第百十九話 市場調査
世界が終わったような時間が止まったような感覚に襲われる。
アーヤの言葉が信じられずに頭の中を駆け巡っていた。
「あれ?やっぱり驚いた?だよね~、私に先を越されているんだもん」
「……」 (……)
「返す言葉も見つからないみたいね。まあ、ワンランク上のプロデューサーならあたり前のことだからね」
「……」 (……)
何も言い返せない。
私が遊んでいる間にアーヤが働いていたからだ。
ラーメン屋をプロデュースするなんて普通は思いつかない。
アイドルのプロデューサーをしているのだからそれだけしていればいいと思うからだ。
私だってそれでいいと思っていた。
だけど、アーヤは頭一つ抜きん出ていたのだ。
「アイドルの活動費も物販だけじゃ稼げないからね」
「ちょめちょめ」 (確かにそうだわ)
まだ、名前も広がっていないアイドルグループの物販なんてたかが知れている。
せめてアイドルグッズを買ってくれるのはこれまでいたファンだけなのだ。
そんなの数えられるほどしかいないから売上も底が見えている。
だから、他のことをしてアイドル活動費を稼がなければならない。
そんなわかり切ったことに気づけなかったことがとても悲しかった。
「ねぇ、ここ1週間の売上はどうなの?」
「今のところ金貨2枚分売上ています」
「金貨2枚ってことは円に換算すると20万と言ったところね。まずまずじゃない」
「これもアーヤさんの手腕の賜物です」
「まあね。これからもどんどん売り込んでね」
「承知しました」
アーヤとラーメン店主の力関係は歴然としている。
アーヤと言う社長に頭が上がらない社員と言った感じだ。
見た目は厳ついのにアーヤに頭が上がらないなんて情けなさ過ぎる。
「そうだ、マコ。私のラーメンを食べて行く?」
「ちょめちょめ」 (いらないわよ)
「本場の豚骨ラーメンよ」
「ちょめちょめ」 (何が本場よ。パクっているくせに)
本場の豚骨ラーメンと言っていいのは博多のラーメン屋だけだ。
ましてや異世界にあるラーメン屋が本場と名乗るのは言語道断だ。
しかも、”私のラーメン”ってすでに自分のものにした言い方が気に入らない。
豚骨ラーメンは誰のものでもなくみんなのラーメンなのだ。
「お代はいらないわよ。おごってあげるから」
「ちょめちょめ」 (いくらお金を持っていてもアーヤのラーメンなんて食べない)
どうせ私にラーメンを食べさせて”うまい”と言わせたいのがみえみえだ。
アーヤが私におごってくれるなんて下心がない限りあり得ない。
すると、不意に私のお腹がグーッと鳴った。
「あら、お腹が空いているのね。遠慮しなくてもいいのよ」
「ちょめちょめ」 (今のはおならよ。お腹が鳴ったわけじゃないわ)
そう強がっていても体は正直でやたらとグーグーお腹が鳴る。
朝から何も食べていないからお腹と背中がくっつきそうだ。
「もう、マコったら。私のあなたの仲じゃない。ほら、食べなよ」
「ちょめちょめ」 (うぅ……)
アーヤはこれでもかと言うぐらいぐいぐいと豚骨ラーメンを薦めて来る。
どんぶりを持って私の前に差し出して豚骨ラーメンの香りをかがせて来た。
「ちょめちょめ」 (ダメよ、私。豚骨ラーメンの誘惑に負けちゃダメ。ここで食べたら、またアーヤに負けたことになるのよ)
気持とは裏腹に涎が湯水のように溢れ出す。
呼吸をするたびに豚骨ラーメンの濃厚な香りが鼻をくすぐるから耐え切れない。
息を止めて抵抗してみても目の前に豚骨ラーメンのどんぶりがあるので誘惑に負けそうだ。
「いらないの?なら、私が食べようかな。ちょうどお昼だしね」
「ちょめちょめ」 (くぅ……)
「いっただきま~す」
ズズズズズズ。
アーヤは遠慮なく私に見せびらかせながら美味しそうに麺を啜る。
そのしずる感がたまらないほど食欲を刺激した。
「うまーっ。やっぱ本場は違うわ」
チラッ。
「ちょめちょめ」 (キィー、ぐやじい)
ここにグローブがあるならばアーヤの横面を殴ってやりたい。
だけど、横腹を殴られているのは私の方。
もう、理性では抑え切れないぐらい食欲が漲っていた。
「マコも強情なんだから。私のラーメンを食べても負けたなんて言わないわよ」
「ちょめちょめ」 (そんなのうじょだ。アーヤはわだじをだまじでいるんだわ)
「わかったわよ。これは貸にしておくわ。これならいいでしょう」
アーヤに借りは作りたくないけれど仕方がない。
背に腹は代えられないのだ。
私はアーヤのラーメンに飛びつくと一心不乱でがっついた。
ズズズズズズ、ゴクゴク、プハーッ
「ちょめちょめ」 (うめーっ。さすがは豚骨ラーメン)
スープは濃厚でこってりとしていて少しトロミがあって舌に絡みつく。
それでいてしつこくなくてぺろりと何杯でも食べれそうだ。
細麺はモチモチしていてスープがよく絡みついて麺を啜るだけでうまい。
ひと口ふた口食べる度に口の中もお腹も心も幸せに満たされた。
「どう?私のラーメンは?」
「ちょめちょめ」 (おいしかったわ)
「その顔だと満足したようね。なら、私の勝ちね」
「ちょめちょめ」 (あーっ、また私を騙したわね)
「冗談よ。本気にしないでよ」
「ちょめちょめ」 (その顔は本気の顔だ。私の弱みにつけ込んで騙すなんて最低なクズ女だ)
アーヤはいい訳をしていたがきっとマジだったのだろう。
そもそもアーヤが私に気を許すなんてことはあり得ないのだ。
いつも私を負かそうとばかり考えているどうしようもない奴だ。
自分が勝つためならどんな卑怯な手段でさえいとわない。
アーヤと言う人間はそう言うやつなのだ。
「じゃあ、私は用があるからこれでね。また、縁があったら会いましょう。バイバ~イ」
「ちょめちょめ」 (何よ、あの品のある女子みたいな勝ち誇った態度は。悪辣だわ)
アーヤのラーメンなんて食べるのではなかった。
どんなにお腹が減っていても食べてはいけないものだったのだ。
それなのに食欲に負けるなんて私もまだまだ未熟者だ。
「ちょめちょめ」 (こうなったら私もお店をプロデュースしてアーヤの鼻を明かしてやるわ)
アーヤにできたのだから私にできないはずがない。
まずは王都を調べて王都にはない店の調査からはじめるのだ。
私は心に復讐の炎を燃やしながらクジラ公園から出て行った。
王都の調査にはかなりの時間を要した。
ただでさえ超巨大都市なうえ、この体では厳しい。
おかげで全ての調査を終えるのに1週間もかかってしまった。
「ちょめちょめ」 (ある、あるわ。みんな、ある。何でも揃っているじゃない)
私は悲痛の叫び声を上げながら落胆した。
王都には全てのお店が揃っていて抜けがない。
王都から出なくても暮らしていけるほど何でもある。
ないものを探す方が難しいほど何でも揃っていた。
「ちょめちょめ」 (便利なのはいいけどさ~。これじゃあインドア派が王都中に溢れるわ)
わざわざ危険を冒してモンスターいる外に出る者はいない。
せいぜい街の外に出るのは賞金稼ぎや冒険者ぐらいだろう。
まあ、行商人達は街を行き来しなくてはならないからはじめから除外だ。
「ちょめちょめ」 (きっと王都に住んでいる人達は他の街のことを知らないんだわ。そうに決まってる)
可哀想と思えば可哀想だけど、それはある意味幸せなのかもしれない。
外の世界など知らずに暮らして行けるのだから他に何もいらないはずだ。
あっちの世界で例えたら一生東京で暮らすようなものだ。
東京は何でもあるからわざわざ県外に行かなくてもすむ。
ご当地の物が食べたかったらアンテナショップへ行けばいい。
それが面倒だったらふるさと納税をすればいいだけだ。
スマホひとつでありとあらゆる買い物ができるから不自由がないのだ。
「ちょめちょめ」 (でも、これで何のお店を出せばいいのかわからなくなったわ)
飲食も服飾も美容院も病院も娯楽施設も何でも揃っている。
ないのは電車ぐらいだけれど、どう足掻いても鉄道は開設できない。
たとえこの世界に”ホリだもん”がいても鉄道は築けなかったはずだ。
「ちょめちょめ」 (あ~ん、もう。これじゃあ、アーヤに王都を牛耳られてしまうわ)
何としてでもそれだけは阻止しなくてはならない。
アーヤのことだから王都を牛耳ったら次は国王を目指すだろう。
そしてギャルによるギャルのためのギャルだらけの世界を造るはずだ。
そうなったらこの世界は終わりだ。
固有種が外来種に滅ぼされるように、この世界の純潔な人々はいなくなってしまう。
「ちょめちょめ」 (くわばら、くわばら……って、そんなことをしている場合じゃない。何か探さないと)
私はスマホを取り出してネット検索をして調査をはじめた。
王都にあるものはわかっているからないものをネットで探せばいい。
どこか見落としているものがあるはずだからくまなく探しまくるのだ。
手始めに飲食から手を付けることにした。
飲食の情報なら終わりが見えないぐらい溢れているからいいターゲットだ。
ただ、普通に検索していても似たような飲食店ばかり表示されるので効率が悪い。
「ちょめちょめ」 (これも見た、見た、見た。何で同じのばかり検索されるのよ。ぜったい裏金を積んでいるはずだわ)
私はスマホの画面を見つめながらブツクサと文句を言いまくった。
「ちょめちょめ」 (あぁ~ん、これじゃあいくらやってもきりがないわ。もっと効率よく探さないと)
とは言ってもネット検索には限りがある。
キーワードを変えても同じものが検索されるからだ。
一度検索したものと同じようなものを検索してしまう。
それが便利なのかと問われたら時と場合によると思う。
今の私のように目的に辿り着けない場合は邪魔で仕方がない。
もっと薄く広く幅広い情報が必要なのだ。
「ちょめちょめ」 (ネット検索では効率が悪いわ。SNSで探そう)
私は自分の”インスパ”にログインして検索をかけた。
すると、料理の画像がパパパと表示された。
「ちょめちょめ」 (あるある。晩ごはんのおすすめ料理が多いわね)
晩ごはんのメニューに困っている主婦向けの情報だ。
実際に”インスパ”を見て同じ料理を作る人がいるのかはわからない。
ただ、アレンジもできるから料理の幅を広げることはできる。
「ちょめちょめ」 (どれも美味しそう。でも、これじゃあ店は出せないわね)
いくら晩ごはんの料理を集めても、クオリティーが高くなければお店には出せない。
おまけに豚骨ラーメンのようなインパクトがないと何のお店なのかわからなくなる。
晩ごはんを集めた晩ごはん専門店もありだが、この世界の人にウケるかわからない。
やっぱり失敗しないためにも王道を行った方がいいだろう。
すると、”インスパ”にB級グルメの料理の写真がアップされているのに気づいた。
「ちょめちょめ」 (どれどれ、長野県伊那市のご当地グルメのローメンだって。焼きそばじゃん)
焼きそばと何が違うのかよくわからないけど同じ麺ものは避けたい。
アーヤが豚骨ラーメンだから別の食べ物にしたいのだ。
できれば食べ歩きができるタイプの料理がいい。
「ちょめちょめ」 (長野県か……他にないかな)
私は検索バーに”長野県”、”B級グルメ”と入力して検索をかけてみた。
「ちょめちょめ」 (あ~あ、全国のB級グルメが検索されてる。”インスパ”の検索力もたかが知れてるわね)
どれもどんぶりものやお皿もので食べ歩きできそうな料理はない。
アーヤと差をつけるには食べ歩きできるものでないとダメなのだ。
次は”B級グルメ”、”食べ歩き”と入力して検索してみた。
「ちょめちょめ」 (何、これ。チュロスしか食べ歩きできる食べ物はないじゃない)
これは検索サギだ。
ちゃんとキーワードを入れたのに検索されないからだ。
“インスパ”の検索能力が低いからかもしれないが許せない。
探しているのモノを表示できないなんて悲し過ぎる。
もし、これがAIの作業だったらどうだろうか。
AIなら的確に情報を引っ張って来てくれると思う。
でなければAIなんてただのポンコツロボットだ。
「ちょめちょめ」 (もういいわ。田舎のおばあちゃんがよく作っていた料理にしよう)
それは”にらせんべい”と呼ばれる韓国のチヂミみたいな料理だ。
溶いた小麦粉の中に刻んだニラを入れて焼くだけの簡単な料理。
聞いただけではあまり美味しそうに思えないがこれがうまいのだ。
小腹が空いた時にはちょうどいい。
田舎のおばあちゃんは砂糖をつけていたけど何をつけても大丈夫。
ちなみに私は何もつけない派だった。
「ちょめちょめ」 (”にらせんべい”なら食べ歩きできるし、お手軽な料理だから大丈夫ね)
さすがのアーヤも”にらせんべい”には行きつかないだろう。
ちなみにニラの代わりにみそだけを入れた”みそせんべい”もある。
こっちはみそ味のねっとりとしたホットケーキのような感じに仕上がる。
「ちょめちょめ」 (よ~っし。”にらせんべい屋とみそせんべい屋”にしよう)
売る商品が決まったところでさっそく事業展開の準備に取り掛かる。
まずは屋台をレンタルしてから、小麦粉とニラとみそと水を確保しなければならない。
おまけに”にらせんべい”や”みそせんべい”を作る人を雇う必要がある。
簡単な料理だから作り方さえ教えればすぐにマスターしてくれるはずだ。
「ちょめちょめ」 (たしか、王都の南側にレンタルショップがあったわよね)
以前に王都中を調べたおかげでどこに何があるか把握している。
だから、迷わずに王都の南側にあるレンタルショップまでやって来た。
「ちょめちょめ」 (うわぁ~、いっぱいある)
どれもすぐに使えそうなぐらい手入れが行き届いていた。
私は並べてある屋台を吟味しながらこれと思う屋台を探す。
あまり高級過ぎてもよくないし、安すぎてもよくない。
程よく年季の入ったアンティークな屋台が一番いいのだ。
「ちょめちょめ」 (見つけた!これにしよう)
ちょうどいい感じの年季の入った屋台を見つけることができた。
何で私が年季の入った屋台を選んでいたのかは商品に合うからだ。
”にらせんべい”や”みそせんべい”なんてド田舎をイメージさせるから新し過ぎても高級過ぎてもよくない。
ほどよく年季が入っていて使い古した感じがする屋台がいいのだ。
「ちょめちょめ」 (ねぇ、そこのおじさん。これはいくら?)
「ん?なんだ?」
「ちょめちょめ」 (とぼけた顔をしてないでいくらか教えなさい)
「どこから入り込んだんだ。お前みたいな虫はあっちへ行け」
レンタルショップの太めのおじさんはほうきを手に取ると私を追い払う。
そのほうきの先が顔をひっかいて蚯蚓腫れのような筋ができた。
「ちょめちょめ」 (ちょっと、何すんのよ。私はお客よ)
「ちょめちょめ、煩い奴だ。お前みたいなのがいると商品が売れなくなる。さっさとあっちへ行け」
「ちょめちょめ」 (くぅ……)
ここへ来て喋れないことに不自由さを感じる。
これもそれもちょめジイのせいだから腹が立つ。
私の言葉を理解してくれるのはミクとルイミンしかいないのだ。
「ちょめちょめ」 (仕方ないわ。ここはいったん引いてミクを連れてこよう)
できれば少し大人なルイミンの方がいいけれど今は学校だから無理だ。
だから、必然的にミクになってしまうけれど子供であることが気がかりだ。
ミクに通訳をしてもらっても相手にされない恐れがある。
子供の言うことなんて嘘っぱちだと思う大人が多いからだ。
とりわけレンタルショップのおじさんはそう言うタイプのように見せるから心配だ。
「ちょめちょめ」 (考えていてもしかたないわ。なんとかなるっしょ)
と言うわけで私は転移の指輪に魔力を注いでミクの部屋に転移をした。
もちろんレンタルショップのおじさんに見つからないように屋台の影でした。
「あっ、ちょめ太郎。もう、帰って来たの?」
「ちょめちょめ」 (話は後よ。いいからいっしょに来て)
「ちょっと、ちょめ太郎。引っ張らないでよ」
「ちょめちょめ」 (ごめんごめん、つい)
「何があったのか教えて」
「ちょめちょめ」 (実はね……)
ひとまずアーヤのことは置いておいてアイドルの活動費を稼ぎたいことを伝えた。
事業展開をすること、どんなお店をやるのか、どんな商品を売るのかまで説明した。
「ふ~ん。”にらせんべい”と”みそせんべい”ね。ママなら作れるかも」
「ちょめちょめ」 (それじゃあダメなの。ママは出張できないでしょう)
「それもそうだね」
「ちょめちょめ」 (だから人を雇わないといけないのよ)
「お店をはじめるのって、けっこう大変なんだね」
「ちょめちょめ」 (だから、まずは屋台から手に入れたいのよ)
働いてくれる人を見つけても働く場所がなければ意味がない。
「それよりお金はあるの?」
「ちょめちょめ」 (ハッ!そこまでは考えてなかったわ)
たしか前に大道芸で稼いだ時の銀貨が2枚残っていたはずだ。
あの後でミクの家にお世話になったからお金はまだ使ってない。
だけど、銀貨2枚程度のお金で屋台をレンタルできるのかが心配だ。
「お金がないんじゃ無理だね」
「ちょめちょめ」 (仕方がないわ。部費を使おう)
「ブヒって?」
「ちょめちょめ」 (ブタじゃなーい……って、ちがーう。アイドル部の部費を使うのよ)
「いいの部費を使って?」
「ちょめちょめ」 (これもそれもアイドル活動費を稼ぐためのものだから問題ないわ)
部費に手を出すのはどうかと思うがこれもそれもリリナ達のためなのだ。
それに私はプロデューサーなんだから部費ぐらい使っても問題はない。
私がプロデュースしているからこそリリナ達はアイドル活動ができるのだ。
感謝されこそすれ怪訝にされる言われはない。
そう言うわけで私はセントヴィルテール女学院のアイドル部の部室へ転移した。
チラ、チラ、チラ。
「ちょめちょめ」 (誰もいないようね)
転移してすぐに部室を見回したが誰もいなかった。
ちょうど今は授業中だからみんな教室にいるのだろう。
スーハ―、スーハ―。
「ちょめちょめ」 (新鮮だわ。ほんのり女子の匂いがする)
私が男子だったら絶対にロッカーを漁ってブルマーや運動着の匂いを嗅ぐはずだ。
そんなことをして何になるかと女子達は思うのだが男子はそれで興奮する。
そしてブルマーや運動着をバッグにしまって盗んでしまうのだ。
「ちょめちょめ」 (どうせ盗むならお金ぐらい置いてけってぇ~の)
ブルマーや運動着だって高いのだ。
「ちょめちょめ」 (まあ、私は男子じゃないからそんなことはしないけどね)
私はロッカーには目もくれず金庫がある奥の部屋へ入る。
すると、ちょうどど真ん中にアイドル部の金庫が置いてあった。
「ちょめちょめ」 (これならどうぞ盗んでくださいと言っているようなものね)
金庫なんだから人目を避ける場所に置いておいた方が安全だ。
部室だって部員以外の人も出入りしているのだから。
せめて監視カメラはつけておくべきだ。
「ちょめちょめ」 (さて、いただくとしますか)
私は金庫の前に立って舌なめずりをした。