第百四十五話 復活ライブ
ちょめ助と別れてから私達はアイドル部の部室に戻って来た。
それは今後のアイドル活動の計画を決めるためだ。
もう、にらせんべい屋はやらなくてもいい。
「じゃあ、路上ライブのスケジュールから決めよう」
「休んでいた分、感覚を取り戻さないといけないから時間が必要ね」
「でしたら2週間後の週末にしませんか」
「2週間後か。それだけあれば十分だね」
「なら、2週間後の週末に路上ライブをすることにしましょう」
まずは2週間たっぷり練習をして感覚を取り戻すことだ。
歌やダンスは体に沁み込んでいるから練習をすれば思い出すだろう。
あとはどれだけクオリティーを上げられるかだ。
「路上ライブのスタッフはアイドル部のみんなにお願いするとして、告知の方を考えないと」
「普通に”ファニ☆プラ”の路上ライブっと銘打っても物足りませんね」
「久しぶりに路上ライブをするんですから”復活ライブ”ってことにしたらよいのではありませんか」
「それ、いいアイデアです!”復活ライブ”だなんて本物のアイドルみたいです」
セレーネの提案を聴いてリリナは目を輝かせながら感銘する。
私達は路上ライブをしている以上、すでに本物のアイドルなのだ。
ただ、まだメジャーではないだけで、いつかは本物になれる可能性を秘めている。
それを知っているからこそファン達も応援してくれるのだ。
「なら、”ファニ☆プラ”の復活ライブで告知をすることに決まりね」
「きっとたくさんのファンの方たちが集まってくれますわ」
「何だかワクワクして来ました」
リリナだけでなく私とセレーネも胸を躍らせていた。
久しぶりにアイドル活動をできるから余計に心が震えるのだ。
これもそれもちょめ助のにらせんべいへの欲求がそうさせたのだが結果的によかった。
「次は具体的に復活ライブの中身を考えよう」
「恥ずかしいですけれどやっぱり最初は”ぱんつの歌”からはじめるのがいいですわね」
「ノリのいい曲だから復活ライブの最初の曲としてはいいです。ただ……」
「「恥ずかしいのよね」」
私達は声を揃えて叫ぶ。
満場一致で”ぱんつの歌”を歌うのは恥ずかしい。
”ファニ☆プラ”のデビュー曲だから外すこともできない。
前にちょめ助が言っていた通り、”ファニ☆プラ”として活動し続ける限り”ぱんつの歌”がつきまとうのだ。
「もうちょっと”ファニ☆プラ”らしい歌詞にしてもらいたかったね」
「これもちょめ助くんの感性ですから仕方ないのですけど」
「インパクトだけは十分あるんですよね」
今さら言っても仕方がない。
”ぱんつの歌”でデビューした以上、覚悟を決めないといけないのだ。
「となると2曲目は”春恋別れ”だね」
「ノリのいい曲の後でしんみりとした曲なんてギャップがあり過ぎまずけどね」
「仕方ありませんわ。持ち歌が2曲しかないのですから」
「なら、一曲目が終わった後にトークコーナーを挟もうよ」
「それはいいアイデアですわね。トークコーナーで雰囲気を変えれば2曲目に入りやすくなります」
ふと思いついた私の提案にセレーネは賛同してくれる。
ノリのいい曲からしんみりとした曲にいきなり行くより、間にトークコーナーを挟んだ方がギャップが小さくなる。
その方がファン達も受け入れやすいだろう。
「トークコーナーではどんなお話をするつもりですか」
「そうだな。活動を休止していた間は何をやっていたかとか、復活に向けての気持ちとかかな」
「ファンのみなさんが知りたそうなことを話題にするのがいいですわね」
「かしこまった感じではなく普通にお喋りする感覚でした方がいいかもしれません」
「なら、質問コーナーはない方がいいね」
「あくまで私達が楽しそうにお喋りするところを見せればいいのですわ」
ファンのみんなは活動を休止した理由や何で復活しようとしたのかを聞きたいはずだ。
ただ、質問形式にするとかしこまってしまうから復活ライブの雰囲気には合わない。
あくまで私達が楽しそうにお喋りしているところを見てもらった方がいいのだ。
「なら、どんなことを話すのか話題を決めておこう」
「時間を追ってお喋りを展開する方がわかりやすいですね」
「まずは何でアイドル活動を休止したのか、次いで活動休止していた時に何をやっていたのか、最後は復活をしようと思ったきっかけですね」
セレーネが立てた筋書でファンのみんなが知りたいことは知れるようになっている。
「アイドル活動を休止したのはちょめ助がにらせんべい屋をやりはじめたからだよね」
「ここでちょめ助くんの名前を出すのは控えた方がよろしいのではないでしょうか」
「実名を出すと詮索されますからプロデューサーとだけ銘打っておけばいいと思いますわ」
「だね。私達のプロデューサーがちょめ助だって知ったらファンのみんなは困惑しちゃうかもしれないしね」
ちょめ助はどこから見てもちょめ虫なのだ。
そのちょめ虫が”ファニ☆プラ”のプロデューサーだなんて誰も信じないだろう。
だから、あえて名前を出すのは控えてプロデューサーだけにしておくのだ。
「ちょめ助がにらせんべい屋をやりはじめたのはアイドル活動費を稼ぐためだったんだよね」
「でしたら、プロデューサーの考えでアイドル活動費を稼ぐためにアイドル活動を休止したことにしておけばいいのではないでしょうか」
「それなら筋が通っていますね」
ちょめ助の名前も存在も伏せてあるからわかりやすい。
プロデューサーが決めたことなのであればファンも納得してくれるはずだ。
「アイドル活動を休止する時に私達がどう思ったのかも伝えた方がいいですわ」
「プロデューサーの意見ひとつですんなりとアイドル活動を休止したらイメージが悪いですものね」
「いわゆるパワハラってやつだね」
あくまでみんなで話し合ってそう言う結論に至ったことにしないといけない。
でないと私達がプロデューサーの人形のようになっている印象を持たれてしまうのだ。
「私は正直アイドル活動を休止したくはありませんでしたわ」
「私も同じです。アイドルなのですからやっぱりステージに立っていないといけません」
「私はどちらかと言うと休止したかったかな」
「えっ、そうなんですか、ルイミンちゃん」
「二人は人気があるからわからないだろうけど私は全然ファンにウケていなかったからね。自信をなくしていたんだ」
はじめてアイドル活動をしたからファンがいないのは当然だ。
だけど、リリナやセレーネの人気ぶりを見ていたら自信をなくす。
私がリリナやセレーネと同じステージに立っていていいのかと自問自答していた。
その時点で気持ちはすでに折れていて続けて行くのが困難だったのだ。
「いい回答ですわ、ルイミンさん。ファンのみなさんは作られた回答よりも私達の本音を知りたがっているんです。ルイミンさんの迷いや葛藤を正直に話されればファンも共感してくれるでしょう」
「アイドルやレイヤーとして活動をして来た私やセレーネちゃんとズブの素人のルイミンちゃんとの間にはギャップがありますものね」
「ズブの素人だなんてリリナちゃん、言い過ぎ」
「ごめんなさい、つい本音を言っちゃって」
「その感じ、すごくいいです。自然な会話になっていますから」
トークコーナーでもこう言う風に話せばいいと理解できた。
「次は活動を休止していた時に何をしていたかだよね」
「ちょめ助くんのにらせんべい屋をやっていたんですわ」
「なら、アイドル活動費を稼ぐためににらせんべい屋をやっていたことにすればいいんですね」
「ただ、何でにらせんべいなのかがポイントになりますわね」
「そうだね。にらせんべいなんてちょめ助から教えてもらうまで知らなかったもんね」
「この辺りでは食されていない食べ物ですからね」
ファンのみんなもそこに疑問を持つだろう。
にらせんべいをどこで知ったのかや誰から教えてもらったかなど深堀したいはずだ。
だけど、ちょめ助の名前を出す訳にはいかないから誤魔化さないといけない。
「リリナちゃんもセレーネも王都出身でしょう。私は地方出身だから田舎のおばあちゃんに教えてもらったことにするよ」
「それはいいアイデアですけれど、おばあちゃんの田舎がどこなのか詮索されませんか」
「そこは適当に誤魔化しておけばいいよ。私のファンは少ないから大丈夫だと思う」
「ルイミンちゃんのおばあちゃんが子供の頃によく食べていたけど今はほとんど見かけないってことにしておけばいいと思いますわ」
リリナの言ったことは昔の田舎の食べ物のあるあるだ。
昔は貧しかったから手軽に食べられるものがもてはやされていた。
ただ、豊かになった現代では昔の食べ物では物足りなくなってしまったのだ。
それで消えて行った食べ物はごまんとある。
「そう言えばにらせんべい屋って大変だったよね。私は調理していなかったけどさ」
「大量のにらを切るのが大変でした。手が動かなくなっちゃうし」
「小麦粉を溶くのも大変でしたわよ。一番の力仕事でしたから」
「なら、私が一番楽だったのかもしれないね」
呼び込みは何よりも勇気が必要な仕事だ。
見知らぬ人に声をかけなければいけないからだ。
ただ、にらせんべいを売る目的があることで少しは救われた。
これがもしナンパだとしたらとてもじゃないが私にはできない。
「何だかんだ言ってにらせんべい屋もためになっていたんですね」
「アイドル活動をできなかったことは悲しいですけれど夢中になれましたしね」
「結局、にらせんべい屋で稼いだお金はちょめ助が全部使っちゃったけどね」
なんのためのにらせんべい屋だったのかわからない。
アイドル活動費を稼ぐためだったのだが屋台だけが残った。
ちょめ助が欲を出して儲けようとするからすっからかんになったのだ。
ただ、借金を残さなかったことが唯一の救いだ。
「やっぱり地道な活動が一番いいんですね」
「アイドル活動費はこれから稼ぎましょう」
「私達ならやれるよね」
これだけ苦労をして来たのだからやれないことはない。
2週間後にやって来る復活ライブも成功させるつもりだ。
「最後は何で復活しようとしたかだね」
「きっかけはちょめ助くんがにらせんべい屋を辞めたことですわ」
「ついでにプロデューサーも降板しましたしね」
「ちょめ助の名前は明かせないからにらせんべい屋でも目標の金額を稼いだことにしようか」
「そうですわね。それが一番筋が通っていますわ」
「ついでにアイドル活動を休止していたことで私達も充電で来たことにしましょう」
アーティストが活動を休止した時は充電期間と言うことが多い。
理由はそれぞれだけれど、音楽活動から離れることで心身ともに癒される。
どんなアーティストでもずっと活動を続けられることは少ない。
だから、機会を見て音楽活動を休止するのだ。
「何だか私達、本物のアイドルみたいだね」
「もう、本物ですわよ、ルイミンさん」
「そうそう。なんて言ったって私達”ファニ☆プラ”なんですから」
ズブの素人の私よりもリリナやセレーネの方がちゃんと自覚している。
”ファニ☆プラ”として活動している以上、私達はプロのアイドルなのだ。
「とりあえずトークコーナーの話題はこんな感じでいいよね」
「OKですわ」
「それじゃあ、歌とダンスの練習をしましょう」
まずは3人で通して歌ってみて仕上がり具合を確認する。
活動を休止していた時間が長いから忘れていることも多い。
ただ、体が覚えているのですぐに思い出せた。
「”ぱんつの歌”は何度も繰り返して来たから完璧だね」
「恥ずかしいですけれど私達のデビュー曲ですからね」
「問題は”春恋別れ”の方ですわね」
「こっちは圧倒的に数をこなしていないからはじめからやり直さないとダメみたい」
「あと2週間もあるんです。みっちり練習をして仕上げましょう」
と言うことで私達は残りの2週間、”春恋別れ”を中心に練習をした。
復活ライブの当日、会場のクジラ公園はファンでいっぱいだった。
既存のファンが圧倒的に多いが、にらせんべい時代のファンもちらほら見える。
おかげで以前よりもファンの数が大幅に増えていた。
「うわぁ~、緊張する。うまくできるかな」
「あれだけ練習をしたのだから大丈夫です」
「私達ならできます。自分を信じて思いっきりやりましょう」
セレーネの力強い言葉に励まされて自信を取り戻す。
やれることはやって来たのだから全てを出し切るだけだ。
「それじゃあ、気合を入れます。”ファニ☆プラ”の復活ライブ。最高のパフォーマンスをしましょう!」
「「しょう!」」
私達は手を重ねて気合を入れるとステージに向かった。
私達がステージに姿を現すと会場から割れんばかりの歓声が湧き起る。
ファン達にとって待ちに待っていた”ファニ☆プラ”の復活だからだ。
それはファンだけでなく私達も”ファニ☆プラ”の復活を喜んでいた。
「帰って来たよー、みんなー」
「待っていてくれてありがとー」
「今日は最高のステージにするよ」
「「ワー」」
会場にいるファン達に声をかけると会場が震えるぐらい沸き上がる。
その響きは私達の心を震わせてやる気を漲らせてくれた。
このファン達の声に負けないぐらいのパフォーマンスを届けようと思う。
「はじめは、この曲から」
リリナが曲紹介をすると”ぱんつの歌”のイントロが流れはじめる。
ファン達は曲にノリながら声を上げて盛り上がる。
「いちごぱんつ めちゃ最好!」
リリナのその叫びを皮切りに”ファニ☆プラ”の復活ライブがはじまった。
予定通り”ぱんつの歌”でファン達のテンションが上がり、トークコーナーで落ち着ける。
トークコーナーの話題も確認した通りの手順で話を進めて行った。
ファンの質問コーナーは設けなかったので対話は一切ない。
ただ、私達のお喋りを傍で見ながらファン達は楽しんでいた。
普通じゃ聞けない私達の本音も知れてファンはお腹いっぱいになった。
その後で2曲目の”春恋別れ”へと続く。
間にトークコーナーを挟んだのでファンのテンションがいい具合だ。
”春恋別れ”は聴かせる楽曲なのでファン達は私達の歌に聴き入っていた。
「なんかいいね、こう言うの」
「すごく気持ちがいいです」
「やっぱり私達はアイドルなんですね」
歌い終わって私達の心はすっかり満たされていた。
それはファン達も同じで幸せそうな顔を浮かべている。
「もっと歌を歌いたいね」
「これで終わりなんて寂し過ぎます」
「けれど、アンコール曲で最後です」
久しぶりのステージだから私達のテンションも爆上がりだ。
体力的にはまだまだ歌い続けられるけれど楽曲がない。
なので最後のアンコール曲で締めなければならないのだ。
「「アンコール、アンコール」」
ファン達も声を揃えておかわりを欲しがる。
それはライブの定番のことだけどおかわりを求めてくれることが嬉しい。
「それじゃあ、最後の曲、いくよー!」
「「な~あに」」
「”恋するいちごぱんつ”」
結局、最後は”ぱんつの歌”で締める。
これが定番になっているから他の選択肢はない。
けれど、ファン達もわかっているから盛り上がってくれる。
そして私達もファン達もすべて出し切ってライブを終えた。
復活ライブを終えた後、私達は楽屋に戻って来た。
まだ、会場からおかわりコールが沸き起こっている。
物足りなさを感じているファンが多いようで叫んでいるのだ。
「今日のファンのみんなすごい熱気ね」
「久しぶりだからテンションが高いのよ」
「私達も物足りなさを感じていますしね」
ステージを降りてもまだ胸がドキドキしている。
体の奥からやる気が漲っていて引いてくれない。
このテンションを下げるには筋トレをするのがいいだろう。
「どうする?ステージに戻る?」
「戻っても歌うのは”ぱんつの歌”ですよ」
「持ち歌が2曲ってのも辛いですわね」
こればかりはどうにもできない。
プロデューサーのちょめ助が降板してしまったので新しい楽曲を作成できないのだ。
結局、私達はステージに戻る選択肢は選ばなかった。
延々と”ぱんつの歌”ばかりを歌っていても仕方ないのだ。
着替えを終えてから私達は改めて集まった。
「それでは復活ライブの反省会をします。まずは感想を聞かせてください」
「久しぶりのライブだからすごくテンションが上がった。やっぱり私達はアイドルなんだって自覚できた」
「セレーネちゃんは」
「ファンのみなさんを目の前にして切実な思いを感じとりましたわ。やはりファンのみなさんには私達が必要なんだって」
「私もセレーネちゃんと同じ意見です。ファンのみなさんがいてくれるから私達はアイドルなのだって思えました。今日の復活ライブはよかったと思います」
アイドルがいるからファンが集まって、ファンがいるからアイドルであれる。
アイドルとファンは切っても切れない強い絆で結ばれていることを理解できた。
たとえ長い間、活動を休止していてもファンのみんなは待ってくれているのだ。
「ですが、持ち歌の少なさは問題ですわね。2曲だけだとバリエーションが少なすぎます」
「そうだね。トークコーナーとか設けないととてもじゃないが間が持たない」
「私も同じ意見です。最低でも3曲は必要ですよね」
もっと言えば5曲ぐらい余裕があった方がいいだろう。
ちょっとしたライブならば3曲でも十分だが今回のような復活ライブになると心もとない。
これから”ファニ☆プラ”として活動を続けて行くためにも新しい楽曲は必要だ。
「だけど、ちょめ助が降板したから新曲は作れないよ」
「ちょめ助くんにコンタクトを取って新曲だけ作成してもらいましょうか」
「それって少し図々しい気がする。今さらって感じになるだろうし」
「それが一番の問題ですよね」
私達はお互いの顔を見合わせてガックリと肩を落とした。
「私達で新しい楽曲を作ってみる?」
「えっ、やったことないですよ」
「だから、やってみるの」
それしか楽曲を増やす方法はない。
楽曲を作成するノウハウは全く持っていない。
だから何をすればいいのか全くわからない。
だけど、立ち止まっていても何も変わらないのだ。
「私はルイミンさんの意見に賛成です。このまま手をこまねいていても何も変わりません。ですのでやってみる方がいいと思います」
「リリナちゃん、やってみよう。3人ならできるよ」
「わかりました。みんなで新しい楽曲を作りましょう」
誰でも最初は何もわからないとこからはじめる。
そして失敗を繰り返しながら成長してできるようになるのだ。
一筋縄にはいかないことだけど”ファニ☆プラ”として成長するためにも必要なことだ。
「それじゃあ、役割り分担を決めよう。私は歌とかダメだから振り付けを考えるよ」
「なら、私は作詞の方を担当しますわ」
「リリナちゃんはピアノができるから作曲の方をお願いね」
「わかりました。できる限り努力します」
私達はそれぞれの役割を決めて反省会を終わらせた。
その頃になるとクジラ公園の中も静かになりはじめていた。
復活ライブを終えたファン達はそれぞれの家へと帰って行く。
余韻を楽しんでいるファンもいたが僅かばかりだった。
「今日は楽しい一日だったな」
「これからも楽しい時間が続くんですわよ」
「それを考えるだけでワクワクして来ますね」
「やっぱりアイドルってこう言うもんだよね」
「ライブをしてファンのみなさんを元気にして」
「もっとファンのみなさんを元気にしてあげたいです」
帰り道、私達はそんな話をしながらクジラ公園を出て行く。
復活ライブをしたことですっかり自信を取り戻せた。
私のファンはまだ少ないけれどそれでも嬉しい。
私の歌声を待ってくれている人がいるだけで勇気が湧いて来る。
「新曲ができたらもっと楽しくなるね」
「私達が作った楽曲ですから気持ちもこもりますわ」
「これまでにない楽曲にしましょうね」
それは私達の頑張りしだいにかかっている。
まあ、ちょめ助でもできたのだから私達にできないことはない。
新曲ができたらちょめ助に自慢してやるつもりだ。
「それじゃあ、また明日ね。バイバイ」
「お疲れさまでした」
「みなさん、また明日」
私達は女子寮の前で別れる頃にはすっかり空は赤く染まっていた。
長い一日がようやく終わりを告げたのだけれど気持ち的には短い方だ。
それはいろんな楽しいことがあったからだ。
きっと明日も楽しい一日がはじまるのだろう。
そんな予感を胸に抱いていた。




