第百四話 アイドルバトル
アーヤの掛け声と共に”ギャルズ”のイントロが流れはじめる。
リズミカルな曲調で自然と体が動き出す。
それは会場にいたファン達も同じだった。
「いい感じの曲だな」
「ノリがいいと言うか体が自然に動き出すわ」
「”ファニ☆プラ”とは違っていいかもしれない」
「ちょめちょめ」 (そんなことはないわ。”ファニ☆プラ”が”ROSE”に負けるわけないもの。あなた達は騙されているのよ)
すっかり”ROSE”の虜になりはじめているファンを否定する。
イントロだけよくても中身がダメならゴミと同じだ。
どうせアーヤのことだから変な歌詞を書いたに違いない。
私の”恋するいちごぱんつ”以下だ。
「でも、踊りも揃っていてすごい」
「ちょめちょめ」 (そんな訳ないじゃない……って、くやしーぃ!)
リリナが言う通り”ROSE”のダンスはキレッキレで、しかも全員揃っている。
まるで韓流アイドルグループを彷彿とさせるレベルだった。
「ナコルちゃん、すごくダンスを練習したんだね」
「リリナちゃん、ナコルのことを褒め過ぎ。ちょっとダンスがうまくなっただけじゃない」
「そんなことありませんわ。私達のダンスと比べたら月とスッポンですわ」
それを言ったらお終いじゃない。
自分達のレベルの低さを認めたことだ。
これまでに練習をして来たことが無意味になる。
だから、決して”ROSE”を認めてはいけないのだ。
「それは曲のせいかもしれないわね。”ぱんつの歌”じゃカッコよくなんて踊れないもの」
「ちょめちょめ」 (何よ、その言い方。”ぱんつの歌”だって立派な歌なのよ)
すっかりセレーネに否定されてしまって私は肩身を狭くする。
”ファニ☆プラ”のことを思って考えた歌なのに否定されるのは悲しい。
こんなことになるなら楽曲なんて作らなかった方がいいだろう。
「ちょめちょめ」 (あなた達は何もわかってないわ。あいつらはカッコだけよ)
リズムに合わせてダンスを踊っていたらうまく見える。
だけと歌はあくまで歌で評価しなければいけないのだ。
「私もちょめ助の意見に賛成よ。あんな奴がカッコよくなっちゃいけないもの」
「ちょめちょめ」 (おお、心の友よ。ルイミンだったらわかってくれると思っていたわ)
私の意見に賛同して来るルイミンにどこかで聞いたことのある台詞を吐く。
友達のことを”心の友よ”なんて言うのはどこを探しても”ジャイアン”だけだ。
「ルイミンはとことんまでナコルさんのことを嫌っているのね」
「あたり前じゃない。私はあいつにイジメられていたのよ。絶対に許さないわ」
「でもね、ルイミンさん。そんなことを胸の中に閉まっていると自分の心まで汚れてしまうわ」
「いいよ、心なんて汚れたって。私はあいつのことは絶対に認めないから」
ルイミン気持ちはいじめられっ子なら誰でも抱く感情だ。
たとえ強がって平気な振りをしていても心の中は傷ついている。
いじめられた傷はどんな治療薬でも癒すことはできないのだ。
そんな話をしている間にファン達は”ROSE”の虜になっていた。
「”ROSE”いいかも」
「これからのアイドルって感じがするな」
「ファニ☆プラ”もよかったけど、”ROSE”のファンになろうかな」
「ちょめちょめ」 (なんてことを言うの。あなたは”ファニ☆プラ”ファンでしょ。裏切り行為だわ)
ファンになった以上、アイドルを裏切るような真似をしてはいけない。
そんなことをしてもアイドルが傷つくばかりで、いいことは何もない。
それに周りのファン達からは裏切り者のレッテルをはられてしまうのだ。
「見えねぇ~かな。もうちょっとでぱんつが見えそうなんだけど」
「どこを見てるのよ」
「だって、あんなミニスカートで激しくダンスされたら太ももに目が行っちゃうだろう。これは男の性だ」
「ほんと、男ってどうしようもないわね」
「ちょめちょめ」 (くぅー、セクシーさでも向こうに軍配があがるなんて。こっちにはセクシー担当のセレーネがいるのよ)
そう言う認識をしているのは私だけだ。
けっしてセレーネはセクシー担当と認識していない。
あくまでアイドル活動を手伝ってくれているだけだ。
「ちょめ助、もう、こんなのやめようよ。やるだけ無駄だよ」
「ちょめちょめ」 (ダメよ、ルイミン。ケンカを売られた以上、逃げることは許されないの)
「別にあいつらに勝っても嬉しくないよ」
「ちょめちょめ」 (これは私とアーヤの勝負なの。ここで決着をつけてあげるんだから)
私とアーヤの戦いは中学の入学式からはじまった。
私の推し活を馬鹿にしたのがアーヤだった。
”そんなものはオタクがやるものよ”と言って否定したのだ。
自分はギャルのくせにどの口が言っていたのか理解できなかった。
なぜだか同じクラスになってしかも隣の席だった。
すぐに先生に文句を言って席替えをしてもらおうとしたが却下された。
”仲がよくない相手とも仲良くするのが学校生活の醍醐味だ”と言われて。
それからことある度に私とアーヤはぶつかり合った。
99勝98敗で私の方がリードしている。
この勝負で勝って100勝にするつもりだ。
そんなことを考えていると曲調が変わって歌がはじまった。
「”だりー”って言葉を言うのは誰?♪」
「隣の奴が食うのはカリ―♪」
「名画を描いているのはダリ♪」
「迷惑をかけるのは ワ・タ・シ♪」
歌詞ごとにパート分けして歌い手を次々に変えて歌っている。
ペースが早いからあっという間にAメロの前半を歌い上げてしまった。
「ちょめちょめ」 (意味はわからないけど、ちゃんと韻を踏んでいるわ)
しかもリズムに乗っているから歌がうまいように聞えてしまう。
これもラップのマジックなのかもしれない。
「授業をサボって流行の踊り♪」
「真似て合わせて最高の祭り♪」
「テンションバクあげバカ騒ぎ♪」
「エモーション震わせバズりまくり♪」
この間にナコルが担当したパートはない。
他のメンバーが歌っているだけでナコルは後ろに控えていた。
「やっぱナコルはみそっカスなのね。全然、自分のパートがないわ」
「ちょめちょめ」 (そんなことを言っていてもいいの。これからかもよ)
「ないないない。あんなやつなんか歌を歌っちゃいけないんだ」
「ちょめちょめ」 (そこまで言う。まあ、ルイミンの気持はわかるけどさ)
ルイミンはどうあってもナコルを認めようとしない。
ナコルが後で控えているのを見てほくそ笑んでいた。
ルイミンからしたらナコルを絶対に受け入れられないのだろう。
たとえナコルがトップアイドルになったとしても否定し続けるはずだ。
まあ、あのナコルがトップアイドルになんかなれることはないのだけど。
すると、ルイミンの期待を裏切るかのようにナコルがBメロを歌いはじめた。
「事なかれ主義の大人は嫌い♪」
「見て見ぬふりしてクールなつもり♪」
「社会のルールはクソにもならねぇ♪」
「守っている奴は屁にもならねぇ♪」
Bメロはパート分けされておらずナコルの独壇場だ。
普通ならBメロもパート分けしてサビでしめるのもだ。
それもアーヤの采配なのだろうけれど意図が見えてこない。
ナコルはそれほど歌がうまい方じゃないので普通はメインにしないものだ。
一番歌のうまい子をサポートするような役の方が合っている。
それなのに――。
「キーィ、悔しい。何であいつが主役をやっているのよ。許せないわ」
「ちょめちょめ」 (アーヤは何を考えているのよ)
そんな私達の疑問を解いたのはセレーネとリリナだった。
「それは歌詞があの子のキャラクターと合っているからじゃない」
「ナコルちゃんは社会や大人に対して抗っていましたから」
「10代の心情をうまく歌い上げているわ」
「ナコルちゃんみたいな人ほど大人達から蔑まれていますからね」
「その一方であの子達みたいな子を食い物にする。そんな大人が嫌いなのでしょうね」
「私達にはわからない世界ですけれど、何となく気持ちはわかる気がします」
セレーネとリリナがナコルを擁護するような発言をするのでルイミンの眉間のシワが深くなった。
確かに二人が言うように10代は社会や大人達に反発する。
それは絶対的な正義感を自分の中に持っているからだ。
社会の歯車になった大人達はまるで働くだけのロボットになる。
だから、ストレスを溜め込んで、それを発散するためにお酒に溺れる。
ただ、お酒に溺れるだけならいいが金に物を言わせて買春に手を出す。
そのターゲットにされているのはナコルのような10代のギャル達なのだ。
「セレーネもリリナちゃんもナコルを庇い過ぎよ。あいつは極悪非道のいじめっ子なのよ。だから、罰が当たるべきなのよ」
「ちょめちょめ」 (確かにルイミンの言う通りだけどさ。けど、あいつだって代われるかもしれないのよ)
「ちょめ助もあいつの味方をするの。私達、親友じゃなかったの」
「ちょめちょめ」 (ルイミンは私の大切な友達よ。だから、ルイミンには醜い心を持ってほしくないの。復讐に溺れた人間はみんな醜くなっちゃうから)
親友の私としてはルイミンはカワイイ女の子でいてほしい。
推し活をしている時なんかは天使のよう笑顔をしているのだから。
そんな尊いことはもっと大切にするべきなのだ。
「もういいよ。みんなして私をのけ者にするんだから。もう、”ファニ☆プラ”なんて辞めてやる」
ルイミンは目尻にいっぱい涙を溜めながら捨て台詞を吐いてどこかへ行ってしまった。
「私、心配だから後を追い駆けます」
「ちょめちょめ」 (私も行くわ)
「ちょめ助くんは、ここにいてください。ちょめ助くんが迎えに行くと感情的になってしまうと思いますから」
「ちょめちょめ」 (じゃあ、お願いね。リリナちゃん)
と言うことでルイミンのことはリリナに任せて私は”ROSE”のステージを見守った。
私達がすったもんだをしている間に1番のサビは終わって2番になっていた。
「ちょめちょめ」 (くぅー、サビを聴き逃したわ。どんなのだった?)
「もしかして1番のサビのことを聞いてる?」
セレーネが私の質問を察してくれたので大きく頷いて応える。
「1番のサビは簡単に言うと”ギャルが世界を目指そう”って主張している歌詞だったわ」
「ちょめちょめ」 (ギャルが世界を獲るだって。アーヤは何を歌わせているのよ)
ギャルがもし世界を獲ったらみんなギャル化してしまう。
日本を飛び出して海外のティーン達もギャルになるはずだ。
そうなったら間違いなく世界は崩壊するだろう。
だから高い関税をかけてもらってギャル文化が流入しないようにしてもらわないといけない。
「ちょめちょめ」 (これはもう、”トランポ”に期待するしかないわ)
この世界に”トランポ”みたいな国王がいるかわからないけれど期待するしかない。
そんなバカなことを考えている間に2番がはじまっていた。
「”ウザ”って言葉を聞くのはなぜ?♪」
「アメリカをスペルで読むとUSA♪」
「英語はわからないけど うわぁ♪」
「国語で悩むのも ワ・タ・シ」
ROSEのメンバーは絶妙なラップで歌っている。
歌詞だけ見るとただのバカだと言っているのだけれどラップにすると違って聴こえる。
どんなにふざけた歌詞でもラップにすれば本物のように聴こえてしまうのだ。
それはラップが無限の可能性を持っている歌だからだろう。
でも、私には――。
「ちょめちょめ」 (きっとアーヤはナコルのことを書いたんだわ。ナコルってそいう奴だから)
「ちょっと強引過ぎる韻の踏み方だけどうまいわ」
「ちょめちょめ」 (そうかな。私はうまいとは思わないけど。とくに”うわぁ”のところは叫んでいるだけじゃない)
「きっと楽曲を作った人の腕がスゴイのね」
セレーネはすっかり感心して食い入るように”ROSE”のステージを見ている。
それは会場にいたファン達も同じようで体を揺らしながらリズムをとっていた。
「教養なんて身に着けるだけムダ♪」
「学んで我慢して頑張るのはヤダ♪」
「ハレーションしてる頭の中♪」
「ポジションなくしてる回路が死んだ♪」
”ROSE”のメンバーもファン達の反応を見てテンションを上げて行く。
ラップやダンスのキレ味もよくなって楽しそうに歌って踊っていた。
「ちょめちょめ」 (バカ丸出しの歌詞ね。さすがはアーヤだわ)
「”ぱんつの歌”の時よりもファン達が盛り上がっているわ」
「ちょめちょめ」 (それは私へのあてつけ。”ぱんつの歌、ぱんつの歌、ぱんつの歌”って。そりゃぁ、確かに”ぱんつの歌”だけどさ。あなた達のことを思って作ったのよ。もっと受け入れてよ)
「やっぱ”ぱんつの歌”とラップじゃ、勝負にならないわよね」
私の気持などつゆ知らずセレーネは本音をぶちまける。
それは、それだけ”ぱんつの歌”が気にいらないと言うことだ。
だけど、もうデビュー曲になってしまったのだから今さら変えられない。
セレーネ達は”ファニ☆プラ”である限り、一生背負って行く運命なのだ。
そんなやりとりをセレーネとしているとナコルの番に代わりBメロ2を歌い上げた。
「カーストなんて弱い者の群れ♪」
「傷なめ合ってじゃれ合う夕暮れ♪」
「夢見ることさえただのじゃれごと♪」
「子供でさえも大人の真似ごと♪」
ナコルはファン達を挑発するかのように言葉を発している。
それはまさにラップのスタイルを全身で表現していた。
「ちょめちょめ」 (何よ、あいつ。調子に乗り過ぎ)
「強いメッセージ性を感じるわ」
「ちょめちょめ」 (どこが。あれは負け犬の遠吠えよ)
「それは歌っている人がナコルさんだからかもしれないわ」
「ちょめちょめ」 (ナコルが自分のことを主張しているってこと)
「実体験を元していれば想像以上に説得力が増すもの」
確かにセレーネが言うようにこの歌詞がナコルをモデルにしていれば説得力が増す。
モデルになった本人が感情を込めて歌っているのだから伝わらないことなどあり得ない。
”ROSE”のステージを見守っているファン達の心にはジンジンと感じさせているのだ。
そしてBメロ2が終わると待ちに待ったサビ2がはじまる。
1番のサビは聴き逃してしまったから今度はちゃんと聴くのだ。
「この世のギャルに怖いものはない♪」
「時間と言うモンスターも弱い♪」
「さあ 剣をとって 戦うよ 今♪」
「打ち払って薙ぎ払い ただ いま♪」
サビに入ると”ROSE”のメンバーが声を揃えて歌いはじめる。
主役はナコルではなく”ROSE”のメンバーそれぞれなのだ。
「ちょめちょめ」 (これがアーヤが一番言いたいことなのね。ただ、最後のところは強引過ぎる)
「ギャル達の覚悟を感じさせる歌詞だわ。社会から虐げられている時代は終わったことを主張しているんだわ。ティーンの鏡ね」
「ちょめちょめ」 (そんなべた褒めしないでよ。アーヤがそんなことまで考えて歌詞なんて書いてないわ。適当な言葉を並べているだけよ)
「あ~ぁ、”ぱんつの歌”もこれだけ強いメッセージ性があったらなぁ~」
”ぱんつの歌”を作った私がいる前でセレーネは遠慮なく愚痴をこぼす。
それは楽曲を聴く人によっても変わることだからセレーネには刺さらなかっただけのこと。
けっして私の作詞が下手と言うことではないのだ。
すると、今度は曲調が転調するDメロに移る。
「援交なんて時代遅れ♪」
「すぐ騙せると思わないで♪」
「初心だから傷つきやすいね♪」
「泣かないけれど馬鹿にしないで♪」
「これがギャルのプライドなのね♪」
ただ、このパートは全てナコルのアドリブだった。
楽曲を作った時からそうしようと考えていたようで歌詞はない。
だから、その時のステージのノリで全部アドリブで歌うようだ。
「ちょめちょめ」 (キィー。生意気。ナコルの分際でアドリブをするなんてとんだ身の程知らずね)
「へぇ~、感心したわ。アドリブだけであれだけのメッセージ性のある言葉を歌えるなんてすごいわ」
「ちょめちょめ」 (あんなの前もって考えていたのよ。でなければナコルには歌えないわ)
「私達も負けてはいられないわね。任せたわよ、ちょめ助くん」
ナコルに刺激されたことはいただけないがセレーネもやる気になってくれたようだ。
”ファニ☆プラ”にはセレーネと言う柱がいないと勝てないから期待している。
清純派のリリナにお色気のセレーネ、そしてお笑いのルイミンが揃えば無敵なのだ。
そして”ROSE”のステージは最後を迎えた。
「この世にギャルがい続ける限り♪」
「未來はバラ色に染まるぜハニー♪」
「さあ 行こうよ 天国の階段♪」
「登って 世界の頂点に立つ 段々♪」
と、一番のサビを繰り返し、最後のサビを歌い上げる。
「この世の中のギャルといっしょに行こうよ♪」
「時代のしがらみをブチ壊す夜♪」
「さあ 夢を現実に変えて さあ♪」
「新時代の幕開けをするのさ♪」
歌い切った”ROSE”のメンバーはやり切った感を浮かべる。
ただ、楽曲が終わるまでは手を抜かず音楽に合わせて踊り続けた。
「ちょめちょめ」 (ギャルのくせに生意気よ。逆立ちしてもギャルなんかが新時代を幕開けすることはないわ)
「気に入ったわ。”ROSE”はいいライバルになるわね」
「ちょめちょめ」 (ちょっと勝手に思わないでよ。あんな奴らはただのクズよ。ギャルなんて社会のゴミなんだから)
「結果発表が楽しみだわ。私達が勝つか”ROSE”が勝つか」
「ちょめちょめ」 (もちろん私達に決まりよ。私がアーヤになんか負けるはずないしね)
それにこちらはホームなのだから安心していてもいい。
きっとファン達は”ファニ☆プラ”に投票してくれるはずだ。
いや、”ファニ☆プラ”に投票しなかったらファンを首にするつもりでいる。
裏切り者を認めるほど私は優しくはないのだ。
そんなことを考えていると”ROSE”の楽曲が終わっていた。
会場は熱気冷めやらなくて”ROSE”に黄色い声援を送っている。
それに応えるように”ROSE”のメンバーも笑顔でファン達に手を振っていた。
「ちょめちょめ」 (何よ、この反応は。”ROSE”になんかブーイングを贈ればいいのよ)
「ステージを披露してファンの反応を一変させてしまうなんてすごいわね」
「ちょめちょめ」 (感心していないでなんとかしてよ、セレーネ。これじゃ、アーヤに負けちゃうわ)
「涙を流すぐらい感動したんだね。わかるわ、その気持ち」
「ちょめちょめ」 (勘違いしないでよ。私は嬉しいんじゃなくて悲しいの)
「いいライバルができてよかったわね」
私が危機感を抱いているのにセレーネには全く伝わらない。
悔しがっている私を嬉しいのだと思ったり、アーヤがいいライバルなんて勝手なことを言う。
私にとってアーヤは敵であり、アーヤがプロデュースした”ROSE”も敵なのだ。
けっしていいライバルだとは思っていない。
だから、ここでけちょんけちょんに潰しておく必要がある。
「ちょめちょめ」 (こうなったら奥の手を使うしかないわ。テレキネシスで”ROSE”のスカートを捲って辱めてあげるわ)
ファン達の前でぱんつを晒したらさすがの”ROSE”でも耐えられないだろう。
心が折れてしまい二度とステージには立とうと思わないはずだ。
非情な手段であるが、背に腹は代えられない。
私はファン達を掻き分けてステージの前まで移動する。
そしてテレキネシスを使って”ROSE”のスカートを捲り上げた。
「え?なに?」
「スカートが勝手に」
「ちょめちょめ」 (グフフ。これでお終いよ……ってスパッツを履いているじゃない。ぱんつじゃないの)
”ROSE”のダンスは激しいからパンチラ予防のため黒のスパッツを履いていた。
「ちょめちょめ」 (チィ。しくった。これじゃあ辱め作戦が台無しよ。仕方ないわスパッツを脱がせよう。そうすればぱんつ丸見えになるわ)
すると、ステージの状況を見ていたセレーネが私を制止した。
「あれをやったのはちょめ助くんでしょう。卑怯なことをしちゃダメだわ」
「ちょめちょめ」 (わ、私じゃないわよ。イタズラな風よ)
「その顔は嘘をついている顔ね。ちょめ助くんが不思議な力を使うことは知っているんだから」
「ちょめちょめ」 (チィ。バレちゃしかたない。これは”ファニ☆プラ”を勝たせるための手段なの。黙って見ていなさい)
「もしかして”ROSE”を辱めて悪いイメージを持たせようとしているのね」
「ちょめちょめ」 (そうよ。悪い。これは私とアーヤの戦いなの。だから、負ける訳にはいかないのよ)
たとえ非道と言われようがアーヤには勝たなくてはならない。
そのためならどんな卑怯な手段を使うことも厭わないのだ。
「ちょめちょめ」 (私は”カワイイ少女じゃいられない”のよ……今はちょめ虫だけど)
そんな私の想いを知ってか知らずはセレーネは呆れた顔を浮かべる。
「私達はそんな卑怯な手段を使ってまでも勝ちたくはないわ。そんなことをしても自分達が惨めになるだけだからね。正々堂々と勝負をして、負けたら負けを受けいれないとね」
「ちょめちょめ」 (何を優等生な回答を言っているのよ。こんな茶番に正々堂々なんて意味ないわ。これはアーヤが売って来たケンカなのよ。なら、どんな手段を使っても勝たなくちゃいけないの。私は絶対に負けないわ)
セレーネから馬鹿にされようが私はアーヤに勝つつもりでいる。
でなければ苦汁を飲まされるのは私になってしまうのだ。
この世界からギャルを追い出すためにもとことんまで潰してやるのだ。
私は心の中の炎を燃やしながら勝利を掴むことを決意した。