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第二十四話 熱狂的なファン

目的の喫茶店は大通りから外れた裏路地にあった。

隠れ家的な場所にあるが外観はけっこうお洒落だ。

喫茶店の中は純喫茶を思わせるようなレトロな雰囲気が漂っていた。


「うわぁ~。お洒落~」

「ちょめ」 (昭和を思わせるようだわ。エモい)


私とルイミンは内観に見とれながら窓際の席に着く。

あまりに外の雰囲気とは違っているので時が止まったかのような感覚に陥る。


ルイミンはメニューをテーブルの上に広げた。


「どれにする?」

「ちょめ」 (意外とメニューは豊富なのね)


見開きのページにあったのはチョコレートケーキとドリンクセット。

店のお薦めなのか大々的に宣伝をしている。

その下にあったのは単品の商品のメニューだ。

ケーキからパフェまで純喫茶の商品をカバーしている。

ドリンクはコーヒーからメロンソーダまであった。


「チョコレートケーキとドリンクの単品にするかセットメニューにするかだね」

「ちょめ……」 (単品だとちょっとドリンクが固定されちゃうわね)


チョコレートケーキの単品が銀貨7枚。

コーヒーの単品が銀貨3枚だ。

だから単品で頼めばチョコレートケーキが銀貨7枚×2個。

それにコーヒーが銀貨3枚×2個の合わせて銀貨20枚だ。


だけどセットなら銀貨10枚でチョコレートケーキとドリンクがついて来る。

ドリンクは選びたい放題だからセットニューの方がお得感がある。


「やっぱ、セットメニューかな。好きなドリンクを選べるし」

「ちょめ」 (それがいいわ。お得感がある方がいいよ)


すると、喫茶店の店員がお盆に水を乗せて注文を取りに来た。


「お決まりでしょうか?」

「このチョコレートケーキのセットを2つお願いします」

「チョコレートケーキのセットを2つですね。ドリンクは何になさりますか?」

「私はメロンソーダ。ちょめ助は?」

「ちょめ」 (私も同じでいいわ)


言葉が通じないので私はメニューのメロンソーダのところにお尻を向ける。

店員はわけもわからずに戸惑っていたがルイミンが察して注文を伝えた。


「ちょめ助も同じでお願いします」

「それでは注文を繰り返します。チョコレートケーキのセットを2つ。ドリンクはメロンソーダを2つですね」

「それでお願いします」

「かしこまりました」


注文を復唱すると店員はテーブルから離れてカウンターへ向かった。


「ふぅ~。楽しみだね」

「ちょめ」 (楽しみ、楽しみ)


ルイミンはグラスの水を飲んでほっと息をつく。

私も同じようにグラスの水を飲もうとしたがグラスを持てないので水が飲めない。

どうしようか戸惑っているとルイミンが気をきかせてストローを差してくれた。


「これで飲めるでしょう」

「ちょめ」 (ありがと)


水はキンキンに冷えていて体の熱を冷ましてくれる。

ただの水なんだけど喉が渇いていたので美味しかった。


「この喫茶店の情報は学院の友達から教えてもらったのよ。今、私達の間では放課後に買い食いするのが流行っているから」

「ちょめ」 (異世界でも考えることは同じなのね。学校帰りに買い食いするのは学生のあるあるだわ)


私も日本にいた時は学校帰りにお店に寄って女子会をしていたわ。

同じオタクグループの友達と”アニ☆プラ”談義をするのが定番だったから。


「基本、放課後は部活動をするのだけど部活動の合間を縫ってお店に来るのが楽しみなの。別に部活動をサボっている訳じゃないけどね」

「ちょめちょめ」 (部活か……私は帰宅部だったから青春をして来なかったな。その代り”アニ☆プラ”にはどっぷりハマっていたけどね)


ある意味、オタク達にとっては推し活が部活なのだ。

学校から決められたものじゃないけど青春を捧げている。

こっちの世界のように日本にも推し活部があったら私は絶対に入部していただろう。


「ちょめ助も青春してる?」

「ちょめちょめ」 (私は青春を満喫している場合じゃないわ。ちょめジイから”カワイ子ちゃんの生ぱんつを100枚”集めろと言われているから)


今の私は”カワイ子ちゃんの生ぱんつを100枚集める”ことが青春なのかもしれない。

自分で望んだことじゃないけど、目的を果たせば元の姿に戻れるから。


「ちょめ助も何かハマっていることがあるのね」


ルイミンは私の様子から何を言いたいのか察してくれる。

言葉は通じないけど想いは伝わるようだ。


すると、店員がチョコレートケーキとメロンソーダを運んで来た。


「お待たせしました。チョコレートケーキとメロンソーダのセットです」

「うわぁ~。美味しそう」

「ちょめ」 (本当。見ているだけでよだれが出て来るわ)


私もルイミンも目の前に置かれたチョコレートケーキに釘付けになってしまう。

チョコレートケーキは四角くて、チョコレートチップが周りに塗してある。

スポンジ、チョコレートムース、生チョコを細かくしたのが何層にも重なっていた。

ホークをチョコレートケーキに入れると豆腐が切れるようにすっと切り分けられる。


「いただきま~す」


ルイミンは切り分けたチョコレートケーキを口の中に運ぶ。

そして目をトロけさせながら幸せそうな笑みを浮かべた。


「めちゃ美味しい。口の中でふわっと溶けて行って後からカカオの苦みがやって来るの。食感も美味しいし最高だわ」

「ちょめ」 (なら、私もいただくわ)


私はテレキネシスを使ってチョコレートケーキを宙に浮かべる。

そのまま口の中に放り込んでチョコレートケーキを咀嚼した。

一口で食べるなんてちょっとはしたなかったけど美味しい。

口の温度でチョコレートが溶けて行って口いっぱいに広がる。

何層にも重なっているから溶ける度に別の美味しさがやって来る。

こんな美味しいチョコレートケーキは食べたことがない。


「どう?美味しいでしょう」

「ちょめ」 (もう、最高。いいお店を紹介してくれてありがと)


ほっぺが零れ落ちるのはこう言うことなのだろう。

あまりの美味しさにやられてチョコレートケーキに魅了されている。

これなら何個でも食べられそうだ。


「ちょめ助が喜んでくれてよかった」


ルイミンも幸せそうな顔を浮かべながら微笑んだ。


「ちょめ」 (お礼を言いたいのはこっちの方よ)

「これもちょめ助がおこづかいを稼いでくれたおかげだね」

「ちょめ」 (まあ、それは否定しないけどね)


私はルイミンに褒められて得意気になる。

何せ私のSHOWで銀貨20枚も稼いだのだから。

芸を磨けばもっと稼げるはずだ。


「ところで話は変わるけどさ。ちょめ助はリリナちゃんのことを知りたい?」

「ちょめ」 (別にそれほど知りたくないかな)

「やっぱり知りたいんだね。だって、ちょめ助もリリナちゃんのファンだもんね」

「ちょめ」 (ちょっと、勝手に話を進めないでよ)


言葉が通じないのでルイミンは勝手な解釈をする。

と言うか、リリナのことについて話したがっているようだ。


「リリナちゃんは毎朝、8時30分に学院に登校するの。学院指定のカバンがあるんだけど、リリナちゃんはリュック派なんだ。別にカバンでもリュックでもどっちでもいいんだけどね」

「ちょめ」 (私もリュック派だったな。リュックだと両手が空くから便利なのよね)

「ちなみに私ははじめはカバン派だったのだけどリリナちゃんを真似してリュック派にしてるのよ」

「ちょめ」 (わかるわ、その気持ち。推しと同じにしたいのよね)


”ななブー”は学生じゃなかったからカバン派とかリュック派とかなかった。

だから私は”ななブー”のファッションを真似ていたわ。

”ななブー”になりたい訳じゃないけど同じものを身に着けていると幸せになれるから。

ルイミンも私と同じ気持ちなのだろう。


「リリナちゃんの特徴はピンク色の髪のツインテールでしょ。だけどね、毎週金曜日はお団子にするのよ。それがよりリリナちゃんのカワイらしさを増幅していて、とてもキュートなの」

「ちょめ」 (確かに。リリナのキャラからしたらだいぶカワイらしさが増すわね)

「だから、私も毎週金曜日はお団子にしたかったのだけど、私はショートだからできないのよ。グスン」

「ちょめ」 (でもいいんじゃない。ルイミンも今のヘアースタイル似合ってるし)


ルイミンは髪をいじりながら悲しそうな顔を浮かべる。

私が慰めの言葉を向けるとルイミンは何かを察して気持ちを切り替えた。


「今度からウィッグにしようかな。そしたらリリナちゃんといっしょになれるし」

「ちょめ」 (そこまでしなくてもいいんじゃない。リリナがふたりいたら気持ち悪いわよ)


ルイミンの気持ちはわかるけどやり過ぎだ。

コスプレじゃないんだから今の自分のままでいいのだ。

まあ、でも推しみたいになりたいって気持ちはわかるけどね。

私がどう背伸びしても”ななブー”にはなれないけれど少しでも近づきたいからね。


「そうそう。実はねリリナちゃんって部類のタコさん好きなの」

「ちょめ?」 (タコさんって?)

「リュックに着けているのもタコさんだし、髪留めもタコさんだし、お弁当には毎回、タコさウインナーが入っているのよ」

「ちょめ……」 (それは……)


リリナとタコさんの組み合わせも意外だ。

何を好きになってもいいけどギャップがあり過ぎる。

リリナみたいなタイプだったらコネコとかハムスターとかが似合う。

小柄だから小動物的だし、物静かだから大人しい動物が合うのだ。


すると、ルイミンが身を乗り出してリュックをテーブルの上に乗せた。


「だから、私もタコさんストラップつけているの。いいでしょう。リリナちゃんとおそろよ」

「ちょめ」 (それはよかったね)

「ちょめ助も気に入ったら同じのを買って来てあげるわよ」

「ちょめ」 (私はいいわよ……私は”ななブー”推しだから)


ルイミンは得意気な顔をしながら自慢していた。

確かに入りはストラップからの方がいいかもね。

私も”ななブー”を推していたからコブタグッズを集めていた。

ストラップもぬいぐるみもスマホケースもコブタ仕様だった。

だから、私の部屋はピンク色に染まっていたの。


「リリナちゃんてアイドルしている時も控え目だけどクラスにいる時も同じなの」

「ちょめ」 (よくキャラを変えるパターンの人が多いけどリリナは同じなのね)

「クラスにいる時はいつもひとりなの。だけど、イジメられているって訳じゃないのよ。リリナちゃん静かにしていることが好きだから」

「ちょめ」 (陰キャタイプなのかしら)


まあ、アイドルをやっているのだからちょっとぐらいミステリアスの方がいい。

ルイミンのようにベラベラ喋るタイプだとキャラが煩いだけだから。

そんなのはおばさんになってからすればいいことだ。


「だからなのかリリナちゃん、魔法はクラスでトップレベルなの。魔法学が得意で風の魔法と土の魔法を覚えているの」

「ちょめ!」 (魔法!もっと話を聞かせて)

「普通は魔法を覚えるときは1つに絞るものなの。とりわけ魔法学が難しいから一度に2つも覚えられないものなのよ」

「ちょめ」 (魔法学……興味をそそるワードね)

「私は魔法が苦手だから水の魔法しか覚えてないんだ」

「ちょめ」 (魔法が使えるのね。見せてよ、見せてよ)


ルイミンの口から零れる魔法と言うワードに私は目を輝かせる。

この世界へ来てから魔法なんて見たことがないから興味があるのだ。


「見てみたい?」

「ちょめ」 (見たい見たい)


すると、ルイミンは手を広げてテーブルの上に乗せる。

そしてブツブツと呪文を呟くと青色の魔法陣が浮かび上がる。

それから魔力を注いで行くとピンポン玉サイズの水の玉が現れた。


「これが魔法よ」

「ちょめ!」 (すごい!これが魔法なのね。なんて神秘的なの)


ルイミンが魔力を切ると魔法陣と水の玉は一瞬でなくなった。


「まあ、こんなのは初歩の初歩なんだけどね」

「ちょめ」 (それでもすごいわ。私のテレキネシスや擬態以上だわ)


どうせなら私も魔法を覚えてみたかった。

その方が異世界へ来た感じがするから。

あとでちょめジイに頼んで魔法を使えるようにしてもらおう。


「リリナちゃんなんて私以上の魔法を使えるの。たとえモンスターに襲われてもやっつけちゃうわ」

「ちょめ」 (それも見てみたい。実際に魔法でモンスターを倒すところを)

「魔法の使えるアイドルなんてカッコイイよね」

「ちょめ」 (うんうん)


日本のアイドルには絶対に真似できないスタイルだわ。

やっぱりこれからは”異世界アイドル”が世界を席巻するかもしれない。


「でもね、リリナちゃんがアイドル部に入ったきっかけはアイドル部の先輩にスカウトされたからなの」

「ちょめ」 (まあ、リリナくらいにカワイ子ちゃんならスカウトもされるわよ)

「私もリリナちゃんとはじめて会った時にアイドル部を薦めたんだけど、その時は入らなかったのよね。何だかしてやられたって感じ」

「ちょめ……」 (それは仕方ない気もするけど……)


誰だってはじめて会った人に何かお薦めされても断るものだ。

会ったばかりの人だから信用できないし。

もし、変なものでもつかまされた日には泣きたくなるからね。



「でも、今ではリリナちゃんはアイドル部の期待の星なの。他のアイドル部のメンバーが悔しがるほど人気があるのよ」

「ちょめ」 (でしょうね。はじめて会った私もやられそうになったぐらいだから)


リリナの魅力ははなまるをつけていいほど本物だわ。

”ななブー”ほどじゃないけど、それに次ぐぐらい魅力がある。

今はまだ初心でぎこちないけどダイヤの原石だわ。


「ちょめ助もリリナちゃんのことを好きになった?」

「ちょめ」 (好きになったよ。ルイミンはいろいろと知っているのね)


私の満足そうな顔を見てルイミンは機嫌をよくする。


「なら、もっとマニアックなことを教えてあげる」

「ちょめ……」 (何よ、それ……)

「リリナちゃんは毎日、トイレに3回行くのよ」

「ちょめっ!」 (炎天下の中で道路を行き交う車の数を数えている道路交通量調査員かい!)


心の中でどこかで聞いたことのあるクセのあるツッコミを言ってみる。


トイレに行く回数なんて人それぞれじゃない。

そんなことを調べてどうするつもりよ。

ルイミンはトイレの番人なの?


「いつも決まって5分ですませるの。タイパいいでしょ」

「ちょめっ!」 (サッカーのコートの外で試合の経過時間を計っているタイムキーパーかい!)


確かに女子のトイレは長いものだ。

中々出ないので葛藤している訳じゃない。

ほとんど友達とのおしゃべりタイムだ。

おしゃべりなんて教室でもできるけどトイレでしかできないおしゃべりもあるからだ。

話題はいろいろとあるがここでは言わないでおこう。

ミステリアスさを残しておいた方が女子の魅力がアップするから。


「お風呂はシャワーですませることが多いのよ」

「ちょめっ!」 (あぶな○刑事の撮影に行く前の舘○ろしかい!)


ルイミンがしょうもないことを言うので再びクセのあるツッコミの台詞を吐いていた。


お風呂なんて人の好き好きじゃない。

忙しければシャワーだけですませるし、時間があれば湯船に浸かるものよ。

リリナは毎日、部活をして宿題もしているから時間がないのよ。


「体を洗う時はおへそから洗うのよ」

「ちょめっ!」 (密室で客をベッドに寝かせて気持ちいいマッサージをしてくれるエステティシャンかい!)


あまりにマニアックなことを話すので私は三度、クセのあるツッコミの台詞を吐いていた。


リリナが体を洗う時にどこから洗うことを知っているなんて、お風呂でも覗いたのだろうか。

ルイミンならやりそうだから逆に怖いわ。

他にどんなことを知っているのだろう。


「どう、すごいでしょう」

「ちょめちょめ」 (すごいと言うかルイミンの変態ぶりがわかったわ。ストーカー以上のストーカーね)

「そんなに褒めないでよ」

「ちょめ!」 (褒めてなんかないわい!)


ルイミンがわかりやすいフリをするのでつぶさにツッコミを入れた。


きっと学院では四六時中リリナをストーキングしているのだろう。

おまけに同じ女子寮だからルイミンのしたい放題だ。

ある意味、リリナは籠の中の小鳥だわ。

リリナ……かわいそう。


「だけど、これだけじゃないのよ。ちょめ助には特別にとっておきの秘密を教えてあげる」

「ちょめ……」 (どうせまたしょうもないことでしょ……)

「リリナちゃんのおへその横に小さなほくろがあるのよ」

「ちょめっ!」 (高い金を出して体をキレイにしてくれる韓国の整形外科かい!)


わかっていはいたが私はどこかで聞いたことのあるクセのあるツッコミを呟いた。


リリナの裸を見なければわからないことだ。

お風呂を覗いた程度ではわからない。

リリナに薬を飲ませて襲ったのかもしれない。

ルイミンならやりそうだから怖い。


「ちょめ……」 (ルイミンと友達になるのは止めておいた方がいいかも……)

「想い出しただけでよだれが出て来たわ……ズルルル」


冷めている私の前でルイミンはだらしのない顔をしながらよだれを垂らす。


「ちょめ……」 (やっぱりルイミンはヤバい子なのね……)

「あーん。リリナちゃんの全てが欲しいー!」


それはストーカーの言う台詞よ。

ルイミンは越えてはならない壁を乗り越えてしまったようだ。

ルイミンが人であるうちにお祓いをした方がいいかもしれない。

ほおっておけば変態モンスターになってしまうだろう。


「ちょめ助。わかるでしょう、この気持ち」


そりゃあ、私だって”ななブーに踏みつけにされたい”って思ったことはあるけど……。

そりゃあ、私だって”ななブーを独り占めにしたい”って思ったことはあるけど……。

そりゃあ、私だって”ななブーと同じぱんつを履きたい”って思ったことはあるけど……。


……ん?


「ちょめっ!」 (って、ルイミンと同じかい!)


思わずひとりでノリツッコミをしてしまう。


所詮、私もルイミンと同じ穴のムジナなのかもしれない。

私が”ななブー”に夢中になっているようにルイミンもリリナに夢中になっているだけだ。

悲しいけどこれが現実なのね……グスン。


「ちょめ助ならわかってくれると思った。だって、同じ匂いがしたもん」

「……」 (……)


返す言葉が見つからない。


「今度はリリナちゃんといっしょに来ようね」

「ちょめ……」 (ちょっとイヤだな……)


私が答えに迷っているとルイミンが顔を近づけて来る。


「だよねだよね。やっぱり行きたいよね。だって、あのリリナちゃんとお茶できるんだもんね」

「ちょめ」 (ちょっと、勝手に話を進めないでよ)


すると、ルイミンは勝手に納得して手を叩いて喜び出す。


「よかった。ちょめ助ならOKしてくれると思っていたよ」

「ちょめ」 (私はまだOKしてないわよ)


いつの間にか私は次の約束をさせられていた。


「じゃあ、帰ろうか」

「ちょめ」 (ちょっと)

「私、お会計をすませて来るね。ちょめ助は先に行っていて」


とりあえず精算をルイミンに任せて私は喫茶店の外に出る。

その後を追い駆けるようにルイミンも外に出て来た。


「じゃあ、私、こっちだから。またね」

「ちょめ」 (バイバイ)


ルイミンの背中を見送っているとルイミンが引き返してきた。


「そうそう。これ、私の連絡先。何か用があったらここへ来てね」

「ちょめ?」 (ここってどこよ?)

「街の人に聞けばわかるわ。じゃあね」


ルイミンが差し出して来た連絡先には女子寮の住所が書いてあった。

この世界にはスマホがないから連絡先は電話番号じゃないようだ。

それにしても女子寮の住所を渡して来るなんて何を考えているのか。

そんなにも勝手に部外者が中に入れるとは思わない。

何せ女子寮なんだから警備が厳重そうだ。


「……ちょめ」 (……ありがと)


とりあえず心の中でお礼を言った。


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