第十九話 たたき売り
競り会場は市場の隣にあった。
円形の広場に仲買人達が集まっている。
ステージ上には司会者と売主がいて家畜の紹介をしていた。
馬や牛など比較的大きな家畜は会場を1周してお披露目をする。
それ以外の家畜はステージに上げられる仕組みだ。
ボロにゃんはステージの裏から競りの様子を眺めていた。
「活気があっていい競りなのじゃ」
「ちょめ」 (見えなーい。私にも見せてよ)
「あの牛は高そうじゃな」
「ちょめ」 (牛なんてみんな同じでしょう。それよりトラ吉は?)
ステージの裏にはボロにゃんと私だけでトラ吉の姿が見えない。
競り会場に着いた時に”トイレに行って来る”と言ったっきり戻って来ないのだ。
私がステージの裏をキョロキョロと見回していると会場が騒がしくなった。
「次は今回のメインディッシュであるグラム産のブランド牛です」
「「おおーっ」」
グラム産のブランド牛がステージに現れると会場から歓声が湧き起る。
黒い毛並みは艶があって肉肉しい体系をしている。
程よく脂肪がついていて切り分けたら霜降りの肉に仕上がっているだろう。
他の牛とは風格が違っていてブランド牛の名をほしいままにしていた。
「グラム産とは。中々お目にかかれないのじゃ」
ボロにゃんの目もキラキラと輝いていてグラム産のブランド牛に注がれている。
「それでは会場を1周りしてもらいましょう。みなさん、じっくりと見定めてくださいね」
司会者がそう言うと売主がブランド牛を引き連れて会場を一回りする。
その度に仲買人達の熱い視線が降り注がれて会場が活気づく。
まるで豊洲市場の競りのような雰囲気だ。
売主がブランド牛を連れてステージに戻ると司会者が初値を決めた。
「さて、グラム産のブランド牛の初値は金貨50枚からです」
すると、すかさず仲買人のひとりが手を上げて金貨60枚を提示する。
それを受けて別の仲買人が挙手をして金貨70枚を提示した。
それはドミノが一斉に崩れ落ちるような流れて次から次へと競り上がって行く。
そして大台の金貨100枚が提示されると司会者がさらに煽った。
「さあ、金貨100枚の大台まで競り上がりました。さあ、他に声はありませんか」
「金貨110枚だ!」
「俺は金貨130枚で買い取る!」
さらに上の金額を提示するとそれを上回る金額が提示された。
だけど、ここで競りが終わった訳ではない。
仲買人達はグラム産のブランド牛を買いとるべくさらに金額を跳ね上げた。
「さて、金貨150枚が提示されました。これでいいですか。買い取られてしまいますよ」
「金貨200枚だ」
司会者の煽りを受けて恰幅のよい商人が挙手をして金額を提示する。
すると、会場が騒めき仲買人達の視線が恰幅のよい商人に注がれた。
「さあ、金貨200枚が提示されました。他に声はないのでしょうか」
「金貨210枚だ」
今度はスリムな髭が豊かな商人が挙手をして価格を提示した。
恰幅のよい商人とは離れた位置にいてお互いを牽制し合っている。
「金貨230枚だ」
「いや、金貨240枚だ」
「ムムム。金貨250枚だ」
「金貨260枚」
競りはこの二人に絞られたようでお互いに値を吊り上げて駆け引きをしている。
どちらの顔を見ても引くつもりはないようで買い取る気満々だ。
「面白くなって来おった。さて、どちらが勝つか見ものじゃ」
「ちょめ」 (私にも見せてよ。ひとりだけ楽しんでいるなんてズルいわ)
私は檻に入れられていて地面に置かれているので会場の様子は見えない。
もっぱらステージの裏はこれから競りにかけられる家畜ばかりいて家畜臭い。
私も今は家畜になっているけれど臭くはないのだ。
「さあ、ただ今の買い取り金額は金貨260枚です。これで頭打ちでしょうか」
「金貨280枚だ」
「金貨290枚」
「金貨300枚だ。これでどうだ!」
恰幅のよい商人が思い切って金貨300枚を提示すると会場が静まる。
スリムな髭の豊かな商人も参ったのか挙手をするのを迷っていた。
すると、さらに上を行く金額が提示された。
「金貨400枚だ」
その声に会場が一瞬で静まり変える。
そして後ろを振り返って声のした方に視線を向けた。
「聞えなかったのか。金貨400枚だ」
そこにいたのは仲買人でもなく商人でもなく高貴な老紳士が座っていた。
流れるような白髪とは対照的なピシッとした黒のスーツを着ている。
どこかの裕福な貴族に仕えているようで脇を黒服が固めていた。
「き、金貨400枚が提示されました。さあ、他に声はありませんか」
司会者が呼びかけて見るが仲買人や商人たちは両手を広げて悔しそうな顔を浮かべている。
さすがに金貨400枚を上回るような金額は提示できないだろう。
「あの者で決まりじゃな」
「ちょめ」 (たかが牛一頭で金貨400枚なんて破格じゃない。買い取ったのはどこのバカよ)
私には信じられない金額だ。
金貨400枚なんて日本円にしたら数千万円に相当する価格だ。
日本でも”大間の〇グロ”が1億円をつけたことを聞いたことがある。
だから、あり得ない金額でもないが私だったら絶対に買わない。
「それでは金貨400枚に決定です!では、取引の方は別室でお願いします」
司会者が案内すると売主とブランド牛、そして買い取った老紳士達が席を立った。
まあ、大金が動くのだから別室に移動して話を進めた方がいいだろう。
高額な取引の場合は銀行に振込む形をとっているので安全面は確保されているのだ。
「それでは次の商品です……って、これは何です?」
「家畜じゃ」
「家畜には見えませんけど」
「家畜じゃ」
司会者は私の姿を見るなり小首を傾げてきょとんとした顔を浮かべる。
会場からもどよめきが湧き起りマジマジと私のことを見つめていた。
ただ、ボロにゃんだけは家畜だと言い張って一歩も引かない。
すると、司会者もボロにゃんの圧に押されたのかすんなり受け入れた。
「それでは気を取り直して。次はこの家畜です」
「……」
司会者に紹介されても会場も理解が追いつかない。
どこからどう見ても家畜に見えないから仕方ないが。
「ちょめ」 (何よ、この沈黙は。まるで私が悪いみたいじゃない)
ステージ上から見える仲買人達の表情は白けている。
お口直しに出して来た家畜だと思っているようで乗り気でない。
「では、この家畜の初値は銀貨1枚です」
「ちょめっ!」 (銀貨1枚よね。私なんてりんご一個買える値段と同じよね……って、違-う!私はそんなに安い女じゃないのよ!ピッチピッチの女子中学生なんだから。日本だったら1,000万円クラスの上玉よ)
私の言うように現役の女子中学生が1000万円クラスなのかはわからない。
ただ、それぐらい貴重な存在であることを主張したいのだ。
ましてや異世界に召喚された女子中学生なんて希少性が高い。
だから、銀貨1枚なんて破格な値をつけられることはないはず。
(仕方ないのじゃ。お主はちょめ虫なのじゃからな)
(何よ、こんな時に念話を繋ぐなんて。いったい何の用なのよ)
(お主がどうなるのか気になってな)
(どうせ私が買われたら”カワイ子ちゃんの生ぱんつ”を集められなくなるって心配しているんでしょう)
(まあ、変わりはいくらでもおるからのう)
(ちょっと、今の台詞、聞き捨てならないわね)
ちょめジイが口を滑らせて大事なことを零した。
”変わりがいくらでもいる”ってことは私以外の人も召喚したことだ。
確かにちょめジイがいろんな書物をこの世界に召喚してるぐらいではここまで広まらない。
やっぱり私以外の人もこの世界に召喚したんだわ。
(それではせいぜい気張るのじゃぞ。ワシはこれから音楽鑑賞じゃ)
(ちょっと待ちなさいよ。そんな暇があるなら助けなさい)
(お主の好きな”アニ☆プラ”のサードシングルのカップリング曲じゃ)
(ちょっと待ったー!”アニ☆プラ”がサードシングルのカップリング曲を出したの!いつよ、いつのことよ)
(お主がカワイ子ちゃんのぱんつを集めている時じゃ)
(そんなー。私は大好きな”アニ☆プラ”をほっおっておいて”カワイ子ちゃんの生ぱんつ集め”に奔走していたって言うの。あんまりよ)
元の姿に戻るから仕方ないことなのだがそれにしてもあんまりだ。
大好きな”アニ☆プラ”以上の存在はこの世には存在していない。
たとえ元の姿に戻る条件があったとしても”アニ☆プラ”が優先なのだ。
(お主は”カワイ子ちゃんの生ぱんつを集める”のじゃ。そうしたら聴かせてやってもよいぞ)
(それは本当なの!わかったわ、何でもする!だから、”アニ☆プラ”のサードシングルのカップリング曲を聴かせてよ)
(よかろう。ならば”カワイ子ちゃんの生ぱんつ”を20枚集めたら褒美に聴かせてやるのじゃ)
(20枚ね。約束だからね)
今のところ5枚だからあと15枚だ。
連続で5枚もいけたのだからすぐに集まるだろう。
幼女は狙えないけれど王都には人がたくさんいるからカワイ子ちゃんもたくさんいるはずだ。
それにしても気になる。
”アニ☆プラ”のサードシングルのカップリング曲は誰がセンターなのか。
サードシングルは”ななブー”だったからあずニャンかもしれない。
ただ、”サラ恋”関連の曲だとしたら”ななブー”がセンターになっている可能性もあるのだ。
私としてはぜひ”ななブー”にセンターをしていてもらいたい。
(それではまたなのじゃ)
(ねぇ、イントロだけでも聴かせてよ。それだけで頑張れるから)
(仕方ないのう。ちょっとだけじゃぞ)
(ありがとう、ちょめジイ)
そしてちょめジイが聴かせてくれたイントロは穏やかな感じの曲だった。
まあ、サードシングルのカップリング曲だから”サラ恋”の挿入歌かもしれない。
サードシングルがまといの心情を描いていたからカップリング曲はそれと違うものだろう。
”サラ恋”のアニメは最初の方しか観てなかったからどうなるのか気になるところだ。
どうせ今頃は最終回を迎えて次のシーズンのアニメに変わっているのだろう。
ただ、ファンの心の中には”サラ恋”はずっと生き続けるのだ。
私が日本に戻る頃には2クール目が放送されているかもしれない。
(ここまでじゃ)
(もうちょっと聴きたかったけど我慢するわ)
(それでは頑張るのじゃぞ)
(まあ、なるようになるだけだわ)
ちょめジイのおかげで当面のパワーはチャージできた。
あとは私がいくらで買い取られるかね。
「銀貨5枚の声が上がっただけですよ。もっと声はありませんか」
「銀貨6枚だ」
「いや、銀貨7枚だ」
「ちょめっ」 (ちょっと、そんなはした金で刻まないで。そう言うのはもっと高値を付けた時にすると盛り上がるものでしょう)
私がちょめジイと念話をしている間に銀貨1枚が5枚になっただけだった。
いくら私が家畜じゃないからと言ってあまりにも安すぎる。
すると、ボロにゃんがキャベツを持ってステージに上がって来た。
「この家畜は雑草を食べるのじゃ。ヤギの代わりになるから便利じゃぞ。ほれ、食べるのじゃ」
素直にボロにゃんに従うのは嫌だったが今は仕方がない。
私がいかに値の高い家畜であるのか証明しなければならないのだ。
「ちょめ……」 (やっぱり生キャベツにはマヨが必要だわ。キャベツだけだと食が進まない)
「もっと食べるのじゃ。これもお主のためじゃぞ」
ボロにゃんは私にキャベツを食べさせながら耳元で囁く。
私のためだと言っているが高く買い取られたいのが本音だろう。
せっかく苦労して犯人を捕まえたのだから余計に期待している。
ブランド牛程とは言わなくてもそれなりの価格まで引き上げたいはずだ。
「この家畜が雑草を食べる家畜だと言うことがわかりました。さあ、銀貨7枚です。他に声はありませんか?」
「銀貨10枚だ」
「こっちは銀貨15枚を出す」
ボロニャンのパフォーマンスがヒットしたのか仲買人達の値を吊り上げはじめる。
銀貨10枚や15枚程度ではまだ安値過ぎるが値が上がったことは素直に喜べる。
「銀貨15枚です。他に声はありませんか」
「銀貨30枚だよぉ」
司会者が仲買人達を煽るとどこかで聞いたことのある頼りない声が聞えた。
その方向に視線を向けるとトラ吉が商人の格好をしながら手を上げていた。
「ちょめ」 (何であんなところにトラ吉がいるのよ)
「トラ吉はさくらじゃ」
「ちょめ」 (そんな卑怯なことをしてまで私を高値で売りたいの)
「これもひとつの手法じゃよ」
ボロにゃんは悪びれた様子もなくトラ吉がさくらであることを告白して来る。
今までトラ吉を見かけなかったのは全てはこのためだと今頃になって気づいた。
さすがは迷探偵と言うべきか。
余計なところでも頭が働くようだ。
「さあ、銀貨30枚が出ました。これで決まりでしょうか」
「私は銀貨40枚だ」
「俺は銀貨50枚だ」
ボロにゃんの狙い通り仲買人達は釣られるように値を上げて来る。
トラ吉は値が頻繁に上がっている時は沈黙を保ってここぞと言う時だけ声を上げる。
そうすることで搾り上げるように追従する者をそぎ落として行くのだ。
「銀貨55枚」
「銀貨60枚だ。どうだ」
「銀貨65枚」
「ムムム。銀貨70枚だ」
私の競りは仲買人の二人に絞られた。
ひとりは細身の色白な仲買人でもうひとりはがっちりとした体形の仲買人だ。
他の仲買人達は結末を見守っている。
「銀貨70枚が出ました。さあ、これより上はないか」
「銀貨80枚だよぉ」
場が静まりかえったところですかさずさくらのトラ吉が声を上げる。
あくまで値を吊り上げ過ぎずに追従できる余地を残していることろは流石だ。
これもボロにゃんの指図のたまものであろう。
「銀貨90枚です」
「おっしゃ、俺も男だ。キリのいい銀貨100枚でどうだ」
「銀貨110枚です」
「くぅ……人の足元を見やがって。俺も男だ、銀貨150枚で買い取る」
太っちょの仲買人を蹴落とすべくがっりちした体形の仲買人は大きく踏み出した。
さすがにこれだけ差をつけらたら迂闊には声を上げられないだろう。
すると、思いも掛けぬところから声が上がった。
「銀貨300枚で買い取るでやんす」
声の方に視線を向けるとお腹の出た太っちょの商人が手を上げていた。
見るからに裕福そうな格好しておりひとめで金持ちであることが窺える。
ここまで来るとトラ吉も迂闊には手を上げられないだろう。
見るとトラ吉もどうしようか迷っていて手を上げ下げしていた。
「さあ、銀貨300枚が出ました。他に声はありませんか?」
「トラ吉よ、何をしておるのじゃ。手を上げるのじゃ」
ステージ上でボロにゃんはジェスチャーしながらトラ吉に訴えかけている。
しかし、トラ吉はおたおたしながら焦っていた。
今のボロにゃん達の持ち金から言えば銀貨300枚なんて大したことはない。
何せ金貨30枚も報酬としてイメル村の村長からもらったのだから。
「銀貨300枚で決まりますよ。他に声は」
「ぎ、銀貨400枚だよぉ」
トラ吉はステージ上のボロにゃんの指図通り値を吊り上げる。
「銀貨400枚が出た」
「なら私は銀貨500枚でやんす」
すかさず太っちょの商人はさらに値を吊り上げて来た。
「中々やりおるのじゃ。じゃが、本番はこれからじゃ」
「銀貨600枚だよぉ」
「銀貨700枚でやんす」
「銀貨800枚だよぉ」
そこまでトラ吉が値を吊り上げたところで太っちょの商人は制止する。
そして腕を組んで深く考え込みながらどうしようか迷っていた。
「ちょめ」 (ちょっと、マズいんじゃない。このままだとトラ吉が買うことになるわよ)
「大丈夫なのじゃ。奴は必ず手を上げるのじゃ」
ボロにゃんの思いとは裏腹に太っちょの商人は沈黙を保っている。
どちらが勝つのかはこの場にいる誰もが予想していないことだ。
売られる私としてもトラ吉だけに買われることは避けたい。
「さあ、銀貨800枚であちらの方が買い取ることになりますよ。他に声はないのでしょうか」
「金貨1枚でやんす。これ以上は出せないでやんす」
その太っちょの商人の言葉を聞いてボロにゃんもトラ吉に指示を出すのを止めた。
銀貨1枚が金貨1枚にもなったのだからボロにゃんとしても丸儲けだ。
売られる私の方としても金貨1枚の大台に乗って満足だった。
「金貨1枚が出ました。他に声はありませんか」
「……」
「それではあちらの商人の方が金貨1枚で落札しました」
司会者が締めると会場から歓声が沸き起こった。
「終わったのじゃ」
「ちょめ」 (金貨1枚ね。ちょっと不服だけどいいわ)
ステージの裏手に来たボロにゃんはホッとした顔を浮かべている。
トラ吉のさくら作戦が思いの外うまく行ったから安心したのだろう。
「お主とはこれでお別れじゃ。後は家畜としてあ奴の力になるのじゃぞ」
「ちょめ」 (私がそんなに素直に従うとは思ってもないくせに)
「後のことはワシは知らんのじゃ。もう、お主を手放したのじゃからのう」
「ちょめ」 (無責任と言うか何と言うか。食えない奴ね)
すると、先ほど私を買いたたいた太っちょの商人がやって来た。
「これが家畜でやんすか。近くで見ると醜いでやんす」
「ちょめ」 (ちょっと。ブサイクな顔を近づけないでよ。夢に出て来るでしょう)
「鳴き声も醜いでやんす」
私のどこが太っちょの商人に刺さったのかわからない。
私の方としては早くこの場から逃げ去りたい。
「こやつは”ちょめ”としか話せんから注意するのじゃぞ」
「他の家畜と同じでやんす」
「確かに金貨は受け取ったのじゃ」
「さて、新しいコレクションにするでやんす」
ボロにゃんは太っちょの商人から金貨1枚を受け取ると笑みを浮かべる。
太っちょの商人の方は私を受け取って満足そうな顔を浮かべていた。
「先生ぇ、間に合ったよぉ」
「トラ吉よ、何を慌てて来たのじゃ」
「芋虫くんとさよならするからお別れの挨拶をしようと思ってぇ」
「ちょめ」 (なんていい奴なのトラ吉は。私との別れがつらくて悲しいのね。うぅ……私も本当は辛いのよ。グスン)
私とトラ吉は見つめ合ったままお互いの気持ちを伝えあっている。
そのトラ吉の純粋な瞳は全く濁りもなくキラキラと輝いている。
頼りない奴だと思っていたけど情には厚いのね。
だけど私は芋虫じゃないの。
ちょめ虫なのよ。
「また会えるよねぇ。元気でねぇ」
「ちょめ」 (私は会いたくないけど今はそう言うことにしておいてあげる)
私とトラ吉は目を潤ませながら感動の別れをしていると太っちょの商人が割って入って来た。
「さあ、いくでやんす」
「ちょめ」 (もう。気の利かない奴ね。そんなんじゃモテないわよ)
まあ、太っちょの商人がモテるとは思わないけど。
「もう、悪さはするでないぞ」
「バイバイ」
私はボロにゃんとトラ吉に見送られながら太った商人に連れられて行った。