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第百二十二話 ボロにゃん再び②

現時点でわかっていることは次の3つだ。

犯人は小麦粉を使って指紋を浮かび上がらせたこと。

しかし、ボタンには触れずに金庫を開けたこと。

床には犯人の足跡は残っていないことだ。

以上のことから考えて犯人はプロだと断定した。


「それで先生には犯人像は浮かんでいるんですか?」

「犯人がプロレベルであること以外はわかっておらん。だから、調査を続けるのじゃ」


この段階で犯人像を浮かび上がらせるのは危険だ。

先入観が働いてしまうから歪んだ犯人像になってしまう。

もっと事実を積み上げて確実に犯人像をあぶり出すのが大切だ。


「けど、もう探すとことなんて残っていないですよ。金庫も調べたし、床も見たし、壁にも窓にも痕跡は残っていないんですよ」

「一度調べたところでも何かしら見落としがあるものじゃ。じゃから何度も調べることが必要じゃ」

「そんなアリの巣を掘り起こすようなことをしても無駄ですよ。もう、アリはいないんです」

「お主は調査のことを何もわかっておらんな。調査と言うのはじゃな……」

「先生のうんちくは聞きたくありません。調査を続けましょう」

「つれないやつじゃ」


ワシ達は一度調べた金庫や床をもう一度見直した。


すると、床に落ちていた小麦粉が不自然に積もっている場所を見つけた。


「フム、これは」

「先生、床に落ちている小麦粉なんて見て何をしているんですか」

「トラ吉や、よく見るのじゃ。この小麦粉は不自然に波を打っているじゃろう」

「確かに凸凹していますね」

「これは後から小麦粉がかぶさった跡じゃ」

「後からかぶさったって?」


ワシは大きく息を吸い込んで唇を尖らせながら優しく小麦粉を吹いた。


「フー、フー」

「ゲホゲホゲホ。先生、小麦粉を舞わせないでくださいよ」

「フー、フー」

「先生ってば」


トラ吉の制止を振り切ってワシは上澄みの小麦粉を吹き飛ばした。


「ワシの思った通りじゃ。床に数字が書かれておる」

「本当だ。3、5、8、9の数字が書いてあります」

「これは犯人が指紋を浮かび上がらせた時に暗証番号を記したものじゃ」

「覚えていられないからわざわざ残したのでしょうか」

「そう考えるのが妥当じゃな。暗証番号はわかっても組み合わせは何通りもあるからのう。メモしておかないと途中でわからなくなってしまうかもしれんからな」

「じゃあ、犯人はペンや紙を持っていなかったことになりますね」


一見すると計画性を感じさせる犯行だがところどころ突発的なところも垣間見える。

犯行に及ぶのであれば紙やペンぐらいは持っているものだからだ。

しかも、床に暗証番号を記したのに消して行かなかったことも解せない。

暗証番号を消す必要がなかったのか、それとも消せなかったのか。

ますます謎が深まるばかりだ。


「こんな緻密な犯行をするのにもかかわらず以外にも犯人の犯行にはオチがある」

「それは犯行に絶対的な自信を持っているからでしょうか」

「そうとも考えられるが、ワシは暗証番号を消すのを忘れたと思っておる」

「それって気がつかなかったってことですか」

「暗証番号を消す時に何かが起こったのじゃろう」

「何かとは?」

「例えば誰かがやって来たとかじゃ」


そう考えれば暗証番号が残っていたことにも頷ける。

暗証番号を消そうかと思っていたけど消す時間がなかったのだ。

恐らく暗証番号の上に小麦粉が積もっていたのは犯人が逃げる時に小麦粉が舞ったのだろう。


「となりますと犯人は出入口から逃げなかったってことですよね」

「そうなるな」

「なら、犯人はどこから逃げたんですか?まさか、消えたなんて言わないですよね」

「ワシもそこが引っかかっておる。窓も割れておらんし、カギもかかっておる。じゃから、窓から逃げた線は薄い」

「出入口はひとつしかありませんし、逃げるならそこしかありませんよ」


ワシは不意に天井を見上げて何かしら痕跡が残っていないか探す。

しかし、天井はまっさらでキレイなままだった。


「屋根裏から逃げた線も薄いみたいですね」

「そうじゃな」

「密室ってことですね」

「フム」


ここで調査が行き詰ってしまう。

犯人はどうやって密室から抜け出したのか。

透明人間でなければ何かしら痕跡が残っているものだ。


「これじゃあ、先生もお手上げですね」

「まだだまだ足りぬ。重箱をつつくように何度も調査を重ねるのじゃ。さすれば解決の糸は見えるのじゃ」

「他に探すところなんてありますか?」

「床じゃ」


ワシは床をじっくりと眺めながら不自然な場所がないか探す。

気になるところは息を吹きかけて小麦粉を吹き飛ばす。

すると、上澄みの小麦粉がとれて何かの痕跡が浮かび上がった。


「何か引きずった跡のようですね」

「恐らく部費の入った袋を引きずった跡じゃろう。金庫のところから伸びておるからな」

「それなら何で犯人は部費の入った袋を引きずったのでしょうか。引きずれば跡が残ることはわかっていたはずですよ」

「それは引きずらざるを得ない状況だったのじゃ」

「どう言う意味ですか?」

「犯人は部費の入った袋を持ち上げられなかったってことじゃ。恐らく犯人は思いのほか力がないのじゃろう」


そう考えると犯人が男性である可能性は低くなる。

男性であれば腕力があるから部費の袋ぐらい持てるだろう。

いくら華奢な男性であっても部費を引きずるようなことはしないはずだ。

となると犯人は女性または子供、それに相当する人物と言うことになる。

だが、ここはセントヴィルテール女学院だから子供がいることはない。

だから、自ずと犯人は女性に絞られる。


「先生は犯人がこの学院の生徒だと思っているんですか」

「そう考えればいろいろと辻褄が合うのじゃ」

「もしかして内部犯行ですか?」

「部員であれば部室には簡単に出入りできる。おまけに暗証番号も知っておるからいつでも部費を盗むことができる」

「なら、何で小麦粉を使ったんですか。暗証番号を知っているのなら必要ないじゃないですか」

「犯行を別の人物に向けさせるためのカモフラージュってことも考えられる」


いやその線が濃厚だ。


「だったら誰が犯人なんですか?」

「可能性が高いのは第一発見者だ」

「けど、第一発見者は3人いるんですよ」

「その3人が共犯ってことも考えられる」

「なら、予め部室に侵入して金庫を開けて部費を盗んで、その後で小麦粉をぶちまけて犯行現場を作ったってことですか」

「そう言うことになあるのじゃ。分担して作業をすれば短時間でできる」


ワシは頭の中を整理しながら内部犯行説を説いた。


「けど、どうやって足跡を消したんですか。小麦粉をぶちまけたのだから足跡は残るはずですよ」

「それは部屋から出て行く時に後ろ向きで進んで小麦粉がかからないようにしたのじゃ。そうすれば足跡は残らない」

「なるほど、さすがは先生です。密室のトリックが解けましたね」

「ワシにかかればこんなものじゃ」


部員を疑いたくはないが内部犯行説が一番有力だ。

密室のトリックも解けたし間違いないだろう。

あとは部員に事情聴取をして犯行を認めさせることだ。


「なら、次は事情聴取ですね」

「場所を移動するのじゃ」


ワシとトラ吉は現場を離れてセレーネ達を呼びに行く。

そして理由を話して学院の会議室を貸してもらった。


「準備はできたのじゃ。いつでもよいぞ」

「それではお入りください」


ワシが会議室のソファーに座って準備を整えるとトラ吉が廊下で待っていた部員を部屋の中に入れた。


「話って何ですか」

「まずは名前を教えてほしいのじゃ?」

「2年B組の前田敦美です。アイドル部に所属しています」

「2年B組の前田敦美さんですね」


ワシが聞き取りをしてトラ吉に書記を任せた。


「率直に聞くが犯行時間にどこで何をしておったのじゃ?」

「私が犯人だって言うんですか?」

「これは誰にでもする質問じゃ。正直に答えるのじゃ」

「犯行時刻はちょうど理科の実験の授業を受けていました。クラスのみんなといっしょだったから私にはアリバイがあります」


前田敦美は動揺を浮かべることもなく真剣な眼差しで応える。

その姿を見ても嘘を言っているようには思えなかった。


「その後で部室へ向かったのじゃな」

「授業が終わってから休憩時間に隣のクラスの篠田真理と柏木優希が来て部室に行こうって誘って来たんです」

「何のために部室へ行ったのじゃ?」

「それは……」


その質問に前田敦美は動揺を浮かべて黙り込んでしまう。

明らかに何かを隠しているような態度だ。

ワシはさらにツッコんだ質問をしてみた。


「部室で何をしようとしていたのじゃ?」

「……」

「部費を盗もうと考えておったのじゃないか」

「そんなことはしません!真理から勝治君の秘密を聞こうと思っていただけです」


前田敦美は顔を真っ赤にさせてきっぱりと言い切った。


「勝治君とは誰じゃ?」

「真理のクラスの男子です」

「フム。お主はその勝治君のことが好きなのじゃな。じゃから秘密が知りたかった、違うか」

「変な推理をしないでください。もう、帰ります!」


そう言ってプンプンしながら前田敦美は会議室から出て行った。


「もう、先生ってばデリカシーがないんだから。ああ言うときはオブラートに包んで質問をするべきです」

「好きなら好きでいいではないか。何を恥ずかしがるのかワシにはわからん」

「乙女心は繊細なんですよ。もっと乙女心を勉強しないとセレーネさんに嫌われますよ」

「それは嫌なのじゃ。セレーネちゃんに嫌われたらワシの人生は終わりじゃ」


トラ吉の鋭いツッコミにワシは酷く怯えて頭を抱え込んだ。


「先生、次の人を呼んでいいですか?」

「うぅ……セレーネちゃん」

「もう。セレーネさんのことになるとセンチになるんだから。次の方、お入りください」


トラ吉が声をかけると2人目の第一発見者である篠田真理が入って来た。


「もう、休憩時間内に終わらせてよね」

「とりあえず腰をかけてください。先生、先生ってば」

「フム。そうじゃったな。まずは名前を教えてほしいのじゃ」


トラ吉にせかされて我を取り戻したワシは篠田真理に質問をした。


「2年C組の篠田真理です。これでいいでしょう」

「2年C組の篠田真理さんですね」


篠田真理は前田敦美と違って身長の高いショートカットの女子だ。

表情にどことなく色気があって無意識のうちに男心をくすぐる。


「率直に聞くのじゃ。犯行時間は何をしていたのじゃ?」

「私を疑っているわけ。その時間は保健室で休んでたわよ」

「授業はどうしたのじゃ?」

「体調が悪かったから途中で保健室に行ってたわ」

「それを証明してくれる者はおるか?」

「保健室の先生よ」

「フム。アリバイありっと」


授業をサボるのは感心できないが嘘は言っていないようだ。

後で保健室の先生から裏付けをとれば篠田真理の無実は証明される。


「もしかして私がアイドル部の部費をとったと思っているの?」

「可能性をつぶしているだけじゃ」

「心外。私、そんなに悪い人物に見える?」

「男を騙しそうじゃ」

「何それ。私は一途だわ」

「そう言うことにしておいてやるのじゃ」


ワシの素直なひと言に篠田真理はプリプリしながら会議室を出て行った。


「先生って女子を怒らせるのが得意ですね」

「ワシは正直者なだけじゃ」

「それより、次の者を呼ぶのじゃ」


ワシはセレーネちゃんだけいれば十分だ。

他の女子など全く興味がないから嫌われてもいいのだ。


「次の方、お入りください」

「失礼します」


次に入って来たのは3人目の第一発見者である柏木優希だった。

3人の中では一番大人びておりどことなく落ち着きを感じさせる。

この者が部費を盗んだとは到底思えなかった。

だが、事情聴取なので公平に行う。


「まずは名前を教えてほしいのじゃ」

「2年C組の柏木優希です。アイドル部に所属しています」

「2年C組の柏木優希さんですね」


柏木優希は受け答えもしっかりしていて安心感を感じさせる。


「では、率直に聞くのじゃ。犯行時間は何をしておったのじゃ?」

「英語の授業を受けていました。クラスメイトに聞いてもらえればアリバイの証明はできます」

「フム。お主のような人間が犯行を犯すわけないな」

「いいんですか。もし、私が犯人だったら逃すことになりますよ」

「お主の目を見ていればわかるのじゃ。お主は嘘をつけない人間じゃとな」

「それはお褒めの言葉として受け取っておきますわ」


人間像もしっかりしているし、アリバイもあるしで柏木優希の犯人説は薄い。

仮に全部嘘だったとしてもアリバイがある以上、柏木由紀は白なのだ。


「お主は前田敦美と篠田真理とお友達なそうじゃがどこで知り合ったのじゃ?」

「あっちゃんとまりっぺとはアイドル部で仲良くなりました。まりっぺとは同じクラスなんですけれどクラスでは話したことがありませんでした。だけど、実際お喋りするといろいろ共通点があって合うなって思ったんです」

「青春を満喫しておるようじゃな。羨ましい」

「学生の特権ですからね」


ワシも若かりし頃は探偵学校に通っていたから友達はいた。

探偵クラブを作って毎日謎解きゲームをしていたのを覚えている。

その友達も卒業と同時に別れ別れになってそれぞれの道へ進んだ。

ワシのように探偵事務所を開いていて活躍している友達も多いのだ。


すると、タイミングよく5時限目を伝える予鈴が鳴った。


「あっ、授業がはじまる。私はこれで失礼させていただきます」


そう挨拶をして柏木優希は慌てて教室に戻って行った。


「これで第一発見者の3人の事情聴取は終わりましたけれどみんなアリバイがありますね」

「フム。これで第一発見者犯行説は消えたってことじゃな」

「なら、他の部員の中に犯人がいるってことになりますね」

「セレーネちゃんの部活の部員は疑いたくはないのじゃが調査なのだから仕方がないのじゃ」


ワシとトラ吉は授業が終わるまでもう一度、事件現場の調査をすることにした。


「トラ吉や、事件現場の写真を撮っておくのじゃ」

「はい、わかりました」


現状維持が事件現場の鉄則だが、いつまでもこのままにしておけない。

部室が塞がっている間、セレーネ達はアイドル活動ができないからだ。

セレーネの活躍を目にしたいワシとしてはさっさと事件を解決したい。

そして思う存分セレーネのアイドル活動を楽しむのだ。


「それにしても今回は難事件じゃな」

「ねぇ、先生。犯人がセレーネさんってことはありませんか?」

「何じゃと!何を言い出すのじゃ。セレーネちゃんが犯人なわけないじゃろう。馬鹿も休み休み言うのじゃ」

「セレーネさんなら部室にも簡単に出入りできますし金庫も空けられる。おまけに事情聴取もしていませんからアリバイがとれていません。あり得ない線ではないと思うんですけどね」

「何のためにセレーネちゃんがそんなことをするのじゃ」

「アイドル部の名を売るためじゃないですか」


トラ吉はそんな暴言を吐いて来るがセレーネちゃんが犯人であるわけない。

たとえアイドル部の名を売るためにしたとしてもセレーネちゃんに罪はないのだ。


「そんな馬鹿なことは言っていないでちゃんと写真を撮っておくのじゃぞ」

「犯人は盗むものだけ盗んで何の痕跡も残さずに消えたなんて完璧過ぎます」

「それだけ犯人の方が上手だと言うことじゃ」

「なんだか、イメル村の事件を思い出しますね。あの時も犯人は見えなかったんですから」


確かに言われて見ればその通りじゃ。

イメル村の犯人は擬態して姿を晦ましていた。

ワシの迷推理で犯人を浮かび上がらせたがそれができなかったら謎のままだっただろう。

そう考えると今回の事件と似ている部分もあるかもしれない。


イメル村で盗まれたのはぱんつで今回は部費だ。

金銭的な感覚で見たら部費に分があるが嗜好的な感覚で見たらぱんつもあり得る。

犯人がどんな価値観を持って盗んだのかわからないが盗まれたのはどちらも同じ。


おまけにイメル村の犯人は擬態で姿を晦ませていた。

今回の犯人も誰にも気づかれずに部室に侵入したことを考えると同じ人物の可能性も残されている。

擬態を使って姿を晦ませれば部室の侵入なの容易いだからだ。


ただ、擬態を使って姿を晦ませられるとしても重い部費まで消すことはできないだろう。

おまけに部費の入った重い袋を引きずって逃げるなんてもってのほかだ。


「確かにあの虫ならば可能かもしれん。じゃが、忽然と姿を消すことはできないじゃろう」

「転移でもしない限り無理ですよね」


その通りだ。

転移でもしない限り忽然と姿を消すことはできない。

逆に言えば転移ができれば犯行は可能と言うことだ。


「まて……転移じゃ。あの虫が転移できればあやつが犯人じゃ」

「転移って。ただの虫にできるとは思いません」

「あやつは擬態と言う特殊能力を持っておったのじゃ。もしかしたら転移ができるのかもしれん」

「でも、あの虫がお金を盗んで何をするんですか」


確かにその指摘は最もだ。

あの虫がお金を使えるとも思えない。

ましてや大金なんて何に使うのかわからない。

食べ物に使ったとしても使い切るまでにどれだけの時間がかかるか。


「あやつの仲間がいるのかもしれない」

「虫の仲間って虫ですよ。虫がいくら集まっても何にもならないですよ」

「ならばあやつが誰かの指示を受けて行動しているとしたらどうじゃ」

「あの虫に犯行をさせて自分は大手を振って歩いているんですか」

「あり得ない線じゃないじゃろう」

「う~ん、でもな。あの虫に頼む必要があるのか疑問です」


完璧な犯行をするならば自分の身を削らない行動をしなければならない。

とかくあの虫が捕まったとしても捜査の手が伸びて来ることはないだろう。

あの虫と接点を探す方が難しいからだ。

ただ、そう考えるとあの虫もかなりの知能を持った虫だと言うことになる。

でなければ、緻密な犯行など冒せないのだ。


「恐らくバッグにいる人物は相当に頭が切れる者なのだろう。あの虫に犯行を任せるなんて普通の人間では思いつかないのじゃから」

「先生の説が正しかったとして、あの虫は見返りに何を求めたのですか?」

「食べ物ってことはないじゃろうな」


それでは理由が薄すぎる。

犯行を実行させるだけの動機が必要だ。


「もしかしてあの虫はもともと人間だったんではないでしょうか。犯行をしたのも元の姿に戻れるからって考えれば十分な動機になります」

「お主はときどき突拍子もないことを申すな。確かにその通りだったら動機として十分じゃ」

「でしょう。人間並みの知識を持っているってことも裏付けられますからね」

「あの虫がもともと人間だった説か……」


トラ吉の発言でワシの中に引っかかっていたものが解けた。

説としては少し強引過ぎるけれど納得ができる説なのも確か。

なぜ、虫の姿になったのかまではわからないが。


「人間だったらお金も欲しがりますからね」

「となるとあの虫は人間に戻るため誰から仕事を依頼されて部費を盗んだことになる。じゃが、何で部室に部費があるってことを知ったのじゃ」

「きっとバックにいる人物が部の関係者なんですよ」

「お主は部員が真犯人じゃと申すのか?」


またまた話は振り出しに戻ってしまう。

トラ吉いわく真犯人は部員だとのことだ。

部員であれば部費のことは知っているし、あの虫を導ける。

そして自分はアリバイ作りをしてあの虫に犯行をさせる。

そうすれば自分に捜査の手が及ぶことはないのだ。


「有力でしょう。間違いないですよ、この説は」

「信じたくはないがお主の意見も一理あるのじゃ」

「でしょ。これでボクも迷探偵の仲間入りですね」

「調子に乗るでない。お主はまだまだひよっ子じゃ」


だが、トラ吉のおかげで頭の中がすっきりした。

実行犯はあの虫で真犯人は部員の中にいると考えればよい。

後はみなの前でそのことを明らかにすればいいだけだ。


すると、5時限目の終わりを告げる予鈴が鳴った。


「トラ吉や、授業が終わったようじゃぞ」

「そのようですね」

「部員達を会議室に集めるのじゃ」

「わかりました」


トラ吉に部員を呼び出してもらいワシは推理の準備をはじめた。


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