第百二十一話 ボロにゃん再び①
午後のティータイムはワシの一番の楽しみだ。
ダージリンティーにドライフルーツを合わせてフルーツティーとして楽しむ。
苦いダージリンにほんのり甘いフツールの甘味が加わって美味しいのだ。
一番、好きな組み合わせはダージリンとイチゴのフルーツティーだ。
「ホッ。やっぱりフルーツティーはうまいのう」
「ティーカップを持っている姿を見ていると凄腕の名探偵に見えますね」
「ワシはすでに迷探偵なのじゃ。バカにするでない」
「先生の場合は”名”じゃなく”迷”の方でしょう」
「それでもワシは迷探偵じゃ」
「全く、頑固なんだから」
トラ吉はこのところワシに文句を言うようになった。
例のイメル村の事件以来、自信がついたからだろう。
その後もトラ吉の活躍で難事件を解決して来た。
師匠のワシとしては弟子の成長は喜ぶべきことだが調子に乗られても困る。
ワシの下で働いている以上、ワシに敬意を持っていなければならないのだ。
「トラ吉や、戸棚のクッキーをとっておくれ」
「そんなの自分で取ればいいじゃないですか」
「なんじゃと!ワシに取って来いと申すのか!」
「ボクは食べたくないから先生が自分で取ればいいって言っているだけです」
「ムムム。ああ言えばこう言う。お主はいつからそのような者になってしまったのじゃ」
「ボクは変わっていませんよ。先生が変わっただけです」
トラ吉は悪びれたようすも見せずにシャアシャアと言ってのける。
その傲慢な態度を見てワシはおでこに青筋を立てた。
「情けない。お主がここに来た時には素直で純真な者じゃったのにな」
「それだけボクも成長したってことですよ」
「お主のは成長じゃない。面の皮が厚くなっただけじゃ」
「なら、先生もその分年をとったってことですね」
トラ吉はもしかしたら反抗期なのかもしれない。
反抗期になるとやたらと反発するから今のトラ吉と似ている。
まあ、トラ吉も年頃だから仕方ないのだろう。
すると、事務所の郵便受けに何かが入る音が聞えて来た。
「おっ、荷物が届いたようじゃぞ」
「なら、先生が取に行けばいいじゃないですか」
「お主のような薄情者はもう知らん。ワシが自分で取りに行くのじゃ」
「年をとったら運動をした方が体にいいですよ」
そんな暴言を吐いて来るトラ吉をおいてワシは玄関へ向かう。
扉についている郵便受けの中には手紙がひとつだけ入っていた。
「仕事の依頼じゃろうか」
ワシは手紙の差出人の名前を確かめる。
「セレーネ……もしかしてあのセレーネちゃんなのか!」
セレーネと言う少女はプロのコスプレイヤーをしている娘だ。
とある公園でその姿を見てワシの胸の奥がキュンとなった。
初恋に似た甘酸っぱい気持ちはワシを幸せの絶頂に陥れた。
それ以来、ワシはセレーネちゃんのファンになっている。
「ルルルン、ルルルン」
ワシは軽いステップを踏みながら事務所の応接間に戻る。
「先生、どうしたんですか?頭でも打ったんですか?」
「何とでも言うがいい。これはワシへのラブレターじゃ」
「ラブレター?不幸の手紙じゃないんですか」
「クンクン。ウホッ。セレーネちゃんの匂いがする」
「先生、そこまでするとただの変態ですよ」
「変態でもいいのじゃ」
浮かれているワシを見てトラ吉は暴言を吐いて来る。
しかし、今のワシには全く響いていなかった。
「いい年をして若い娘に夢中になるなんて先生ぐらいですよ」
「男子たるものいくつになってもカワイ子ちゃんが好きなのじゃ」
この年になるとカワイ子ちゃんを見ているだけで癒される。
とかくワシの事務所は女っ気がないから癒しが必要なのだ。
もし、ワシの弟子がカワイ子ちゃんだったどんなに嬉しかっただろうか。
「先生、顔がだらしなくなっていますよ」
「さてさて。何が書かれておるのじゃろうな」
ワシはペーパーナイフで封を開けると中に入っていた手紙を取り出す。
そしておもむろに広げてセレーネちゃんからの愛の告白を受け止めた。
「どうしたんですか、先生?」
「フムフム。これは……」
「先生?」
「事件じゃ!」
「うわっ。いきなり大きな声を出さないでくださいよ」
「セレーネちゃんが危険にさらされておる。こうしてはおれん」
ワシは慌てて帽子をとるとコートを羽織って外に飛び出す。
その様子を見ていたトラ吉も荷物を持って後を追い駆けて来た。
いつも利用している馬車を呼び寄せてセントヴィルテール女学院へと急ぐ。
もし、ワシが遅れたことでセレーネちゃんに被害が及んだら嫌だからだ。
「まだか。まだ着かんのか」
「今、出発したばかりじゃないですか。そんなにすぐには着きませんよ」
「お主はのんきでいいのう。ワシは気が気でないのじゃ。もし、セレーネちゃんに何かあったらと思ったら、居ても立っても居られん」
「手紙を認めるだけの余裕があるってことですよ」
ひとり焦っているワシとは違ってトラ吉はのんきなものだ。
休日にお出掛けする気分のままいて緊張感がない。
これがワシの弟子かと思うと情けなくなって来る。
「セレーネちゃん、ワシが行くまで無事でいれおくれよ」
「ところで先生。手紙には何て書いてあったんですか?」
「お主には教えてやらん」
「そんな意地悪しないでくださいよ。ボクは助手なんですよ」
そんなことを言って来るトラ吉だが中身は好奇心だけだろう。
トラ吉とは付き合いが長いからすぐにわかるのだ。
「どうしても教えてほしいのか?」
「はい」
「なら、約束せい。セレーネちゃんを守ることを優先させるとな」
「ボクは迷探偵の助手です。困っている人がいたら助けます」
「その言葉、信じておるからな」
「任せてください」
とりあえずトラ吉に事件のあらましを話しておかないと都合が悪いので、ワシは手紙に書かれていた内容をトラ吉に話して聞かせる。
「セレーネちゃんが所属している部で部費がなくなったのじゃ」
「部費が。それは事件じゃないですか!」
「そうじゃ、事件じゃ。セレーネちゃんが汗水たらして稼いだお金がなくなってとても悲しんでおる」
「ようやくまともな事件に出くわしましたね」
「まともな事件とは何じゃ?」
「だって、いつも先生のところに舞い込んで来る事件は飼い猫を探してほしいとか、店番をしてほしいとかじゃないですか。そんなの探偵がする仕事じゃありませんよ」
返す言葉が見つからない。
確かにワシに舞い込む事件はどうでもいいようなものばかりだ。
ただ、事件を選んでいたら食べていけないから仕方なくこなしている。
ワシだって本格的な事件を解決して迷探偵であることを広めたいのだ。
「じゃがな、トラ吉や。街の人達の困りごとを解決することも探偵の仕事なのじゃ。普段から街の人達とコミュニケーションをとっておればいろんな情報を得られる。情報は探偵にとっては一番大切なものなのじゃ」
「先生って見かけによらずお人好しなんですね。だから、うちは貧乏なんだ」
「貧乏と言うでない。ちゃんと飯は食わせておるじゃろう」
「毎日、メザシご飯なんてすぐに飽きちゃいますよ。たまにはステーキでも食べたいです」
「贅沢を言うでない。ワシらは猫なのじゃぞ。肉より魚の方が合っておる」
「なら、マグロ丼とかうな重とか豪華なものを食べたいです」
それを食べられるだけにどれだけ仕事をすればいいのかトラ吉はわかっていない。
飼い猫探しや店番なんてしても子供のお駄賃にしかならない。
それなのに贅沢をしようなんて思う方が間違いなのだ。
トラ吉はネコ仙人のところへ修行に出した方がいいかもしれない。
「腹が減ったら霞でも食うておれ」
「アム、アム……全然お腹が膨れません」
「モノの例えじゃ、馬鹿者」
「あー、馬鹿って言った。馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ」
「お主に付き合っていると疲れるわい」
「ブー」
トラ吉は生意気なことを言うようになったがまだまだ子供じゃ。
我慢がきかないところとか、ワガママを言うところなんて子供そのものだ。
それでいてワシと同じ立場に立とうとするから無理が生じてしまう。
猫には猫に見合ったものにとどめておく方が賢い生き方だ。
「それよりもまだ着かんのか。日が暮れてしまうのじゃ」
「先生、慌てている時ほど落ち着いた方がいいですよ。ささ、紅茶でも飲んで」
「お主に諭されるとはな。ワシもまだまだじゃ」
「アイスティーにしてありますからバタークッキーと楽しんでください」
「用意がいいのう。さすがはワシの助手じゃ」
「先生と付き合いが長いですからね」
トラ吉はハンカチをワシの膝の上に乗せると水筒に入れておいた紅茶をカップに注ぐ。
そしてバスケットに閉まってあったクッキーの包みを開いてワシに差し出した。
ムグムグムグ。
ズズズズー。
「ホッ。冷たいレモンティーも美味じゃのう。バタークッキーとの相性もよい」
「先生の好みはバッチリ抑えていますからね。明日のティータイムはハーブティーにする予定です」
「今から言ったら楽しみがないのじゃ。別のにしておくれ」
「もう、わかりましたよ。別の紅茶にします」
トラ吉はムッとした顔をしながらメニューを変えると約束した。
それからしばらくの間、ティータイムで落ち着いていると目的地が見えて来た。
「おっ、セントヴィルテール女学院じゃ。あそこにセレーネちゃんがおるのか。ドキドキする」
「先生。ボク達は推し活をしに来た訳じゃないんですよ。しっかりしてください」
「そうは言ってもな。秘密の花園に立ち入るような気分になるのじゃ」
「セレーネさんに会ってもサインはねだらないでくださいね」
サインどころか握手をしてもらおうかと思っている。
せっかくセレーネちゃんとお近づきになれるのだからおねだりしないともったいない。
そしてもっとお近づきになったら、あんなことやこんなことをしてもらうのだ。
「ウヘヘヘ」
「先生、顔が歪んでいますよ」
ワシがひとりあっちの世界へ行っている間に馬車はセントヴィルテール女学院の玄関の前で停まった。
「旦那、着きましたよ」
「フム。ちゃんといつもの顔に戻しておかんとな」
ワシは歪んだ顔を整形していつものしまった顔に戻す。
そしてトラ吉を先に降ろしてワシは貫禄たっぷりに最後に降りた。
「ボロにゃんさま、お待ちしておりました」
「えーっ、これがセレーネの言っていた迷探偵なの。だだのボロ雑巾じゃん」
「ルイミンちゃん、いくら使い古したトイレのロッカーに捨ててあるようなボロ雑巾に見えるからって失礼だよ」
「リリナちゃん、純な顔をしてけっこう酷いこと言っているよ」
「わ、私はそんなつもりで言ったんじゃありません」
「なら、どんなつもりで言ったの」
「もう、ルイミンちゃんのイジワル」
ワシ達を出迎えてくれたのはセレーネちゃんとお供の者達だった。
さすがはお供の者達だけあって失礼なことをバシバシと言う。
やっぱりセレーネちゃんとは生まれが違うから貧相な発想しかできないのだろう。
「ボロにゃんさま、すみません」
「よいよい。女子はそれぐらい元気じゃないとな」
「先生、鼻の下が伸びてますよ」
「いらんことは言わんでよい」
トラ吉が余計なことを言うからセレーネちゃんの前で赤っ恥をかいてしまう。
とうのセレーネちゃんはクスクス笑ってくれていたがそれでもだ。
トラ吉にはちゃんと教育をしておかなければならないようだ。
「それで事件現場はどこなのですか?」
「ワシが言おうとしたことを先に言うでない」
「それでは現場に案内しますね。ついて来てください」
そう言うとセレーネちゃんは現場となったアイドル部の部室へと向かう。
ワシらはその後について行きながら、ついでに学院内の様子を見学した。
「立派な造りの学院じゃな。さすがはセレーネちゃんが通っているだけある」
「みんな女の子ばかりなんですね。ドキドキしちゃいます」
「クスクスクス。ここは女学院ですからね」
トラ吉は周りにいた女子生徒達を見て少し興奮している。
女学院に入るのははじめてだから余計に感情が昂っているようだ。
「ワシもここの生徒になろうかのう」
「ボロニャンさまは生徒ではくて先生の方が似合います」
「そうじゃろう、そうじゃろう。ワシもそう思っいたところじゃ」
「先生が先生をやるなんておかしな話ですよ。何の授業をやるんですか」
「それはもちろん探偵じゃ。迷探偵を育成するのじゃ」
「これ以上、先生のような迷探偵を作らないでください」
そんなくだらない話をしていると目的のアイドル部の部室へ辿り着いた。
「ボロにゃんさま、ここが事件現場になったアイドル部の部室です」
「フム。ここが現場か」
ワシはカバンから白色の絹のハンカチを出してドアノブをそっとひねる。
すると、アイドル部の部室の扉が開いて部屋の中が見えた。
「現場はこの奥じゃな」
「はい。一番奥の部屋になります」
ワシはカバンから足専用のビニール袋を取り出して両足に被せる。
トラ吉やセレーネちゃん達にも同じようにさせて現場に入る準備を整えた。
「では、トラ吉。床に気をつけながらついて来るのじゃ」
「みなさんも床に気をつけながらついて来てください」
「なんか本格的だね」
「私、こんなのはじめて」
「ボロにゃんさまは迷探偵ですもの」
現場を荒らさないように極力注意しながらアイドル部の部室へ上がり込む。
扉の先は玄関になっていて両サイドに部員の靴箱が置いてある。
その先にまた扉があって、そこを開くとロッカールームになっていた。
「クンクン、クンクン。馨しい香りじゃ」
「先生、変態をさらさないでください」
「変態とはなんじゃ。ワシは素直な感想を呟いただけじゃ」
「世の中ではそれを変態と言うんです」
生意気にもトラ吉が失礼なことを言うのでセレーネちゃんのお供の者達は失笑していた。
「ロッカールームの先が事件現場です」
「フム、ここか」
「うわぁっ、すごい」
部屋の中を見回すと辺り一面真っ白になっていた。
宙に舞っていた小麦粉は床に落ちているので宙は白くはない。
ただ、少し風が吹いただけでも床に落ちている小麦粉が舞い上がった。
「正面に置いてある金庫の中に部費が入っていました」
「カギはかけておったか?」
「もちろんですわ。大切なお金が入っているのでちゃんとかけています」
「フム」
現場の様子と状況を聞いて、これがすぐに大事件だと気づく。
ただの泥棒だったら窓ガラスを割ったりロッカールームを漁ったりするものだ。
だが、この現場ではそれらしい形跡はまるでなかった。
「トラ吉や、人払いをしておくれ」
「承知しました、先生」
「セレーネちゃん、すまぬがワシらだけにしてもらえぬか」
「ボロにゃんさまがそうおっしゃるなら」
「絶対に事件を解決するから安心していておくれ」
「私はボロにゃんさまを信じております」
「ニャハ~ン」
セレーネはそう言うとお供者達を連れて部室を出て行った。
「聞いたか、トラ吉や。セレーネちゃんはワシを信じてくれておるのじゃぞ」
「それは早く事件を解決してもらいたいだけですよ」
「なら、事件を解決してやろうじゃないか。そしたら、セレーネちゃんからお礼のキスをもらえるかもしれないのじゃ。ボロにゃんさま、チュって。ヌホホホホ」
「はいはい」
ワシがひとりのほほんとしている間にトラ吉は現場検証の準備をはじめていた。
「先生、いつまでそうしているんですか。日が暮れちゃいますよ」
「ゴホン。それでは現場検証をはじめるかのう」
ワシは気を取り直して現場の状況を観察する。
「すごい粉ですね。何の粉でしょう」
「ペロ……これは小麦粉じゃ」
「小麦粉が何で部室にあるんですか」
「犯人が持ち込んだものじゃろう」
料理部ではないのでアイドル部に小麦粉があることは不自然だ。
そう考えると必然と犯人が持ち込んだものになって来る。
ワシは小麦粉が宙に舞わないように注意しながら金庫を調べはじめた。
「犯人は小麦粉で何をしたのでしょう」
「フムフム。やはりな」
「何かわかったんですか、先生」
「犯人は小麦粉を使って指紋を浮かび上がらせたようじゃ。はっきりと指紋の跡が残っておる」
金庫はボタン式になっているから暗証番号を調べるためのものだったのだと推測できる。
ただ、気になるのは犯人の指紋が残っていないところだ。
金庫を開けるにはボタンを押さなければならないから必ず指紋の跡がつく。
それなのに金庫のボタンに残っているのは古い指紋の跡だ。
「その指紋が犯人のものなのですか?」
「いや、これは違うのじゃ。犯人の指紋だったら真新しい跡が残っているはずなのじゃ」
「と言うことは犯人はどうやって金庫を開けたんですか?」
「そこが謎なのじゃ」
金庫のボタンに触れずに金庫を開けることはできない。
必ず暗証番号を入力しないと開かない仕組みになっているからだ。
それならば棒を使ったと考えられるが棒の跡もないのは不自然だ。
これだけ小麦粉まみれになっているのだから何かで触れれば跡が残るのだ。
「もしかして犯人はあの有名な”怪盗レパン”かもしれませんね」
「犯人が”レパン”だったら、もっと大金を狙っているはずじゃ。世界の大泥棒じゃからのう」
「けど、”レパン”は大のカワイ子ちゃん好きですよ。こんな女の子ばかりしかいない学院に目をつけないことはないのでは」
「確かに、この学院はカワイ子ちゃんが多い。じゃからと言って”レパン”が目につけるとは思えん」
しかし、トラ吉の言う通り”レパン”であれば金庫に触れずとも金庫を開けることができるだろう。
”レパン”にとって、この程度の金庫の開錠は朝飯前だ。
だからこそ犯人が”レパン”説は薄いのだ。
「じゃあ、犯人は誰なんですか。もしかして幽霊とか言いませんよね」
「あり得ない線でもないのじゃ」
「そんな怖いことを言わないで下さいよ。ボクはお化けが大の苦手なんですから」
「幽霊か……」
そんなことを呟きながら視線を床に落とす。
「どうしたんですか、先生。床なんてじっと見つめちゃって」
「犯人の足跡がないのじゃ」
「えっ?」
「犯人が部室に侵入したのならば足跡が残っているはずなのじゃ。これだけ小麦粉が散らばっておるのじゃらから足跡がつかないことはない」
「もしかして犯人は本当に幽霊なんですか」
「足跡も残さないなんて、相当な手練れのようじゃ」
ワシらが思っている以上に犯人のレベルは高いようだ。
ただのコソ泥が突発的に犯行を犯したのではなく綿密な計画を持って犯行に及んだのだ。
でなければ小麦粉を使うなんてことはしないだろう。
「プロの犯行だなんてボク達に解決できませんよ」
「何を言う、トラ吉。こうでないと燃えて来んじゃろう。ようやくワシに相応しい事件が舞い込んで来たのじゃ」
「無理ですよ。ボク達は家出猫探しとか店番しかして来なかったんですよ」
「それは食うために仕方なくして来たことじゃ。ワシは迷探偵なのじゃぞ。ワシに任せておけ」
こんなワクワクするような事件に出会ったのはバリバリに活躍していた頃以来だ。
トラ吉と出会う前のことだからトラ吉が知らないのは当然だがワシは迷探偵で名を馳せていたのだ。
”迷探偵ボロにゃん”の名前を知らぬものなどいないぐらい活躍していた。
あの世界の大泥棒の”怪盗レパン”でさえヒイヒイ言ったぐらいだ。
あの頃の活躍ぶりをトラ吉に魅せてやりたい。
きっと驚くことだろう。
「心配だな……すごく心配」
「だらしのない奴じゃ。この難事件を解決してセレーネちゃんからご褒美をもらうのじゃ」
「はぁー、先生の頭の中にはそれしかないだなんて」
「さて、気合を入れるのじゃ、トラ吉。調査の続きをするのじゃ」
ひとり気落ちしているトラ吉とは裏腹にワシは気合を入れ直して調査の続きをした。