第十七話 命乞い
自由になれるのはこれほどまでに尊いことなのか。
銀色の首輪がやけに重かったので体が軽くなっている。
普段、自由でいることに価値など感じていない。
それがあたり前になっているから気づかないのだ。
でも、こうして拘束から解放されると喜びもひとしおだ。
「ちょめーっ」 (うーん、気持ちいい。空気がこんなに美味しいなんてはじめて知った)
私は両手を伸ばすのではなく頭を上に引っ張って背筋を伸ばした。
ちょめ虫に背骨があるのかはわからなが気持ちよくなれた。
「ちょめ?」 (本当に行ってもいいのよね?まさか後ろから銃で撃つなんてことはしないよね)
荒野を思わせるようなこのただっ広い大地を見ていると西部劇を思い浮かべる。
西部劇では犯人を解放させてから銃で撃つシーンはよくあることだ。
まるで獣を追い立てるように足元に銃を撃って楽しむのだ。
でも、ボロにゃんは杖しか持っていないから安心ね。
「ちょめ」 (それじゃあ遠慮なく行かせてもらいます。”マコ、行き○ーす”)
私はどこかで聞いたことあるような台詞を吐いてボロにゃん達の馬車から離れて行った。
あまりぐずぐずしているとボロにゃんの気が変わるかもしれない。
とかく年寄りは気まぐれだから気をつけた方がいいのだ。
後を振り返るとボロにゃん達は馬車に乗るところだった。
(ちょめジイ、やっと解放されたわよ。これで”カワイ子ちゃんの生ぱんつを集める”ことができるわ)
(ほう、そうかい。それはよかったのじゃ)
(で、この近くに街はないかしら。街へ行けばカワイ子ちゃんもいるはずよ)
(ない)
私の聞き間違いだったのかしら。
今、ちょめジイは”ない”と言ったような気がしたのだけど。
(冗談はいいから本当のことを教えて)
(だからないと言っておるのじゃ。この先、50キロは何もないのじゃ)
(50キロですって!)
今の私からしたら50キロなんて地獄のような途方もない長さだ。
何日かければ辿り着くのかわからないほど遠い。
おまけにこの辺りには水辺はないようだから水分補給もできない。
まさに地獄に落とされた子羊のような状況だ。
(ねぇ、ちょめジイ。私を近くの街まで転移してよ。こんな距離なんて歩けないわ)
(ダメじゃ。ワシは召喚はできるが転移魔法は知らんのじゃ)
(何よ、役に立たないわね。なら、ちょめジイのいる場所まで召喚してよ)
(ダメじゃ。今、ワシは忙しいからのう)
(忙しいって、またテレビを観ているのでしょう。今頃の時間だと”ワイ○ショー”かしら)
(ブブー。午後の”刑○ドラマ”じゃ。凸凹コンビがいい味を出しておるからのう)
(あーん、私も観たかった。まだ、全シーズンを観ていないのよね……って違-う!)
ついついちょめジイがいらぬことを口走るのでノリツッコミをしてしまった。
自分の娯楽のために私のことをほおっておくなんて無責任すぎる。
そもそも”カワイ子ちゃんの生ぱんつを100枚集めろ”と言ったのはちょめジイの方なのだ。
(そんなしょうもないことしているなら”アニ☆プラ”の音楽を聴かせてよ。久しぶりに”ななブー”の歌声を聴いて癒されたいわ)
(ダメじゃ。お主にはやることがあるじゃろう)
(それは後でするからちょっとだけ聴かせてよ。パワーをチャージしないと頑張れないわ)
(ダメじゃ)
(自分だけズルい。この世界に悪影響を与えるものは召喚できないんでしょう)
(ワシは教養を身に着けるためにお主の世界のコンテンツを楽しんでいるのじゃ。じゃからいいのじゃ)
今、”楽しんでいる”って言ったわよね。
やっぱり娯楽に業じているだけじゃない。
そもそもちょめジイに教養なんてないわよ。
”カワイ子ちゃんの生ぱんつを100枚集めろ”と言っているぐらいだからね。
超ド級の変態ロリコンエロジジイにあるのは下心だけだ。
(そんな意地悪をするなら”カワイ子ちゃんの生ぱんつ”なんて集めないからね)
(ワシは構わんのじゃ。お主がちょめ虫として1000年生きるだけじゃからのう)
(くぅ……いつも弱いところを突いて来るんだから)
(年の功の差じゃ)
ちょめジイはただズル賢いだけよ。
いたいけな14歳の美少女をちょめ虫に転生するぐらいだからね。
きっと私がいなくなったら他の美少女をちょめ虫に転生するんだわ。
そして私にしたように”カワイ子ちゃんの生ぱんつを100枚集めさせる”はずよ。
(もういいわ。自分で何とかする)
(はじめからそうしておればいいのじゃ。それでは健闘を祈っておるぞ)
プツン。
ちょめジイは無責任なことを言って念話を切った。
(問題はこの後どうするかよね……)
自力で他の街までは行けそうにもないから他の手段を考えなければならない。
この辺りは行商人の馬車は通らなそうだから馬車が来るのを待っていることもできない。
となると残るはボロにゃん達の馬車に戻るしかないってことよね。
後を振り返るとボロにゃん達の馬車は出発するところだった。
私はすかさず全速力で走って?歩いて行って馬車の前に立ちはだかる。
「ちょめ!」 (停まって!私も乗せて行って!)
「何の用じゃ。お主は解放したはずじゃろう。好きなところへ行ってよいぞ」
「ちょめちょめ」 (そんなことを言って私をここへ置き去りにするだけでしょう)
「トラ吉や」
「はい、先生」
ボロにゃんはトラ吉に指示を出して私を避けて馬車を歩かせる。
すかさず私は素早く横に移動して再び馬車の前に立ちはだかった。
「邪魔じゃ。そこをどくのじゃ」
「ちょめ」 (嫌よ)
「全く、ワシの恩赦を無駄にするつもりなのか。お主は自由なのじゃ。行きたいところへ行くがよい」
「ちょめちょめ」 (そんなことをしたら私は餓死しちゃうわ。だからあなたと一緒に行かないとダメなの)
私がガンとして馬車の前から動かないとボロにゃんも呆れた顔を浮かべる。
だけど馬車には乗せてくれない。
私を馬車に乗せたら何のためにここまで連れて来たのかわからなくなるからだ。
はじめからボロにゃんは私をここに置き去りにして餓死させるつもりだった。
裁判で罰を負わせられないのならば、置き去りにした方がいいと考えたようだ。
だけど私にそのことを気づかれてしまって困っている状況らしい。
「お主は罪を犯したのじゃ。だから罰を受けるのは当然のことじゃ。命があるだけでも感謝してもらいたいものじゃ」
「ちょめちょめ」 (そんなことは同じことよ。私がここで餓死したら意味ないじゃん)
「先生、いっしょに連れて行った方がいいんじゃないですか」
「馬鹿を言うでない。わざわざここへ来た意味がなくなるじゃろう」
見かねたトラ吉が助け舟を渡すとボロにゃんはきっぱりと切り捨てた。
ボロにゃんはあくまでも私をここに置き去りにしたいようだ。
そうすればイメル村の村長との約束も守れるし、罰を与えることができる。
それはボロにゃんの正義感から来るものなのだろうが私には受け入れられない。
「ちょめちょめ」 (頑として譲らないからね。何をされようがここから動かないわ)
「仕方ないのじゃ。トラ吉よ、あ奴の身柄を拘束するのじゃ」
「しかし、先生それでは」
「言うことを聞かないのなら聞かせるしかないのじゃ」
そうボロにゃんに命令されてトラ吉は荷台から銀色の首輪を持って来る。
そして私のところへやって来ると銀色の首輪をはめようとした。
瞬間、私は身の危険を感じて周囲の景色に擬態する。
「あっ、見えなくなっちゃいました」
「あ奴は近くにおるのじゃ。片っ端から探すのじゃ」
(あなた達には無理よ。だって私の擬態は完璧だもの)
私はすぐさま馬車の前から離れて荷台に潜り込んだ。
ボロにゃんとトラ吉は馬車の前で私を探している。
(このままここに隠れてやり過ごすしかないわ)
私は荷物の影に身を隠して息を潜める。
「仕方ないのじゃ。あれを使うのじゃ」
そう言ってボロにゃんが用意したのは親子丼だった。
親子丼を置いてその上に籠を棒で支えて罠を作った。
よく鳥を捕まえる時に見かける罠だ。
「あ奴は朝食を摂っていないからお腹が空いているのじゃ。だから、ここで待っておれば罠に引っかかるのじゃ」
「こんな初歩的な罠に引っかかるんですか」
「大丈夫じゃ」
ボロにゃんとトラ吉は罠の近くに身を潜めながら私がやって来るのを待つ。
わざわざ美味しい匂いが私のところまで届くように団扇で仰いでいる。
クンクン。
(美味しそうな匂いがするわ。この匂いは親子丼ね。朝から何も食べてないしお腹が空いたわ)
でもこれはボロにゃん達の罠よね。
引っかかっては行けないわ。
だけど……。
食欲の方が勝って無意識のうちに親子丼の前まで来ていた。
(はっ!ダメよ、私。こんな初歩的な罠に引っかかったら末代までの恥だわ)
よだれが滴るように口から溢れ出して来る。
お腹は容赦なくグーグー鳴るし目の前の親子丼を求めている。
その様子を離れたところから見ていたボロにゃんは追い打ちをかけて来た。
トラ吉にこれでもかと言うぐらいに団扇を仰がせて美味しい匂いを漂わせた。
(あん……もうダメ。我慢できない。頂きまーす!)
私が親子丼に飛び込んで行ったのを確認してからボロにゃんがロープを引っ張った。
すると、籠が上から落ちて来て私はまんまと罠に引っかかってしまった。
「ちょめちょめ!」 (いや!出してよ!私は捕まりたくない!)
「ホホホ。もう逃げられんのじゃ。お主は食にがめついから作戦が成功したのじゃ」
「本当にこんなので捕まるなんて」
「ちょめ……」 (一生の不覚だわ。こんな単純な罠に引っかかってしまうなんて)
トラ吉も私が捕まったのを見て驚いている。
まさかこんな単純な罠に引っかからないと思っていたからだ。
私自身だって同じことを思っている。
食欲が理性に勝ってしまったから捕まったのだ。
(なら、せめて親子丼だけでも)
「これはやらんのじゃ」
「ちょめ!」 (ちょっと!それは私の親子丼よ。返してちょうだい)
私が親子丼に食いつこうとするとボロにゃんが籠の外から引き寄せた。
そしてトラ吉に籠を持ち上げさせて銀色の首輪を私に嵌めた。
「これでお主は何もできんのじゃ」
「ちょめ……」 (体の力が抜けて行くわ……。銀色の首輪に吸い取られているみたい)
「トラ吉よ、牢屋を持って来てこやつを中に閉じ込めるのじゃ」
「あまり気が進みませんけど仕方ありませんね」
トラ吉はボロにゃんに言われた通り牢屋を持って来ると私を中に閉じ込めた。
「ムホホホ。これでいいのじゃ。トラ吉よ、出発するのじゃ」
「先生、このまま置いてくのですか」
「こうしておけば悪さもできんじゃろう」
「ちょめ……」 (酷いわ……。こんなの地獄に落ちたようなものじゃない。私はこのまま餓死してミイラになるんだわ……グスン)
ちょめ虫がミイラになるとどうなるのかしら。
骨があれば白骨化するだろうけどなければ消えてなくなるかもしれない。
きっと風船のように縮こまって土に帰るんだわ。
私は今を憂いて目に涙をいっぱい溜めてボロボロと零した。
「先生、やっぱり連れて行った方がいいんじゃないですか」
「トラ吉よ、情に流されては正義は貫けぬぞ。あ奴は罪を犯したのじゃ。ならば罰を受ける必要があるのじゃ」
「でも、これでは処刑ではないですか。僕達に裁きを下す権利はありませんよ」
「ムムム。それを言ったらお終いなのじゃ。お主は元に戻すのじゃ」
そう言って反論して来るトラ吉のグルグルメガネを取り上げて元の頼りないトラ吉に戻した。
「先生ぃ。ぼくは……」
「トラ吉よ、出発じゃ」
ボロにゃんはトラ吉を馬車に乗せると私を置いて来た道を引き返して行った。
(ちょっと、ちょめジイ!絶体絶命よ!助けて!)
(……)
(ちょっと、聞こえているんでしょう。無視しないで)
(何じゃ。今、いいところなんじゃ。後にしておくれ)
(後って。テレビなんていつでも観れるでしょう。今は私の言うことを聞いてよ)
プツン。
(ちょっと!ちょめジイ。念話を切らないでよ)
今のちょめジイはテレビに夢中になっている子供と同じだ。
周りからいくら話しかけても上の空でテレビの世界にハマっている。
”いいところ”なんて言っていたから謎解きのシーンになっているのね。
(ちょめジイに何とかしてもらわないと私ひとりじゃ無理よ)
首にハマっている銀色の首輪のせいで力が入らない。
首輪が能力を吸い取っているから思うように力が出ない。
テレキネシスが使えればちょっとはマシだったのだろうけど。
おまけに銀色の首輪はけっこう重いから歩くのにも一苦労だ。
体を動かして鉄格子に顔を押しあててみるが通り抜けられそうにもない。
それは私(ちょめ虫)の頭のサイズが思っている以上に大きいからだ。
(暑いわ……)
ギラギラと照りつける太陽の日差しがもろに受けているから想像以上に暑い。
おまけに牢屋の鉄格子も熱を帯びていて触れると熱くなっているのだ。
(こんなところにいたらミイラになっちゃうわ……ねぇ、ちょめジイ!返事をしなさい!)
(何じゃ)
(”何じゃ”じゃないわよ。お願いだから、ここから出して)
(また、捕まってしもうたのか。世話が焼けるのう)
(ここから出してくれたら何だってするから早く出して)
(さて、どうしたものか)
(何を迷っているのよ。いたいけな14歳の美少女が助けを求めているのよ。助けるのが筋でしょう。それとも見捨てるつもり?)
(お主はちょめ虫じゃからな。それに今は何もせん方がいいわい)
(ちょっと!)
と言う感じで私が助けを求めてもちょめジイは何もしてくれなかった。
理由があるみたいだが今の私には関係ない。
一刻も早くこの絶体絶命の状態から逃れることが必要なのだ。
(そのうち助けが来るから待っておれ)
(適当なことを抜かさないでよ。こんな辺境の地に誰が立ち寄るっての。どうせ面倒くさいから適当なことを言ってるんでしょう)
(ワシは刑事ドラマの続きを観ねばならんのじゃ。次は2時間スペシャルじゃ)
(私とテレビとどっちが大切なのよ)
(もちろんテレビじゃ。それじゃあな)
プツン。
そんな薄情なことを言ってちょめジイは念話を切ってしまった。
(全くムカつくわ!私が死にそうだってのにテレビをとるんだから。これが彼氏だったらグーパンチで鼻血ブーよ)
と言っても私には彼氏はいなかったけどね。
何となくだがノリでつい口走ってしまったのだ。
私は異性に夢中になっているよりも”ななブー”に夢中になっていたい。
彼氏がいてもエッチなことを求められるだけだからいない方がいい。
それよりも”ななブー”だったら癒してくれるし、元気もくれるから最高なのだ。
(最後に”ななブー”の声が聞きたかったな……)
こうして牢屋に閉じ込められてから1時間は経っただろうか。
すっかり疲弊して私は床に寝そべりながら空を見上げていた。
もう立ち上がる気力もない。
(もう……ダメ……)
力尽きて瞼を閉じると遠くから馬車が近づいて来る音が聞えて来た。
幻かと思っていたが馬車の音はだんだんと大きくなって耳に届く。
そして馬車が私の近くで停まると馬車から誰かが降りて来た。
「まだ、生きておるようじゃな」
「手遅れにならなくてよかったです」
そう言いながらボロにゃんとトラ吉は私の様子を確める。
そして牢屋ごと私を持ち上げて馬車の荷台に乗せた。
「これでよかったのじゃろうか」
「いいんですよ。僕達は探偵なんですから」
「おい、起きるのじゃ」
ボロにゃんは牢屋をグラグラ揺らしながら眠っている私を呼び起こす。
徐に瞼を空けると目の前にボロにゃんとトラ吉の顔が目に入った。
「ちょめ……」 (助かった……)
「とりあえずお主を連れて行くが助けた訳ではないからな。お主には罰を受けてもらわねばならぬのじゃ」
「ちょめ」 (何だっていいわ。助かるなら)
「とりあえず場所を移動しましょう。日が暮れる前に交易路まで戻らないと」
と言う訳でボロにゃんとトラ吉は私を乗せて来た道を引き返して行った。
ボロにゃんとトラ吉がなぜ引き返して来たのかはわからない。
私を置き去りにしてもボロにゃん達には問題がないのだから。
今は真意はわからないけれど助かった命を大切にしよう。
ガタゴトガタゴト。
馬車の中が静かだから馬車の音だけが響いている。
ボロにゃんとトラ吉はお喋りすることなく馬車に揺られたまま。
「ちょめ」 (なんか喋ってよ。気まずいじゃない)
私はひとりで荷台に乗せられいるから余計に馬車の音が聞える。
けして乗り心地のいい馬車ではないが歩くよりはマシと言ったところ。
ただ、牢屋に入れられたままになっているので心地よくはない。
ガタゴトガタゴト。
頭を上げて御者台に視線を向けるとボロにゃんとトラ吉の背中が見える。
見慣れた景色ではないが幾分か二人の背中が小さく見えたような気がした。
「先生、これからどうするのですか?」
「ふむ。裁判にもかけられぬからな。牢屋に閉じ込めておくこともできぬ」
「なら、解放した方がいいですね。罪を問えないのならば」
(ナイス、トラ吉!いいことをいうじゃない。もっと推して)
そもそも私は実行犯であって真犯人じゃないから罪は軽くていいはずだ。
それもちょめジイから脅されて仕方なくしたことだから情状酌量の余地はあるだろう。
死刑とか強制労働とか物騒なことを言わずに速やかに解放するのがいいのだ。
「じゃが、そうするとまた犯行を繰り返すやもしれぬ」
「その可能性はありますね。とかくこの手の犯罪は常習性がありますから」
(何を言っているのよ、トラ吉。私は女の子なのよ。女子のぱんつを欲しがる訳ないじゃない。”カワイ子ちゃんの生ぱんつ”を欲しがっているのはちょめジイであって私ではないの)
ボロにゃんとトラ吉の中では私は男になっているようだ。
まあ、幼女のぱんつを奪ったのは事実なんだし疑われてもしかたがない。
ただ、変態だと思われているのは癪に触る。
変態はちょめジイであって私ではないのだから。
「やはり連れて帰って来たのは間違いやもしれぬ」
「ですが、あのまま置き去りにしたら今度は僕達が裁かれてしまいますよ。どんな犯人にも人権はありますから」
「まあ、あやつの場合は”虫権”とでも言うじゃろうか」
(”虫権?”まあいいわ。この際、助かるならばなんでもいいわ。本当は人権で正解なんだけどね)
ボロにゃんは困ったような顔をしながら今さらながらに後悔している。
それを嗜めるようにトラ吉がフォローすると余計にボロにゃんの顔が曇った。
「どこかの市場で売りに出すのがいいかもしれぬ。あやつは人間ではないから人身売買にはならんじゃろう」
「家畜扱いですか。まあ、打倒ですね」
(いやん。こんないたいけな私を売りに出すっての。これじゃあ本当に”ドナ○ナ”じゃない)
私の頭の中では”ドナ○ナ”がヘビロテしている。
その度に気分が深い海の底へと沈んで行く。
「じゃがどんな働きをするのかはわからんがな」
「そうですね。牛や山羊のようにお乳が出る訳でもないですし、豚や羊のように肉になる訳でもないですからね。せめて卵でも産めば鶏の代わりになるんですけどね」
(乙女の前でそんなツッコんだ話をしないでよ。私はまだ処女なのよ。卵なんて産める訳ないじゃない……って、違ーう!今はちょめ虫だったわ)
まだちょめ虫の生態系は私自身、把握していない。
オスなのかメスなのかもわからないし、これが成虫なのかもわからない。
もしかしたら成長したらキレイな蝶になる可能性だってある。
”みにくい○ヒルの子”が白鳥になったように私もキレイになれるはずだ。
「もしかしがら、雑草を食べてくれるかもしれんのじゃ」
「芋虫みたいですからあり得ますね」
「そうすれば山羊のように人の役に立つのじゃ」
(ブブブー。残念でした。私は雑草を食べれません。だから山羊の代わりになんてならないわ)
ボロにゃんとトラ吉はひとつの答えを見出してホッとしている。
このまま私を連れて帰ってもお荷物だから余計に嬉しいのだろう。
「王都ダンデールの市場を目指すのじゃ」
「はい、先生」
と言うことで私は王都ダンデールの市場で売られることが決まった。
果たしてどれぐらいの価値がつくのか私自身楽しみである。