表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/161

第百二十六話 痛みが快感に変わる瞬間

イケメンでカッコイイヒーローはか弱き乙女を助けてくれる。

いつだって無抵抗な人達の味方で悪い奴らと戦っているのだ。

今、目の前にいるヒーローも私を悪の手から救ってくれた。


(大丈夫かい、お嬢さん)

(はい)

(悪いゴブリン達はやっつけた。もう、大丈夫だよ)

(ありがとうございます)


カッコイイヒーローは手を差し伸べて私を立たせてくれる。

その手は大きくて力強くてとても頼もしい手だった。


(さあ、行こうか)

(どこへ?)

(ボクのお城へさ)

(いいんですか)

(あたり前じゃないか。キミはもうチケットを手に入れているんだ)


そう言ってカッコイイヒーローは優しい笑顔を見せて来る。

歯が真っ白で輝いていてアニメで見るヒーローそのものだ。

こんなヒーローが本当にいるなんてまるで夢のようだ。


私はカッコイイヒーローの背中を見つめながら問いかける。


(ぜひ、お名前を教えてください)

(オールマックスだよ)

(オールマックスさま)


すべてのスペックがマックスだから名付けたのだろうか。

どこをとっても最上級だからオールマックスの名は相応しい。


オールマックスは鮮やかに白馬に跨って私に手を差し伸べる。


(さあ、行こう)

(はい)


白馬に跨っているヒーローだなんて”暴れん○将軍”以来だ。

実際に白馬に跨っているヒーローがいるだなんて驚きでしかない。

しかも私を前に座らせて馬から落ちないようにしてくれている。

ある意味、お姫様だっこをされているような状態だ。


(しっかり捕まっていてくれよ)

(はい)

(はいよっ!)


オールマックスが白馬のお腹を蹴ると白馬が走りはじめる。

その度に私は上下に揺られながら時折、白馬から落ちそうになる。

すると、オールマックスの腕が私を包み込んで守ってくれていた。


それからどのぐらい白馬が走っただろうか。

しばらくすると切り立った崖の上に辿り着いた。


(見えるかい。あれがボクの城だ)

(ええっ!)


眼下に広がっていたのは大きな白いお城で周りを湖で覆われている。

外敵から守られているので難攻不落の完璧なお城だった。

背後に聳え立っている山々といっしょに見るととても優美だ。


(お城まであと一息だ)

(どこまでもついて行きます)


再びオールマックスは白馬を走らせてお城へ向かった。

大きなつり橋を渡るとお城の門が見えて来てその先で白馬は止まった。


(ご主人様、お帰りなさいませ)

(ボクの留守の間、何もなかったかい?)

(はい。お城はいたって平穏でした)

(それはよかった)


オールマックスを出迎えたのは白髪の執事とメイド達だった。

てっきりお城だから兵士達が出迎えると思っていたが違っていた。


執事は私を目に止めるとオールマックスに質問をした。


(ご主人様、そちらの方は?)

(この人は私の客人だ。丁重に扱ってくれ)

(さようでございますか)


オールマックスから私のことを聞くと執事はメイド達に合図を送る。

すると、メイド達は白馬の近くまでやって来てから整列する。

そしてオールマックスが私を白馬から下ろすとメイド達が声をかけて来た。


(お部屋にご案内いたします)

(はい)

(キレイなドレスを頼むよ)

(かしこまりました、ご主人様)


私はメイド達に案内されて豪華な客間へ通された。

部屋の中には煌びやかなドレスがいくつも並べられている。

私がドレスに目を奪われているとメイド達は私の服を脱がせはじめた。


(ちょ、ちょっと待って)

(心配なさらないでください。お召し物を替えるだけですので)

(着替えならひとりでできるわ)

(ですが、ドレスはひとりでは着れません。私達にお任せください)


着替えを他の人に手伝ってもらうのは幼い頃以来だ。

何だかぎこちなくて心地よくはないが仕方がない。

メイド達が言うようにドレスはひとりで着れないからだ。


それから着替えをメイド達に任せるとドレス姿になる。

その後で鏡台の前に座らせられると髪を結ってもらい化粧も直してもらった。

着替えからメイクまでやってもらうなんて、お姫様のようだ。


(これで終わりです)

(ありがとう)


メイドのひとりが扉の外にいる執事に報告をしに行く。

すると、執事は扉を開けて部屋の中に入って来た。


(では参りましょう)

(どこへですか?)

(ご主人様のところへです)

(わかりました)


私は執事に連れられてオールマックスが待っている王の間へ案内された。


(ご主人様、連れてまいりました)

(入れ)


豪華な扉の向こうからオールマックスの声が聞えると執事は扉を開ける。

そしてオールマックスに一礼して私に部屋の中に入るように促した。


オールマックスの方も正装をしていて先ほどとは姿が違っている。


(これから何がはじまるのですか?)

(ボクとキミの結婚式だよ)

(ええっ!)


まだ出会ってからそんなに時間が経ってないのに結婚だなんて。

気が早いと言うか運命と言うか、まだ私の気持の整理ができていない。

オールマックスはイケメンでカッコよくてお金持ちの王子さまだ。

どこをとっても抜けがないから完璧だ。

そんなオールマックスが私を選ぶだなんて。


(嫌なのかい?)

(そんなことは)

(これは運命なんだよ)

(運命……)

(後は運命に身を委ねればいいだけさ)


悪の手から助けられて結婚まで話が進むなんてまさにシンデレラストーリーだ。

とって書いたような展開に私自身信じられなくなる。

ただ、オールマックスが言うように運命に身を任せればいいのだろう。


(では、はじめてくれ)


そう、オールマックスが合図を送ると神父らしき人が結婚の儀をはじめる。

結婚式で見る光景と同じでお互いの意志を確めてから誓いのキスへと移った。


(誓いのキスを)


神父がそう言うとオールマックスが私の目を見つめる。

その視線に恥ずかしくて顔を俯けるとオールマックスが手で私の顔を戻した。

そしてベールを上にあげると優しく微笑んだ。


(さあ、目を閉じておくれ)

(はい)


私はオールマックスに言われた通り静かに目を閉じる。

すると、オールマックスの息づかいが聞こえて来てドキドキしはじめた。

人にキスされることがはじめてだから妙に緊張してしまう。

しかも、この口づけで私の結婚が決まるからなおのことだ。


だんだんとオールマックスの温もりが近づいて来る。

その度に心臓がバクバクして緊張が最高潮まで高まる

そしてオールマックスの唇の先が私の唇に触れると――。


(冷たい。えっ、何だかゴチゴチしているわ)


オールマックスの唇が鉄の唇のように感じる。

男の人の唇ってみんなこんなものなのだろうか。


私は静かに目を開いてオールマックスの顔を見た。


「ちょめちょ」 (ええっ!何で鉄の棒にキスをしているのよ!)


私は唇を鉄の棒から放して辺りを見回した。


そこは王の間ではなく鉄格子で覆われた檻の中だった。


「ちょめちょめ」 (何なのよ、あれは夢だったの。せっかく玉の輿に乗れると思ったのに)


楽しい夢ほどいい感じになった時に目が覚めてしまうものだ。

これからと言うところで目が覚めてしまうから2度寝して続きを見ようとする。

しかし、そうしても同じ夢は見られずにやるせない気持ちだけが残るのだ。


「ちょめちょめ」 (あーあ、続きが見たかったな)


私は大きなため息を吐きながら体に違和感を感じた。


「ちょめちょめ」 (何だか体がいつもよりも重いわ)


枷をつけられているような重りをつけられているかのような感じだ。

そして何気に下を向くと首に銀色の首輪がつけられているのに気づいた。


「ちょめちょめ」 (この首輪は何?私にそんな趣味はないわよ)


私がひとり戸惑っていると部屋の扉が静かに開いて怪しげな人物が入って来た。


「やっと目が覚めたようじゃな」

「ちょめちょめ」 (誰?)


目の前にいたのは黒の仮面とマントをつけた怪しげな格好をした者達だ。

頭に猫耳がついていたのでゴブリン達から救ってくれた猫だと気づく。


「ワシらはめ……ゴホン。ワシらのことはどうでもいいのじゃ」

「ちょめちょめ」 (途中まで言いかけたのだから最後まで言ってよ。気になるじゃない)

「相変わらず何を言っているのかわからん。トラ吉や」

「はい、先生」


黒い仮面をつけた人物がそう言うとトラ吉は透明な石を取り出す。

その石を私の銀色の首輪にはめ込んで固定させた。


「それで普通に喋れるはずじゃ。何か言ってみろ」

「何かって?」

「ほら、喋れるようになったのじゃ」

「え?私の言葉がわかるの?」

「よーく、聞えておる」

「やったー!喋れるようになった。ありがとう」


緑色の虫はひとり喜びながら嬉しそうにしている。

この後で何が起こるのか知らないのにも関わらず。


「お主に質問がある」

「質問?」

「アイドル部の部費を盗んだな」

「また、その話。だから、私じゃないって」

「まだとぼけるつもりか。いいじゃろう」

「何よ、その不敵な笑みは」


素直に答えが得られるとは思っていない。

犯人と言う者は最後まで白を切るのだ。

だけど、犯行をつまびらかにすれば話は変わって来る。


ワシは犯人の犯行の手口を緑色の虫に聴かせた。


「犯人はアイドル部の部費に転移して忍び込んだ」

「て、転移って。そんなのバカげているわ」

「アイドル部の部室には金庫が置いてあって中に部費が入っておった。犯人は金庫の中に部費が入っていることを知っておったのじゃ」

「金庫があるんだから部費ぐらいあるわよ」

「じゃが、カギがかかっていて金庫が空かない。金庫はボタン式で暗証番号を入れるタイプの金庫じゃった。そこで犯人は小麦粉を使って金庫のボタンについている指紋を浮かび上がらせた」

「ギクリ……」


ワシは緑色の虫の反応を観察しながら話を続ける。


「暗証番号は3、5、8、9じゃった。後はいろんな組み合わせを端から試せばいいだけじゃ。時間の許す限りいろんな組み合わせを試してみた」

「……」

「そして犯人は暗証番号を導き出して金庫を開けて中に入っていた部費を盗んだ。じゃが、部費は思いのほか重くて部費の入った袋を引きずって逃げようとした」

「……」

「そこへアイドル部の部員達がやって来たのじゃ。犯人は慌てて転移を使ってその場から逃げ出した。部員達が部室に入って来た時には犯人はおらず事件現場だけが残されていたのじゃ」

「……」


最後まで真相を話すと緑色の虫は何の言葉も発さなかった。

それはそれが真実だからだろう。

間違いなくこの緑色の虫が部費を盗んだ犯人だと言うことだ。


「どうじゃ。お主がやったのじゃろう」

「私にそんなことができると思うの?私は手も足もないのよ」

「お主は触れずにモノを動かせる特殊能力を持っているのじゃ。犯人は間違いなくお主じゃ」

「じゃあ、転移はどうなるのよ。私は転移なんてできないわよ」

「いや、お主は転移ができる。わかっておるのじゃ」

「なら、私が転移できるとして何のために部費を盗んだって言うのよ。動機がないじゃない」


緑色の虫は口論の中で逆に言い返して来た。

まさにワシの推理を認めたと言うことに他ならない。


「お主には動機があるのじゃ。ワシの調べではお主は最近、アイドルのプロデュースをはじめたとある。活動費を増やそうとして盗んだのではないのか」

(何よ、こいつ。確信をついているじゃない。もう、しらを切れないわ)

「さあ、認めるのじゃ」

(ダメよ、私。こんなところで諦めちゃ。私が認めない限り犯人にはされないわ)

「お主が犯人なのじゃろう」

「私は犯人じゃないわ。無実よ」

「ムムム。そこまで白を切るのか。なら、仕方がない。お仕置きじゃ」


そう言うとワシはトラ吉に指示を出して緑色の虫を檻から出す。

そして水車に括りつけて動けないようにさせた。


「何をするのよ。離してよ」

「お主にはお仕置きが必要なようじゃからな。たっぷりと味わうのじゃ。トラ吉や」

「はい、先生」


ワシが合図をするとトラ吉はレバーを動かして水車を回しはじめる。

水車はゆっくりと回転してじわじわと緑色の虫もいっしょに回り出す。

その先には水の溜まっている小さな池があって水車は水を掻いていた。


「もしかして水責めをするつもりなの」

「そうじゃ。お主が犯行を認めるまで続くのじゃ」

「だから、私は犯人じゃないのよ」

「そう言っておられるのも今のうちじゃ」


緑色の虫が下を向くと目の前に池が待ち構えている。

そしてそのまま水車は回転して緑色の虫を池に沈めた。


「わぁっ、ゴボゴボゴボ」


緑色の虫が池に沈み込んでからしばらくすると反対側から顔を出す。


「ブハーッ、ハアハアハア」

「どうじゃ。犯行を認める気になったか」

「わ、私を殺すつもり。やるならひと思いでやってよ」

「それではお仕置きにならんからな。ワシがしたいのはあくまでお仕置きじゃ」

「鬼!どんな神経をしているのよ!」

「ホホホホ。何とでも言うがいいわ」


緑色の虫は必死の顔をしながら文句を言って来る。

だが、それはまだまだお仕置きが足りないと言う証拠だ。


「わぁっ、また来た。ゴホゴボゴボ」


緑色の虫は再び池の中に沈み込む。


「トラ吉や、水車を止めるのじゃ」

「はい、先生」


ちょうど緑色の虫が水車の真下に来たタイミングで水車を止めさせる。

すると、緑色の虫から漏れ出た空気が泡となって上がって来た。


「ほほう、いい感じじゃ」

「先生、そろそろ引き上げた方がいいんじゃないですか」

「まだまだじゃ。こう言うことはギリギリまで我慢せんとな」


お仕置きと言うものは緩くてもダメだし厳し過ぎてもダメなのだ。

ちょうど対象者が口を割りたくなる気持ちにさせる必要がある。

自分が口を割らなければ永遠と苦しみが続くと思わせなければならない。

そうすることで対象者の口が開きやすくなるのだ。


「もうよいぞ。引き上げるのじゃ」

「ブハーッ、ゲホゲホゲホ。水を飲んじゃったじゃない」

「どうじゃ、喋りたくなったじゃろう」

「くぅ……」

「まだ、懲りてないようじゃな。仕方がない。トラ吉や次のお仕置きの準備をせい」

「はい、先生」


これ以上、水責めをしていても状況は変わらないと判断した。

お仕置きは長く続けれればいいと言うものではない。

何回か繰り返していると刺激に慣れてしまうからだ。

だから、お仕置きは何種類か組み合わせてやるのが効果的なのだ。


トラ吉は緑色の虫を水車から解放すると張りつけ台に括りつけた。


「先生、準備が整いました」

「次のお仕置きには耐えられるかな」

「何をするつもりよ」

「これはクセになるぞ」


ワシは火をつけた赤い大きなろうそくを持って来る。

そして緑色の虫の上に覆いかぶさるとろうそくを傾けた。


「もしかしてその蝋を私に垂らすの?止めて。私にそんな趣味はないわよ」

「ホホホホ。好きなだけもがくがいい。その姿に興奮を覚える」

「ろくでなし!変態!ゲス野郎!」

「乱暴な口を聞くやつにはお仕置きじゃ」


ろうそくから零れ落ちた熱々の蝋は緑色の虫の体に落ちる。


「あっ!熱い!」


緑色の虫は体をよじらせながら苦しみ出す。

その様子を見つめながらワシはニンマリと笑みを浮かべる。


「お楽しみはこれからじゃ」

「あっ!熱い!熱い!熱い!」


ワシはポタポタと次から次へと熱々の蝋を緑色の虫に垂らす。

すると、その度に緑色の虫は体を捩って反応をかえした。


「どうじゃ、気持ちいいじゃろう」

「気持ちよくなんてないわよ」

「まだ、足りんようじゃな」

「止めてよ、もう」

「おかわりが欲しいのか。よいぞよいぞ」

「変態!鬼!悪魔!」

「ホホホホ。心地よい悲鳴じゃ」

「あっ!熱い!熱い!熱い―っ!」


熱々の蝋が垂れる度に緑色の虫が悲鳴をあげる。

その悲鳴が心地よく聞えてワシは遠慮せずにお仕置きを続けた。


「痛い、痛いよ~ぉ」


熱々の蝋が垂れた緑色の虫の肌は赤く腫れあがって水玉模様になっている。

緑色の虫の肌が赤く腫れあがることには驚きだが中々いい感じに仕上がった。


「どうじゃ、吐く気になったじゃろう」

「誰が認めるもんか。絶対に喋らないから」

「お主も頑固じゃな。まあよい。お仕置きはまだまだあるのじゃ」


その後もお仕置き道具をとっかえひっかえして緑色の虫にお仕置きをした。

しかし、緑色の虫は耐えに耐え続けて口を割ることはしなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ