中の男子を魅了するほどの美少女なのよ)

「ならば、「カワイ子ちゃん」の生ぱんつを100枚集めるのじゃ」

(へ?今、なんて言ったの?「ぱんつ」って聞こえたけど)

「じゃから「カワイ子ちゃん」の生ぱんつを100枚集めるのじゃ。そうすれば呪いは解ける」


ちょめジイが発した言葉に私の理解が追いつかずにフリーズしてしまう。


「カワイ子ちゃん」の生ぱんつを100枚集めろだなんてとんだ超ド級の変態エロジジイだわ。

自分の変態的趣味を私に押しつけて来てしかも私にぱんつを集めさせるなんてどんなプレイ。

私がこの世界の素人だから適当なことを言って垂らし込むつもりなのだわ。


(ぱんつが欲しいなら自分で買えばいいじゃない)

「ダメなのじゃ。「カワイ子ちゃん」の生ぱんつじゃないとな」

(その「生」ってのは何なのよ)

「脱ぎたてのホカホカのぱんつじゃ」


かーぁっ。

こいつ飛び抜けた超ド級の変態エロジジイだわ。

カワイ子ちゃんの脱ぎたてのホカホカぱんつを手に入れて匂いを嗅ぐつもりよ。

男子が生ぱんつを手に入れた時は決まってぱんつの匂いを嗅ぐからね。

それが男子の習性なのかわからなけど決まって男子はそうするのよ。

ちょめジイも年は食っているけれど一応男子だから同じなのよ。


(クズ中のクズね。呆れてものが言えないわ)

「何とでも言うがいい。その代り「カワイ子ちゃん」の生ぱんつを100枚手に入れないと元の姿は戻れんぞ」

(そんなド変態なことに加担するくらいならこのままでいいわよ)

「ちょめ虫は1000年生きるぞ」


1000年……。

その前に「ちょめ虫」って言葉が気になったけど。

私は1000年もこの姿でいなくてはならないの。

それは地獄だわ。

こんな醜い姿で1000年も生きていたら私の人格が崩壊してしまう。


(1000年は嫌だわ)

「じゃろう。だからお主は「カワイ子ちゃん」の生ぱんつを100枚集めるしかないのじゃ」

(……)


すぐに頷けないのは否めない。

ちょめジイの超ド級の変態の欲求を満たすために働かないといけないなんて地獄だ。

だけど、「カワイ子ちゃん」の生ぱんつを100枚集めないと元の姿には戻れない。


「どうするのじゃ?」

(わかったわ。「カワイ子ちゃん」の生ぱんつを100枚集めてあげるわ)

「そうこなくてはな」

(随分と嬉しそうね)


ちょめジイは私の決断に気を良くしたのか急に饒舌になる。

そして懐から何か棒のようなものを取り出すと私に差し出した。


「これは「ちょめリコ棒」じゃ。これを使って「生ぱんつ」を集めるのじゃ」

(「ちょめリコ棒」って。私、手がないんですけど)


ちょめ虫には手もなければ足もない。

大きな顔と体がついているだけの姿だ。

そのシルエットは卑猥なキノコを彷彿とさせる。

そこが私の乙女心を傷つけている。

元はカワイイ女子なのによりによってキノコだなんて。


「念じれば「ちょめリコ棒」は扱える。頭の中でイメージするのじゃ」

(イメージね。こうかしら)


ちょめジイに言われた通り頭の中で「ちょめリコ棒」を持っているイメージを浮かべる。

しかし、「ちょめリコ棒」はちょめジイの手から離れて地面に落ちてしまった。


「違う。そうじゃない。もっとリアルに操っているかのようにイメージするのじゃ」

(難しいわね)


私は頭の中で「ちょめリコ棒」を手で持っているかのようにイメージしてみる。

すると、「ちょめリコ棒」が宙に浮いて弧を描いた。


「中々筋がいいぞ。その調子じゃ」

(うぅ……疲れるわ)


気を抜くとすぐに「ちょめリコ棒」は地面に落ちてしまう。


「まあ、最初はみんなそんなものじゃ」

(みんなって。私以外にも「ちょめ虫」がいるみたいじゃない)

「ゴホン。お主しか「ちょめ虫」はおらん」

(急に否定して来たわね。怪しいわ)


私が疑いの眼差しを向けるとちょめジイは視線を逸らして知らぬ顔をする。


恐らくだけれど私以外の人間もこの世界に召喚したのだわ。

そして例の如く「カワイ子ちゃん」の生ぱんつを100枚集めさせようとしたのよ。

だけど、断られちゃったから仕方なく私を召喚したのだわ。

そうに決まってる。


「それでは「カワイ子ちゃん」の生ぱんつを100枚集めに行って来るのじゃ」

(ちょっと待ってよ。まだ「ちょめリコ棒」の使い方を知らないわ)

「簡単じゃ。「ちょめリコ棒」でぱんつを「ちょめリコ」すればいい」

(何よ、その擬音は。聞いたことないわよ)


ちょめジイ曰く、「ちょめリコ棒」の先っちょにある人さし指でぱんつを触ればいいみたいだ。

ちなみに「ちょめリコ棒」は指さし棒のような形をしているちょめジイがくれたアイテムだ。


「それでは行って来るのじゃ」

(そんなにせかさないでよ。まだ「ちょめリコ棒」の説明がまだじゃない。ぱんつを「ちょめリコ」したらぱんつはどこに行くの?)

「「ちょめリコ棒」の中じゃ」

(「ちょめリコ棒」の中って。こんな小さいのに100枚もぱんつが入る訳ないじゃない)


「ちょめリコ棒」は片手で持てる小さなものなので物理的に100枚もぱんつが入らない。


「大丈夫じゃ。「ちょめリコ棒」の中は亜空間と繋がっているからいくらでも入るのじゃ」

(そう言う設定ね。まるで"四〇元ポケット"だわ)

「何じゃ。”四〇元ポケット”とは?」

(こっちの話だから気にしないで)


いちいちちょめジイに日本のアニメの話を説明するのは面倒だ。

この世界がそもそも非現実的なのだからちょめジイも非現実的存在だ。

”猫型〇ボット”ほど優秀ではなく、ただの超ド級の変態のエロジジイだけど。


「では、行って来るのじゃ」

(わかってるわよ)

「それとじゃが、お主は「ちょめ」としか話せんぞ」

(何よそれ?)

「ちょめ虫が人間と話せたら人間がびっくりするじゃろう。人間を驚かせないための配慮じゃ」

(別にそんなことまで気を使わなくてもいいんじゃない。私の存在そのものが非現実的なんだから)


でも、これでこの世界の人間にお願いして「生ぱんつ」を集めることが出来なくなってしまった。

どうせ「生ぱんつ」を集めるならば交渉した方が早いと思っていたのだけど。


「それとワシはいつでもお主を監視しておるからな。ズルはなしじゃ」

(読まれていたか。ランジェリーショップへ行ってぱんつを手に入れようとしていたのに)

「お主はズル賢そうじゃからな」

(よくわかっているじゃない)


私はこれまでに「ななブー」のグッズを手に入れるためにありとあらゆる手段を駆使して来た。

CDに入っている握手会のチケットはランダムだから購入後に他のファンと交換をした。

「アニ☆プラ」のメンバーはみんな好きだけどやっぱり「ななブー」じゃないと満足できない。

それだけではない。

「アニ☆プラ」のガチャでは「ななブー」以外のグッズはネットフリマで売って資金を回収した。

ガチャも確率だからお気に入りの「ななブー」グッズを手に入れるまで膨大な資金を投資するからだ。

だから私の部屋の中には「ななブー」グッズで溢れているのだ。


「言うのを忘れておった」

(まだ何かある訳?)

「ワシとお主はいつでも会話が出来る」

(どうせ私にあれこれ命令をするためでしょう)

「それもあるが、お主はこの世界のことは何も知らんからな。レクチャーするためじゃ」

(いいわよ、そんなの。旅をしていればわかることだわ)


冒険と言うものはそもそもそう言うものである。

見知らぬ世界に飛び込んで街の人達と会話をして情報を得るものだ。

そうする中で仲間が出来て、より冒険が楽しくなって行く。

それが冒険の醍醐味なのだ。


「忘れたのか。お主は「ちょめ」としか話せんのじゃぞ。街の人達から情報は得られない」

(すっかり忘れていたわ。ちょめジイが変な設定にするから)

「ワシが必要になったらいつでも呼ぶのじゃぞ」

(あまり気が進まないけど仕方ないわ)


これじゃあ何だかちょめジイに操られているゲームの冒険者ね。

まあ、そう言う設定なのだから仕方ないけど。


「お主の旅の武運を祈っておるぞ」

(それじゃあ行ってくるわ)


私はちょめジイに別れを告げると歩き出した。

いまいち体の使い方がわからないから中々前に進まない。

人間であった頃の感覚で足を動かしてみても空を切るばかり。

そもそもちょめ虫に足はないから芋虫のように這って行くしかない。

ミミズが前に進むように体をうねらせながら移動する。


(これって結構しんどいわね……ハアハアハア)


息を切らせながらも私は全身の筋肉を使って前に進む。

伸び上がるように体を伸ばした後、引きつけるように体を戻す。

その動きを繰り返しをしながら前へ前へと進んだ。


それから30分は時間が経ったろうか。

振り返るとちょめジイの姿はなかった。


(ここから先は私の力で何とかしないと。とりあえず街を探そう)

「お主はさっきから何をしておるのじゃ」

(へ?)


上を見上げるとちょめジイの股座が目に入った。


「30分も時間が経っているのに30センチしか進んでおらんじゃないか」

(何とーっ!私の努力は何だったの)

「ちょめ虫はお尻を振るだけで前に進める。やってみるのじゃ」


ちょめジイに言われた通りお尻を横に振ってみると簡単に前に進めた。


(そう言うことは早く行ってよ)


とりあえず正しい歩き方がわかったのでよかった。

しばらくの間はちょめジイのレクチャーが必要ね。


私は気を取り直してお尻を横に振りながら森の中を歩いて行った。


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