第二十一話 運命の出会い
朝陽を浴びた王都は荘厳な姿を映し出す。
伸びる影が鋭利でゴシック建築を彷彿とさせる。
中央に聳え立つダンデール城は壮大だった。
「ちょめ」 (これが王都ね。さすがだわ)
ネコ目線の今の私から見たら王都は巨大都市そのものだ。
大通りの街並みでさえ巨大な施設にさえ映ってしまう。
”ディ○ニー”に来た時のような感動すら覚えた。
「ちょめ」 (これだけ大きい街ならカワイ子ちゃんもいっぱいいそうだわ)
ただ、カワイ子ちゃんを探すのには苦労しそうだ。
目の前を行き交っている人達は多く行列そのものだ。
大通りを歩いているのに先が全く見えない。
”アニ☆プラ”のライブを思わせるような込み具合だ。
「ちょめ」 (これじゃあどこから入って行けばいいのかわからないわ)
私は人ごみの中には入れずにその場をウロウロ歩き回る。
ひとたびこの人ごみに巻き込まれでもしたら洗濯物のようになってしまう。
人のに押されながら行きたい方向へは進めないだろう。
とりわけ今の私は30センチしかないから気をつけなければならない。
「ちょめ」 (どうしようかな。道を変えた方がいいかな)
目の前に広がる大通り街の中心まで伸びていて人ごみができている。
左右に見える通りは王都をぐるりと取り囲むように道が伸びている。
こっちは大通りほどの人ごみではない。
「ちょめ」 (やっぱりここは安全稗を取っておいた方がいいわよね。でも、どちらに行こうかな)
左右に伸びている道を見ながら私はその場で考え込む。
どちらを選んでも大して変わりがないように思える。
ただ、その先に何が待っているのかはわからない。
私の目的はカワイ子ちゃんを探すことだから人が少ないと困る。
「ちょめ」 (やっぱ大通りを進んだ方がいいわよね)
人が増えれば必然とカワイ子ちゃんに出くわすチャンスも広がる。
原宿を歩いた時のようにカワイ子ちゃんと出会う率が高くなるのだ。
カワイ子ちゃんの集まるところにはカワイ子ちゃんが集まると言う法則があるからだ。
「ちょめ」 (よし、決めた。やっぱり大通りを歩くことにするわ)
私は覚悟を決めて目の前に広がる大通りを進むことにした。
それでも人だかりができている通りの両端は選ばず道の中央を歩いて行く。
少しでも人の密度が低い場所を選んだ方が安全だからだ。
「ちょめ」 (まさにジャングルね。原生林に迷い込んだような気分だわ)
私から見たら行き交っている人達は背の高い大樹そのもの。
その上、原生林ならば動かないがこちらは動くのだ。
生きている巨大迷路に迷い込んだような状況だ。
「ちょめ」 (この迷路は難解よ)
私が進みたい方向とは違う方向に押されて進路を変えられてしまう。
歩いている人達は足元を見ていなから私がいてもおかまいなしだ。
ときどき踏みつけられたり、蹴られたりすることもある。
おかげでボクシングのスパーリングをした時のような感じになっていた。
「ちょめ……」 (ハアハアハア……これはキツイわ)
ダイエットにはいいかもしれなけど普通に歩く分には困る。
まだ10分も経っていないのに私の呼吸は酷く荒れている。
このままだと通りを抜け出す頃には干からびているかもしれない。
「ちょめ」 (ちょっと休憩をしよう)
私は人ごみを縫うように進んで大通りの脇にあった街灯の下まで来た。
ここは街灯があるからそんなに人ごみはできてない。
私と同じように休憩している人がちらほらいるだけだ。
「ちょめ」 (ふぅー。やっと一息つけるわ)
歩いて来た方向を見るとそんなにも入口から離れていない。
直線で30メートル進んだぐらいだ。
とかく今の私は歩くことに苦労するから大変だ。
どうせならマッハで走れる能力を備えておいて欲しかった。
それか瞬間移動があったら便利だ。
まあ、今さらそんなことを願ってもしかたないのだけどね。
ちょめジイが新しい能力をくれると思えないし。
今頃、朝の”ワイ○ショー”を見ながらお茶を飲んでいるはずよ。
「ちょめ」 (でも、これからどうしようかな。このまま進んでも時間がかかるだけだし)
かと言って来た道を引き返すのも馬鹿らしいし。
ここまできた労力がすべて無駄になってしまうからだ。
私に残されているのはこのまま真っすぐ進むしかない。
「ちょめ」 (ふーぅ。仕方ないわ。このまま進むわよ)
「どいてどいてー!」
「ちょめ?」 (え?)
そう思って私が一歩前に踏み出すと横から激しい衝撃が走った。
ドカーン。
私は大きく横に吹き飛ばされて道に投げ出させる。
「ちょめ……」 (痛~っ。何なのよ)
「イタタタ……どこを見て歩いているのよ!」
そう叫んで来た人の方に視線を向けて目を見張る。
なんと目の前にいたのは喋る白ウサギだったからだ。
大きさは私とそう変わらない。
ただ、違っていたのは金髪につけま、ミニスカとギャルのような格好をしていたことだ。
「ちょめっ!」 (それはこっちの台詞よ。勝手にぶつかって来て謝りもしないの!)
「謝るのはそっちでしょう。前を見て歩いていなかったんだから」
金髪ウサギは悪びれた様子もなくシャアシャアと言ってのける。
あくまで私の落ち度だと言いたいようだ。
「ちょめ」 (なんて奴なの。常識外れもいいところだわ)
「……」
私が体を起こすと金髪ウサギはじっと見つめて来る。
「ちょめ」 (何よ)
「あなた、転生者ね」
「ちょめ?」 (へ?)
今”転生者ね”って聞こえたような気がしたのだけど。
金髪ウサギは私の頭から尻尾まで舐め回すように見る。
そしてひと言失礼な言葉を吐いて来た。
「それにしても醜い姿ね」
「ちょめ」 (そんなことを言わないでよ。私だって好きでこの姿になった訳じゃないんだから)
全てはちょめジイの趣味だ。
「まあ、いいわ。同郷の好で許してあげる」
「ちょめ?」 (同郷ってあなたも日本から召喚されたの?)
「私、急いでいるから。またね」
「ちょめ」 (待ってよ。どう言うことか話を聞かせてよ)
金髪ウサギは私が呼び止めることも気にせず立ち去ってしまう。
ウサギだから足取りが早くてあっという間に人ごみに消えて行った。
「ちょめ」 (何なのよ。どう言うことなのよ)
あの金髪ウサギの話を信用すれば転生者と言うことになる。
それも私と同じで日本から転生されたようだ。
ただ、疑問は何で金髪ウサギだけ喋れるのかってことだ。
私のように言葉を封じられていないのは何故なのか。
その疑問は金髪ウサギを召喚したであろうちょめジイに聞くことだ。
(ねぇ、ちょめジイ。いるんでしょう。返事をして)
(……)
(とぼけてないで返事をしてよ。急用なの)
(何じゃ、今は瞑想の時間じゃ)
瞑想?
その顔で。
ちょめジイの言葉に不信感を抱いてしまう。
ちょめジイと言えば日本のコンテンツを楽しんでいるだけのイメージしかない。
好きなテレビを観て美味しいお菓子を食べて中坊のようにだらけた生活をしているのだ。
それがどう言う経緯で瞑想に目覚めたのだろうか。
(そんなことより、私以外に日本から他の誰かを召喚しなかった?)
(知らんのじゃ)
(だって、さっき私のことを知っている金髪のウサギと出会ったのよ)
(……)
私の言葉の動揺したのかちょめジイは黙り込む。
(やっぱり心あたりがあるのね。あの金髪ウサギは誰なのよ)
(知らんのじゃ)
(嘘よ。絶対何かを隠しているでしょう。本当のことを教えてよ)
(知らんのじゃ)
(あの金髪ウサギは誰なの?)
(記憶にないのじゃ)
(政治家かっ!)
ちょめジイがどこかで聞いたことのある台詞を吐くのでつぶさにツッコミを入れる。
日本のドラマやバラエティーだけに飽き足らず”国○中継”まで観ていたようだ。
”記憶にございません”なんて政治家が言う定番の台詞なのだ。
(ちょめジイはなんで私に本当のことを話してくれないの。私が知ると都合が悪いから?)
(お主はお主の使命だけを果たしておればいいのじゃ)
(何よ、私だって真実を知る権利はあるわよ)
(……ならば”カワイ子ちゃんの生ぱんつを100枚”集めたら教えてやるのじゃ)
(わかったわよ。でも、約束だからね)
今はこれ以上、ちょめジイを問い詰めても無駄だろう。
とりあえず約束は取り付けたのだから良しとしておかないと。
まあ、”カワイ子ちゃんの生ぱんつを100枚”集めたら元の姿に戻れるのだし、本当のことも話してくれるかもしれない。
そしたらあの金髪ウサギが誰だったのか教えてもらうことにしよう。
(それではワシは瞑想があるからこれで失礼するのじゃ)
プツン。
そう言ってちょめジイは念話を切ってしまった。
「ちょめ」 (とりあえず私は私であの金髪ウサギを探そう)
また出会えばあの金髪ウサギから有力な情報を得られるかもしれない。
何の目的でこの世界に召喚されたことがわかれば真実に迫れるだろう。
その前に名前を教えて欲しいところだわ。
もしかしたら知っている人かもしれないからね。
私は金髪ウサギが消えて行った方向へ歩き出す。
足の速さが違うからすぐには見つからないだろうけど何もしないよりマシだ。
そのついでにカワイ子ちゃんをチェックして行けばいいのだ。
「ちょめ」 (それにしてもおじさん率が高いわね)
行き交う人達は仕事をしている人が多いから自ずとおじさんが多くなる。
その大半は商人のような格好をしていて店を出入りしたり、店の前で話をしていたりする。
中には観光客も紛れているが絶対数では半数程でしかない。
この大通りには商店が犇めいているから仕事人が多いのだろう。
私は大通りの中央から外れて脇にある歩道を歩いて行く。
こちらは大通りほど人が行き交っていないので歩きやすい。
ただ、店の前で話をしている人達がけっこう邪魔になった。
「ちょめ……」 (うわぁ……キレイだわ。いくらぐらいするんだろう)
私は宝石店の前でショウウインドウを眺めながら煌びやかな宝石に見とれる。
お店の外観はお洒落な造りで日本の青山を思わせるような建物が並んでいる。
店の中にも前にも金持ちそうな夫人がたくさんいて商品の品定めをしていた。
「ちょめ」 (やっぱこう言う店に来るのは金持ちだけなのね)
10代が気軽に入れるような雰囲気の店ではない。
金持ち以外受付ませんと言うような雰囲気を醸し出している。
大して美人でもない夫人が群がっていると宝石の魅力の削がれるわ。
やっぱり宝石は美人が身に着けないとその美しさは増さないのだ。
宝石店の隣は服飾店でこちらもブランド品しか取り扱っていない。
店内にいたのは金持ちの夫人だけで宝石店から梯子したようだ。
「ちょめ」 (おばさんがキレイな服を着ても見落とりしちゃうわ)
この辺りは高級店ばかりで私には合わない。
やっぱり若者が集まるような店じゃないと楽しくない。
私は人を避けながら歩道を歩いて行った。
しばらく進むと十字路に出る。
真っすぐに進めばお城へ行ける。
右に進めば若者通り。
左に進めば金融通りになっていた。
「ちょめ」 (あの金髪ウサギはどちらへ行ったのかな)
私は十字路ので迷いながらどちらへ行こうか考える。
金髪ウサギは急いでいたようだけどそれ以外に情報はない。
買い物をするからお金を下ろしに銀行へ行ったのかもしれない。
はてやイベントがあるから会場まで急いだのかもしれない。
まさか、急にお腹が痛くなったからトイレに駆け込んだ可能性だってある。
「ちょめ」 (何の手がかりもないから勘で選ぶしかないわね)
と言うことで私は自分の直感を信じて右折して若者通りを選んだ。
と言うよりも自分が若者通りに興味があったから選んだのだけど。
やっぱり若者は若者にあったお店が並んでいる通りを歩いた方がいい。
無理に背伸びして大人通りを歩いたとしてもつまらないだけだから。
若者通りはその名の通り若者が犇めいていた。
さっきまでのおじさん達とは違い生き生きとしている。
若者から溢れ出すキラキラが周りの雰囲気を作っていた。
「ちょめ」 (若者通りを歩いているだけでワクワクするわ)
若者通りにの脇に並んでいる商店も若者向けのものばかり。
服飾店やアクセサリーショップには若い子達が集まっていた。
「ちょめ」 (ここにならカワイ子ちゃんがいっぱいいそうだわ)
私はすれ違う若者たちの顔をチェックしながらカワイ子ちゃんを探す。
ちょめジイの指定するカワイ子ちゃんは見た目が100%だから外見が重要だ。
たとえ見た目がカワイクても顔がブチャ子ならばアウトなのだ。
とかく女子はカワイイ格好をすると全体的にカワイく見えてしまう。
それはスキー場へ行った時に女子がカワイく見えてしまう現象と同じだ。
非日常な場所に来ているから気持ちが上がって誤った判断をしてしまうのだ。
それを体現するようにカワイイ女子はたくさんいるがカワイ子ちゃんはいない。
やっぱりカワイ子ちゃんレベルになるとそんじょそこらのカワイさでは足りない。
誰が見てもカワイ子ちゃんでなければならないのだ。
「ちょめ」 (微妙な子達しかいないわ)
人がいっぱいいるところに行けばカワイ子ちゃんと出会う確率も高くなると思っていが違うようだ。
おまけにこの辺りには金髪ウサギもいないし、踏んだり蹴ったりだ。
「ちょめ……」 (あー。どこかにカワイ子ちゃんはいないかしら。全然、目標を達成できない)
思っている以上に”カワイ子ちゃんの生ぱんつ集め”は苦労しそうだ。
イメル村の近くの森で連続で幼女たちのぱんつを奪ったことが懐かしい。
あの時はツイていたのだと改めて実感する。
だからと言ってまた幼女のぱんつを狙うことはできない。
イメル村で問題になったように大問題になるからだ。
そんなことをして今度捕まったら私は間違いなく処刑されるだろう。
すると、大きな広場から若者たちの歓声が聞えて来た。
「ちょめ?」 (何が起こってるの?)
人ごみを掻き分けて大きな広場の入口まで来ると広場に人だかりができている。
それはひとつの塊だけでなく、いくつもの塊が点々としていた。
「ちょめ」 (何かやってるのかしら)
人だかりができている方向からは歓声と拍手が沸き起こっている。
同時にカメラを連射するようなシャッター音まで聞えて来た。
「ちょめ」 (何かのイベントをやっているのね)
私は興味を掻き立てられて人の塊ができている場所へ向かった。
人の塊は若者通りの比じゃないくらい人が密集している。
中央に誰かがいるようで、その人を取り囲むように円陣を組んでいる。
私は人ごみの中に体をねじ込ませてみるがつぶさに弾かれてしまった。
「ちょめ」 (ちょっと、私も通してよ。ぜんぜん見えないじゃない)
見えそうで見えない状態に置かれると何が何でも見たくなる。
人がこんなに集まるぐらいだから至極上等なものなのだろう。
それが何なのかまではわからないから余計に興味を掻き立てられる。
「ちょめ」 (これは覚悟を決めないといけないようね)
今までで一番難しいミッションなのかもしれない。
人ごみを掻き分けてその先にあるものを確める。
言葉にすれば簡単だが実際はハードルが高い。
ましてや私はちょめ虫なのだからなおのことだ。
私は気持ちを高めると勢いよく人ごみに突っ込んで行った。
サッカーボールのように蹴られようが踏み潰されようが必死に食らいつく。
それは釣り針につられたタイ焼きのような気持ちだ。
しかし、私の頑張りも虚しく外に弾き出されてしまった。
「ちょめ……」 (ハアハアハア……これじゃあ全然ダメだわ)
今の私ではこのミッションをクリアするのは相当に難しい。
プロのラグビーチームにひとりで挑むようなものだ。
だけど私は諦めない。
「ちょめ」 (下がダメなら上からよ)
私の予定では大玉送りの要領で運んでもらうことを想定している。
とかく私の体重は軽いから何ら問題なく行けるだろう。
あとは人ごみの中に落ちないように注意すればいい。
そう思って私は近くにあった木によじ登る。
そして覚悟を決めて人ごみの上に飛び降りた。
「ちょめ」 (狙い通りいい感じよ)
人々は頭の上にある私を払う。
その度に私の体は前に進んで行く。
時たま横に弾かれることもあったがすぐに修正する。
私の体はポンポンと人ごみの上を飛びながら前へ進んで行った。
「ちょめ」 (あと少しよ。みんな頑張ってちょうだい)
あと1メートルのところまで来たところで止まってしまう。
最前列にいる人たちは撮影に夢中で頭など気にしないのだ。
「ちょめ」 (私はこれでは諦めないわよ)
そう決めて私はテレキネシスを使ってカメラを持ち上げる。
すると、私の下にいた人はカメラを抑えようと体を動かす。
その拍子に私の体を払って前に推し飛ばした。
私の体は回転しながら宙に舞い最前列の前に落ちて行く。
そして私の狙い通り人ごみの壁を飛び越すことができた。
「ちょめ」 (うまく行ったわ。さすがは私ね)
目の前にはカメラを構えた人達が激しくシャッターを切っている。
私が目の前にいても気には留めずに夢中になっている。
私はその先に誰がいるのか気になって振り返る。
すると、そこには――。
「ちょめ……」 (ああ……ああ……)
思わず言葉を失って固まってしまった。