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第十四話 真相の解明

村人達はまだ信じられない顔を浮かべている。

私の姿もそうだが私が犯行をしたとは思えない様子。

どこからどう見てもちょめ虫なのだから無理もない。


「では、犯行を振り返るのじゃ。トラ吉よ」

「はい、先生」


ボロにゃんの指示を受けてトラ吉はホワイトボードを回転させる。

そこには被害者の証言と現場に残された写真が貼ってあった。


「真犯人はバーべーキューの匂いを辿ってこの森にやって来た。そこで第一現場で被害者であるいちごぱんつの幼女と出会ったのじゃ。恐らく幼女も真犯人の姿を見て警戒はしなかったのじゃろう。どこからどう見ても危害を加えるような感じではないからな」

「確かに小太郎よりも無害に見えるのじゃ」

「ワンワン」


村長の本音に反応して小太郎は抗議のために吠えて注意する。

犬語はわからないが私には何となくそう言っているように思えた。


「そしていちごぱんつの幼女は真犯人といっしょに泥遊びをしたのじゃ」

「泥遊び?」

「この写真を見て見るのじゃ。これは泥んこ遊びをした跡じゃ」

「確かに地面が抉れているな」

(そこまでわかってしまうのね。さすがは迷探偵だわ)


ただ、楽しんでいたのはいちごぱんつの幼女だけで私は拷問を受けていたのだけど。


「いちごぱんつの幼女からしたら真犯人はおもちゃと同じじゃったのだ。次の写真を見てくれ」

「葉っぱの写真だな。これがどうしたんだ?」

「泥んこになった真犯人を小川で洗って、その葉っぱでフキフキしたのじゃ」

「そう言われてみたらそうなのかもしれないな」

(そうよ。ボロにゃんの言う通りだわ。私はいちごぱんつの幼女のおもちゃになっていたの)


それだけではないけどね。

おもちゃにされる前は踏まれたり抓られたりしていたのだから。

私はある意味、いちごぱんつの幼女からイジメられていた被害者よ。


「その後でいちごぱんつの幼女は疲れて眠ってしまった。この写真にある木の根元の苔が剥がれているのが証拠じゃ」

「確かに何となく人型に苔が削られてあるな」

(そんなことまでわかっちゃうなんて。恐るべし、ボロにゃん)


村人たちは食い入るように証拠写真を見つめながら頷いている。


「と言うことは真犯人はいちごぱんつの幼女が眠っている間に犯行に及んだのか」

「そう言うことになるのじゃ」

「卑劣な真犯人だな。無抵抗の幼女を襲うなんて」

「人間のすることじゃない」

(人間じゃないもん。ちょめ虫だもん)


村人たちの冷たい視線が突き刺さるので私は開き直った。

たけどそれはちょめ虫であることを認めることなので複雑な気持になった。


「その時に掃除機のような道具を使ったのじゃな」

「だが、その真犯人には手がないぞ。どうやって掃除機を扱ったんだ」

「それは恐らくテレキネシスのような力を使ったのじゃ」

「テレキネシス?」

「念力でモノを動かす力じゃ」

(何でそこまでわかっちゃうのよ。正解だけど認めたくないわ)


ボロにゃんは村人の反応を見て少し誇らしげだ。

自慢の髭を撫でながら得意気な顔を浮かべている。

村人の知らないテレキネシスを知っているから余計に鼻が高いのだろう。


「そんな力を真犯人が持っているとでも言うのか」

「姿を隠せる擬態の能力も持っているのじゃ。テレキネシスを身につけていてもおかしくない」

(私の能力が全て明らかにされちゃったじゃない。もう、他には何もないわよ)


ボロにゃんの深い推理力で私の能力はバレてしまった。

ここまで明らかにされるなんて思っても見なかったから逆に驚きだ。

もしかしたら黒幕であるちょめジイのことまで行きつくかもしれない。


「なら、その掃除機のような道具はどこにあるんだ?」

「隠し持っているようには見えんしな」

「それはおいおい調べるとして話を先に進めるのじゃ」


今のボロにゃんにも”ちょめリコ棒”の存在はわかっていないようだ。

まあ、”ちょめリコ棒”がぱんつを吸い込むなんて私にも信じられなかったのだから。


「いちごぱんつの幼女からぱんつを奪うと幼女が目を覚ましたのじゃ。そして異変に気づいてママのところへ戻ったと考えられる」

「確かにぱんつを履いていなければおまたがスースーするだろうしな」

(その通りよ。いちごぱんつの幼女は”おまたがスースーする”と言ってママのところへ戻ったの)


初夏の温かな気温に包まれていたけどぱんつを履いてなければ違和感を感じるからね。

そのおかげで私は家族連れがキャンプをしていた河原まで辿り着くことができたの。


「真犯人はいちごぱんつの幼女の後を追い駆けてキャンプ場までやって来たのじゃ。そして河原で水遊びをしている幼女たちに気づいた」

「ここから連続で犯行が行われたのだな」

「ただ、不用意に近づけば見つかってしまうから真犯人は水中に身を隠したのじゃ。この写真を見てくれ」


ボロにゃんがホワイトボードに貼りつけてあった写真に指を差す。


「何だ。石ころの写真じゃないか。それがどうしたんだ」

「よく見て見るのじゃ。この石には苔が不自然にそぎ落とされてある」

「だから何なんだよ」

「じゃから、川に流されないように真犯人がこの石を口の中に入れたのじゃ。その時に苔が削ぎ落されたのじゃ」

(うううぅ……。本当のことだから否定できない)


ボロにゃんが考えている通り私の体は思っている以上に軽い。

いちごぱんつの幼女でも軽く抱きかかえることができるぐらいだ。

だから、石を口に入れないと川に流されてしまうからそうしたのだ。


「水中を歩きながら幼女たちに近づいて行き、幼女たちからぱんつを奪ったのじゃ。幼女たちが”緑色のキノコ”を見たと言っておったのは真犯人を見たからじゃ」

「そこまでして幼女のぱんつを入手したいだなんて真犯人の目的は何なんだ」

「ただの変態じゃないのか。顔もそんな顔をしているし」

(いやん。顔のことは言わないで。私だって好きでこの顔になった訳じゃないの)


全てはちょめジイのイタズラ心でこうなってしまったのだ。

私に言うことを聞かせるためわざとちょめ虫に転生させた。

そして”カワイ子ちゃんの生ぱんつを100枚集める”と言う使命を与えて自分の欲求を満たそうとしているのよ。

”カワイ子ちゃんの生ぱんつ”を欲しがっているのはちょめジイであって私じゃないの。


「その後で大人達が慌てて村に戻って来たのでその後を追い駆けたのじゃ。ただ、真犯人はお腹が空いていた。だから民家に忍び込んで冷蔵庫を荒らしたのじゃ」

「姿を隠せるならば簡単に民家に忍び込むことはできるな」

「家畜がやられなくてよかったのじゃ」

(私は狼じゃないのよ。生きている家畜なんて食べる訳ないじゃない)


今もお腹が空いているけど我慢だわ。

こんな所で食事を要求しても何も出て来ないしね。


「その後で村の男達による森の一斉捜索がはじまった。じゃが、既に真犯人は村の中にいたので何も見つけられなかったのじゃ」

「俺達は犯人は人間だと思っていたからな」

「真犯人だとは思ってもみなかった」


まあ、普通に考えれば犯人は人間で超ド級の変態であると考える。

幼女の生ぱんつを奪うなんて相当な変態がやりそうなことなのだから。

それにあまりに人間臭い犯行でもある。


「ワシらがこの村に来てからは真犯人はワシ達と行動を共にしていたのじゃ。恐らくワシ達が事件の真相を掴むことを恐れたのじゃろう」

「じゃあ、北の山を登った時に感じた重さも真犯人だったのですか?」

「そうじゃ。ワシと同じようにお主の背中に乗ったのじゃ」

「先生。わかっていたらな教えてくださいよ。大変だったんですよ」

「トラ吉には気の毒化と思ったのじゃが、真相を掴むまでは公表できなかったのじゃ」

(私が傍にいることを知っておきながら泳がせていたなんてあんまりだわ)


私はずっとボロにゃんの掌の上で踊らされていたのだ。

最初からわかっていたらボロにゃん達には近づかなかった。

そんな危険の伴うことをするよりどこかに身を隠していた方が安全なのだから。


「そして真犯人はワシ達に捕まった。これが真犯人の犯行の真相じゃ」

(くぅ……悔しいけど私の負けだわ)


さすがは迷探偵と言ったところか。

”名”じゃなくて”迷”だからポンコツかと思っていたのだけど違ったようね。


「ならばこれから真犯人の処遇を決めねばならんのじゃ」

「このまま野放しにしておくと第三の犠牲者が出るから牢屋に拘束しておくべきだ」

「この村には警察はないから牢屋なんてないぞ」

「なら、家畜小屋の屋根に括り付けて家畜のエサにしよう」

「家畜だってこんなやつを食べるのは嫌だろうよ」


村人達はさまざまな意見を出して私の処遇をどうするか考えている。

飛び出す言葉は非情なものばかりで生殺しにされてしまうような内容だ。

確かに私は罪を犯したけれどそれ相応の罰でないと受け入れられない。


「それよりも被害者の救済の方が先だ。怖い思いをして心に傷を負っているかもしれない」

「それならカウンセリングが必要だな。心のケアをしておかないと大人になってから困ることになる」

(心のケアが欲しいのは私の方よ。こんな姿になって乙女心は傷ついているの)


村人の言葉に他の村人たちの考え方も変わる。

被害者の心のケアは事件が起こったらまず先に行わなければならないことだ。

ちょっとした心の傷を残しておくと子供の成長に影響を与えてしまうからだ。

ただ、それは真犯人である私にも言えることで心理カウンセリングしてもらいたい。

なんて言ったって私はまだ傷つきやすい花の14歳なのだから。


「わかったのじゃ。王都から専門のカウンセラーを呼ぶことにするのじゃ」

「だが、専門のカウンセラーを呼ぶならそれなりのお金が必要になるんじゃないのか」

「診療費と出張費と滞在費を合わせたらかなりの金額になるぞ」

「村の財政にはそんな余裕はないぞ。今回のことで村の経済が滞っているからな」

(それならボロにゃん達の報酬を取り上げればいいわ。金貨30枚もあれば王都からカウンセラーぐらい呼べるでしょう)


私としては何としてでもボロにゃんにギャフンと言わせたい。

事件の真相を知るために私を掌で躍らせていたのだからその償いはさせたいのだ。

たが、私の思惑とは裏腹に話は思わぬ方向へと進んで行く。


「なら、その費用は真犯人に払わせるべきだ。事件を起こしたのは真犯人だからそれぐらいしてもいいだろう」

「確かにそうだな。それで罪が軽くなる訳ではないが、真犯人には責任がある」

「だが、真犯人はどう見ても金を持っているようには見えないぞ」

(そうよ。私は無一文なの。今夜の食事の心配をしなければならないぐらい貧乏なの。だから弁済なんてできないわ)


ちょめジイがそう言う設定にするから私は生まれながらに貧乏なのだ。

この世界に来てまともな食事にありつけたことは一度もない。

ちょめジイの恩情でツナマヨを食べたのがピークだ。


「それならば働かせればいい。お金を持っていないのなら強制労働させるべきだ」

「それはいいアイデアだな。こんな風貌でも何かの役には立つだろう」

「具体的に何の仕事をさせるつもりだ?」

「そうだな。家畜の世話が妥当かな」

「いや、畑の雑草を摘む仕事の方があう。いかにも葉っぱを食しているみたいだしな。ヤギと同じで放牧させておけば雑草を食べてくれるさ」

(そんなこと出来る訳ないじゃない。私はちょめ虫だけど雑草は体に合わないのよ。雑草なんて食べたらお腹を壊しちゃうわ)


村人達のアイデアもよからぬ方向へエスカレートして行く。

確かに罪を犯したのは私だけど強制労働だなんて酷いわ。

これじゃあ奴隷と同じじゃない。


「だが、真犯人は能力者だ。放牧なんてさせたら逃げられてしまうぞ」

「それもそうだな。やっぱり処刑した方がいいんじゃないか」

「そうだな。二度あるこどは三度あるとも言うしな」

「また第三の被害者が出ない可能性もない訳じゃないしな」

(なんて物騒な会話をしているの。年端もいかない14歳の美少女を捕まえて処刑だなんて。あなた達は鬼ね。悪魔以上の悪魔だわ)


幼女のぱんつを奪っただけで処刑だなんてドが過ぎている。

日本で言えば窃盗や迷惑条例違反程度の事件なのに。

それに幼女たちの体には傷はつけていないのだ。

婦女暴行罪にはなっていない。


「処刑と言うことは死刑なのか?」

「それが一番手っ取り早いな」

「新種の生物のようだから生態系に影響が出るかもしれない」

「生かしておくよりも殺した方が影響はないはずだ」

(何よ、それ!幼女のぱんつを奪っただけで死刑だなんてあんまりよ!日本のどこの法律を見てもそんな厳罰はどこにもないわ!)


だが、私の思いとは裏腹に村人達の意見はまとまりを見せはじめる。

村人が言うように新種の生物が生まれたら生態系には影響が出てしまうのだ。

そうなることで元から生息している生物が絶滅してしまえば目も当てられない。

日本で外来種が溢れかえっているような状態になってしまうのだから。


「しかし、幼女のぱんつを奪ったぐらいで死刑だなんて厳し過ぎやしないか」

(いいわよ。もっと言いなさい)

「無闇に前例を作ればとりとめもなくなってしまうかもしれない」

(そうよ、そうよ。人間は前例に弱いから何でもかんでも死刑にしてしまうわ)


村人の最もな意見を聞いて他の村人達の興奮が冷める。

冷静に考えて見れば幼女のぱんつを奪ったぐらいで死刑は厳し過ぎるのだ。

せめて懲役6ヶ月とか罰金30万円とかが妥当な線だろう。


「だが、幼女のぱんつを奪っただけとは言え幼女に対する性的虐待なのだぞ。それ相応の罰を与えるべきだ」

「性的な犯罪は繰り返されるのが常だからな。生かしておけばまた罪を犯す」

「やっぱり死刑にするべきだ」

(なんでそうなるのよ。私をこの世から抹殺したいわけ)


ただ、私は幼女のぱんつを奪ったとは言え性癖から来るものではない。

ちょめジイに脅されて従っているに過ぎない。

本当の性的虐待をしているのはちょめジイの方なのよ。


「何も死刑にこだわる必要はないんじゃないか」

「どう言う意味だよ」

「真犯人を表に出さなければいいだけの話だ」

「地下牢に閉じ込めておくってのか」

「そうだ。それなら悪い前例も作らなくていいし、幼女たちの安全も守られる」

「だが、この村には地下牢なんてないぞ」


イメル村は普通の村だから警察もなければ牢屋もない。

あるのは家畜小屋ばかりで普通の平和な村なのだ。

だから、この村に私を拘束しておく方法はどこにもない。


「だから探偵さんに任せるんだよ。王都に行けば地下牢だってあるだろう」

「確かに王都には地下牢はあるのじゃが犯罪者専用の牢屋だけじゃ。きちんと裁判をして裁かれた者達が利用しておる」

「なら、真犯人も裁判をして罪を償わせればいいだろう」

「だが、それだとかなりの時間がかかるのじゃ」


どの世界も同じらしく裁判にはそれなりに時間がかかるようだ。

まあ、犯人が罪を犯したからと言って勝手に裁きを与えることができないのだ。

それは犯人にも人権があるし、冤罪と言う可能性もあるからだ。

だから、慎重に調査を進めて証拠を積み上げて裁判をする必要がある。


「それでも構わん。この村に平和が訪れるのであれば覚悟をするのじゃ」

「俺も村長の意見に賛成だ。何よりも村の平和を取り戻す方が先だしな」

「真犯人の身柄を拘束していれば事件はもう起こらないしな」

「わかったのじゃ。その代り裁判になったら証人として出廷をしてもらうからな」


と言う訳で私は王都に行って裁判にかけられることが決まった。

でも、これでイメル村の平和は戻って来たことにもなる。

私と言う真犯人が捕まったのだから何も心配することはないのだ。


私は拘束されて自由を奪われてしばらくの間はボロにゃん達の監視下に置かれる。

王都まで私を送還するのはボロにゃんとトラ吉の役割だからだ。

宿屋に戻って来るとボロにゃんは私の首に銀の首輪をはめた。


「これは魔導具のひとつで能力を封じこめる力を持っている。じゃらか、お主が擬態して姿を隠そうとしてもテレキネシスでモノを動かそうとしてもまったくできんのじゃ」

(そんなことある訳ないじゃない。ふんっ……ハァハァハァ。ダメだわ。全然動かない)


試しにテレキネシスを使ってみたがテーブルの上のコップはピクリとも動かなかった。

能力が使えないと言うよりは、この銀の首輪に力が吸収されているかのような感覚だ。


「お主は無力じゃ。ワシに逆らおうとだなんて思うなよ」

(ちぃ、悔しいけれど今は何もできない)


今の私にデキることはない。

ただ、このまま処刑されるのを待つだけだ。


すると、ボロにゃんはくるりと背を向けてお腹を抑えながらトラ吉に話しかけた。


「トラ吉よ。そろそろ夕食にするのじゃ」

「そうですね、もう日が暮れてますし」

「事件はひと段落したから、お祝いに豪勢な夕食にするのじゃ」

「先生、贅沢はよくありませんよ」

「そんな固いことを言うでない。ホイッ」


そう言いながらボロにゃんはトラ吉のグルグルメガネを取り上げた。


「ボク、お肉がいい」

「それじゃあステーキにするのじゃ」


トラ吉は元の気弱そうな顔に戻ると食べたいものを口にした。

グルグルメガネをかけている時のトラ吉は真面目で堅物な性格ようだ。

普段の気弱そうなトラ吉とのギャップがすごい。

ボロにゃんもそれを重々承知をしているのでトラ吉を元に戻したのだ。


ボロにゃんはスタッフを呼びつけると夕食の注文をすませた。


「楽しみだなぁ。お肉なんて久しぶりぃ」

「今回はトラ吉も頑張ってくれたからお礼なのじゃ」

「でも、お金は大丈夫なのぉ?」

「報酬金が入るから大丈夫なのじゃ。しばらく遊んで暮らせるぞ」

(たしかボロにゃんたちがもらえる報酬金は金貨30枚だったわね。なんかスゴそうな金額だけど日本円にしたらいくらぐらいしら)


金貨が全部金で出来ているとしたら相当な金額になるだろう。

今は1gあたり13,000円ぐらいだから金貨1枚の重さが7gだったら10万近くになるわ。

そうなると金貨30枚は300万円相当と言うことね。

破格の報酬金だわ。


そんな下世話なことを頭の中で考えているとスタッフが料理を運んで来た。


「来たのじゃ」

「うわぁ~すごい」


テーブルには3センチぐらい厚みのある肉が鉄板で焼かれながら置かれている。

付け合わせのシーザーサラダとコーンスープ、それにライスが添えられてある。

ボロにゃんは大人だから赤ワイン、トラ吉は子供だからオレンジジュースだった。


ボロにゃんは料理を運んで来たスタッフにチップを渡して下がらせた。


「さあ、いただきますじゃ」

「いただきますぅ」


ボロにゃんとトラ吉はナイフとホークを持って肉を切りはじめる。

豆腐を切るかのようにナイフはすっと肉を切って肉汁を溢れ出す。

その度に肉汁が鉄板に焼かれてジュウジュウと美味しそうな音を出していた。


「モグモグ……うまいのう。ほっぺたがこぼれ落ちそうだわい」

「ほんとぉ、柔らかくておいしい。こんなお肉はじめてぇ」

(ゴクリ……生き地獄だわ。ボロにゃん達がご馳走を食べているのを見ることしかできないなんて)


遠くから見ていても肉の美味しさが伝わって来る。

肉の焦げる匂いと肉汁の香りが私の鼻をくすぐる。

ボロにゃん達が咀嚼するたびに私も口をモグモグさせて疑似体験をする。

よだれは滝のように溢れ出て来て床によだれの池ができていた。


「噛み締めると肉の繊維がホロホロとほどけて口の中が肉汁でいっぱいになるのじゃ」

「こんな幸せでいいのかなぁ」

「いいのじゃ。ワシらは事件を解決したのじゃからな」

(くぅ……なんか腹が立つわ。私をほっておいて自分達だけいい思いをしてるなんて)


私は眼力で呪い殺すようにボロにゃんとトラ吉を睨んでいた。

と言うよりもジュウジュウと美味しそうな音を立てている肉を見ていた。


その鬼のような視線に気づいたのかトラ吉は私のご飯の心配をして来た。


「先生ぇ、僕たちだけで食べててもいいのかなぁ。あの子もほしそうだよぉ」

「ふん。やつは罪人だから食事はなくていいのじゃ。そんなことより早く食べないと冷めてしまうぞ」

「でもぉ……」

(トラ吉は何て心の優しい猫なの。それに比べてボロにゃんは鬼のようだ)


すると、ボロにゃんが席を立つと私のところへ近づいて来てキャベツを丸々ひとつ置いた。


「お主はこれでも食べておるのじゃ」

(何よ!キャベツじゃない。私は青虫じゃないのよ!)


私は反発するように鬼のような形相でボロにゃんを睨みつけるとボロにゃんがキャベツを取り上げた。


「いらんのならあげないのじゃ」

(いやーん。止めてよ。キャベツだけでもいいわ。だけど欲を言うならお肉がいいわ)

「先生ぇ、お肉を欲しそうだよぉ」

(よく言ったトラ吉。私はキャベツよりお肉が食べたいの。もっとプッシュしなさい)


トラ吉は心配気な顔をしながらボロにゃんに声をかける。

私は目をむき出しにしてボロにゃんに眼力で訴えかけた。


「ふむ。虫にお肉は勿体ないのじゃ。だから、あげん」

(なんてことを言うの。虫だって時にはお肉を食べたいものよ。ちょめジイ並みに頑固だわ)


目の前に立っているボロにゃんがちょめジイと重なって見ているだけで腹が立って来る。

人間でもネコでもジジイになると頑固になって融通が利かなくなるのだとこの時、知った。


(あとで覚えておきなさいよ。その髭、むしり取ってボロ雑巾にしてあげるんだから)


私は恨めしそうな顔をしながらボロにゃんに呪いをかけ続けた。

そんな私が憐れに思えたのかトラ吉がお肉をひと切れ切り分けて差し出した。


「はい」

(いいの?)

「うん」

(うわぁ~神様、天使様、トラ吉様ぁぁぁぁ。どっかのボロ雑巾とは違うわ。あなたきっと出世するわよ)


私は差し出されたお肉を口の中に放り込んでめいいっぱい咀嚼した。

その度に溢れんばかりの肉汁が口いっぱいに広がって幸せになる。

民家で生のソーセージを食べた時とは比べ物にならないほどうまい。

やっぱり温かいご飯は格別に美味いわ。


「トラ吉や、甘やかすと癖になるぞ。虫にはキャベツでも食わせておけばいいのじゃ」

(なんてことを言うの、ボロ雑巾。困っている人には優しくするのが人間なのよ。あなたみたいにケチケチしていたらロクな大人にならないわ。ピュアなトラ吉を惑わせないで)

「うん。次から気をつけるよぉ」

(トラ吉。そんなやつの言うことを聞く必要はないわ。あなたはあなたらしくいなくちゃいけないの)


と頭の中で文句を言いながら私はひと切れの肉をたんまりと楽しんだ。

おかげで口の中は雨上がりの空のように幸せの虹がかかっていた。


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