第二十二話 異文化流入
私の目の前にいたのは地下アイドルだった。
異世界風の衣装を纏い、ピンク色のツインテールを靡かせている。
身長は150センチほどで小柄な如何にもキュートな女の子だった。
「ちょめ……」 (この世界にもアイドルがいるなんて……キャハッ)
私は正真正銘の”ななブー”推しのファンだから浮気はしない。
だけど、この子はアイドル級のカワイ子ちゃんなのだ。
「リリナちゃーん、こっちを向いて」
「こっちにも笑顔をちょうだーい」
周りにいるファン達はリリナにひっきりなしに注文を出している。
その要求に素直に応えながらリリナはファンサービスをしていた。
「ちょめ」 (あの子、リリナって言うのね。アイドルっぽい名前だわ)
私は目の前でファンサービスをしているリリナに釘付けになる。
アイドルなんだけどアイドルっぽさを感じないと言うか。
どことなく素人っぽさがあって経験が浅そうな感じもする。
でも、笑顔は反則的なほどキュートなのよね。
「ちょめ」 (この子は今までに見たことがないタイプのアイドルだわ)
日本にいるアイドルはゴリゴリ系のアイドルが多いからみんな前に出ようとして来る。
顔を売るためならなんでもアリで嘘のプロフィールを作ったりもする。
テレビに出ても爪跡を残そうとして突拍子もない発言をしたり、笑いを誘うリアクションをしたりするのだ。
そんなアイドルばかりを見慣れて来たせいか、リリナに新鮮さを感じる。
「ちょめ」 (だけど、”ななブー”ほどではないわ)
”ななブー”は声優アイドルだから基本、露出が少ない。
テレビにも出ないし、ネットに動画をアップしないから触れる機会が少ない。
それがファン達の関心を浚っているからビジネスモデルとしては正解だ。
ときたまSNSに上げられるコメントや写真を見るのが唯一の楽しみ。
それ以外で”ななブー”に会いたいと思ったらライブに行くか握手会に行くかだ。
まあ、出演したアニメの制作発表会にも出るし、イベントあるからチャンスは多い。
”ななブー”推しのファンとしてはそれだけでは満足できないのも否めない。
実際に”ななブー”を目の前に喋って欲しい台詞を言ってもらいたいのが本音だ。
「ちょめ」 (会いに行けるアイドルなんてのが流行ったけど、今はもう流行らない)
これからの時代は”異世界アイドル”が来るかもしれない。
「ちょめ」 (何だか私もリリナのファンになってしまいそうだわ)
「でしょでしょ。リリナちゃん最高でしょ」
私がリリナに見惚れていると隣にいた少女が声を掛けて来た。
水色のショートカットヘアにどこかの学校の制服を着ている。
目をランランと輝かせながらやたらとテンションが高い。
「ちょめ」 (あなた誰よ。いきなり話しかけて来ないで)
「やっぱわかる人にはわかるのよね。リリナちゃんクラスのアイドルなんて他にいないからね」
「ちょめ」 (それは認めるけど、なんでそんなにテンションが高いのよ)
「見るからにファン歴浅いでしょ?私なんてリリナちゃんがアイドルをやる前からファンだから」
自慢したいのか私に褒めてもらいたいのか水色の髪の少女はベラベラと話しかけて来る。
勢いだけ見るとイケメンにがっついているおばさんレベルだ。
私と熱量が違い過ぎて逆に覚めてしまう。
「ちょめ」 (もう、わかったからあっちへ行ってよ)
「いいこと教えてあげる。私とリリナちゃんは同じ学校なのよ。どう、すごいでしょう」
「ちょめ」 (自慢するようなことじゃないわよ。年が近いんだしい同じ学校へ通っていてもおかしくないわ)
日本でも芸能人が通う学校なんてものもあったから同じ学校でも不思議でない。
アイドルなんてとかく忙しいから普通の学校では対応できないのだ。
それはこの世界でも同じなのかまではわからないけど。
「羨ましい?やっぱそうよね。あのリリナちゃんと同じ学校だなんて自慢でしかないわ」
「ちょめ」 (はいはい。わかったわよ)
「学年は1つ違うんだけど教室はけっこう近いのよ。私の斜め下がリリナちゃんの教室なの」
「ちょめ」 (へぇ~。すごいすごい)
あまりに水色の髪の少女が煩いので私はすっかり覚めてしまう。
憧れのアイドルを目の前にしてテンションが上がるのはわかるけどこっちの迷惑も考えて欲しいものだわ。
他人の自慢話を聞くほどつまらないものはないからね。
「ねぇ、あなた。名前はなんて言うの?」
「ちょめ」 (マコよ)
「ちょめ助ね。私はルイミン。よろしくね」
「ちょめっ!」 (ちょっと、変な名前つけないでよ!私はマコちゃんなの。ちょめ助じゃないわ)
”ちょめ”と喋るから”ちょめ助”なんてつけたのだろうけどセンスを疑うわ。
もっと私のことを知ってから名前を付けてもいいはずなのに。
その辺の加減が中坊ね。
「ちょめ助って、いつからリリナちゃんを応援しているの?」
「ちょめ」 (今日、はじめて会ったばかりよ)
「その感じだとまだ日が浅いようね」
「ちょめ」 (だから、そう言っているじゃない)
「私なんてね、リリナちゃんがアイドルをする前からファンなのよ」
「ちょめ……?」 (アイドルをする前からファンて……?)
ちょっと怪し気だわ。
ルイミンも顔もイッっちゃっているし。
もしかしてストーカー?
「リリナちゃんとはじめて会ったのは1年前の春。セントヴィルテール女学院にリリナちゃんが入学して来た時に出会ったの。はじめて見た瞬間にビビっと来たわ。この子はトップアイドルになると」
「ちょめ?」 (ルイミンは芸能事務所に雇われたスカウトマンなの?)
「あっ、ちょめ助は知らなかったよね。セントヴィルテール女学院は私が通っている学院なの。12歳から入学資格があって18歳で卒業するの。中等部と高等部からなっていて貴族から庶民までいろんな人達が通っているのよ」
「ちょめ~」 (へぇ~)
日本で言う中高一貫の学校と同じね。
入試をやらないで進級できるのはありがたい。
ただ、他の学校を選べないのは問題アリだけどね。
イジメられっ子になっているとずっとイジメられ続けるから。
「まあ、ちょめ助には関係ないだろうけどね」
「ちょめ」 (悪かったわね。こんな姿をしていなければ私も通っていたわ)
こんな姿になってしまったから私の株は値下がり傾向だ。
本来であったら誰もが羨むうような美少女だったのだけど。
早く”カワイ子ちゃんの生ぱんつを100枚”集めて元の姿に戻りたいわ。
「あっ、リリナちゃんのパフォーマンスがはじまるわ」
「ちょめ?」 (パフォーマンスって何よ?)
ルイミンが話を止めて前を見るのでその視線の先を見つめる。
すると、リリナがバイオリンケースからバイオリンを取り出していた。
「ちょめ」 (もしかしてここであのバイオリンを弾くわけ)
「そうよ。リリナちゃんの特技なのよ」
「ちょめ……」 (怪しいわ……)
どうせアイドルの特技って言っても肩書だけの場合が多い。
ちょっとバイオリンをかじっただけで特技にしてしまうからだ。
恐らくリリナもその程度のレベルなのだろう。
「聴いてください。”G線上のアリア”」
えっ?それってバッハの曲じゃ……。
そんなツッコみを入れようとする前に曲がはじまった。
その音色は神聖で荘厳な調べを奏でている。
リリナの見た目からは想像できないぐらいすごい。
深みがあると言うか、心が洗われると言うか。
さっきまでリリナの特技を馬鹿にしていた自分が恥ずかしくなる。
「どう?すごいでしょう」
「ちょめ」 (うんうん。本当にすごいわ)
このレベルならコンサートホールで演奏できるわ。
アイドルとのギャップがファン達にウケているのね。
恐るべし”異世界アイドル”。
「リリナちゃんのバイオリンを聴いていると魂が浄化されるのよね」
「ちょめ」 (わかる気はするけどルイミンの魂はそんなにも汚れているの)
「目を閉じれば瞼の裏に情景が思い浮かぶようだわ」
「ちょめ」 (それにしたって何でこの世界の人間がバッハの”G線上のアリア”を知っているのよ)
もしかして、これもちょめジイのせい?
あり得ない話でもないわ。
やたらと日本の文化を楽しんでいるようだからクラッシック音楽も召喚したのね。
アニメでこの曲が使われたことがあるからそこから知ったんだわ、きっと。
ルイミンはすっかりリリナの演奏に聴き入っている。
辺りを見回してもファン達も目を閉じて同じようにしていた。
まるでここがコンサートホールにでもなったかのようだ。
そしてリリナが最後まで演奏をすると割れんばかりの拍手が沸き起こる。
ファン達の周りには一般の人達も集まっていて感動の涙を零していた。
すると、リリナの足元に置いてあったバイオリンケースに硬貨が投げ入れられる。
それはひとりだけではなく周りにいたファンをはじめ一般人も同じだった。
「あのお金がリリナちゃんの活動資金になるのよ」
「ちょめ」 (日本で言う投げ銭のリアル番ってところね)
投げ銭がいつからはじまったのかわからないが古くからある。
イメージするのは映画に出て来る貧乏人に投げ銭をする光景だろう。
それはお恵みという観点からする行為だが、願いを託す行為もある。
それが日本のお賽銭やトレビの泉だ。
お金に願を掛けて投じることで願いが叶うように神様にお願いするのだ。
「ちょめ助もリリナちゃんに投げ銭しないとダメだよ」
「ちょめ」 (私、お金持ってないもん)
「私は奮発して銀貨2枚投げるわ」
「ちょめ」 (銀貨2枚なんて大したことないじゃん)
ルイミンは財布から銀貨2枚を取り出すとバイオリンケースに放り投げた。
もう、すっかりバイオリンケースには投げ銭されたコインが並々とある。
銅貨や銀貨が多いが、中には金貨も数枚あった。
「ちょめ助、もしかしてお金を持ってないの?」
「ちょめ」 (悪い)
「仕方ないわ。私が代わりに投げ銭しておいてあげる」
「ちょめ」 (ありがとう)
ルイミンは財布から銅貨を3枚取り出すとバイオリンケースに投げ込んだ。
何で私の時だけ銅貨に格下げされたのかはわからないが聞かないでおこう。
「さあ、これでリリナちゃんの路上ライブは終わりよ」
「ちょめ?」 (歌は?まだ何も歌ってないじゃん)
「まだ、欲しいの?ちょめ助も好きね。なら、最後まで残っていよう」
「ちょめ」 (何を考えているのよ。みんな帰って行くわよ)
リリナを目当てに集まったファン達はぞろぞろと帰って行く。
また次の路上ライブを楽しみにして出直すみたいだ。
ただ、ちらほらその場を動かずに余韻に浸っているファンもいる。
確かにあの”G線上のアリア”を聴けばわかるけどね。
リリナはと言うとバイオリンケースに集まったお金を袋に移し代えている。
たんまりと稼いだから袋がいっぱいになっていた。
そしてバイオリンを片づけると荷物をまとめて台車に乗せる。
「終わったみたい。来て、ちょめ助」
「ちょめ」 (何をするのよ)
ルイミンは私について来るように促すとリリナのところへやって来る。
「リリナちゃん、今日の路上ライブ最高でした!特に”G線上のアリア”は感動しました!また、聴かせてください!」
「あ、ありがとう」
「いやん。リリナちゃんからお礼を言われちゃったわ」
「ちょめ」 (今のルイミンを見ていると”ななブー”に夢中になっている私と重なるわ)
ルイミンから見たリリナは私から見た”ななブー”なのね。
ルイミンの気持ちが痛いほどわかるわ。
私も”ななブー”とはじめてお喋りした時は感激したな。
”ななブー”は私の名前を呼んでくれて握手までしてくれた。
だから、その日はお風呂に入らないで手に包帯を巻いて寝たっけ。
懐かしいな……。
「私ルイミンて言うの。こっちはちょめ助」
「ちょめ助?」
「ちょめ」 (いやーん。ルイミン、そんな恥ずかしい名前で紹介しないでよ。ちょめ助になっちゃうじゃない)
リリナは私を目に止めるとじーっと見つめて来る。
まるで私をはじめてみたかのようなリアクションだ。
まあ、ちょめ虫はそこいらにはいないから無理もないけど。
「リリナちゃん、ちょめ助を気に入った?」
「うん」
「なら、友達になってください」
「いいよ」
「本当!やったー!」
「ちょめ」 (何でルイミンが喜んでいるのよ)
ルイミンはどさくさに紛れてリリナの手を握っている。
私を出汁にリリナに近づくために私を呼んだようだ。
でも、私も地下アイドルと友達になれることはありがたい。
この調子でカワイ子ちゃんが集まれば目標も達成できるはずだ。
「友達になった記念に喫茶店でお茶しよう。チョコレートケーキの美味しいお店を知っているの」
「ちょめ!」 (それいいアイデア!私もお腹が空いていたところなのよ)
「……ご、ごめんなさい。私、これから宿題があるから」
首を傾けて悲し気な顔をしながらリリナが断って来る。
せっかく友達が誘ってくれたのに応えられないから残念がっているようだ。
「宿題ってもしかして魔法学科のコルバッ……痛っ、コルバッツェオ先生のやつ?」
「うん」
「あいつか……参ったな」
「ちょめ」 (何者なの、そのコルバッ……痛っ、唇を噛んだ)
後でわかったことだが魔法学科のコルバッツェオ先生は学園で超有名な先生だと言う。
昔の不良を思わせるようなリーゼントヘアをしていていつも腰をくねらせているらしい。
見た目は異様な姿だが魔法の腕は超一流で教え子はみんな一流の魔法使いになったとのことだ。
「コルバッ……痛っ。コルバッツェオ先生は厳しい先生で有名だから宿題をやってないとお仕置きをくらうのよね」
「だから、今日はダメ」
「ちょめ」 (どこにでもいるのね。熱血漢タイプの先生って)
だけど一度見てみたいわ。
そのコルバッ……痛っ。
コルバッツェオ先生を。
「わかった。なら、また今度ね」
「ごめんなさい」
「いいのよ。気にしないで。私達、友達だもん」
「うん」
「ちょめ……」 (なんて素敵な光景なの。友達になったばかりなのにこんなにも分かり合えるなんて……)
今の二人の背景には後光が光っているようにも見える。
ちょうど太陽が重なって神秘的な雰囲気を作っていた。
「さあ、ちょめ助。他のイベントでも見に行こう」
「ちょめ」 (行こう行こう)
私とルイミンは本当の友達のように軽やかに駆けて行く。
まだ出会って数十分しか経っていないけど昔からの友達のようだ。
ルイミンのキャラがそうさせているのだ。
人懐っこいと言うかお調子者と言うか。
わりかし私とは馬が合うようだ。
私とルイミンは人ごみを掻き分けながら中央に出る。
すると、リリナとはまた違った地下アイドルの子達がイベントをしていた。
「あの子達はリリナちゃんと同じアイドル部のメンバーだね。まあ、リリナちゃんには劣るけどね」
「ちょめ?」 (アイドル部って?)
「あっ、ちょめ助は知らなかったね。私達の学院は部活動があって課外活動を推進しているの。学院が認めてくれたことだからみんな思い思いに課外活動をしているのよ。活動資金を稼ぐためには課外活動が欠かせないからね」
「ちょめ」 (なるほどね。学院が活動資金を提供するかわりに課外活動を推進してるんだわ)
日本の学校の部活の活動資金は国から払われている。
元を正せば国民の税金なのだけど地域を上げて教育に力を入れている。
明日の人材を作ることは回り回って日本の経済のためにもなるからだ。
「でもね。稼いだお金は全部その人のものになる訳じゃないの」
「ちょめ?」 (何よ、それ?学院に納めなくちゃいけないの?)
「ちゃんと資金収支を出して学院に提出しなくちゃいけないのよ。それが面倒でねー」
「ちょめ」 (その辺りはしっかりとしているみたいね)
部活動の課外活動も社会勉強になっているようだ。
でも、資金収支って面倒くさそう。
学生がやることじゃないわ。
「だから私は推し活部をしているの」
「ちょめ?」 (推し活部って?)
「自分の推しを応援するだけだからお金を稼がなくてもいいの」
「ちょめ?」 (それでも活動資金が必要じゃない?)
お小遣いだけでは推し活の応援すらままならない。
私も経験があるからわかるけど推し活には多額の資金が必要なのだ。
まあ、私の場合はお年玉とおこづかいを貯めて活動資金にしていたけど。
「気になる?私の活動資金の出所?」
「ちょめ!」 (気になる気になる!教えて教えて!)
「私の場合はね。リリナちゃんのファンのパトロンがいるのよ。訳あって自分では人前で応援できないので代わりに私に応援させているの」
「ちょめ」 (何よそれ。やましいことしている訳じゃないわよね)
ルイミンに限って”援○交際”のようなことはしないと思うけどパトロンが引っかかる。
リリナのファンならちゃんと自分で応援すればいいだけの話だ。
その方が楽しいし、満足できると思うけど。
「まあ、世間は広いってことよ」
「ちょめちょめ」 (私もそんなパトロンがいるなら支援してもらいたかったわ。”ななブー”を絶対的なセンターにするにはまだまだ応援が足りないからね)
”アニ☆プラ”はメンバーが決まっているけどポジションは確定してない。
ポジションは基本、ファンの応援の具合で変わるから”ななブー”も可能性がある。
だから、ファン達はそれぞれの推しのポジションを確保するために応援しているのだ。
「でもね。他の推し活部のメンバーはプレゼンをして活動資金を稼いでいるけどね」
「ちょめ?」 (プレゼンって?)
「いかに自分の推しがすごいのかをプレゼンして寄付金をもらうのよ」
「ちょめ」 (クラウドファンディングのようなものかしら)
ルイミンの場合は例外中の例外のようで安心した。
推し活部のメンバーみんながルイミンのようだったらこの世のお終いだ。
ちゃんと地に足をつけた活動をしてお金を稼いでいるので安心した。
すると、路上ライブをしていた地下アイドルが歌を披露する。
けっしてうまいとも言えなかったがそれなりに盛り上がっていた。
それは推し活している人の弱いところでもあるのよね。
推しがすべてだから推しがヘタレでも受け入れてしまうのだ。
まあ、”ななブー”は本物だけどね。
「リリナちゃんの路上ライブを見た後だからしらけちゃうね」
「ちょめ」 (私はそれなりに楽しんでいるけど)
「ちょめ助。あっちへ行こう」
「ちょめ」 (えーっ。私、まだここで観ていたい)
ルイミンはつまらなそうな顔をしながら私を抱っこする。
そして私を抱きかかえたまま人ごみを潜り抜けて外に出た。
「次はどこへ行こうか?」
「ちょめ」 (私はさっきのやつがいい)
少しでもこの世界のアイドルのことは知っておきたい。
もし、日本に帰ることがあったら役立てるためだ。
直接、”アニ☆プラ”を変えることはできないけどプロデューサにメッセージが届けばもしかもあり得る。
とかく今の日本はアイドルが氾濫状態だからあの手この手を駆使している。
オリジナルのコンセプトではじめてもどことなく似たり寄ったりしているのが現実だ。
「あそこがいいね」
「ちょめ」 (ちょっと。私の話を聞いてよ)
「あそこはコスプレ部がイベントをしているから楽しめるわよ」
「ちょめ!」 (コスプレ部!見たいみたい!)
異世界に来てコスプレなんてどんな格好をしているのか気になる。
日本では異世界ファンタジーのアニメのコスプレが流行っていたからその逆と言うことだ。
剣士とか魔法使いだとかだったらちょっと残念な気持ちになる。
逆なんだから逆を行ってほしい気持ちがあるからだ。
「まずはあのひと際大きい人ごみのところへ行くよ。ちゃんと捕まっていてね」
「ちょめ」 (うん。わかった)
とは言っても抱きかかえているのはルイミンなのだからルイミン次第だ。
それでも私はルイミンの袖に噛みついて振りほどかれないようにした。
リリナの時の比ではないほど人が集まっている。
そのほとんどが男性ばかりで熱気むんむんだった。
イベントに集まったファン達はしきりにシャッターを押している。
激しいシャッター音が嵐の如く会場に響きわたっている。
まるで、ハリウッドスターがイベントをしているようだ。
ルイミンは人ごみに体をねじ込ませながら強引に進んで行く。
途中で私は引っかかりそうになったけど体を丸めて凌いだ。
「ふーぅ。やっと抜け出せたわ」
「ちょめ……」 (あ、あれが……あれがコスプレイヤーなのね)
私は視界に飛び込んで来たコスプレイヤーに目が止まる。
それはあまりにも優美で妖艶でこの世のものとは思えぬ姿だったからだ。