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第百五十話 収穫作業①

ようやくお尻の柔らかさ対決の日がやって来た。

私はもちろんのことルイもやる気満々だ。

これでどちらのお尻が柔らかいのか決まる。


「今日はお尻の柔らかさ対決をするわよ」

「ヤダよ、そんなの」

「ルイはやるからね」

「ミクは一番にならなくてもいいの?」

「いいよ」


ミクはあっさりと答えて出場権を放棄する。

それとは対照的にルイはノリノリだ。


「いいわ。ミクには審判をやってもらうから」

「ヤダよ、そんなの」

「審判がいないとどちらのお尻が柔らかいか決められないでしょう」

「二人でやればいいじゃん」

「ダメよ。二人だと不正が出るから」

「ルイは不正なんてしないよ」


あらぬ疑いをかけられてルイは強く否定する。


「これは決定事項だからね」

「もう」


と言うことでミクに審判をしてもらうことが決まった。

と言うか強引に任せたのだけど。


「それじゃあ、ルールを説明するね」

「うん」

「ヤダな」

「お互いのお尻を触ってどちらが柔らかいか判定するのよ。簡単でしょ」

「それならルイの勝ちだね」

「私、そんな趣味ない」


これが正規の方法だ。

ミクが判定するのだから不正が生まれない。

それに実際にお尻を触れば柔らかさがわかるのだ。


「私が先行だから、まずは私のお尻から触って」

「えー、ヤダな」

「ほら、もたもたしない。せっかくお尻を触らせてあげるのよ。もっと喜んでよ」

「別にお尻を触っても嬉しくないもん」


そう言いながらミクはしぶしぶ手を伸ばして私のお尻に手をあてる。


「それじゃあ、わからないでしょ。お尻をもみほぐすのよ」

「も~う」

「アンッ、アッ、アッ……そう」

「ちょっとちょめ太郎、変な声を出さないでよ」

「冗談よ。ちゃんとお尻の柔らかさの感触を覚えておいてね」

「覚えたよ」


あまりにミクが嫌そうなので感じている声を出してからかってみた。

せっかく私のお尻を触れるのだからもっと嬉しがってくれないと困る。


「じゃあ、次はルイの番よ」

「お姉ちゃん、優しくしてね」

「もう、ルイまでおバカなことを言わないの」


ルイがお尻を突き出して言うとミクは嗜めるように叱った。


ちなみにルイはお尻丸出しの格好をしている。

服を着ていると感触がわからないからだ。

だから傍から見ていると違和感を覚える。


「ミク、ルイのお尻を触ってみて」

「これだけだからね」

「いや~ん、お姉ちゃん、テクニシャン」

「おバカなことを言わないの」


ミクはルイのお尻をもみほぐしながら柔らかさを確めている。

そして一通り触り終えるとルイのお尻から手を放した。


「終わったよ」

「なら、どちらのお尻が柔らかいか判定して」

「ドキドキするな。やっぱり勝つのは私でしょ」


ルイは自信満々だ。

それはいいがもうお尻を隠してほしい。

半ケツ状態になっていて見ていておかしい。


「一番お尻が柔らかかったのは……」

「どっちなの」

「ルイよ」

「ちょめ太郎よ」

「やったー、やっぱりね」

「嘘だ。ルイの方が柔らかいもん」


結果に納得がいかないのかルイは頬を膨らませれ不満をこぼす。


「これは厳正な結果なのよ。現実を受け入れなさい」

「お姉ちゃん、ちょめ太郎に弱みを握られているからちょめ太郎を勝たせたんだ」

「そんなことないよ。本当にちょめ太郎のお尻の方が柔らかかったんだもん」

「ルイは認めないよ。だって、ルイがちょめ太郎に負けるわけないもん」


絶対的にお尻の柔らかさに自信を持っていたルイのプライドが傷ついたようだ。

ただ、勝負はやる前からわかっていたのだ。

ちょめ虫である私と人間であるルイの対決だからだ。

そりゃあ、ルイのお尻も柔らかいけど、ちょめ虫の私に敵うわけない。

私のお尻は水風船よりもマシュマロよりも柔らかいのだ。


「私が勝ったんだからルイには私のお願いをひとつ聞いてもらうわ」

「そんなこと聞いていない。ルイは嫌だからね」

「これは勝負なのよ。勝者には権利があるんだから」


それを決めたのは今だ。

あまりにルイがだだをこねるから言うことをきかせるためだ。

もちろん無理難題を言いつけるつもりはない。

ただ、ワガママを言うルイをちょっと懲らしめるだけだ。


すると、1階からママの声が聞えて来た。


「ミク、ルイ、ちょめ助くん、ちょっと降りて来てちょうだい」

「ママだ。何だろう」

「行ってみればわかるわ」

「なら、ルイが一番乗り」


そう言ってルイはお尻を出したままミクの部屋を飛び出して行く。

その後を追うように私とミクも1階へ向かった。


「あら、ルイ。お尻を出してどうしたの?」

「ちょめ太郎とお尻の柔らかさ対決をしていたの」


ママに指摘されてルイが正直に答えるとママの視線がミクに注がれる。


「私じゃないよ。ちょめ太郎がやりたいって言い出したんだよ」

「私に振らないでよ。ルイが自分のお尻の方が柔らかいって言うから仕方なくだよ」

「もう、おバカなことをしちゃいけませんよ」


ママは少し呆れた顔をしながら私達を叱った。


そりゃあ、普通の子供達はお尻の柔らかさ対決などしない。

本来、お尻は柔らかいものだから比べなくてもわかるからだ。

ただ、どちらのお尻が柔らかいのかを決めるなら対決しかないのだ。


「で、ママ。私達に何か用なの」

「パパの収穫のお仕事を手伝ってもらおうと思ってね」

「収穫?」

「うん、パパは畑でお芋を作っているんだ」

「芋掘り?やったー、やるやる」


私は飛び上がって喜ぶ。


芋掘りと聞いてやらないわけがない。

小学生時代に体験して楽しかったからだ。

土を掘り起こすと芋が次々と出て来たのを覚えている。

あの時の感覚は忘れられないほど印象に残っているのだ。


「それじゃあ着替えて玄関に集合して」

「ルイはお留守番か~、つまんない」

「ルイはママのお手伝いをしてもらうわ」

「お手伝い?なになに」

「パパたちのお昼を作る作業よ」

「お弁当づくりか。楽しそう」


ルイにもお仕事ができて楽しそうにしている。

ママとお弁当づくりなんて聞いただけで楽しそうだ。

まあ、私は畑で芋堀りが待っているから畑に行くけど。


「ちょめ太郎、部屋に戻ってお着替えするよ」

「うん」


と言っても私はちょめ虫だから服を着なくてもいい。

だけど、ミクと一緒にミクの部屋に戻って行った。


「あった、これこれ」

「オーバーオール?」

「畑作業をする時は汚れるから、この服を着ているのよ」

「なんだか”カーレおじさん”を思わせる姿ね」


”カーレおじさん”を思い浮かべるなんて私は昭和かとひとり乗りツッコミをする。


今でこそ”カーレおじさん”の存在感は薄れているが昔はすごかったらしい。

あのおじさんを見かけたら”カーレ”を想起してしまうほど印象的だったようだ。

だから、”カーレ”が売れに売れて人気者になったのだと言う結果がある。

ただ、今はあまり売れなくなってしまったから販売をしなくなってしまった。


「これでよしっと。あとはこれね」

「麦わら帽子?」

「日差しが強いからね。ちょめ太郎も被ってね」

「う~ん、微妙な姿だわ」


私は鏡に映った自分を姿を見てそんな感想をこぼす。


ちょめ虫が麦わら帽子を被っている姿だったからだ。

”麦わらのちょめ”になったのだけど”ルフェ”とは大違いだ。

ぜんぜん強そうでもないし、どことなくおかしく見えてしまう。

けれど、これで日差しを防げるのだから文句は言わないでおこう。


「それじゃあ、玄関に行くよ」

「うん」


私達は着替えを終えて玄関に行くとパパが準備を終えて待っていた。


「用意ができたようだね」

「うん、完璧」

「それじゃあ、ママ、ルイ、畑に行って来るから」

「ルイ、ちゃんとお留守番しているのよ」

「お芋、たくさん採って来てね」

「お弁当は後で届けますから」

「頼むよ」


私達はママが用意してくれた水筒を持ってママ達に見送られながら出発した。


畑までは歩いて30分ほどで着く。

家からは少し離れているが、その分畑は広い。

例えるなら北海道の畑を彷彿とさせるくらいだ。


馬に荷車を引かせて歩いて来るとようやく畑についた。


「すごーっ、これ全部お芋の畑なの?」

「そうだよ」

「”どんだけ~”」


目の前の光景に圧倒されて私は無意識のうちにどこかで聞いたことのある台詞を叫んでいた。


お芋の畑はバカでかくて何ヘクタールあるのかわからない。

おまけにお芋の畑の向こうには別の作物の畑もある。

この規模の畑をパパひとりで管理しているなんて想像もつかない。


「それじゃあ、芋掘りをはじめようか」

「やったー、お芋お芋」


私は荷物を放り投げてテレキネシスでシャベルを動かしてお芋を掘りはじめる。

すると、すぐにミクの待ったが入った。


「ちょめ太郎、お芋は手で掘るんじゃないよ」

「えっ?」

「この魔導具を使って掘るんだ」


そう言ってパパが取り出したのは大きな掻き爪のような魔導具だった。


「この魔導具に魔力を注いで動かすんだよ」

「パパがお手本にやってみるから見ていておくれ」


パパは魔導具に両手を翳すと魔力を注ぎはじめる。

しばらくすると魔導具が宙に持ちあがる。

そして魔導具をの爪を土の中に刺して準備が整う。

あとは魔導具を押して芋を掘るだけだ。


畑を耕すように土の中に埋まっていたお芋が次から次へと出て来る。


「こんな感じだよ。わかってくれたかな」

「要領はだいたいわかったけど実際に扱えるかよね」

「私もできるからちょめ太郎もできるよ」


ミクがそう言うなら私にもできるのだろう。


魔力の注ぎ方は転移の指輪を使う時に経験ずみだから問題はない。

だけど、あんなに大きい魔導具を動かせるのかは心配だ。

ただ、ミクが動かせるぐらいだからきっと難しくはないのだろう。


「それじゃあ、パパは向こうの畝を攻めるから、ミクはちょめ太郎君にレクチャーしておくれ」

「わかったよ、パパ」

「お手柔らかにお願いします」


そう言うとパパは荷車に積んであった魔導具をひとつずつ運んで行った。


「それにしても魔導具でお芋を掘るなんて意外だったわ」

「手作業だととてもじゃないけど時間が足りないからね」

「まあね。これだけ広い畑じゃしかたないか」

「じゃあ、ちょめ太郎。今度は私がやってみるから真似をして」


私はミクの隣に移動して魔導具の前に立って準備をする。


「次は魔導具に魔力を注ぐのよね」

「いっぱいじゃなくていいのよ。少しだけで十分」


ミクは魔導具の前に手を翳して魔力を注ぎはじめる。

その隣で私も魔導具を見つめながら魔力を注いだ。


「こんな感じ?」

「そうそう、それじゃあ魔導具を宙に持ち上げてみて」

「こう?」

「いい感じ」


ミクがやったのをお手本にしながら魔導具を動かしてみせる。


「後は爪を土の中に刺すのよね」

「注いでいる魔力を少し抜くような感じにするんだよ」

「えっ?言っていることがよくわからない」

「力を抜く感じにすれば魔導具は重力で下に落ちるよ」


ミクに言われた通り魔力を少し抜くと重力で魔導具が下に落ちた。

その勢いで魔導具の爪が土の中に深く刺さる。


「できた!」

「ほら、簡単でしょ」

「後は魔導具を押してお芋を掘ればいいのね」

「ちょめ太郎、センスあるじゃん。これならすぐに一人前になれるよ」


これもそれも転移の指輪を使っていたおかげだろう。

魔力のコントロール方法が自然と身についていたからこそできたのだ。

私達が喜んでいる間、パパは5畝の芋掘りを終えていた。


「パパすごーっ。5個も魔導具を一度に動かしてる」

「パパはベテランだからね。あんなの朝飯前だよ」

「私もベテランになればあの領域に達することができるのか……」

「それじゃあ、ちょめ太郎。私達もお芋掘りをはじめよう」


私とミクは仲良く隣同士に並んで魔導具を配置する。

そして練習した通りに魔力をコントロールして魔導具を動かした。


すると、爪に引っかかったお芋が土の中から顔を出しはじめる。

つるで繋がっているのでひとつのお芋が見えると次から次へと飛び出して来た。


「うわぁ~、快感。癖になりそう」


お芋掘りにはない快感がそこには存在していた。

ひとつひとつ手で掘るのも楽しいが、これはこれで楽しい。

例えるならプチプチを一気につぶしたような感覚だろうか。

溜まっていたストレスも消えてなくなるかのようだ。


「これならイベントにした方が儲かるかもしれないわ」


リンゴ狩りやブドウ狩りがあるようにお芋掘りもイベントにすれば儲けられる。

わざわざお芋を掘る作業も省けるし、お芋も売れるしで一挙両得だ。

だから、田舎へ行くとやたらと○○狩りののぼりを見かけるのだ。


「あとでパパに相談してみよう」


私は次の儲け話を考えながら芋掘りを続けた。


それから1時間経つとようやく1畝のお芋を掘り起こすことができた。

ミクも同じタイミングでお芋掘りを終えた。


「ミク、ちょめ太郎くん、お茶にしようか」

「うん」


私とミクは畑の畔に腰を下ろして持って来た水筒の蓋を開ける。

そして水筒の中に入っていた氷入りのお茶を飲み込んだ。


「くぅ~、冷たくておいしい」

「ぷはーっ、生き返る~」

「ちょめ太郎くん、なかなか筋がいいな」

「まあ、私にかかればこんなものよ」

「ちょめ太郎、自慢し過ぎ」


私が調子づいたのですぐさまミクがツッコミを入れた。


「それより、パパに提案があるんだけど」

「何かな」

「お芋掘りをイベントにしてみない」

「イベント?」

「お客にお芋掘りの体験をさせてあげるイベントよ。そうすればお芋を掘る作業の手間を省けるでしょう。お芋も売れるし、がっぽり稼げるわよ」

「なるほど、それは思いつかなかったな」


私の提案を聞いてパパは真面目な顔をしながら感心する。


農作業一辺倒で来たパパには新鮮な提案だったようだ。

パパは毎日ミク達のために汗水流して働いている。

だけど、自分が楽をしようと言う考えがないからひとりで苦労しているのだ。

まあ、畑仕事はパパにとって楽しみだからなのだろうけど。


「けど、ちょめ太郎。どうやってここまでお客さんを連れて来るの。王都まではすごく遠いよ」

「問題はそこなのよね。この辺りに別荘でもあるわけじゃないからね」

「この辺りは閑静な土地柄だから意味があるんだよ。別荘なんてできたら精霊の森が荒らされてしまうだろう」

「まあ、それも否めないわね。人が増えれば比例するように街も汚れるからね」


せっかくのどかな原風景を保っている場所だから壊したくはない。

だけど、せっかく思いついた案を棒に振るのももったいない。


「転移装置を使うってのはどう?」

「あれは出荷専門の転移装置だから使えないな」

「なら、ちょめ太郎の持っている転移の指輪は?」

「一度に連れて来れられるのは2、3人までよ。時間がかかるわ」

「なら、無理だね」


結局、結論としてはそうなってしまう。

お金儲けは妙案だったけれどここには合わないようだ。

もし人がどかっと押し寄せて来たら治安も悪くなってしまう。

病気のルイもいることだし、今のままの方がいいのだ。


ミク達にはお金儲けよりも穏やかな生活の方があっているのかもしれない。


「それじゃあ、芋掘りの作業をはじめるか」

「そうだね」

「日が暮れるまでには終わらせないとな」

「なら、頑張ってお芋を掘ろう」


と言うわけで私達はお芋掘りの続きをはじめた。


午前中にお芋掘りを終わらせて午後からは収穫作業だ。

全部の畑をできないので今日の分は今日ですませる。


私とミクに分け与えられた畝は6つ。

それを2人がかりで3時間かけて作業を進めた。

パパはその5倍の畝をひとりで作業してしまった。


おかげで畑はお芋で溢れている。

あとはお昼休憩を挟んでから午後からお芋を集める作業だ。


「パパ―、ミク―、ちょめ太郎くーん、お昼にしましょう」


ちょうどお昼のタイミングでママがお弁当を持って来てくれた。


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