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第百四十一話 久しぶりの帰宅

会場は投票結果を待っているファン達でいっぱいだ。

投票を追えたファン達もクジラ公園に舞い戻って来ている。

投票結果はファン達の活動にも影響を与えるだけに関心を持っていた。

もちろん当事者である私達も投票結果が気になる。


「どうなるのかな」

「もちろん私達の勝ちよ」

「けど、絶対的に”ROSE”のファンの方が多いんですよ」

「それでも私達が勝つの。でなければアーヤをのさばらせるだけよ」


真剣勝負だからアーヤに負けてはいけない。

これ以上、アーヤに勝利をあげたらつけあがるだけなのだ。

前回のアイドルバトルに負けているから余計に勝たないといけない。


「マコに勝てるかしら?」

「あたり前じゃない。あれだけのパフォーマンスをしたのよ」

「確かに新曲を発表したのはよかったわ。だけど、圧倒的にファンの数が少ないでしょう」

「”ファニ☆プラ”にだって潜在的なファンがいるのよ」


そうあってほしい。

ライブ会場に集まっただけでは足りない。

絶対数、”ROSE”のファンの方が多いのだから。


「”ファニ☆プラ”のファンだなんて将来性がないよね。やっぱりブームを起せないと」

「ギャルブームなんて一過性のものよ。すぐに廃れるわ」

「それはどうかしら。あっちの世界ではギャルの人気は根強いのよ。こっちの世界でも同じだわ」

「ギャルなんて所詮はおばさんの原型よ。ギャルになる前におばさんになるわ」


ギャルとおばさんの親和性は高い。

ギャルが年をとると自然とおばさんになる。

ギャルの根性はおばさんの根性そのものなのだ。


「好きなだけ言っていなさい。勝つのは私だから」

「いいえ。勝つのは私よ」


いつの間にか私とアーヤのバトルになっている。

それはお互いにプロデューサーの立場だからだ。

本来なら”ファニ☆プラ”と”ROSE”のバトルなのだ。


すると、集計スタッフが結果を持って司会者に渡す。


「それでは今回のアイドルバトルの投票結果を発表します」

「いよいよだわ」

「勝つのは私よ」


司会者は投票結果を確認しながら司会進行をはじめる。


「”ROSE”は298票」

「これは勝ちね」

「まだまだよ」


司会者が獲得票数を発表すると会場がざわつく。

予想していた通りかなりの獲得数なので驚いたようだ。

これでアーヤに勝つには298票以上、獲得しなければならない。


「マコにこの記録を塗り替えられることができるかしら」

「大丈夫よ。新曲も発表したのだから勝てるわ」


新曲の発表に路上ライブに来たファン達は喜んでいた。

待ちに待った新曲だから嬉しかったのだ。

あの時のファン達の反応を見ていれば負ける心配はない。

絶対数、ファンの数は少ないけれどそれを補うことはできるはずだ。


「次いで”ファニ☆プラ”の得票数を発表します」

「さっさと教えなさい」

「勝てる、勝てる、私達なら勝てる」


私は”ファニ☆プラ”の勝ちを祈りながら結果発表を待つ。


「”ファニ☆プラ”は302票」

「えっ、マジ」

「やったー!アーヤに勝った!」

「嘘でしょう。そんなことありえないわ」


間違いなく司会者が言ったのは”302票”と言う言葉だ。

それは”ROSE”の獲得票数を4票上回っている。

僅差ではあるけれど”ファニ☆プラ”の勝ちなのだ。


「こんなの無効よ。マコが私に勝てるわけないもの」

「認めなさい、アーヤ。これは厳正な結果なのよ」

「私は認めない。マコに負けることなんて許さないわ」

「アーヤがどれだけ喚いても結果は覆らないのよ」


アーヤは結果に満足いかなくて文句を言って来る。

私との勝負にこだわっているから結果を受け入れられないようだ。

ただ、この投票結果は不正なものではなく正当な結果なのだ。

だから、私がアーヤに勝ったことになる。


「やり直しよ。だって、”ROSE”のライブは途中で中止になったのよ。不公平だわ」

「それを今さら言ってもはじまらないでしょう。アーヤはアイドルバトルの続行を優先させたのだから」

「そもそも、マコが最初にズルをしたのでしょう」

「ズルじゃないわ。あれは仕方のなかったことなのよ」


いくら私にぱんつを盗られたからと言って路上ライブを中止にすることはなかった。

ノーパンのままライブを続ければよかったのだ。

なのに”ROSE”はステージから降りた。

その時点で負けは確定していた。


「こんな結果、認めないわ」


アーヤは結果に納得言っていなかったが司会者は勝敗を決めた。


「302票で”ファニ☆プラ”の勝利です」


と。


「やったね、ちょめ助」

「当然の結果よ」

「前は負けたから嬉しいです」

「どちらもいい勝負をしましたわ」


ルイミン達も私の勝利を歓迎してくれる。

勝負をしたのはルイミン達だけど私の力があってこそだ。


「さてと、久しぶりにミクの家にでも帰るか」

「ちょめ助、またね」

「またお会いできる日を楽しみにしてます」

「次に会う時までにはもっと成長していますわ」

「誰も私を引き止めないのね……グスン」


今までいっしょにいたのだから少しぐらい惜しんでくれてもいい。

せっかく協力して勝利をおさめたのにあまりに質素だ。

それは私がプロデューサーを降板することが決まっているからなのだが。

それでもだ。


「私達は私達で頑張ってみるよ」

「遠くから私達の活躍の祈っていてください」

「心配しなくてもいいですわよ。私は最後までおりますから」

「はいはい、そうですか。誰も私の心配なんてしてくれない。もう、グレてやるんだから」


私はひとり拗ねながら薄情なルイミン達と別れた。


「私が勝たせてあげた恩を忘れるなんて薄情過ぎるわ。”帰って来てほしい”って言っても帰らないでおこう」


転移するところを人に見られるとマズいので人気のない木陰を探す。


「ここでいいわ」


私は転移の指輪を取り出して魔力を注いだ。

すると、転移の指輪から光が溢れ出し、私を包み込んで行く。

そして静かに目を開くとミクの部屋の真ん中にいた。


「あれ、ちょめ太郎、帰って来たんだ」

「なに、その反応は。まるで私が帰って来ちゃいけないみたいじゃない」

「ちょめ太郎、普通に喋れるようになったの」

「そうよ。これで歯がゆい思いをしなくてすむわ」


ミクには私の心の声が聞えるので喋れるようになってもそう変わらない。

だけど、ミク以外の人には聞こえないから喋れるようになったことはいいことだ。


「それで何しに帰って来たの?」

「何をしにって。ミクの顔を見に来たんじゃない」

「私はてっきり田舎に帰っちゃったかと思っていたよ」

「王都でにらせんべい屋をやるって言っておいたじゃない」

「だって、1ヶ月も家を空けていたんだよ。連絡もくれないんだから」

「それは悪かったって思っているわ。私だって忙しかったのよ」

「もう、ちょめ太郎のベッドも食器も席もなくなっちゃったよ」

「えーっ、何で片づけちゃうのよ。私はミク達の家族じゃなかったの」


こっちの世界に来てはじめての家族だと思っていたのに悲し過ぎる。

悪いのは私だけど、ベッドや席を残してくれてもいいはずだ。

きっとミク達にとって私は家族ではなくお客さんなのだろう。


「もうすぐ日が暮れるからママにちょめ太郎が帰って来たことを伝えるね」

「せっかく帰って来たのに手土産もなくてごめんね」

「いいよ、そんなの。何も期待してなかったから」

「それはそれで悲しいわ」


久しぶりに家族が家に帰って来たのならお土産を持って来るものだ。

それがたとえ定番のお土産だったとしても気持ちだけで嬉しくなる。

それなのに私はそんな大切なことを忘れるなんてバカだ。


ミクは自分の部屋を出て行くとドタドタ階段を降りて1階へ向かった。


「この部屋は何も変わらないのね」


それはそれで安心する。

ミクが前と同じでいるからだ。

もし、部屋がガラリと変わってしまっていたら物悲しくなる。。

それは、私の知らない間にミクが成長してしまったことを表しているからだ。


「ルイはどうだろう」


私はルイのことが気になったのでミクの部屋を出てルイを尋ねた。


「ルイ、いる?」

「誰?」

「私だよ」

「私って言われてもわからない」

「もう、私のことを忘れちゃったの。ちょめ太郎だよ」

「えっ、ちょめ太郎?」


扉の向こうからルイの驚くような声が聞えて来る。


「ねぇ、入っていい?」

「何でルイ、ちょめ太郎の声が聞えるんだろう?」

「そんなのいいじゃない。それより部屋に入っていい?」

「ルイ、頭が変になちゃったのかな」

「もう、ありのままの現実を受け入れてよ」

「だって、ちょめ太郎の声が聞えるんだもん」


ルイがそう言う風に驚いてしまうのも無理はない。

前は”ちょめちょめ”としか話せなかったからだ。

それが久しぶりに帰って来たら普通に喋れるよになっていたのだから。

純真無垢な娘が上京して、久しぶりに帰って来たらすっかり都会に染まっていた時のような驚きだろう。


「王都でいろいろあって普通に話せるようになったの」

「ちょめ太郎の声って、そう言う声だったのね」

「カワイイでしょう」

「ふつー」

「何よ、その反応は。少しぐらい褒めてよ」

「だって、ふつーなんだもん」


そりゃあ、声優さんでもないからカワイイ声なんて出せない。

だけど、はじめて私の声を聞いたのだから褒めてくれてもいいはずだ。

それを”ふつー”だなんて。

私の声ってそんなにも魅力がないのだろうか。


「入っていい?」

「いいよ」

「おじゃましまーす」


ルイの了解を得たので私はルイの部屋の扉を開ける。

すると、ルイは椅子に座っておやつを食べているところだった。


「ちょめ太郎……」

「え?なに?」

「全然、変わらないね」

「ズコーッ」


ミクがあまりに普通なことを言うので思わずズッコケてしまった。


「ずっといなかったのに何も変わってないだなんて不思議」

「そう言うルイだって変わってないじゃない」

「ルイは、前よりもお胸が大きくなったよ」

「嘘だー。ペタンコじゃん」

「これでも大きくなったの」

「なら、お風呂の時に見せてよ」

「いいよ」


子供の成長は早いって言うけれど1ヶ月で胸が大きくなっているなんてあり得ない。

ましてやルイはまだ6歳なのだ。

胸が膨らんで来るような年頃じゃない。

きっと私に自慢したいから話を盛ったのだろう。


「ちょめ太郎、ここにいたんだ」

「あっ、ミク」

「ママにちょめ太郎が帰って来たことを伝えたよ。そしたらご馳走を用意してくれるってさ」

「さすがはミクのママね」

「やったー!ご馳走だ!」


ご馳走と言う言葉を聞いてルイは飛び上がって喜ぶ。

外に出られないルイにとって食事は楽しみのひとつなのだろう。

私も歓迎されているみたいで嬉しい。


「それじゃあ、夕飯になるまでトランプをしていよう」

「いいよ。何にする」

「ルイ、ババ抜くがいい」

「じゃあ、ババ抜きね」


と言うことで私達は夕飯の時間になるまでトランプで遊んだ。


今夜の晩ごはんはミクのパパが腕を振るってくれた。

自慢のカレーを食べさせたいから用意してくれたのだ。


「うわぁ~、美味しそう」

「美味しそうじゃなくて美味しいぞ。たくさんあるからたんと食べてくれ」

「パパがカレーを作ってくれるのって久しぶりだよね」

「うん。半年ぐらい食べてないよ」

「そうだったか。なら、今度から毎月カレーの日を作ろう」

「「本当。やったー!!」」


ミクとルイは飛び上がって喜ぶ。

それはパパのカレーがとても美味しいからだ。


あっちの世界のカレーと違ってスープ状になってる。

インドカレーとかタイカレーとかそっちの系統だ。

カレーもスパイスから作っているのでとてもスパイシーだ。

それなのに子供の口にも合うから不思議だ。

ミクのパパがカレー屋をやったらさぞかし儲かるだろう。


私はそんなことを考えながら目の前のカレーに釘付けになる。


「さあ、食べておくれ」

「いただきま~す。パクリ、モグモグ」


テレキネシスを使ってスプーンで具とご飯を掬うと口に放り込んだ。

その瞬間、口の中はスパイシーなカレーの味一色になる。

それなのに辛くもなくほんのり甘さを感じる。

これは――。


「ココナッツミルクが入っているのね」

「よくわかったな。さすがはちょめ太郎くんだ」

「ルイもわかってたよ」

「嘘だ~。ちょめ太郎の真似をしているだけでしょ」

「そんなことないもん。ルイはちゃんとわかっていたんだから」


ミクが否定をして来るのでルイは頬を膨らませて抗議する。

すると、ミクのママが間に入って来てミクを諭した。


「ミク、そう言うことにしておいてあげなさい」

「はーい」


お姉ちゃんだからと言うわけでもないけどルイの言うことを認めた方がいい。

でないとルイは納得しないから、いつまでもブツブツ文句を言うのだ。

それを知っているからママはミクを諭したのだ。


「それよりもちょめ太郎くんが普通に話せるようになってよかったわ」

「そうだな。”ちょめちょめ”だけじゃ、うまくコミュニケーションできないからな」

「ちょめ太郎が身に着けている首輪のせいらしいよ」

「こんな魔導具は初めて見るわね」

「パパも初めて見るぞ」


ママとパパの関心は私が身に着けている首輪に向く。

私も何で普通に喋れるようになったのか不思議でいた。

あのボロ雑巾が私を自白させるために用意した魔導具だ。

どこから調達して来たのかわからないから謎が深まるばかりだ。


まあ、けれど普通に喋れることになったことを喜ぼう。


「私もよくわからないけれど、喋れるようなったことを素直に受け入れるわ」

「それもそうね。これで心おおきなくお喋りができるわ」

「よーし、女子会をはじめよう」

「女子会って?」

「女子だけでお喋りする会よ」

「パパは?」


不意にルイが呟いた言葉を聞いてみんなの視線がパパに集まる。


「パパのことなら気にしなくていいぞ」

「そうは行かないわよ。パパをのけ者にしたくないもの」

「ママ」


ママの気づかいを歓迎したのかパパはじっとママの瞳を見つめる。

すると、ママの頬が赤くなってモジモジしはじめた。


「はーい。食事は終わりよ。ミク、ルイ、お風呂で女子会をするわよ」

「えーっ、まだ全部食べてないよ」


カレーが半分残っているお皿を見つめながらミクが文句を言って来る。

よく見るとルイのカレーも半分くらいしか口をつけていなかった。


私はパパとママに聴こえないような小さな声でミクとルイに囁く。


「いいから、いいから。パパとママを二人っきりにさせてあげるのよ」

「えー、何で?」

「お姉ちゃん、鈍いな。ルイはわかるよ」

「なら、行くわよ」

「ちょっと待ってよ、ちょめ太郎、ルイ」


私達はダイニングにパパとママを残してお風呂場へ駆け込んだ。


きっと二人っきりになったら久しぶりに甘い時間を過ごすことだろう。

言葉に出すのも恥ずかしいぐらい、あんなことやこんなことをするはずだ。

まあ、夫婦なのだから誰にも遠慮をすることはない。

心行くまでイチャイチャすればいいのだ。

そのぐらいの時間はお風呂で稼ごうと思っている。


「それより、ルイ。あの約束を忘れてない」

「お胸のこと?」

「そうよ」

「見たい?」

「見たい」

「じゃあ、見せてあげるね」


そう言ってルイは上着を肌蹴てペタンコなお胸を見せた。


「ペタンコじゃん」

「大きくなったよ」

「どこが」

「この辺」

「ちょっとお肉がついただけね」

「えーっ、お胸が大きくなったんじゃないの」


ルイは信じられないような顔をしながら自分のお胸を確めている。


「ルイのお胸が大きくなるのは、あと10年後よ」

「えーっ、そんなに」

「まあ、それまでは絶対に大きくならないから安心しなさい」

「チェッ。お胸が大きくなったと思ったのに」


ルイは少し成長して肉付きがよくなっただけだった。


「ねぇ、ルイ。何でそんなにお胸が大きくなりたいの?」

「だって、その方がモテるもん」

「ズコーッ」


どこの誰がそんな情報をルイに吹き込んだのか。

ルイはまだ純真だから、そんなことを気にしなくていい。

そう言うことに意識が向くようになるのは恋を知ってからだ。

それまではお胸のサイズよりも楽しいことに夢中になるべきだ。


まあ、元の私はお胸が大きくなる年頃だから気持ちは痛いほどわかるのだが。


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