第百二十八話 献身の看病
ちょめ助の傷口に絆創膏を貼って包帯でグルグル巻きにした。
見た目は以前と変わりないが手当をしたので安心だ。
あとは時間がちょめ助の傷を癒してくれるのを待つだけだ。
「手当はこれでよしっと。あとはちょめ助をどうするかね」
「このままひとりにさせておくのは不安です」
「だよね。私もそう思っていたんだ」
「なら、女子寮に連れて行けばいいのではないですか」
「連れて行くのは簡単だけど見つかった時は怖いね」
「女子寮へペットの持ち込みは禁止されていますから」
「バレたら罰ですわね。けれど、それしかないと思います」
セレーネの言う通り他によい方法はない。
罰を覚悟でちょめ助を連れて行くしかない。
みんなに見つからなければ問題ないのだ。
「なら、誰がちょめ助を預かるかね」
「みんなで分担して預かることにしませんか」
「そうね。その方が公平で平等ですわね」
「じゃあ、言い出しっぺの私が最初に預かるよ」
「私はルイミンちゃんの次に預かります」
「そうなると私がリリナさんの後ですね」
「3人でローテーションしていけばちょめ助も飽きないかもね」
と言うわけで不公平がないようみんなでちょめ助を預かることにした。
当のちょめ助は相変わらず恍惚としたままで現状を理解していないようだ。
「このまま抱きかかえて行くのは無理だからリュックの中に仕舞おう。ちょっと狭いけど我慢してね」
グイグイ、グイグイ。
私はリュックの荷物を整理してから、リュックの中にちょめ助を押し込む。
ちょうどギリギリのサイズだから中々ちょめ助が入って行かない。
それでも強引にちょめ助を押し込んでリュックのチャックを閉めた。
「これでよしっと」
「ちょっと強引過ぎやしませんか。ちょめ助くんが潰れていましたよ」
「ちょめ助は柔らかいからこれぐらいのことなら問題ないよ」
「ルイミンさんのお部屋へ行くまで我慢してもらえば大丈夫です」
私はちょめ助の入ったリュックを背負って立ち上がる。
ちょめ助は軽いので問題なく背負えたが妙にリュックが膨らんでいる。
まるで修学旅行帰りの学生が背負っているリュックのようだ。
「それじゃあ女子寮へ帰ろう」
「今日はいろいろあったので疲れてしまいました」
「ちょめ助くんが見つかったことが幸いですわね」
ちょめ助に会うのは森へ湧水を探しに行ったとき以来だ。
あの時は私が先にひとりで帰ってしまったからちょめ助がひとりになった。
その後で何がどうなってボロ雑巾に捕まったのかはわからない。
ちょめ助が元に戻ったら聞いてみた方がいいだろう。
女子寮の前まで来ると担当の先生が待ち構えていた。
「げっ、先生がいる。もしかしてバレた?」
「そんなことはないと思います。ちょめ助くんは隠していますから」
「きっと持ち物チェックをしているのですわ。最近、先生の目を盗んで女子寮に持ち込む生徒が多いですから」
「なら、このリュックも検査されるかも」
「そうなったら完全にアウトですわ。どうしましょう」
「今さら騒いでも仕方ありませんわ。それに先生もそこまではしないと思います」
個人の私物を勝手にチェックするのはいくら先生であってもしてはいけないことだ。
ましてやちょめ助を隠しているのだからなおのことリュックの中身は調べられるのはマズい。
もし、先生がリュックの中身を出せと言ってこられたら完全にアウトだ。
その時はちょめ助はぬいぐるみとして押し通そうと思っている。
私はドキドキしながら先生に会釈をして女子寮の中に入る。
すると、案の定、担当の先生に呼び止められた。
「止まりなさい」
「何ですか、先生」
「随分と荷物を背負っているようじゃない。中身は何なの?」
「部活で汚したジャージとタオルが入っています」
「それにしては多めね」
「洗濯物を溜め込んででいたので多くなっちゃったんです」
「洗濯物ね……洗濯は小まめにするのが常識よ。次から気をつけなさい」
「わかりました」
心臓がドキドキしていたが何とか誤魔化すことができた。
私はリリナちゃんやセレーネと違ってだらしない方だから疑われなかったのだろう。
先生の方もそのことはちゃんと把握しているようだ。
私達は担当の先生のチェックをパスして女子寮に入って行った。
「うまく行きましたね」
「私のキャラだったからうまく行ったんだよ。これがリリナちゃんやセレーネだったらバレていたかも」
「ルイミンさんの言う通りですね。私とリリナさんはしっかり者のイメージを持たれていますから」
「それって私がだらしないって言っているようなものだよ」
「気に障ったのならごめんなさい。そんなつもりで言ったのではありませんから」
「いいよ。だって本当のことだし」
私はちょっと抜けているぐらいのキャラがよく似合うのだ。
リリナやセレーネのようにしっかり者だったらギャップができてしまう。
それに今回のようにうまくは行ってなかっただろう。
そんなことを話しながら私達は階段の前までやって来た。
「私、2階だから」
「なら、ここでお別れですね」
「食事の時間になったら呼びに来ますわ」
「じゃあ、後で」
私はリリナ達と別れて階段を登って2階へ行く。
部屋割は私が2階でリリナが3階、セレーネが4階と言う配分だ。
同じ学年なのにフロアが違うのは他の学年の人達と交流を作るためだ。
その方がお互いがお互いを意識するから問題が起こり難いのだと言う。
まあ、社会に出たら年の差なんてあたり前になるからいい準備になる。
「ただいま~」
私は部屋の扉を開けると誰もいないのにただいまを言った。
これが習慣になっているからついつい言ってしまう。
実家にいる時のような気持でいるからだろう。
「いちおうカギをかけておこう」
誰かが入って来るわけでもないがカギをかけておけばひとまず安心だ。
とかく女子寮にいるのだから念には念を押しておいた方がいい。
私はその場にリュックを投げだすとリビングのソファに座った。
「ふぅ~、疲れた」
たいしたことをしたわけじゃないが精神的に疲れた。
私はリュックを手繰りよせるとチャックを開けてリュックを広げた。
中に入っていたちょめ助は丸くなって固まっている。
ずっと狭いリュックの中に入っていたからクセができてしまっているようだ。
ちょめ助の頭を引っ張ってリュックから取り出すとちょめ助の体を元に戻した。
「窮屈だったでしょう。もう、安心だから喋っていいよ」
「おしおきして」
「おしおきって。もう、拷問は終わったんだよ」
「おしおきがほしい」
「もう、すっかりボロ雑巾に調教されちゃったんだね」
「おしおき」
ちょめ助は目を潤ませながら私におしおきをして欲しいと訴えかけて来る。
人格が変わってしまうぐらい拷問されたことでおしおきがクセになっているのだ。
「おしおきはしないよ。だって、ちょめ助は私の友達だもん」
「ルイミン、おしおきして」
「しない」
「して」
何を言っても平行線を辿ってしまう。
それだけボロ雑巾の犯した罪は大きいようだ。
私はちょめ助のことはひとまず置いておいてちょめ助の寝る場所を作った。
「いっしょのベッドに眠ってもいいけれど狭いからね。ちょめ助はここで眠ってね」
「おしおき」
「リリナちゃんグッズの毛布と布団とタオルケットをつけてあるわ。大切なものだから汚さないでね」
「おしおき」
私の部屋はすべてリリナちゃん一色になっている。
部屋に飾ってあるポスターもフォトスタンドも文房具もリリナちゃん仕様だ。
リリナちゃんファンであるならばあたり前のコーディネートで満足している。
あと足りないのは本物のリリナちゃんだけで他は全部揃っているのだ。
「今度、リリナちゃんをお部屋に招待してリリナちゃん談義で盛り上がろうと思っているのよ。楽しそうでしょう」
「おしおき」
「その時はちょめ助も同席していいからね」
「おしおき」
ちょめ助もリリナちゃんのことをもっと知ればファンになるだろう。
ファンとしてはライバルが増えるのはありがたくないが仲間が増えることはうれしい。
いっしょにライブに行ってオタ芸を踊りながら盛り上がったら最高にはち切れるだろう。
いつかそんな日が来ることを楽しみにしている。
すると、女子寮の中に夕食の時間を告げる鐘が鳴り響いた。
「夕食の時間だ。ちょめ助は連れて行けないから部屋で待っていてね」
「おしおき」
「ちゃんとご飯は持って来てあげるから心配しないでね」
「おしおき」
私が部屋を出て廊下に来るとちょうどリリナとセレーネがやって来た。
「ルイミンちゃん、食堂へ行こう」
「ちゃんと部屋のカギはかけましたか」
「バッチリ」
「ちょめ助くんの様子はどうですか」
「相変わらずだよ」
「そうですか」
「セレーネさん、そんなにがっかりしないでください。ご飯を食べたら元気になりますよ」
「それもそうですわね」
「ちゃんとタッパも持って来たから、ここにおかずを入れよう」
基本、部屋に食事を持ち込むことは禁止されている。
部屋が汚れる原因にもなるし、規律が乱れてしまうからだ。
みんなでいっしょに食事を摂ることも訓練のひとつなのだ。
タッパはみつからないようにお腹に隠して食堂へ向かった。
食堂に来ると他の女子生徒達が食事を摂り分けていた。
食事はバイキング形式だから好きなものを好きなだけ食べられる。
用意されている料理も栄養バランスを考えたメニューになっている。
「何にしようかな」
「私はイカリングと唐揚げとコロッケにします」
「リリナちゃん、わんぱくだね」
「唐揚げとコロッケはちょめ助くんの分です」
「な~る。なら、私はパスタを攻めようかな」
「揚げ物や炭水化物だけでは栄養バランスがとれませんわ。お野菜も追加しないと」
私達は思い思いの料理をお皿にとり分けて行く。
そのほとんどが自分が食べたい料理ばかりだ。
もちろんちょめ助の分も忘れてはいない。
おかげでお皿に山盛りになるまで料理を乗せてしまった。
「ちょっととり過ぎたかな。タッパをもう一つ持って来ればよかった」
私達は料理の乗ったお皿を持ってテーブルに着いた。
「それじゃあいただきましょうか」
「そうだね。いただきま~す」
「いただきます」
お腹がペコペコになっていたので一口目がすごくおいしく感じた。
食べたのはシーザーサラダだったけれど野菜がざく切りになっているので食べごたえがある。
おまけにドレッシングとの相性がよくて箸が止まらないほどだった。
ちなみに健康のためベジファーストを心がけている。
「このシーザーサラダ、美味しいですね」
「野菜の食感を考えて作られていますわ」
「ドレッシングも美味しいから口の中が楽しい」
私達は料理に舌鼓を打ちながら夕食を楽しんだ。
「それじゃあナポリタンを食べようかな。あ~ん、と見せかけて」
私はナポリタンをフォークに絡みつけて口に運ぶ振りをしてタッパの中に入れた。
その時は辺りの様子を確めながら誰も見ていない瞬間を狙った。
誰かに見つかると問題になるから人目には特に気を配った。
リリナ達も同じようにしてテーブルの下に隠してあるタッパに料理を入れる。
あまり大きなタッパではないのですぐにいっぱいになってしまった。
「もう、いっぱいになっちゃった」
「少し少なすぎますね。料理はこんなにもあるのに」
「今回は仕方ないですわ。次回から気をつけましょう」
私はたくさん料理の入れたタッパに蓋をしてお腹に隠した。
その後は自分達の食事を心行くまで楽しんだ。
「ぷはぁ~、食った食った」
「ルイミンちゃん、少し下品ですよ」
「だってお腹いっぱいなんだもん」
「そんなことより、ちょめ助くんがお腹を空かしていますわよ」
「そうだったね。私、ちょめ助に届けて来る」
私は勢いよく立ちあがるとタッパを持って自分の部屋に戻って行く。
そのままだとバレてしまうのでお腹を抱えているようにして隠した。
自分の部屋に戻って来るとカギをかけてシャットアウトする。
「ちょめ助、お待たせ。ご飯持って来たよ」
「おしおき」
「おしおきじゃないよ。ご飯だよ。お腹空いたでしょう」
「おしおき」
差し出したタッパの中身を見るがちょめ助は食べようとはしない。
「どうしたの?お腹が空いていないの?」
「おしおき」
「食べないと元気にならないよ」
「おしおき」
「仕方ないな。私が食べさせてあげる。あーんして」
「おしおき」
料理を口に傍に持って行っても口を開けないので強引に口を開く。
そして料理を口の中に放り込んでから頭の上と下を持って強引に咀嚼させた。
「どう?美味しい?」
「おしおき」
「美味しいんだね。なら、これは?」
「おしおき」
私は手間を惜しまず一口ずつ料理を口に運んで咀嚼させて飲み込ませる。
そんな動作を繰り返しながらちょめ助の食事を手伝った。
まるで病人の食事風景だけれどちょめ助はある意味病人だから似合っている。
そしてタッパの中の料理をすべて食べさせるとちょめ助の顔色がよくなった。
「全部食べたね。偉いぞ」
「おしおき」
「でも、一番欲しいのはおしおきなんだね」
「おしおき」
その言葉を聞く度に何だか悲しくなって来る。
以前のような元気なちょめ助に会いたいとさえ思う。
けど、ここで急いだら逆効果だ。
ちょめ助の自己回復力に委ねた方がいい。
すると、誰かが部屋の扉をノックした。
「ルイミンちゃん、いる?」
「誰?」
「私、リリナ。これからいっしょに大浴場へ行きましょう」
「もう、そんな時間」
ふいに時計を見ると22時を指していた。
この時間帯になれば大浴場に誰も入っていない。
お風呂の時間は20時から21時半までになっているからだ。
「ちょめ助、お風呂に行くよ」
「おしおき」
念のため私はちょめ助をお風呂道具袋の中に押し込む。
その上から自分の着替えを乗せてちょめ助を隠した。
「リリナちゃん、廊下に誰かいる?」
「私とセレーネさん以外にいません」
「なら、大丈夫そうね」
私は静かに扉を開けてちょめ助と廊下に出る。
「ちょめ助くんは?」
「この袋の中にいるよ」
「それじゃあ、他の人に見つからないうちに大浴場へ行きましょう」
お風呂も決められた時間内に入らないとルールで決まっている。
だから、21時半以降は大浴場に誰もいないのだ。
けれど、大浴場が閉まっているわけではないのでいつでも入れる。
ただし、他の人に見つかると先生に報告されるのであとで罰を受けることになるのだ。
「私だけでもよかったのに」
「ルイミンちゃん、ひとりには任せられませんわ」
「私達はチームなんだからみんなでこなさないとね」
大浴場は女子寮の離れにある露天風呂形式のお風呂だ。
天然の温泉が湧いていて源泉かけ流しの温泉になっている。
女子寮にいるのに天然の温泉を味わえるのは珍しいのだ。
私達は脱衣所で服を脱いで裸になってからちょめ助を出す。
そして優しくちょめ助の包帯をとって絆創膏をはがした。
「赤みが増しているね」
「肌の中で細胞が戦っている証拠です」
「2、3日すれば腫れも引いて来ると思うわ」
ちょめ助の傷口は赤く腫れあがっていて水玉模様になっている。
ちょうど蚊に刺されたような膨らみ方でつまむとしこりを感じた。
「にしても、セレーネの胸って大きいね」
「そんなにジロジロ見ないでください、ルイミンさん」
「服の上からでも巨乳だってことはわかっていたけど生で見ると迫力があるわ」
「女同士なのですけれど、すごく恥ずかしいですわ」
セレーネが前屈みになるとたわわなおっぱいが揺れるから嫌でも目が行ってしまう。
それは巨乳ではないと見れない光景なので目に新鮮に映った。
一方でお胸がペタンコのリリナは自分の胸を抑えながらセレーネのおっぱいと比べていた。
「リリナちゃん、心配しなくてもいいよ。その内大きくなるからさ」
「べ、別に心配なんてしていません。ただ、あまりにセレーネさんのおっぱいが大きいから釘づけになっていただけです」
「それは気にしているってことだよ」
私はリリナほどペタンコではないから心配はしていない。
年頃だから少しずつおっぱいが膨らんで来ているからだ。
ただ、リリナのようなペタンコだと心配になるのかもしれない。
将来、ずっとペタンコのままだったら悲し過ぎるからだ。
やっぱりおっぱいは小さいよりも大きい方がいい。
その方が自分に自信が持てるし、異性からもモテるのだ。
「おっぱいが大きくなるマッサージがありますけれどしてみますか?」
「うん。ちょっとやってもらいたいです」
「なら、お風呂でしましょう」
と言うことで私達は大浴場へ場所を移した。
「それじゃあ、リリナさん、こちらに背中を向けてください」
「こうですか」
「では、マッサージをしますね。まずは胸の周りの筋肉をほぐすところから」
「フフフ。くすぐったい」
「ちゃんと筋肉をほぐさないと効果がありませんからね」
「セレーネだけズルい。私もリリナちゃんのおっぱいを揉みたい」
リリナとセレーネが楽しそうにしているのでつい羨ましくなってしまう。
ファンとしてリリナの隅々まで把握していたいのだ。
「なら、ルイミンさん、やってみます?」
「やるやる」
「私の言う通りにしてくださいね」
私はセレーネからリリナのおっぱいを揉む権利を譲り受けた。
その後は私の独壇場とは行かなかった。