第百四十八話 はじめての新曲作成
”ROSE”の夏フェスが終わっても会場のテンションは高いまま。
アンコールが終わっているのにも関わらず、まだおかわりを欲しがっている。
それはそれだけ”ROSE”の夏フェスがファンの心に刺さったからだ。
恐らく今日発表した新曲の『Disorderly World』がよかったのだろう。
ライバルの私ですら聴き入ってしまったぐらいだ。
「最高のステージでしたね」
「これだけ盛り上がるなんて”ファニ☆プラ”以上ですわ」
「素直に認めたくはないけれど認めざるを得ない」
私達自身、興奮していてライバルである”ROSE”を褒めている。
普段はそんなことはしないのに、これも新曲の魔力なのだろう。
「これを機に私達、”ファニ☆プラ”も盛り上げていきましょう」
「新曲の作詞の方は任せて。いいヒントが得られたから」
「期待しているよ、セレーネ。すべてはセレーネの作詞力にかかっているんだから」
ちょめ助がいない以上、私達の力でなんとかするしかない。
はじめて楽曲を作成するからわからないことだらけだけど、今のセレーネを見れば安心だ。
きっと予想もしていない以上の歌詞を書きあげてくれるだろう。
「私、ナコルちゃんに会って来ます」
「えーっ、ダメだよ、そんな」
「すぐに戻りますから」
「あんな汚れた人間に会えばリリナちゃんも汚れちゃうよ」
「心配しないでください、ルイミンちゃん。顔を見たら戻って来ますから」
リリナは嬉しそうな顔をしているが私は気が気でない。
リリナがナコルと会たらナコルの気持ちを知ることになってしまう。
手紙ではリリナに謝っていたからリリナに直接詫びをいれるだろう。
そうなってしまえばリリナはナコルを許して仲直りをしてしまう。
「それでもダメ。絶対に行かせないから」
「ルイミンちゃん……」
「リリナさん、会いに行って来てください。今会わないと後で後悔しますわよ」
「ちょっとセレーネ、余計なことを言わないでよ」
せっかくリリナを説得できそうだったのにセレーネのひと言でリリナの気持ちが変わってしまう。
「ルイミンちゃん、安心してください。私は何も変わりませんから」
「そう言うことじゃないの。リリナちゃんは私だけ見ていればいいの。ナコルのことなんて忘れてよ」
「それはできません。ナコルちゃんはお友達ですから」
「リリナちゃんは私をいじめていたナコルを許すの。あんまりだよ」
私はオーバー気味に悲しんでいる表情を見せてリリナの気を引こうとする。
すると、リリナは困った表情を浮かべてセレーネに助けを求めた。
「ナコルさんがルイミンさんのことをいじめていたことは悪いことです。ですけれど、それはリリナちゃんに関係ないことではないでしょうか」
「関係あるの。だって、リリナちゃんは私のものなんだから」
「ルイミンちゃん、私は誰のものでもありません。私は私なんです」
「いいえ、違うわ。リリナちゃんは私のものよ」
私は頑としてリリナがナコルに会いに行くことを強く否定する。
もし許してしまえば私とリリナちゃんの関係も変わってしまうからだ。
「ルイミンさんてけっこう傲慢な人なのですね。リリナさんをもの扱いしているのですから」
「だって仕方ないじゃん。リリナちゃんは私の女神様なんだから」
「そんな風に私のことを思っていたのですね。私はルイミンちゃんのことをお友達と思っていたのに悲しいです」
「リリナちゃん、泣かないでよ。私が悪いみたいじゃん」
リリナは目にいっぱい涙をためて今にも泣き出しそうだ。
そんな顔を見ていたら私の中に罪悪感が芽生えはじめる。
「ルイミンさん、リリナさんのことを想うならリリナさんの意見を尊重してあげてください」
「そんなことを言われてもできないよ。もし、リリナちゃんが変わってしまったらと思うと怖くて」
「ルイミンちゃん、私を信じてください。私は絶対に変わりません」
「リリナさんもこう言っているのですし信じてあげてください」
「……」
リリナとセレーネの説得を聞いて私は返す言葉を見失う。
これ以上、リリナを否定していればリリナとの関係性が悪くなる。
かと言ってナコルに会いに行くことを許せばリリナは仲直りをしてしまう。
そうなったらリリナとナコルの距離が近くなって心を通わせてしまうのだ。
「ルイミンちゃん」
「私は何も言えない」
「それでいいのですわ。リリナさん、行ってらしてください」
「ルイミンちゃん、ごめんね。すぐ戻って来るから」
そう言い残すとリリナはナコルがいる”ROSE”の楽屋へ向かった。
「ルイミンさんがいくら否定していてもリリナさんとナコルさんが仲直りするのは時間の問題です。だからと言ってルイミンさんとリリナさんの関係が変わるわけでもありません。また以前のようにお友達でいられますわ」
「私はそれが嫌なの。リリナちゃんとナコルが仲直りするなんて認めたくない」
「ルイミンさんはリリナさんのことを想うあまり道を間違えているのですね」
「それでもかまわないわ。私は絶対にナコルを許さないから」
ナコルはいじめっ子として苦しんで生きなければならない。
でないと私のようにいじめられていた人は報われない。
過ちは消えることがないから一生苦しめばいいのだ。
「ルイミンさん、嫉妬心は心を歪めますわよ」
「私が嫉妬?バカを言わないで。私はただナコルが憎いだけ」
そう、私はただ単にナコルが憎いだけだ。
セレーネが指摘したようにナコルに嫉妬などしていない。
リリナちゃんがナコルに盗られてしまうことなどあり得ないのだから。
そんな風に私とセレーネが言い合いをしている間にリリナはナコルと会っていた。
「ナコルちゃん、今日のライブよかったですわ」
「観ていてくれたんだ、リリナちゃん」
「ナコルちゃんは元パートナーですからね」
「そのことなんだけど、リリナちゃん。裏切ってごめん」
ナコルは深々と頭を下げてリリナに詫びを入れる。
その姿を見つめながらリリナは顔を上げるように伝えた。
「ナコルちゃん、私は裏切られたなんて思っていません。あれはナコルちゃんが成長するために”ナコリリ”を卒業しただけです。だから気にしないでください」
「けど、私はリリナちゃんのもとから去ったことは事実だ。裏切りでないとしてもリリナちゃんの心を傷つけた。だから謝らずにはいられないんだ」
リリナはナコルをフォローしてくれるがナコルは自分の過ちを認める。
そんな素直な姿はいじめっ子時代を知っている私には理解できない。
「でしたら許してあげますわ。それでナコルちゃんが満足するなら」
「リリナちゃん……」
「仲直りの握手をしよ」
「お、おう」
リリナはナコルに手を差し伸べるとナコルの手を取って軽く握りしめた。
「これで全て帳消しね」
「あ、ありがとう」
リリナの寛大な心に触れて固くなっていたナコルの心は柔らかさを取り戻す。
これがリリナの愛情なのだけれどはじめてのナコルにはわからなかった。
「それより、今日の新曲すごくよかったですわ」
「あれはアーヤがファン達の心情を描いた楽曲なんだ。ファンの多くは私達と同じ世代だから」
「ティーンの心の闇をうまく描いていますね」
「アーヤは私達にリサーチして書いたんだ」
「だからリアリティを感じるのですね」
「私自身、アーヤはすごいプロデューサーだと思っているよ」
楽曲作成から演出、広報にいたるまですべてひとりでこなしている。
ちょめ助もそれなりにすごかったけれどアーヤはそれ以上の存在だ。
だから、”ROSE”も人気が出るし、ファンが増加しているのだ。
「これでは今まで以上に努力をしないとナコルちゃん達には敵いませんね」
「そっちにはちょめ助がいるだろう」
「えー、その。ちょめ助くんは理由があって”ファニ☆プラ”のプロデューサを降板したんです」
「そうなのか」
「どちらかと言えば私達が追い出したのですけど」
「ケンカでもしたのか」
「ケンカと言うかちょめ助くんのやり方についていけなくなったんです」
「あはっ、マコのやつ、またバカなことをしたのね」
リリナとナコルが話をしているとアーヤが話に割り込んで来た。
「アーヤさん」
「で、マコは何をやらかしたの」
「アイドル活動じゃなくてにらせんべい屋をやりたがっていたんです」
「浅はかなマコの考えそうなことだわ。私がラーメン屋で成功しているから真似をしたのね」
アーヤの言葉を聞いてリリナはちょめ助がにらせんべいにこだわっていた理由を知った。
アーヤが言うようににらせんべいで成功したいからあれだけ頑なにこだわっていたのだ。
「だから私達は3人で頑張らないといけないんです」
「その方がいいんじゃない。マコなんて所詮カスプロよ」
「ですけれど楽曲作成に手間取っています。ちょめ助くんのようには作れません」
「マコは生成AIを使っているのよ。だから、あれはマコの力じゃないわ」
生成AIと言うものが何かわからないけれどちょめ助は何か道具を使って作詞をしていたみたいだ。
それが恐らく生成AIと言うものなのだろうが私達は持っていない。
「アーヤさん、楽曲作成のコツを教えてください」
「う~ん、どうしようかな……マコもいないし協力してあげてもいいけれど」
「お願いします、アーヤさん」
「わかったわ。コツを教えてあげる」
アーヤの了解を得てリリナに明るい表情が戻る。
コツを教えてもらえれば楽曲作成が幾分か楽になる。
とかくセレーネにはコツを教えてあげたい。
「まずはテーマを決めるところからよ」
「テーマですか」
「テーマを決めておかないとブレちゃうからね」
「フムフム」
リリナはメモ帳を取り出してアーヤの説明のメモをとる。
「テーマが決まったらどんなジャンルの曲にするのか掘り下げていくのよ」
「具体的には」
「例えばテーマが恋愛だとしたら初恋もあるし、失恋もあるし、禁じられた恋もあるわ。どんなジャンルにするかでストーリーも変わって来るのよ」
「なるほど」
アーヤの説明を聞いてリリナは少しづつ手ごたえを感じはじめる。
今までひとりで作曲をしていた時は思いつくままに弾いていただけだ。
テーマもジャンルも決めていなかったからとりとめのないメロディーラインになっていた。
「テーマとジャンルが決まったら主人公を設定するのよ」
「何だかゲームをしているみたいですね」
「主人公の性別や年齢で恋愛の内容も変わって来るわ。主人公が10代だったら青春の甘酸っぱい初恋がメインストーリーになるわ」
「なら、年上の男性と恋をする禁じられた恋ってのもありなんですね」
「わかっているじゃない。そう言うことよ。主人公をどう言う設定にするかによってより具体的なストーリーが描けるのよ」
「勉強になります」
アーヤの説明はとてもわかりやすくはじめてのリリナでも理解できた。
しかも具体的に例を出してくれるから呑み込みが早い。
「テーマ、ジャンル、主人公が決まったら今度はストーリーを組み立てていくのよ」
「何だか物語を作っているみたいですね」
「その通りよ。楽曲作成をすることは物語を描くことといっしょね」
「アーヤさんってすごいんですね」
説明を聞きながらリリナは改めてアーヤのすごさを実感する。
プロデューサーとしての手腕はさることながら楽曲まで手掛けているなんて神様のようだ。
おまけにファンの心を掴んでいるのだからすごいとしか言いようがない。
「なら、ここでは禁じられた10代の恋をテーマにストーリーを考えてみるわ」
「お願いします」
「主人公の女子高生はクラスの担任の先生に恋心を抱いてしまうの。だけど、表だって気持ちを伝えられないから気持ちを胸に秘めていた。だけど、次第に気持ちが膨らんで行ってとりとめもなくなってしまう。そして思い切って先生に気持ちを伝えるが子ども扱いされてしまってフラれてしまったって感じかしら」
「あるあるな話ですね」
アーヤの作ったストーリーはどこかで見て来たかのようなリアルさがある。
女子高生が年上の男性に恋心を抱くことは普通にあるし、想いが伝わらないこともある。
たとえ先生が女子高生の気持ちを受け入れたとしてもひた隠しにしておかなければならない。
禁じられた関係だから他人に知られてはならないのだ。
「ストーリーが決まったら主人公の心情を書き出して行くのよ。ここがサビの部分になりやすいからきめ細やかに描くのよ」
「難しそうですね」
「まあね。実体験じゃないから想像を膨らませないといけないしね」
「なら、経験を書いた方がいいんじゃないですか」
「自分の経験を書くと生々しくなるから私は控えているわ。まあ、けど自分の実体験を歌詞にする人もいるけどね」
「作り手の決め所ですね」
リリナはメモをとりながらどちらにしようか悩んでいる。
実体験を書くか、想像に任せるか、あとでセレーネに決めてもらうつもりだ。
「フレーズを絞り出せたらストーリーと照らし合わせて組み立てればいいのよ」
「何だかパズルみたいですね」
「まあね。作詞は言葉のパズルのようなものよ」
「そう聞いたら気持ちが楽になりました」
作詞と聞くよりも言葉のパズルと聞いた方が気持ちが軽くなる。
文書を書くのはすごく重労働だから少しでも荷物を下ろしたい。
それに言葉のパズルならはじめての人でも出来そうに感じるからだ。
「以上で作詞の各コツは終わりよ。理解できた」
「すごく勉強になりました。ありがとうございます」
「まあ、私の方としてもライバルのあなた達が元気ないと張り合いがないからね」
「アーヤさんってすごく優しい人なんですね」
「マコには言わないでよ。どうせバカにして来るんだから」
「わかりました。ちょめ助くんには内緒にしておきます」
リリナは実際のアーヤを知って安心をする。
ちょめ助が言っていたような悪い人じゃないからだ。
おまけに作詞のレクチャーをしてくれるなんてとても親切な人だ。
おかげでセレーネにお土産ができた。
「マコに会ったらよろしく言っておいて」
「何から何までありがとございました」
リリナはアーヤにお礼を伝えてから楽屋を後にした。
会場へ戻って来ると私とセレーネは暇を持て余していた。
それはナコルの顔を見に行くと言ったのに全然戻って来なかったからだ。
「ごめんごめん、遅くなっちゃった」
「リリナちゃん、遅い。何をしていたの」
「アーヤさんから作詞のコツを教えてもらっていたの」
「アーヤって、あのアーヤ」
「すごく優しくて親切な人だったわ」
「ウサギでしょう。けど、ちょめ助から聞いていたのとは随分違うな」
ちょめ助はアーヤはとても嫌な人間だと言っていた。
意地悪をするし、いじめるし、ロクでもない人物だとのこと。
それが事実ならばリリナが言っている言葉は真逆だ。
リリナが何か吹き込まれたようでもないし、真実はわからない。
「それで作詞のコツって何なのですか」
「メモしておいたからセレーネちゃんに渡すね。作詞の参考にしてみて」
「フムフム。へぇ~、これならわかりやすいかも」
「きっとセレーネちゃんなら出来ますわ」
リリナが渡したノートに目を通してセレーネは手ごたえを感じる。
はじめてのセレーネでも作詞のコツを理解できたようだ。
「それでナコルとはどうなったの?」
「仲直りをしました。これで私達はよきライバルです」
「そう、何だか悲しいな。リリナちゃんが遠くに行っちゃったみたいで」
「悲しまないでください。私はルイミンちゃんの傍にいますから」
そう言ってリリナは私の肩をそっと抱いてくれた。
リリナが傍にいても私に気持ちが向いていないと寂しい。
私にとってリリナは大切な人だから心を通わせていたいのだ。
「リリナちゃん……う~ん」
「ちょ、ちょっとルイミンちゃん。唇を近づけないでください」
「だってこう言う時はごめんねのチュウをするでしょう」
「しません。私はルイミンちゃんとはお友達ですから」
どさくさに紛れてリリナにチュウをしようとしたが断られた。
だけど、リリナの心が私に向いているので安心をした。
もしこれでナコルに向いていたら気が狂っていただろう。
「それでは帰りましょう」
「帰ろ、帰ろ」
「そうですね」
私達は国立公園を後にしてセントヴィルテール女学園へ帰った。
セントヴィルテール女学園へ戻ってからセレーネは作詞作業をはじめた。
ひとりで集中したいからと言って、またアイドル部の部室に籠る。
ただ、以前のような状況にはならないので私達は安心していた。
「セレーネ、どんな歌詞を書くんだろう」
「やっぱり書きやすい恋愛ものでしょうか」
「セレーネって恋とかして来たのかな」
「きっと経験豊富ですよ」
ビジュアルから見てもセレーネが未恋と言うことはない。
誰よりもセクシーだし、おしとやかだし、恋愛経験は豊富そうだ。
おまけにセレーネのファンがおじさんばかりだから禁じられた恋もあるかもしれない。
まあ、ファンに手を出している時点でプロレイヤーとしては失格なのだけど。
「あーぁ、私も恋したいな」
「ルイミンちゃんも普通の女の子なんですね」
「違うよ。私はリリナちゃんと恋がしたいの」
「えぇっ、私達、女子同士ですよ」
「だからいいんじゃん。普通では認められていない恋ができるんだもん。萌えちゃうわ」
「私は嫌です」
禁じられた恋と言うのは何も大人との恋だけではない。
同性同士の恋も立場の違う人達との恋も含まれているのだ。
禁じられているからこそ萌えてとツボにハマってしまう。
そして人生を棒に振るような危険なこともやらかす。
まあ、それが恋だからあたり前なことだけど。
「そう言うリリナちゃんは恋したことある?」
「答えたくありません」
「その反応はあるってことだね。誰としたの?」
「知りません」
「もしかして年上?」
「……」
「図星だったみたいだね」
「もう、こんな話はやめましょう」
「えーっ、まだしていたい」
「ダメです」
リリナの恋の相手のことは気になったが話はここまでで終わってしまう。
恋バナと言えば女子の大好物だけれど自分のことは話したくないのかもしれない。
けど、ミステリアスがあった方がリリナの魅力は高まるのだ。
「ちょっとセレーネの様子を見に行こうか」
「そうですね。あれから2時間も経ってますし、できているかもしれません」
と言うことで私とリリナちゃんはセレーネのいるアイドル部の部室へ向かった。
前のように部室にカギはかかっていなくて普通に入れるようになっている。
以前、あんな状態になってしまったからセレーネも気持ちを入れ替えたようだ。
「セレーネ、作詞の具合はどう?」
「できましたわ。うまく書けたと思います」
「もしかして恋愛をテーマにしたんですか」
「違いますわ。リリナさんとルイミンちゃんの関係を軸に描いてみました」
「えっ?私達をモデルにしたの?」
もしかしてセレーネは私とリリナの禁じられた関係を歌詞にしたのだろうか。
だとしたら艶めかしい内容になっているはずだ。
「ちょっと見せてください」
慌てたリリナはセレーネのノートをはぎ取って中身を確める。
もし、私が想像しているような内容だったら否定するだろう。
「どう?何か変なこと書いてあった?」
「大丈夫です。普通の歌詞です」
「心配しなくてもいいですわよ。私は純粋にリリナさんとルイミンさんの関係を歌詞にしただけですから」
そうは言っても歌詞を見ていない私にはすんなり納得できない。
セレーネのことだから悪いことは書いていないはずだけど心配だ。
「リリナちゃん、私にも見せてよ」
「いいですわよ。はい」
「フムフム」
私はノートに書いてあった歌詞をはじめから最後まで読んだ。
「いかがですか?」
「いいよ。すごくいい。これなら合格よ」
「よかったですわ」
「次は作曲ね」
「イメージは沸いていますから、さっそく取り掛かります」
そう言ってリリナは歌詞を持って音楽室へ向かった。
作曲作業は私達も立ち会うことにしていっしょに行った。