第五十二話 内緒
私とミクは必死になっておバカなおサルを追い駆けた。
それはサンドイッチを取り返してお説教するためだ。
おサルなのに人間が食べるものを食べさせてはいけない。
そんなことをしたら味をしめてクセになるし、次から人間を襲ってしまう。
おサルはおバカだから欲に溺れて本能のまま行動してしまうのだ。
「ちょっと待ってよ」
「ちょめちょめ」 (ミク、もっと早く走って。でないとおバカなおサルに逃げられちゃうわ)
私は例のごとくミクの背負っているリュックの中にいる。
自分で走ってもナメクジぐらいの速さしかないから走ることは苦手だ。
だから、他力本願でミクに運んでもらっている。
「ハアハアハア。もう、ちょめ太郎も手伝ってよ」
「ちょめちょめ」 (無理なことは言わないで。今の私にできることはおバカなおサルを見失わないようにするだけ)
私はテレキネシスでミクの頭の上でランプを照らしている。
だから、ミクの足元が見えるのでミクは転ばずにすんでいる。
だけど、ミクはだいぶ走らされたので呼吸が荒くなりはじめた。
あと5分ほど走れば息が絶え絶えになってへばってしまうだろう。
それまでに逃げるおバカなおサルを捕まえないといけない。
大きな樹のところでおバカなおサルが右に曲がった。
「ちょめ」 (ミク、あの大きな樹のところで右よ)
「ハアハアハア。もう、ダメ」
「ちょめ」 (あとちょっとなんだから頑張って)
今の私の頼りになれる人はミクしかいない。
走るのが遅い私だけではおバカなおサルに簡単に逃げられてしまうだろう。
大事なサンドイッチを盗まれたあげく、犯人に逃げられるなんて最悪でしかない。
だから、何としてでもあのおバカなおサルを捕まえないといけないのだ。
ミクは必死になって走って大きな樹のところを右に曲がる。
すると、もうそこにはおバカなおサルの姿はなかった。
「ちょめ」 (どこに逃げたのよ)
辺りを見回してみるがおバカなおサルの影も形も見えない。
あるのは鬱蒼とした樹々だけで空を覆うように枝葉を広げている。
枝葉の隙間から夜空が見てとれたが月明かりが降り注いているだけ。
「ハアハアハア。もう、走れない」
「ちょめ」 (キー。悔しい。また、おバカなおサルに逃げられた)
ミクは大きく肩を揺らしながらその場にへたり込む。
そんなミクを横目に私はひとりで悔しがっていた。
ミクははじめてなのだが私の場合は二度目だ。
この前はリンゴをまんまと奪われてしまった。
おまけにおバカなおサルに馬鹿にされた。
今回はミクのママ手作りのサンドイッチだ。
おバカなおサルのクセにミクのママの愛情たっぷりのサンドイッチを盗むなんて許せない。
あのサンドイッチはミクのママがミクと私のことを思って工夫して美味しく作ってくれたものだ。
そんな宝物のようなサンドイッチを奪うなんてもってのほかだ。
「ハアハアハア。おサルさんはどこ?」
「ちょめ」 (完全に見失ったわ)
「せっかくここまで来たのに」
「ちょめ」 (おバカなおサルの方が一枚上手だったのよ)
おバカなおサルははじめから逃げられると確信しての犯行だ。
昼間とは違って辺りは暗いから闇に紛れればすぐに逃げられる。
おまけに森の中はおバカなおサルのテリトリーだから私達に分はない。
いくらミクが森の中のことを知っていてもおバカなおサルには敵わないのだ。
「走ったら疲れちゃった」
「ちょめ」 (ミクはそこで休んでいて。私はその辺を見て来るわ)
ミクに頑張ってもらったので休んでもらうことにした。
体力のある私はリュックから飛び出して辺りの様子を確認することにした。
どうせもうおバカなおサルはいないけれど何かしら痕跡が残っているかもしれない。
私はミクのところから少し離れて森の中の様子を調べる。
すると、10メートル離れたところにサンドイッチを入れていたカゴが落ちていた。
「ちょめ」 (見つけた……って何もないじゃん)
おバカなおサルはここでサンドイッチを全部食べたようだ。
カゴが落ちていた近くにはパンくずもちらほら落ちていた。
「ちょめ!」 (キー。悔しい。おバカなおサルに愛情ったっぷりのサンドイッチを食べられるなんて)
本来であれば私とミクが食べる予定だったのだ。
まだ、サンドイッチをひとつしか食べていないのに。
「ちょめ」 (今度、見つけたら絶対に殺してやるわ)
私はひとり怒りの炎を燃やしながらおバカなおサルへの復讐を誓った。
「ちょめ太郎、おサルさんはいた?」
「ちょめ」 (ダメ。どこにもいないわ)
「見つからなかったんだね。もう、帰ろうか」
「ちょめ」 (いえ、まだよ。まだおぼこぼさまを見つけていない)
ミクが帰ろうと言い出したので私は首を横に振って断る。
おバカなおサルにサンドイッチを盗まれただけで、まだ何の成果も出ていない。
せめて夢の中で見たことだけは確かめたい。
おぼろげな記憶だけど霊樹の森の映像は覚えている。
だから、記憶の中の景色と同じ場所を探せば辿り着くことができるはずだ。
「もうちょっと探してみる?」
「ちょめ」 (もちろん)
と言うことで私とミクはもう少しだけ粘ることにした。
おぼこぼさまのことはとりあえず置いておいて霊樹の広場を探す。
霊樹の広場さえ見つけることができればおぼこぼさまに出会えるチャンスが高まる。
夢の中でもおぼこぼさまは見なかったのでどんな姿をしているのかはわからない。
私とミクはランプを翳しながら夜の森を奥へ奥へと進んだ。
「やっぱり何もないね」
「ちょめ」 (おかしいな。近づいているはずなんだけど)
これまで歩いて来た道のりの景色も断片的だが夢の中で見た景色だ。
だから、確実に霊樹のある広場には近づいているはずなのだ。
「ふわ~ぁ。何だか眠くなって来ちゃった」
「ちょめ」 (だよね)
本来であれば、この時間はミクは夢の中にいる。
これまでに夜更かしなんてしたことがないから眠いのだろう。
私もつられるように大きな欠伸をした。
「そこで横になっていい?」
「ちょめ」 (ダメよ。こんなところで眠ったら狼に食べられちゃうわ)
いくら森の中を知っていると言っても、こんなところで眠るのは危険だ。
森の中に危険な生き物はいなさそうだけれど警戒するのに越したことはない。
もし、盗賊団なんかに見つかった日には誘拐されて売り飛ばされてしまうだろう。
とりわけミクは超がつくほどカワイイ美少女だから高値がつくはずだ。
「ちょっとだけ。目を閉じるだけだから」
「ちょめちょめ」 (もう、すっかりおねむモードじゃない。わかったわ。私が探して来るからミクはそこにいて)
その場にミクをひとり残すことに悩んだが今はこうするしかない。
とりあえずこの辺りには人や獣の気配がないから安心できる。
唯一の灯かりであるランプはミクのところに置いておいて目印にしておいた。
「ちょめ」 (さあ、探すわよ)
私は辺りの景色を見ながら記憶に残っている景色と重ね合わせながら探し回った。
森の中は暗かったけれど月の明かりが降り注いでいるので薄っすらと見える。
夢の中でも同じような状況だったので探しやすかった。
そしてミクのいる場所から100メートルほど離れたところで決定的な場所を見つけた。
それは霊樹の広場に通じている小道だ。
周りに生えている樹の枝が重なり合ってトンネルを作っている。
珍しいから記憶にはっきりと残っていてすぐにわかった。
「ちょめ」 (ここで間違いないわ。ミクを呼んで来なくっちゃ)
私は来た道を引き返してミクが眠っている場所へ戻って行く。
ランプの灯かりが目印になったから迷わずに辿り着くことができた。
「ちょめ」 (ミク、起きて。見つけたわよ)
「う、うん……もう、食べられないよ」
「ちょめ」 (何を寝ぼけているの。起きなさい)
「ふへ?何?」
ミクがあまりに夢の中に入り浸っているので私はミクの顔をぺろりと舐めた。
すると、ミクは感じたことのない感触を感じて目を覚まして驚きの顔を浮かべた。
「ちょめ」 (見つけたわよ)
「見つけたの?」
「ちょめ」 (そうよ。だから、案内してあげる)
「やったじゃん、ちょめ太郎」
ミクの問いかけに頷いて答えるとミクは飛び上がるように喜んだ。
私はミクを先導しながら霊樹のある広場へ向かう。
樹の枝葉でてきてトンネルの小道を抜けると景色が一変した。
「ちょめ」 (ここよ)
「うわ~ぁ。広~い」
ミクは口をあんぐり空けながら広場の大きさに見とれる。
目の前に広がったのはドームを思わせるような大きな広場だ。
空は丸く穴が開いていて月明かりが広場へ届いている。
周りの樹肌は白く月明かりを反射して蒼白く光っていた。
「ちょめ」 (本当だったでしょ)
「霊樹はどこにあるの?」
「ちょめ」 (どこって。広場の真ん中に……って、ないじゃん!)
夢の中では確かにあった霊樹はどこにも見当たらない。
私は疑うように辺りを見回して霊樹がないか確かめる。
けれど、ミクの言う通りどこにも霊樹はなかった。
「ちょめ?」 (おかしいな。この辺にあったんだけど)
「やっぱり、ここじゃないんじゃない?」
「ちょめ」 (間違いないわ。絶対ここよ)
「でも、ないじゃん」
私の記憶が間違っていると言うの。
だけど、絶対にここで間違いないのだ。
たまごおやじが霊樹の影から出て来たんだから。
「ちょめ」 (たまごおやじはいるはずよ)
「わかったよ、ちょめ太郎。でも、もう帰ろう」
「ちょめちょめ」 (ここまで来たのよ。そう簡単に諦めないで)
「今夜はもういいよ。場所がわかったんだし、また来ればいいよ」
ミクは広場を見つけることができたので納得してるからなのか帰りたがる。
だけど、私は自分の夢が否定されているみたいで素直には受け入れられなかった。
「ちょめ」 (私はもうちょっと探してみるわ)
「もう、ちょめ太郎って頑固なんだから。私は帰るよ」
「ちょめ」 (待ってよ、ミク。私をひとりにしないで)
「もう、ワガママなんだから」
ミクがリュックを背負おうとするので私は素早くリュックの中に納まる。
そしてミクはランプを掲げながら来た道を戻って行く。
途中で振り返って霊樹の森を見ていたが足を止めることはなかった。
それから精霊の森のどこをどう通って来たのかわからない。
気がつくとミクの家の前までやって来ていた。
「さあ、家に着いたよ」
「ちょめちょめ」 (ミクはここで待ってて。私は梯子を持って来るから)
私はミクをその場に残して梯子のある小屋までやって来る。
二階に届きそうな梯子を見つけてからテレキネシスで持ち上げた。
後は音を立てないように静かに運んで梯子を設置するだけだ。
梯子の長さはちょうどよくて二階の屋根の上まで届いた。
「ちょめ」 (さあ、ミク。登りなさい)
「ちょめ太郎はどうするの?」
「ちょめちょめ」 (私は梯子を片づけたら壁を這って上るから安心して)
「じゃあ、先に行くね」
そう言ってミクは梯子に手をかけると静かに足を乗せる。
なるべく音を立てないように静かにゆっくりと登って行った。
途中で足を引っかけて転びそうになったが何とか持ちこたえた。
そして梯子を登り切ると屋根の上から私に小声で叫ぶ。
「ちょめ太郎、いいよ」
「ちょめ」 (OK。じゃあ、後でね)
ミクの無事を確認してから私はテレキネシスを使って梯子を持ち上げる。
梯子は見た目ほど重くはないので私ひとりの力でも運べる。
ただ、辺りは暗いのでぶつからないように運ぶのが一苦労だった。
私は小屋に梯子をしまってから壁を這いながら二階までよじ登った。
「ちょめ」 (ただいまー)
「お帰り。ちょめ太郎ってすごいんだね」
「ちょめ」 (もっと褒めてよ。私ってデキる女なの)
「これからもよろしくね」
ひとり得意気にしている私の頭をミクは優しく撫でて褒めてくれた。
「ちょめちょめ」 (これでミッションは終了ね。霊樹を見つけられなかったのは残念だったけど)
「神様がいるならきっと私達を受け入れてくれるはずよ。次は大丈夫だよ、きっと」
「ちょめちょめ」 (ミクはどこまでも純粋なのね。ちょっと羨ましいわ)
曇りひとつ見かけないミクの純粋な瞳を羨ましく感じる。
こんな風に疑うことなく信じられるなんてあまりないことだ。
私の場合は”ななブー”を応援している時だけは純粋になれる。
ただ、”ななブー”がトップ声優アイドルになるのを待ち望んでいるだけだ。
そのためには”ななブー”グッズを買い漁ってポイントを稼いでいるけれど。
それもこれも”ななブー”に対する純粋な愛情なのだ。
「それじゃあ、もう遅いから寝よう」
「ちょめちょめ」 (そうね。夜更かしはお肌の大敵だからね)
不意に時計の針を見ると深夜の0時を指していた。
出発してから3時間も精霊の森を彷徨っていたことになる。
その成果が霊樹のある広場を見つけただけだなんて割に合わない。
実際に霊樹はなかったし、たまごおやじ達も見つけられなかったのだ。
おぼこぼさまなんて言ったら何日、精霊の森を歩き回ればいいのかわからない。
私はひとりそんなことを考えながら佇んでいるとミクが呼んだ。
「ちょめ太郎。そんなところで寝ると風邪を引くよ」
「ちょめ」 (待って。私もそっちで寝る)
私がベッドで横になっているミクにダイブしようとすると隣から物音がした。
コツコツ。コツコツ。
「ちょめ?」 (何の音?)
「ルイだよ。ルイが私のことを呼んでいるんだよ」
「ちょめ」 (こんな夜更けに?)
「私、ちょっと行って来る。ちょめ太郎はここで待っていて」
そう言ってミクはベッドから抜け出して部屋の扉を開ける。
そして隣の部屋に前まで行くと静かに扉を開けてルイの部屋に入って行った。
私はつぶさに壁にすり寄って耳をつけて隣の音を聴く。
すると、ミクとルイの話し声が壁を伝って聞えて来た。
「こんな時間にどうしたの?眠れないの?」
「お姉ちゃん。どこへ行っていたの?」
「ど、どこって。ずっとお部屋にいたよ」
「嘘よ。ルイ、見たんだよ。お姉ちゃんがちょめ太郎と部屋を出て行くのを」
ミクは全てルイに見られていたことに気づいて気まずい顔を浮かべる。
だけど、誤解されるといやなので何もしていないと誤魔化した。
「ルイ。夢を見ていたんじゃない?私とちょめ太郎はずっとお部屋にいたんだから」
「お姉ちゃんって大嘘つきだね。ルイにも話せないことなの」
「うーん。そう言う訳じゃないけど……」
「なら話してよ。ルイにだって聞く権利はある」
全くルイは引き下がろうとしないので逆にミクの方が折れてしまった。
ここで嘘をつき通してもルイは納得してくれないから無駄に終わってしまう。
それならば正直に話してルイを納得させた方がいいと考えたのだ。
「わかったわ。教えてあげる。その代りパパとママには内緒よ」
「うん、わかった。約束するよ」
ミクの方から歩み寄るとルイは受け入れてくれて約束までしてくれた。
もし、私と二人で夜中に家を抜け出したことがバレればお咎めを食らう。
とりわけ娘想いのミクのパパに知られたら一大事だ。
外出禁止になってしまうかもしれない。
「私とちょめ太郎はおぼこぼさまを探しに精霊の森へ行ったのよ」
「おぼこぼさまって何でも願いごとを叶えてくれる精霊だね。どこにいるの?」
ルイもおばあちゃんからおぼこぼさまの話を聞いているので驚かない。
ただ、ミクが聞いた話よりも、少しだけ簡単にしたストーリーになっている。
ミクのおばあちゃんはルイがおぼこぼさまに夢中にならないようにしたのだ。
その頃は既にルイの病気は発覚していたから余計に慎重になったのだろう。
「はっきりとした場所はわからないわ。だけど、ちょめ太郎が知っているの」
「ちょめ太郎はおぼこぼさまと会ったことがあるの?」
「そうじゃなくて、夢で見たのよ。おぼこぼさまが現れる霊樹の森へ行ったの」
「ちょめ太郎って予知能力者なの?すご~い」
壁の向こう側でルイの驚きの声を聴きながら私はひとり悦に浸る。
一度しか会ったことがないのに私のことを能力者だと認めてくれるなんてルイだけだ。
「だけど、夢の記憶は断片的にしか残っていなかったからおぼこぼさまは見つけられなかったの」
「な~んだ。せっかく期待していたのに」
返す言葉が見つからない。
ルイの期待を裏切るのは心外だが仕方ないのだ。
夢なんてあやふやであいまいなものだから完璧じゃない。
いくらリアルでもどこかどこか違っていることが多いのだ。
私の場合はパズルのように記憶が抜け落ちているからなおのこと難しい。
この記憶の中の景色を完成させるにはただならない努力が必要だ。
「でも、代わりに霊樹のある広場に辿り着けたわ」
「霊樹!どんな樹だったの?」
「残念だけど霊樹はなかったわ」
「えー、そこまで行ったのに」
ミクが正直に答えるとルイは驚きの声をあげて残念がった。
それは無理もないリアクションだ。
おぼこぼさまを探しに精霊の森へ行ったのに何も見つけられなかったのだから。
しかも、夜に家をこっそり抜け出したのにも関わらずだ。
正直、何のために精霊の森へ行ったのかわからない。
「私たちだって頑張って探したんだよ」
「でも、見つけられないのなら何もしなかったのと同じだよ」
ルイはツッコんだ言葉を言い放つ。
ルイの言う通り私とミクは何もできなかったのだ。
ルイのためだと思って行動したけど結果は伴わなかった。
だから、ルイから責められても何も言い返せないのだ。
「ごめんね。ルイ」
「何でお姉ちゃんが謝るの?ルイのためにしてくれたことなの?」
「うん……それはね……いや、何でもない」
「お姉ちゃんは自分願いを叶えたくておぼこぼさまを探しに行ったんでしょ?」
「……そうかな」
ミクは返事に困って曖昧な言葉を吐いた。
それはルイに余計な心配をかけさせないためだろう。
自分のためにミクや私が危険を冒しただなんて知ったらたまったものじゃない。
なんで、そんな危険を冒すのか責められたことだろう。
ミクはルイがそう考えるとわかったから誤魔化したのだ。
「お姉ちゃんの願いって何?」
「うーん。私は……」
「やっぱ学校へ行くことだよね。お姉ちゃん勉強熱心だから学校へ行きたいんでしょ」
「別に学校なんて行きたくないよ。私はルイの傍にいることの方が大切なの」
ミクがはっきり気持ちをルイに伝えるとルイは悲し気な顔を浮かべた。
「お姉ちゃんは自分に嘘をついているね。ルイのことを思っているのは本当だと思うけど学校へ行きたいのも本当だよね。ルイはお姉ちゃんの妹だよ。お姉ちゃんの考えていることなんてわかってる」
「ルイ……」
そんなルイの強い言葉が聞えて来ただけだった。
しばらくすると部屋の扉が空いてミクが項垂れながら入って来た。
そして私に何も言わずにベッドに潜り込むとそのまま眠ってしまった。