第百二十三話 ボロにゃん再び③
会議室はアイドル部の部員達でいっぱいになっている。
みんな何で呼び出されたのか理解していない。
お互いにお喋りをしながらざわついていた。
もちろんその場にはセレーネ達も同席している。
「人を呼び出しておいていないなんてどう言うつもりよ、あのボロ雑巾」
「ルイミンちゃん、ボロ雑巾だなんて失礼だよ」
「いいのよ。どうせロクでもない探偵なんだから」
ルイミンはイライラしながらワシの悪口を言っている。
人(猫)がいないからといって言いたい放題だ。
そこへワシはトラ吉を引き連れて会議室へ入る。
「ゴホン。みんな揃っておるようじゃな」
「何が”みんな揃っておるようじゃ”よ。言い出しっぺが遅刻だなんて失礼じゃない」
「主役は一番最後に登場するものじゃ」
「なら、トラ猫が主役ね。一番最後に入って来たし」
「ムムム」
ルイミンがあげ足をとって来るのでワシは返す言葉を失った。
「ところでボロにゃんさま。私達を呼んだ理由を教えてください」
「それはこの事件の謎が解けたからじゃ」
「「謎?」」
ワシの言葉に会議室にいた一同の視線が集まった。
「それは犯人がわかったってことでしょうか」
「さよう。犯人はわかっておる」
「もしかして、この中にいるとか言わないわよね」
「遠からず近からずと言ったところじゃ」
「何よ、それ」
ワシが言葉を濁すとルイミンはイラッとして言葉を吐き捨てた。
「さっそく事件のあらましから説明するのじゃ。トラ吉や、準備をしておくれ」
「わかりました、先生」
トラ吉に指示を出すとトラ吉はホワイトボードを回転させる。
予め部室の見取り図と撮影した写真を用意しておいた。
「では、はじめるぞ。事件はアイドル部の部室で起こったのじゃ」
「そんなのわかってるよ」
ワシが事件のあらましを説明しはじめるとルイミンが水を差して来る。
「アイドル部の部室にあった金庫が破られて大切な部費が盗まれた。犯行が行われた時は事件現場は密室じゃった。第一発見者が来た時、部室のカギは閉まっておったのじゃ」
「密室って。犯人はどこから侵入したのよ」
「それはおいおい話すのじゃ」
ルイミンが答えを急ぎ過ぎるのでワシはやんわりと断りを入れる。
推理は順を追って説明しないとちんぷんかんぷんになるから気をつけないといけない。
とかく素人は答えを急ぎ過ぎる傾向がある。
「次は犯人はどうやって金庫を開けたかを説明するのじゃ」
「どうせ小麦粉を使ったんでしょう」
「先に答えを言うでない。ワシの出番がなくなるじゃろう」
「誰だってそれぐらいわかるもん」
ルイミンと話をしていると疲れてしまう。
まるで駄々っ子を相手にしているようだ。
ワシは一呼吸おいてから説明の続きをはじめた。
「犯人は小麦粉を使って金庫のボタンについている指紋を浮かび上がらせたのじゃ。そして金庫の暗証番号が3、5、8、9であることを突き止めた」
「手の込んだことをする犯人ね」
「後は組み合わせがわかればいいだけじゃ。犯人は時間の許す限り、いろんな組み合わせを試して金庫の暗証番号を突き止めたのじゃ」
「随分と呑気な犯人なのね。誰かが来たら見つかっちゃうじゃない」
ルイミンが最もなことを言ったので、そこで説明を止める。
「ボロにゃんさま。それならば金庫のボタンに犯人の指紋がついているのではないでしょうか」
「いい質問じゃ」
「金庫のボタンに犯人の指紋がついていたんでしょう。誰の指紋なのよ」
「金庫のボタンには犯人の指紋はついておらんかった」
「ええっ、何よ、それ」
「驚くのも無理はない。じゃが、これは事実じゃ」
ワシが思いもよらない発言をしたので会議室にいた一同はざわつきはじめる。
その場にいた誰もが犯人はどうやって金庫のカギを開けたのか謎めいている。
ワシだって実際にそれを知った時は驚いたぐらいだ。
ただ、その事実があったからこそ犯人の見当がついた。
「犯人が金庫を開けたとして、どうやって部室から逃げたのでしょうか。第一発見者が来るまで密室だったのですわよね」
「犯人は忽然と姿を消したのじゃ」
「忽然とって、お化けじゃあるまいし」
「なかなかいい線をついておるのう。じゃが、お化けではない」
「だったら誰なのよ」
ワシはすぐには答えを言わずに引っ張って焦らしまくる。
そうやってみんなの意識を集めたところで答えを述べた。
「犯人は転移を使って部室から逃げたのじゃ」
「「転移って」」
ワシの答えを聞いてセレーネ達は驚きの声を上げてお互いを見つめ合う。
「転移ができれば好きな時に部室に入ることも出ることもできるのじゃ」
「……」
「しかも犯人は人間ではないのじゃ」
「「それって……」」
犯人の人物像まで迫るとセレーネ達は動揺を浮かべはじめる。
「犯人は人間並みの知能を持った虫じゃ」
「虫ってどう言うこと?」
「その犯人はイメル村でも事件を起こしておる。ワシらはその犯人を知っておるのじゃ」
ワシの言葉を聞いてトラ吉がホワイトボードに似顔絵を貼るとセレーネ達は息を飲んだ。
「これがアイドル部の部費を盗んだ犯人じゃ!」
まさにそれはちょめ助、そのものだったのだ。
「ちょめ助……」
「ねぇねぇ、ルイミンちゃん。あれってちょめ助くんだよね」
「うん」
「でも、何でちょめ助くんが」
セレーネ達は信じられないような顔をしながら動揺している。
その反応を逆読みしてワシは確固たる自信を得た。
「セレーネちゃんがワシの推理に驚いておる」
「さすがに今回の推理は先生にしかできませんよ」
「ムホホホ。これでセレーネちゃんの唇はワシのものじゃ」
すっかり気をよくしてワシはひとり勝ち誇っていた。
トラ吉は紙吹雪を撒いてワシを称えてくれる。
さすが付き合いが長いだけのことはある。
「セレーネちゃん。犯人を捕まえて部費を取り返してやるのじゃ」
「犯人がわかっているから、後は捕まえるだけです」
「ボロにゃんさま。勝手なお願いですが、もう事件のことは忘れてください」
「何を言っておるのじゃ。犯人確保まであと一歩のことろまで来たのじゃぞ」
「もう、いいんです」
「何がいいのじゃ。ワシを信じておらんのか」
「信じています。信じているから諦めてほしいんです」
セレーネが何を言いたいのかさっぱりわからない。
事件を解決してほしいからワシに依頼をしたのに忘れてくれだなんて。
それじゃあ、告白までこぎつけた男子が告白直前にフラれるようなものだ。
「なぜじゃ。ワシはセレーネちゃんのことを一番に考えておるのじゃぞ」
「ごめんなさい、ボロにゃんさま。私はこう言う人間なんです」
「そんなことはない。セレーネちゃんは女神さまのような尊き乙女じゃ。ふいに相手の横面を殴るようなことはしないのじゃ。理由があるのじゃろう。正直に話しておくれ」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
これではワシがセレーネちゃんに告白をしてフラれているみたいだ。
それなのにワシがしつこくするから余計にセレーネちゃんが戸惑ってしまっている。
女子にフラれるならば思いっきりフラれてスッキリした方が男らしいと言うものだ。
だが、ワシにはセレーネちゃんの唇を奪うと言う黒く淀んだ願望がある。
そうやすやすとは手を引けない。
「セレーネちゃんが何で急にそんなことを言い出したのかはわからん。じゃが、ワシは探偵じゃ。犯人を捕まえることが仕事なのじゃ。だから許しておくれ」
「ボロにゃんさま……どうしても犯人を捕まえると言うのですか」
「さよう」
「なら、私はボロにゃんさまのことを嫌いになります」
「フギャッ!」
耳を疑いたくなるような言葉を聞いてワシは横腹を殴られた気分になる。
ワシが事件を解決したらワシのことを嫌いになるなんて脈絡がわからない。
本来であれば事件を解決したら拍手喝采で喜んでくれるものだ。
それなのに嫌いになるなんて――。
「先生、きっと何か理由があるんですよ。今日のところは引き下がりましょう」
「嫌じゃ」
「へ?」
「嫌じゃと言ったのじゃ。ワシは絶対に犯人を捕まえて部費を取り戻してみせる」
「でも、そんなことをしたらセレーネさんに嫌われちゃうんですよ」
「トラ吉よ、ワシはセレーネちゃんが好きな前に探偵なのじゃ。探偵は犯人を捕まえてナンボの商売じゃ。たとえ好きな人から嫌われるようなことになっても諦めてはいけないのじゃ」
「先生……」
ワシはみなの前でひとりカッコつけながら探偵が何たるのか説く。
ただ、その言葉が響いていたのはトラ吉だけで他の者はしらけていた。
「トラ吉、行くぞ」
「はい、先生。どこまでもついて行きます」
ワシは小さな背中に哀愁を漂わせてセレーネちゃんに見せつける。
ここでセレーネちゃんが待ったをかけたらワシの勝ちだ。
しかし、そんな期待も裏腹にワシの背中が遠ざかっても呼び止められもしなかった。
「何じゃ!こう言う時は”行かないで、ボロにゃんさま”とか泣いて縋りつくものじゃないのか」
「先生、そんなことを期待していたんですか。いつの時代の女子を想像しているんですか」
「ムムム。呼び止めてくれたら許してあげようと思っておったが止めたのじゃ。絶対に犯人を捕まえてセレーネちゃんの唇を奪うのじゃ」
「結局、先生はそれなんですね。期待して損した」
ワシは心の中に固い決意をして犯人を捜しに向かった。
心あたりがあるわけじゃないからどこを探せばいいのかもわからない。
だけど、あの虫はぱんつが好きだからぱんつのあるところにいるはずだ。
「トラ吉よ。ランジェリーショップへ行くぞ」
「ええっ!ボク達、男子ですよ。恥かしいですよ」
「何を恥ずかしがっておるのじゃ。犯人がいるかもしれんのじゃぞ」
「そんなことを言って。先生はエッチなことを考えているんじゃないでしょうね」
「ワシはセレーネちゃん以外の女子には興味ないわ」
「やだな~ぁ。変態にはなりたくないよ~ぉ」
ブツクサ文句を言っているトラ吉の首根っこを掴んで強引に連れて行った。
「行っちゃったね。これからどうしよう」
「ちょめ助くんが捕まる前に見つけないといけないわ」
「先手をとるんですね。でも、どこにいるのかな」
と、二人の視線が私に集まる。
「えっ、私?ちょめ助がどこにいるかなんてわからないよ」
「ルイミンさんしか頼れる人はいないんです。お願いします」
「何か心当たりのある場所を知らないんですか?」
「そうだな……」
ちょめ助はぱんつが好きだからぱんつのあるところだ。
それもぱんつを履いている人がいっぱいいる場所に限られる。
そう考えるとここが一番怪しいのだが。
「やっぱ、ここじゃない」
「えーっ、学校にいるんですか」
「学校のどこにいるの?」
「そこまではわからない。だけど、ちょめ助はエッチだからエッチできる場所だよ」
「ちょっちょっちょっ!ルイミンちゃん。なんて破廉恥なことを言うんですか。エッチできる場所だなんて」
「あ、言葉が足りなかったね。エッチなことをできる場所に訂正するわ」
「あまり変わっていないような気がするのですけど」
とにかくちょめ助はエッチだからエッチなことを楽しめる場所を探せばいい。
たとえば更衣室とかプールとかトイレとかだ。
「考えていてもしかたないからちょめ助を探しに行こう」
「あんまり気が向きませんわ」
「リリナちゃん。これもちょめ助くんを助けるためなの。頑張りましょう」
「はい……」
リリナはすっかり”エッチ”ことで頭の中にいっぱいになっているようだ。
年頃だからエッチなことに敏感に反応するのはわかるが純過ぎる。
私達はもう14歳なのだからエッチのひとつやふたつ経験していてもおかしくない。
私はまだだけど。
「まずは一番近いプールから行くよ」
「プールになんているんですか」
「エッチなら水泳部の練習を覗いているはずよ」
しかし、プールの周りにもプールの中にもちょめ助の姿はなかった。
「あれ、おかしいな。絶対プールだと思ったんだけど」
「やっぱりいませんよ、こんなところには」
「いないならいないことがわかっただけでひとつ前進よ。他の場所も探しましょう」
「セレーネは前向きだね。なら、次は本命の更衣室だ」
更衣室はプールに併設されているので一番近い。
他に更衣室はないからみんなここで着替えをしている。
更衣室を使わない人達は部室を更衣室代わりにしている。
それができるのもここが女学院だからだろう。
私達は更衣室の前まで来てお互いの顔を見合わせる。
「じゃあ、行くよ」
「何だかドキドキしますわ」
「禁断の花園に入って行くような気分ね」
「あれ?リリナちゃんもセレーネもそっち系なの?」
「バ、バカを言わないでください」
「そっち系って?」
私の言葉を理解したセレーネは顔を真っ赤にさせ、理解していないリリナは不思議そうに小首を傾げていた。
「いないな。おかしいな。ちょめ助だったらロッカーを漁っていると思ったんだけど」
「ロッカーを漁るなんてお金でも盗るつもりなのですか?」
「違うよ。ちょめ助が欲しいのはぱんつだよ」
「ぱんつ!」
”ぱんつ”と言う言葉を聞いてリリナは目を丸くさせる。
その隣で指で顎を触りながらセレーネはうんうん頷いていた。
「だから、私のぱんつを盗ったのですね」
「セレーネはちょめ助にぱんつを盗られたの?」
「と、盗られていません」
「だって今、”ぱんつを盗られた”って言ったじゃん」
「ル、ルイミンさんの聞き間違いですわ。私はぱんつなんて盗られていません」
明らかに動揺しているセレーネに疑惑の眼差しを向ける。
セレーネはちょめ助にぱんつを盗られたことを知られたくないのだろう。
ちなみに私はまだちょめ助にぱんつを盗られてはいない。
「そんなことより、ここにもちょめ助くんはいませんわ」
「なら、あとはトイレだけね」
「トイレに隠れて何をしようとしているんです?」
「そ、そんなこと私の口から言えないわ」
ちょめ助がトイレに隠れて女子がおしっこをしているのを覗こうとしているなんて言えない。
おしっこをしている姿を見られるのはぱんつの中を見られるよりも恥ずかしいのだ。
ちょめ助はきっと男子だろうから絶対に見られたくない。
しかし、学校中のトイレを探しまくったがちょめ助はどこにもいなかった。
「どこにもいなかったね」
「どこにいるのでしょうか」
「他に心当たりはないのですか?」
「そうだな……」
私は記憶を振り返って、これまでどこでちょめ助と出会ったか思い出す。
すると、いつも決まって公園で出会っていたことに気がついた。
「公園だ!公園にいるよ!」
「本当ですか?」
「どこの公園なのですか?」
「この前、ちょめ助と出会ったのはクジラ公園だったからクジラ公園にいるはずだよ」
「ここからそれほど遠くはありませんわね」
「とりあえずクジラ公園へ行こう」
「ルイミンちゃんを信じていますわ」
と言うことで私達は学院の近くにあるクジラ公園へ向かった。
「やっぱりここにいたね」
「ちょめちょめ」 (あっ、どうしたのルイミン。みんなで揃ってさ)
「何が揃ってよ。ちょめ助が部費を盗んだことはわかっているんだから」
「ちょめちょめ」 (えっ、何。部費なんて知らないわ)
「とぼけるんだ。なら後ろに隠している袋は何?」
「ちょめちょめ」 (こ、これはおやつ袋よ。この中におやつがたくさん入っているだけ)
ちょめ助は目を泳がせながら私達と視線を合わせようとしない。
明らかに自分がクロだと言っているようなものだ。
「あーあ、お腹空いた。ちょめ助のおやつをちょうだいよ」
「ちょめちょめ」 (ダメよ。これは私のおやつなの)
「けちけちしていないで、ちょっとぐらいいいでしょう」
そう言いながら私は強引にちょめ助が隠している袋を引っ張った。
すると、袋の中から金貨や銀貨が滝のように流れ出て来て噴水の底に沈んだ。
「やっぱり。もう逃げられないわよ」
「ちょめちょめ」 (これは仕方なかったことなの。悪気があってしたことじゃないわ)
「アイドル部の部費を盗んでおいてよくそんなことが言えるね。ちょめ助は泥棒だよ」
「ちょめちょめ」 (ごめんね。けど、どうしてもお金が必要だったのよ)
ちょめ助は目にいっぱい涙を溜めて私達に平謝りする。
何がちょめ助を泥棒にさせたのかはわからないが反省しているようだ。
「ちょめ助くん。何か理由があったのでしょう。教えてください」
「理由を聞かないと私達も納得できませんわ」
「ちょめ助。怒らないから理由を話してちょうだい」
堪忍したのかちょめ助は私達を見つめるとおもむろに口を開いた。
「ちょめちょめ」 (アイドル部の活動費を稼ぐために事業を展開しようと思ったのよ)
「活動費を稼ぐって、アイドル部はそんなに貧乏じゃないよ」
「ちょめちょめ」 (確かに貧乏じゃないわ。だけど本格的にアイドル活動をはじめるにはお金が足りないのよ)
「なら、みんなで頑張ればいいじゃん。ちょめ助がひとりで背負わなくてもいいんだよ」
私達も活動費を稼ぐのをちょめ助ひとりに任せるつもりはない。
みんなでアイドルグッズを作って物販で稼ごうと思っている。
「ちょめちょめ」 (ルイミン達はぜんぜんわかってないわ。いくらアイドルグッズを作って売ったとしてもたかがしれているのよ)
「そんなにも活動費が必要なの?」
「ちょめちょめ」 (必要。新曲を作らないといけないし、それに合わせて衣裳も必要よ。ポスターやチラシも配らないといけないし、おまけにMVも撮影しなければならないからお金が必要なのよ)
「だから事業展開しようと思ったんだね」
「事業展開ってなんですか?ちょめ助くんは何をやろうとしているのですか?」
私とルイミンの会話がわからないセレーネ達はルイミンの言葉を聞いて目を丸くする。
「ちょめちょめ」 (私がやろうとしているのは”にらせんべい屋”よ)
「”にらせんべい?”お菓子やでもやるの?」
「ちょめちょめ」 (せんべって言ってもカタくて丸いせんべいとは違うわ。どちらかと言うとお好み焼きに近いわね)
「”お好み焼き”って?」
「ちょめちょめ」 (あーっ、もう。小麦粉を水で溶いて刻んだニラを入れて焼いたものよ)
「何となくわかった」
ちょめ助が言っているのはパンケーキみたいな食べ物なのだろう。
「事情はわかりましたけれど、何で事業展開なんですか。他に方法もあったはずではないのですか?」
「ちょめちょめ」 (事業展開じゃないとダメなの。じゃないとアーヤに負けちゃうわ)
「な~る。やっぱりアーヤが絡んでいたんだね」
ちょめ助は悔しそうな顔をしながら本音をこぼす。
「ちょめちょめ」 (これ以上、アーヤに負けるわけにはいかないの。ほっておいたらアーヤが王都を牛耳ってしまうもの)
「どうする、みんな」
「とりあえず部費の行方がわかったので私は文句はありません」
「確かにちょめ助くんの言う通り物販だけでは稼げません。あれだけ部費があるのもコツコツと貯めて来たからです」
セレーネもリリナもちょめ助が”にらせんべい屋”をやることに反対ではないようだ。
ならば――。
「わかったよ、ちょめ助。私達も手伝うよ」
「ちょめちょめ」 (本当に!)
「みんなでいっしょに”にらせんべい屋”をやろう!」
と言うことで私達はちょめ助の事業展開を手伝うことに決めた。