第百五十七話 みわくてきなすけべぱんつ②
二人はすっかりギャルファッションに夢中だ。
ミクが撮影してもらったフォトブックをいっしょに見ている。
普通ならばこの光景は微笑ましいものだが今は違う。
べんじょ虫に夢中になることはいけないことなのだ。
「もう、いい加減にしなさい」
「別にいいじゃん」
「いいじゃん」
「よくない。よくないのよ」
「ちょめ太郎には関係ないでしょ」
「ないでしょ」
私が注意してもミク達はフォトブックを見るのを止めない。
ルイはミクのセリフをおうむ返しして反抗して来た。
「関係あるの。ミク達がべんじょ虫にならないようにしないといけないの」
「べんじょ虫になんてならないよ。もっとカワイくなるだけだから」
「それがいけないの。べんじょ虫ファッションなんてすれば、すぐにべんじょ虫になるのだから」
「あっ、わかった。ちょめ太郎はうらやましいんだね」
「別にうらやましくなんてないわ」
「嘘だー。自分だけメイクできないから僻んでいるんだ」
「僻んでいるんだ」
ミクは私が反対しているので僻んでいると思ったようだ。
だけど、全く僻んではいない。
ミク達を悪の手から救おうとしているだけだ。
「私はミク達と違って本物を見る目があるのよ。べんじょ虫ファッションなんて邪道なの」
「なら、どう言うメイクならいいのよ」
「ミク達はまだメイクなんて早いわ」
「ママみたいなことを言う」
「そんなにメイクしたければおまたをモジャモジャにしてみせてよ」
「そんなのできないよ。おまたの毛は自然に生えて来るんだから」
そもそも10歳でメイクなんて早すぎる。
メイクをしなくても十分カワイイのだからメイクなんて必要ない。
自然のままにしておいた方がカワイくいられるのだ。
「なら、メイクはおあずけね」
「何でちょめ太郎が決めるのよ。私のことじゃない」
「ミクはまだ子供だから私が決めてあげてるの」
「私は子供じゃない」
「子供よ。おっぱいもペタンコだし、お尻も小さいし、子供じゃない」
「おっぱいはこれから大きくなるんだよ。それにお尻だってプリリンとなるんだから」
不合格だ。
今、そうでないと大人とは言えない。
大人はおっぱいが大きくてお尻もプリリンとしていておまたはモジャモジャなのだ。
「ミクはまだ子供よ。メイクなんてダメだから」
「ちょめ太郎が反対しても私はメイクするから」
「反抗期ね。いつからそんな聞き分けのない子になったの。お姉ちゃんは悲しいわ」
「ちょめ太郎なんてお姉ちゃんじゃない。ペットよ」
「ペット?ペットって言ったわね」
「言ったらどうなのよ」
「ご飯抜きよ」
「ママみたいなことを言わないで」
悪い子には罰を与えないといけない。
そうすることで悪いことをしないように躾けるのだ。
ミクはまだ子供だから聞き分けのないことを言う。
だから、後悔させて自分が子供だと認めさせないといけない。
そうしなければ大人になどなれないのだ。
「グフフフ。ちょめ太郎とお姉ちゃんを見ていると楽しい」
「ちょっと、ルイ。ひとりで高みの見物はやめて」
「そうよ。見せ物じゃないのよ」
「だって、ケンカなんてめったに見れないもん」
今まではミクと二人っきりだったからケンカなどしたことがないのだろう。
パパもママも仲良しだし、夫婦ケンカなどしない。
だから、言い合いをしている私とミクが珍しかったのだ。
「もう、この話は終わりよ」
「ルイ、ルイのお部屋でフォトブックを見よう」
「いいよ」
「ちょっと、フォトブックはダメって言ったでしょ」
「私のなのだから私が決めるの」
ミクはプリプリ怒りながらルイを連れてルイの部屋に行った。
「もう、これじゃあダメじゃない。何としてでもミク達からべんじょ虫を遠ざけないと」
べんじょ虫のウイルスは激強だからちょっとやそっとのことじゃ消えない。
たとえミク達からフォトブックを取り上げてもべんじょ虫に対する関心はなくならないだろう。
またパパのお手伝いをして王都へ遊びに行くかもしれない。
「先手を打っておかないといけないわ」
だけど、いい案が思いつかない。
ミクは親孝行したがるからパパのお手伝いをするだろう。
そうしたらまた王都まで農作物を出荷しにいくはずだ。
その時にアーヤのギャルショップに立ち寄るかもしれない。
そうしたらお終いだ。
「うぅ……どうしたらいいの。これじゃあミク達がべんじょ虫になっちゃう」
私はひとり頭を悩ませながらあっちへ行ったりこっちへ行ったりしていた。
すると、例の如く間の悪いタイミングでちょめジイが念話をつないで来る。
「おい、同じぱんつが何枚もあるでないか」
「何よ、突然、念話をつないで来て。第一声がそれ?もっと他に言うことあるでしょ」
「同じぱんつが何枚もあるのはどう言うことじゃ」
「あれ、そうだった。”カワイ子ちゃんのぱんつ集め”に夢中になって気づかなかったわ」
「わざとじゃろ」
「何を藪から棒に。私がそんなことをするわけないでしょ」
ちょめジイからあらぬ疑いをかけられて不機嫌になる。
せっかくぱんつを50枚も集めたのだから褒めるべきだ。
ちょめジイはこう言うところがなっていないから使えない。
「ワシに不満があるから同じぱんつを何枚も集めたのじゃ」
「信用ないな。だから、気づかなかったって言っているでしょ」
「お主のすることは手取足取りわかっておる」
「なら、前言を取り消してよ。そのままだと私が悪いみたいじゃない」
「ダメじゃ。ジジイに二言はないのじゃ」
「もう、融通が利かないんだから」
年をとるとなぜか頑固になる。
たとえ自分が間違っていても認めようとしない。
それだから周りの人達は迷惑を被るのだ。
人より長く生きているのだから少しは譲歩してもらいたい。
「しかし、何じゃ、このぱんつは。恥かしいところが丸く切り取られておる」
「それは”すけべぱんつ”ってやつよ。用入りの女子が勝負ぱんつとして履くのよ」
「用入りとは何じゃ?」
「そんな恥ずかしいこと、私の口から言わせないで」
「恥ずかしいことなのか?」
「わかってるくせに。意地が悪いわね」
女子が”すけべぱんつ”を履いて用入りだなんてエッチしかない。
ぱんつを脱がなくてもエッチできるから男子ウケがいいのだろう。
まあ、私が男子だったら自分でぱんつを下ろしたいけれど。
その方が興奮するし、ぱんつを下ろす楽しみが増えるのだ。
「じゃが、同じぱんつが何枚あってもカウントはせんぞ」
「えーっ、そんなルールは聞いてない」
「言わなかったかのう」
「どぼけちゃって」
女子のぱんつなのだからカウントしてくれてもいいはずだ。
せっかく苦労をして集めたのにもったいないと言うものだ。
「それにお主はズルをしたじゃろ」
「ズルって何よ」
「ワシは”カワイ子ちゃんのぱんつ”と言ったはずじゃぞ」
「だから、みんな”カワイ子ちゃんのぱんつ”なのよ」
「嘘をつくでない。ワシにはわかるのじゃ」
「見てもないくせにいい加減なことを言わないで」
ちょめジイはハッタリをかましてきたのだろう。
私がどかっと50枚もぱんつを集めたから不審に思っているのだ。
ただ、ぱんつを盗ったところを見られていないから言い逃れができる。
確かに、カワイ子ちゃんは僅かしかいなかったけど自白しなければ大丈夫だ。
「ワシはぱんつの匂いを匂いだだけで”カワイ子ちゃん”かそうでないかわかるのじゃ」
「嘘だ~。犬じゃあるまいし」
「嘘でない。大マジじゃ」
「なら、”カワイ子ちゃんのぱんつ”はどう言う匂いがするのよ」
「とてもスイートで芳しい匂いじゃ」
「何よ、それ。鼻がつまっているんじゃないの」
ちょめジイの告白はとうてい信じられることができない。
スイートで芳しいだなんてちょめジイの妄想だ。
しょせんぱんつなんておしっこの臭いがするものだ。
たとえそれが”カワイ子ちゃんのぱんつ”だって同じだ。
「信じぬのならそれでもよい。じゃが、”カワイ子ちゃんのぱんつ”しかカウントせんからのう」
「そんなのズルい。私の苦労はどうしてくれるのよ」
「”カワイ子ちゃんの生ぱんつを集める”のはお主の使命じゃ」
「何よ、自分勝手なことばかり言って。私は”カワイ子ちゃんの生ぱんつ”なんて欲しくないの」
「なら、お主はこの先もずっとちょめ虫のままじゃ」
「ちょめジイがちょめ虫にしたんでしょ。何とかしてよ」
「ダメじゃ」
「口を開けばダメじゃ、ダメじゃって。バカじゃないの」
「何とでも言うがいい。お主の未来はワシが握っておるのじゃからのう」
「もう、こんなの脅迫よ」
ちょめジイが理不尽な言葉を並べるので私はひとり憤慨した。
私が好んでこの世界に転生して来たわけじゃない。
ちょめジイの勝手な都合で転生させられてしまったのだ。
だから、私が逆らえないようにちょめ虫にしたのだ。
アーヤの時に失敗をしているからその反省からだろう。
「余計なところで頭を働かせるんだから」
私はちょめジイに聴こえるようにわざと大きな声で呟いた。
「今回カウントしたぱんつは全部で7枚じゃ。他のぱんつはカワイ子ちゃんのものではない」
「えーっ、たったの7枚なの。もっと増やしてよ」
「ダメじゃ。”カワイ子ちゃんの生ぱんつ”は7枚だけじゃ」
「完璧な”カワイ子ちゃん”でなくても”ちょいカワイ子ちゃん”なら数に入れてよ」
「ワシは品質が第一じゃからな。妥協はできん」
「それじゃあ”ちょいカワイ子ちゃん”が可哀想じゃない」
せっかくぱんつを盗られたのにカウントしてくれないなんて悲し過ぎる。
まるで若い娘のぱんつを盗ったと思ったら母親のぱんつだったときのショックと同じだ。
「ワシは本物嗜好じゃからのう。”カワイ子ちゃん”以外は認めん」
「しがないジジイのくせに欲張り過ぎよ。”カワイ子ちゃん”はぱんつを盗られるためにぱんつを履いているんじゃないから」
「ワシに喜んでもらうためにぱんつを履いておるのじゃ」
「それってちょめジイの偏見よ。”カワイ子ちゃんのぱんつ”は尊いものなのよ」
ある意味、三種の神器のひとつと言っていい。
スク水、ブルマー、ぱんつに敵うものなどない。
人によってはパンストが入るけれど。
まあ、いずれにせよぱんつは尊きものなのだ。
「尊いのなら、なおのことワシがもらわんとな」
「もう、どれだけぱんつが好きなのよ」
「ワシの性分じゃらのう」
「ド変態を越えたどうしようもな”ぱんつジジイ”ね」
「何とでも言うがいい。お主の使命はかわらんからな」
「何でこんな”ぱんつジジイ”のために”カワイ子ちゃんのぱんつ”を盗らないといけないのよ」
こんなしょうもないことで自分の手を汚すなんてあんまりだ。
あっちの世界ではぱんつを盗めば軽犯罪法になってしまうのだ。
立派な犯罪だ。
それを”ぱんつジジイ”は理解しているのだろうか。
「それではな」
「ちょっと、まだ話は終わってないわよ。勝手に念話を切ららないでよ」
そんな私の叫びをかき消すかのように念話はプチンと切れた。
「もう、勝手過ぎるわ」
用でもない時に念話をつないで来て文句を言う。
私が反論しようものなら使命と言ってねじ伏せて来る。
今の私の立場はちょめジイより下だから仕方がないのかもしれない。
ただ、あまりにパワハラが過ぎて怒りを覚える。
もし、チャンスがあるならばちょめジイを刺し殺してみたい。
そうすれば私の呪いは解けて元の姿に戻れるはずだ。
「殺人犯になっちゃうけれどバレなければ大丈夫よ」
私の知る限りではちょめジイは外界の人との接触を避けている。
ちょめジイがいる空間は何空間と言うのかわからないけれど別空間なのだ。
よくアニメの設定にあるようなものと同じだ。
だから、周りの人達はちょめジイの存在すら知らない。
たとえ私がとどめをさしても誰も気づかないのだ。
「ある意味、完全犯罪ね。今度、本気で考えた方がよさそうだわ」
私はそんなどす黒いことを考えながらミクのベッドの上に寝ころんだ。
「あ~ぁ、ミクはまだ戻って来ないわ。いつまでネイルをしているのよ」
ちょめジイと話していたのでだいぶ時間が経っている。
時計を見ると針が17時30分を指していた。
ミクが部屋を出て行ったのが15時だったからもう2時間30分も経ったのだ。
それなのにまだネイルをやっているなんてどうしたものか。
私はベッドから飛び起きるとルイの部屋に行って扉をノックする。
「ちょっと、いつまでネイルをしているのよ。もう、いい加減にやめなさい」
「……」
「何も返事がない。完全無視ってやつかしら。だったら許せない」
お姉ちゃんを無視するのは妹はしてはいけない。
お姉ちゃんが呼んだらすぐに返事をして答えるものだ。
それが世の中の仕組みだから従わないといけない。
「無視はやめて。私はお姉ちゃんなのよ」
「……」
「とことんまで私を無視するつもりね。いいわ、こうなったら強行突破よ」
ミク達が返事もしないので私は突撃することにした。
私は廊下の壁まで下がるとルイの部屋の扉に狙いをさだめる。
そして呼吸を合わせて思いっきり扉に体当たりをした。
バタン。
扉は簡単に開いて私はルイの部屋の中につんのめる。
「おっとっとっと。あれ?部屋が真っ暗」
態勢を立て直して部屋を見回すと真っ暗でカーテンも閉まっていない。
ミクとルイはベッドの上で横になりながら小さな寝息を立てていた。
「ネイルをしている間に眠くなっちゃったのね。カワイイ」
ルイの爪を見ると途中までネイルが仕上げてあった。
「全く、これさえなければ微笑ましい姿なのだけど」
お洒落に目覚めるのは仕方ないことなのだけど、よりにもよってべんじょ虫ファッションだなんて。
ほっておいたら髪を染めてどぎついメイクをしはじめるだろう。
そんなべんじょ虫になったミクやルイは見たくはない。
ミクもルイも素のままの方がカワイイのだ。
ベッドの脇でミク達の寝顔を見ていると1階からママの声が聞えて来た。
「ミク、ルイ、ちょめ太郎くん。ごはんよ」
「もう、そんな時間か。ミク、ルイ、起きなさい」
「うぅぅうん……もう、朝?」
「何を寝ぼけているのよ。ごはんだってさ」
「ごはん!ルイ、食べる」
目をこすりながら寝ぼけているミクとは対照的にルイはがばっと飛び起きて部屋を出て行った。
”ごはん”と言うワードに反応するなんてまるで犬のようだ。
「ミク、行くわよ」
「うぅん」
私は寝ぼけているミクを引っ張りながら1階へ降りて行った。
「うわぁ~、これみんなママが作ったの?」
「そうよ。たくさん食べてね」
先に行ったルイとママの会話が聴こえて来ると甘いいい匂いがした。
「ママ、今日の晩御飯は?」
「サツマイモ料理よ」
「サツマイモ?」
「パパがたくさん収穫して来てくれたから」
テーブルの上を見やると色とりどりのサツマイモ料理が並んでいる。
ポテトならぬサツマイモグラタンをはじめ、定番の大学芋、ゴロッとしたサツマイモが入った豚汁、スイーツはモンブランに見立てたサツマイモケーキだった。
なかでも美味しい匂いを出していたのはホクホクに焼けた焼き芋だ。
わざわざ炭火で焼いているから焦げ目がついて美味しそうだ。
「こんなにもサツマイモを食べたらおならが出ちゃうわね」
「おなら、おなら」
「いや~だ、ちょめ太郎くんったら」
ママは恥ずかしそうな顔をしながら私の頭をぺんぺんする。
”イモ食ってブー”だなんてサツマイモあるあるだ。
サツマイモは食物繊維が豊富だから食べると腸の働きがよくなる。
すると、腸の中のガスが押し出されてお尻の穴から出て来るのだ。
とかく女子は焼き芋好きだからそこらじゅうでブーブーしている。
周りの人に聴こえなければいいと思ってやたらとスカしているのだ。
だから、焼き芋を食べている女子に近づくとおならの臭いがする。
「さて、ママ。そろそろご飯にしよう」
「そうね。みんな席について」
「「はーい」」
ママに促されて私達は自分達の席に着く。
すると、その様子を確認したパパがいただきますの音頭をとった。
「いただきます」
「「いただきまーす」」
まずは何から食べようか迷ってしまう。
グラタンも美味しそうだし、豚汁も美味しそうだ。
ただ、やっぱりはじめは焼き芋だろう。
私はテレキネシスで焼き芋を持ち上げると真ん中で割って半分にした。
「うわぁ~、ホクホクだね」
「熱いうちに食べてね」
「フーフー。ハフハフ。甘くて美味しい」
「そうだろう。それは焼き芋に向いている”紅あきか”だからな」
「何だかどこかで聞いたことのある名前ね」
たしかあっちの世界のサツマイモ界隈でメジャーな”紅はるか”だったような気がする。
すごく甘くて焼き芋にするとすごく美味しいってことを聞いたことがある。
サツマイモはどこの世界でも同じだから名前も似ているのかもしれない。
「ママ、フーフーして」
「ルイったら甘えん坊さんなんだから。フーフー」
ママはルイの焼き芋に息を吹きかけて冷ましてあげる。
この光景はすごく微笑ましい。
ママに甘えるルイはすごくカワイく見える。
やっぱたくさんの愛情を受け止めているって感じだ。
そんな横でミクは眠い目をこすりながらスプーンで熱々のグラタンを掬っていた。
「ミク、いきなり食べたらやけどするよ」
「ん?あっ、熱っつ」
「だから言ったじゃない」
「舌やけどしちゃった」
「もう、お姉ちゃんなんでしょ。しっかりしてよ」
「そう言う時は氷を舐めるといいわ」
ママは忙しそうに今度はミクのお世話をしはじめる。
二人の娘に手を焼いていたらのんびり食事もできないだろう。
まあ、それは幸せなことだからひとつも文句を言わない。
それがママの仕事であるかのように受け入れている。
「私にもこう言う時期があったのよね……」
振り返れば遠い記憶の中に埋もれている想い出だ。
今は誰にも甘えられないから厳しい立場にいる。
だけど、これが大人になって行くことだと改めて思った。




