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第百三十七話 アーヤの仕返し

「何をバカなことを言っているの。そんなことあるわけないじゃん」

「そうですよね、ワープだなんて」

「ちょめ助くん、現実を見てください」

「現実を見ていないのはセレーネ達の方だわ。本来であればお客が集まっているはずなのよ。それなのに誰もいないなんて変じゃない」


たとえにらせんべいを求めに来なくても公園を散歩している人ぐらいいるはずだ。

それなのに誰も公園の中にはおらず静まり返っている。

この状況をどう説明できると言うのか


「それはそうだけど、ワープだなんて飛躍し過ぎている」

「じゃあ、この状況をどう説明するつもりなのよ」

「きっと他のどこかでイベントでもやっているのではないでしょうか」

「そんな話は聞いたことないわ」

「今日だけ公園内への立ち入りは禁止なのかもしれませんわよ。公園を改修するとか」

「それなら公園の周りにトラロープが張り巡らせてあるはずよ。私達が来た時はなかったじゃない」


セレーネ達はもっともらしいことを言って自分を納得させようとしている。

この不思議な状況をどうにか説明して道理を合わせようとしていた。


「なら、ちょめ助の言うように本当にワープしたのなら何で景色が変わらないの」

「それは平行世界にワープしたからよ。私達が元いた世界と平行してこの世界は存在しているの。だから、まるっきりそっくりなのよ」

「それはつまるところ別の可能性を現した世界と言うことですね」

「何だかよくわからない」


私達の話を理解できずにルイミンは混乱してしまう。


平行世界は全く同じ世界が次元の違う場所で存在していることだ。

ただ、全く同じと言うわけではなく、ところどころで違っている。

この世界では私はちょめ虫だが私がちょめ虫でない世界もあるのだ。

だから、私が平行世界にワープしたらそっちの世界の私と出会うこともあると言うことだ。

その時にどんなインパクトが起こるのかわからないが何もないことはないだろう。


「ちょめ助くんの言う通りだったとしたら、この世界にも私がいるってことですよね。会ってみたいです」

「それはダメよ。もし、自分と同じ自分に会ったら何が起こるかわからないのよ」

「それって消えちゃうこと?」

「わからないわ。どんな化学反応を起こすのか謎よ」


実際に体験したこともないからうまく説明はできない。

だけど、絶対によからぬことが起こるはずなのだ。


「もし、そうだとするならば、ここから動かない方がいいかもしれませんわね」

「そうだね。フラフラ出歩いていて別の自分と出会ったら怖いもんね」


それが一番賢い判断だ。

元いた世界と同じだから勝手はわかる。

しかし、どこでどんなことが起こるかわからないのだ。

迂闊な行動をするほど危険なことはない。


すると、公園の時計が10時を指してチャイムが鳴り響いた。


「10時ですね」

「もう、そんな時間なの」

「本来であればとっくにお客さんが行列を作っているのですけどね」

「なら、行列を作ればいいのよ」

「えっ?」

「こっちの世界でもにらせんべいを売って稼ぐのよ」

「そんなことより元の世界に戻る方法を考えた方がいいんじゃない」

「何がきっかけでこっちの世界に来たのかわからないのに考えるだけ無駄よ。それならにらせんべいを売って稼いだ方がいいわ。元の世界に帰る前にがっぽり稼いでおくのよ」

「ちょめ助の商売根性は底なしだね」


どこの世界に行こうが私は私だ。

だから、ここでもがいているよりもやれることをやった方がいい。

元の世界でにらせんべいが流行ったのだからこっちの世界でも流行る可能性が高い。

こっちの世界にたくさんのリピーターを作ってがっぽりと儲けるのだ。


そんな話をしていると公園の中にちらほら人が入って来た。


「人が来たよ」

「10時になったからでしょうか」

「けれど、こちらに来る気配がありませんわね」


公園に入って来た人達は遠目にこちらを見ながら歩き去って行く。

散歩しているからなので仕方ないが気づいたのならこっちに来てほしい。


「みなさん、こちらを気にしていますね」

「気になるのならこっちに来ればいいのに」

「きっと、こっちの世界では屋台がないのかもしれないわ」


私はそんな仮説を立てて自分を納得させる。

平行世界だから屋台がなくてもおかしくはない。

もしかしたら外で食事をする習慣すらないのかもしれない。


「あそこで立ち話をしているよ」

「よっぽどこちらが気になっているのですわ」

「ルイミン、あの人達を呼んで来て」

「えーっ、私が?嫌だよ」

「文句は言わない。ルイミンは呼び込み担当でしょう」

「別の世界へ来たのに呼び込みなんてしたくないよ」


私の命令を聞いてルイミンはすぐさま断りを入れて来る。


もし、別の世界の人と接触して何か問題が起こったら心配だからだろう。

その可能性は否定できないが、何もしないでいた方が気持ち悪いのだ。


すると、こちらの視線に気がつくと立ち話をしていた人達は去って行った。


「あ~ぁ、行っちゃった。ルイミンがぐずぐずしているからよ」

「私のせいにしないでよ。都合の悪いことはみんな私に押しつけるんだから」

「私が行った方が驚くでしょ。同じ姿をしているルイミンの方がハードルが低いのよ」

「ああ言えばこう言う。平行世界なんだから別のちょめ虫ぐらいいるでしょう」


その可能性も否定できない。

あっちの世界ではちょめ虫は私ひとりだがこっちの世界はもっと多いかもしれない。

いや、あたり前のようにちょめ虫が街を徘徊していることさえあり得るのだ。

ただ、それを確めに行くことは憚れる。

もし、こっちの世界の私と接触した時に何が起こるかわからないからだ。


「なら、どんな話をしているかだけでも聞いて来てよ」

「盗み聞きをしろって言うの?」

「散歩していたら聞えて来たことにすれば問題ないわ」

「それならちょめ助がすればいいじゃん。葉っぱを食べているフリをして盗み聞きして来れば」


ルイミンは気怠そうにしながら私の要求を断って来る。

その場に座り込んでここから動かない意思表示をして来た。


「もう、いいわ。自分で聞いて来るから」

「はじめからそうすればいいんだよ。いっつも私にばかり押しつけるんだから。いくら親友だって聞けないこともあるのよ」

「はいはい、そうですか。わるーござんしたね」

「そうやって誤魔化す。それだからいつまで経っても学習しないのよ」


私はそんなにも難しい要求をしたわけじゃない。

向こうで立ち話をしているおばさん達の話を聞いて来るだけのことだ。

おやつを食べながらでもできる簡単な作業だ。

それなのに文句を言って来るルイミンは問題アリだ。


仕方ないので私は立ち話をしているおばさん達の話しを聞きに向かう。

途中で見つからないように擬態して姿を眩ませて近づいて行った。


「ちょめ助くんが消えちゃいました」

「あれがちょめ助の特殊能力なんだわ」

「ああやって姿を眩まして着替え中の私に近づいて来たんですね」


私はルイミン達に見られていることを忘れて擬態してしまった。

ついうっかりだが、擬態したところを見られてしまったのはアウトだ。

私の特殊能力がバレてしまったから次からはルイミン達の前では使えない。


そんなこともつゆ知らず私は立ち話しているおばさん達のところまでやって来た。


「あれが噂のにらせんべい屋ですわよ」

「やーね、こんなところで商売しているなんて。迂闊に子供を連れて来られませんわ」

「子供達ならすぐに興味を持ってしまいますからね」

「早くどこかへ行ってくれないかしら」


聞えて来たのはおばさん達の世間話だった。


「そうよね。噂が本当だったら最悪ですわよね」

「庶民をバカにしていると言うか詐欺ですわ」

「きっと経営者がロクでもない人なのよ」

「あり得ますわね。汚職とかしている人もロクでもない人ばかりですからね」


一瞬、自分の話をされているのか理解できなかった。

詐欺とか汚職とかよくあるワードが聞えて来たからだ。

おそらく新聞のトップ記事について話しているのだろうと思った。


しかし、それは次の話を聞いて違うことに気づいた。


「馬が踏みつぶした汚いニラを使っているんですよね」

「お客をバカにしていますわ」

「カビの生えた小麦粉まで使っているとかいないとか」

「金儲けのことしか考えていないのよ」

「あげく蛇のタマゴを使っているとも書かれていましたよ」

「あり得ませんわよね。商売人の風上にもおけませんわ」


おばさん達の話していることは間違いなくにらせんべい屋のことだ。

どこからの情報なのかわからないが言いがかりも甚だしい。

私は食材にはこだわりを持っているし、鮮度を優先させている。

だから、話に上がったようなことは一切ないのだ。


「ある意味、テロ行為と言ってもおかしくないですよね」

「食べた人を食中毒にして貶めようとしているのですわ」

「きっと心に闇を持った人なのでしょうね。でなければそんなことはしませんわ」

「自分の精神が止んでいるからと言ってそれを他人にぶつけるなんて言語道断ですわ」


おばさん達の話はエスカレートして妄想が混じりはじめる。

ここまで来るとおばさん達は止められなくなるから厄介だ。


「みんなを集めてデモをしませんか」

「それ、いいアイデアね。闇営業を根絶しましょう」


おばさん達は話がまとまるとガッツポーズをして決意を固める。

そして屋台を睨みつけるとそそくさと公園を出て行ってしまった。


「何なのあれ。闇営業だって。私達はそんな汚い商売なんてしていないわよ」


私はプリプリ怒りながらルイミン達の待っている屋台へ戻って行った。


「ちょめ助、どうだった?」

「どうもこうもないわよ。適当な話を並べて文句を言っていたわ」

「どんな話だったのよ」

「汚いニラを使ってるとか、カビの生えた小麦粉を使っているとかよ。あり得ないでしょう」

「どこから出た情報なのでしょうか」

「きっと私達を妬んでいる人の仕業よ」


商売をはじめればライバルとなるお店は現れる。

そのライバル店が自分達を優位に立たせるため偽の情報を流したのだ。

ライバル店の足を引っ張れば抹消できると考えたのだろう。


「けれど、平行世界に来たのになぜにらせんべい屋の文句を言われるのでしょうか?」

「それはこっちの世界にもにらせんべい屋があるってことじゃない?」

「そうか、わかったわ。こっちのにらせんべい屋がロクでもないのよ。私達とは関係ないわ」

「でも、平行世界に来たんでしょう。それならにらせんべい屋をやっているのはこっちの世界の私達になるのではないですか」


セレーネは鋭いところをついて来る。

こっちの世界の私達がロクでもないのだ。

きっと金儲けばかりに夢中になってしまっているのだろう。

見つけたら横面を殴って目を覚まさせてあげたい気分だ。


「これじゃあ、商売なんてできないね」

「私達とこちらの世界のにらせんべい屋が違うって説明も難しいですしね」

「素直に元の世界に帰った方がいいらしいですわ」

「それもそうかもね……悔しいけれど」


私は大きなため息を吐いてガックリと肩を落とした。


すると、どこからともなくアーヤがやって来る。

いつものように”ROSE”のメンバーをお供に連れて。


「あら、マコじゃない。こんなところで何をやっているの?」

「煩いのが来た。こっちの世界にもアーヤがいるのね」

「何をわけのわからなことを言っているの。頭でも狂った?」

「はいはい。商売の邪魔だからあっちへ行きなさい」

「商売?お客がいないのに?」

「これからお客が来るのよ」


こっちの世界のアーヤも元の世界のアーヤも同じだ。

嫌味ったらしくあげ足を取って来て絡んで来る。

平行世界のアーヤだから性格もそのままなのだろう。


「来るかしらね」

「何よ、その言い方。まるでお客が来ないって言っているみたいじゃない」

「そう聞えた?」

「まさか、アーヤじゃないでしょうね。悪い噂を流したのは」

「私がそんなことをするとでも思っているわけ?」

「アーヤだからやるんじゃない」

「御名答。私が流した噂よ」

「なっ!」


こっちの世界のアーヤは悪びれた様子もなく犯行を認める。

そのあからさまさに返す言葉を失ってしまった。


やっぱりアーヤはどの平行世界でもアーヤだ。

善良なアーヤなどどこの平行世界にも存在していない。

もし、善良なアーヤがいたら世界が崩壊しているだろう。

そのぐらいアーヤと言う人間は悪に染まっているのだ。


「けど、先に手を出して来たのはマコの方だからね。私は仕返しをしただけよ」

「私が何をしたって言うのよ。言いがかりはよして」

「”ROSE”のライブを中止にさせたでしょ。わかっているのよ」

「そんなのそっちの都合じゃない。私は関係ないわよ」

「へぇ~、そこまで白を切るんだ。ならいいわ、言ってあげる」

「何をよ」

「マコが”ぱんつを盗っている”ってことを」

「くぅ……」


アーヤは半ば確信を持って疑いをかけて来る。

しかし、ここで認めたら負けだ。

何を言われても否定しないといけない。


「さあ、白状なさい。”ぱんつ”を集めているでしょう」

「知らないわね。どこにそんな証拠があるのよ。証拠を見せて見なさい」

「証拠はナコルの証言よ。ナコル、言ってやりなさい」

「ちょめ助、以前に私のぱんつを盗ったでしょう。覚えているのよ」

「何の話かしら。私に心当たりはないけど」


ナコルは昔の話を持って来て私を追及して来る。


確かに以前にナコルの”みずたまぱんつ”を盗った。

それは私の”みずたまぱんつ”を勝手に履いていたからだ。

バカなギャルであるナコルなんてノーパンで十分だ。

高尚な”ぱんつ”など履いてはいけないのだ。


「さすがはマコね。すっとぼけるのは天下一品だわ」

「言いたいだけ言っていれば。私には関係ないもの」

「ねぇ、あなた達もマコから”ぱんつ”を盗られたでしょう」

「「それは……」」

「なにも言い返せないってことは認めたことね」


私が正直に答えないのでアーヤはリリナ達に話を振る。

すると、リリナもセレーネも何も言えずに俯いてしまった。


「リリナ、セレーネ、言い返してやりなさい。私はそんなことをする女じゃないって」

「いや~ね。マコにそんな趣味があったなんて知らなかったわ。”ぱんつ”を盗って匂いでも嗅いでいたの?」

「そんなことするわけないじゃない」

「じゃあ、”ぱんつ”を履いて喜んでいたってことね」

「何でそうなるのよ。私は変態じゃないのよ」

「十分変態じゃない。だって、女子の”ぱんつ”を盗っているんだもん」


その言葉に何も言い返せない。

”ぱんつ”を盗ったのは事実だからだ。

ただ、好きで”ぱんつ”を盗っているわけじゃない。

ちょめジイに命令されているからだ。

だから、悪いのはちょめジイであって私ではない。

文句を言うならちょめジイに言うべきなのだ。


「言いたいだけ言っていなさい。誰も相手にしてくれないだろうし」

「そうでもないわよ。私が”魔送機”で情報を拡散すればみんな反応してくれるもの」

「卑怯よ。わざわざ”魔送機”を使わないでよ」

「”魔送機”はギャル御用達のツールだからね。外すことはできないのよ」


あっちの世界でもそうだったがギャル達は新しいツールを使いこなしてしまう。

はじめは興味本位で使うのだがいつの間にか達人レベルに成長するのだ。

それは数多の暇を持て余しているからだろう。

とてもじゃないが普通の人には真似できない。


「もう、何でこっちの世界でもアーヤに絡まれなければならないのよ」

「さっきっからあっちの世界やこっちの世界って言っているけれどバカになったの?」

「バカはアーヤでしょう」

「やっぱりバカになったんだね……って、もともとバカか。アハハハ」

「私のどこを見てバカって言うのよ。そう言う奴の方がバカなのよ」

「悔し紛れの言葉ね。私ぐらい高尚になると怒りもしないのよ」


アーヤは勝ち誇ったように私を下目に見る。

言い合いで勝てたから喜んでいるようだ。


「はいはい、そうですか。私の負けですよ。用がすんだのならあっちへ行ってちょうだい」

「開き直ったわね。なら、ついでにアイドルバトルの続きをしてもらおうかしら」

「アイドルバトル?あれはもう終わっているでしょう」

「いいえ。まだ、人気投票をしていないわ。結果がでるまでは終わらないのよ」

「なら、人気投票をしなさいよ」

「その前にそっちのライブをやってもらわないとフェアじゃないわ」


こともあろうかアーヤはアイドルバトルの続きを要求して来た。

それは自分達のライブが途中で中止になった腹いせだろう。

ただ、私の方としては素直に聞き入れようとは思っていない。

今は路上ライブよりもにらせんべいの方が大切なのだ。


「いいわ。今回はそっちの不戦勝で勝ちでいいわよ」

「はぁ?私を誰だと思っているの。そんなことで喜ぶわけないでしょう」

「私が負けてあげるって言っているの。素直に受け取りなさい」

「嫌だね。私はマコを打ち負かさないと気が晴れないのよ」

「もう、私は路上ライブよりもにらせんべいの方が大事なの」

「なら、悪い噂を拡散して邪魔してあげる」


その言葉を聞いてアーヤの横面を思いっきり殴ろうかと思った。


せっかく負けを認めてあげると言うのに素直に受け入れないからだ。

アーヤとやり合っていることほど無駄な時間はない。

そんな時間があるならば商売に注ぎたいのが本音だ。

まだ、にらせんべいは成功したとは言い切れない。

にらせんべいブームを起こしてがっぽり稼ぐまでは終われないのだ。


「人の邪魔ばかりをして。ほんとアーヤってお邪魔虫よね」

「虫はそっちの方じゃない。そんなへんてこな見た目になっちゃって可哀想だわ」

「仕方ないじゃない。これはちょめジイの趣味なんだから」

「あのジジイと言い、マコと言い、バカばっかりなのね」


アーヤは呆れ顔で私とちょめジイを貶した。


「さあ、話しは終わったわ。帰ってよ」

「マコが承知するまで帰らないわ」

「だから、何度も言っているでしょう。私はアイドルバトルなんてしないの」

「マコに拒否する権利はないのよ」

「何度言われても答えは同じよ」

「なら、商売の邪魔をするわ」


ああ言えばこう言う。

アーヤはなんとしてでも私にアイドルバトルをさせたいようだ。


「しつこいわね。わかったわよ、アイドルバトルをしてあげるわよ」

「聞いたからね。あとで言っていないって言っても通らないからね」

「そんなこと言わないわよ。さっさと終わらせてにらせんべい屋をやるのよ」

「なら、決まりね。みんなも聞いたわよね。確定だからね」


アーヤはみんなに確認をとってアイドルバトルの続行を決定した。

これで私はアイドルバトルから逃げられなくなったのは他でもない。

そもそも今さら逃げるよりもアイドルバトルをして早々に終わらせるつもりでいる。

そうすればアーヤも納得するし、私もにらせんべい屋を再開できる。

勝敗にこだわるつもりもないがやるならば勝たなければ意味がない。

こてんぱんにアーヤをつぶして二度と立ち上がれないようにするだけだ。


「で、いつ路上ライブをやればいいのよ」

「来週、と言いたいところだけど時間をあげるわ」

「お気遣いありがとうございます」

「路上ライブは2週間後の月末よ。それまでに新曲を仕上げなさい」

「新曲?」

「あたり前じゃない。”ROSE”が新曲を発表したのよ。マコ達が発表しないと勝負にならないでしょう」


また、アーヤがロクでもない要求をして来た。

私の方としては既存の歌を歌って終わらせるつもりでいた。

その方が楽だし、準備も必要ないからにらせんべいに注力できる。

しかし、そうもいかなくなってしまった。


「2週間で新曲なんてムリじゃん」

「さあ、せいぜい悩みなさい。アハハハ」

「ちくしょう。こうなったら2週間で新曲を仕上げてあげるわ」

「楽しみにしているわ。じゃあね~」


そうは言ったけどすでに新曲はできている。

あえて言ったのはアーヤのバカぶりを見届けるためだ。

アーヤにそう思わせておいてあとでひっくり返すのが目的だ。

アーヤのことだから新曲を聴いたら度肝を抜かすだろう。

その顔が目に浮かんで私はうれしくなった。


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