第百十三話 殴り込み
アーヤは私がいることを知っているのかやたらと挑発をして来る。
「マコがプロデュースしているのはわかっているのよ。大人しく出て来なさい」
「ちょめちょめ」 (私の姿も見ていないのにわかる訳ないじゃない。きっと適当なことを言っているんだわ)
「出て来ないつもり?なら、私にもやることはあるわよ」
「ちょめちょめ」 (何をやるって言うのよ)
アーヤはステージ上で辺りをキョロキョロ見回しながら隠れている私を探す。
「マコの秘密をみんなに話しちゃうから」
「ちょめちょめ」 (秘密ってなによ)
「マコは成績が悪くて赤点ばっかりとっていたのよね。国語のテストで3点ってときもあったのよ」
「ガハハハ。そんな馬鹿なやつがいるのか」
「キャハハハ。超ウケるんですけど」
アーヤの心ない言葉を聞いてファン達はクスクス笑いながら盛り上がる。
世の中に成績の悪い人はいっぱいるけれど馬鹿にするなんて言語道断だ。
好きで成績が悪い訳じゃないし、毎日一生懸命勉強をしてその成績なのだ。
結果よりも過程を認めるべきだ。
「水泳の授業ではインナーを忘れてぱんつのまま泳いでいたのよ。その後でぱんつが濡れちゃったからノーパンで過ごしていたこともあったわね」
「ちょめちょめ」 (何でアーヤが昔の私のことを知っているのよ。もしかして私と同じ学校だったの)
赤点の話や水泳の話は少なくとも私と同じ学校でなければ知り得ないことだ。
いや同じ学校と言うよりも同じクラスじゃないと知らないだろう。
もしかして、アーヤは私のクラスメイトだった人の可能性がある。
何で喋るウサギになっているのかわからないけれど間違いない。
「お弁当を忘れた時は誰もいない時にクラスメイトのお弁当を開けておかずを集めていたわよね。私、見たんだから」
「ちょめちょめ」 (やっぱりアーヤは私のクラスの人だわ。今の発言で確信を持った)
誰なのかはわからないけれど”アーヤ”と呼ばれていた人は知っている。
ギャルをしていた川崎彩だ。
話術に長けていてみんなの人気を集めていた。
おまけに才色兼備だからモテてモテて仕方がなかった。
それなのにギャルを愛しているからみんなギャップ萌えしていたのを覚えている。
「ズル賢いことには頭が回るのよね。学校の成績は悪いのに不思議だわ」
「ちょめちょめ」 (何も言い返せないわ。みんな事実だから否定もできない)
私はステージの脇で歯を食いしばりながらアーヤの暴言に耐えている。
このまま怒りに任せてステージに上がってアーヤを殴り倒してやりたい気分だ。
だけど、そんなことをすればアーヤの挑発に乗せられたことになってしまう。
それだけはしたくないので我慢をすることにした。
「まだ、かくれんぼを続けるつもりね。いいわ、もっとスゴイことをみんなに話すから」
「ちょめちょめ」 (すごいことって何よ。私にそんな秘密なんてないわ)
「同じクラスでバスケ部のカズくんを好きになったのよね」
「ちょめちょめ」 (あ~ぁ、それだけは言わないで)
「カズ君、みんなからモテていたから見向きもされていなかったの。だけど、諦めきれなくてカズ君の気持ちを引こうとして自分のハンカチをカズ君のバッグに忍ばせたのよね。だけど、カズ君は花粉症だったから鼻をかまれてハンカチを捨てられてしまって終わり。マコの初恋はそれで終わったのよね」
「ちょめちょめ」 (いや~ん、止めてよ。私の大切な初恋をゴミのように捨てないで)
私の古傷が心の奥底でチクチクと痛み出す。
あまりに恥ずかしい記憶だから心の奥にしまっておいたのだ。
どうせなら私のぱんつを忍ばせておくべきだったかもしれない。
そうすればカズ君の気持は惹きつけられたことだろう。
「どう、マコ。これ以上、秘密をバラされたくなかたらすぐに出て来なさい」
「ちょめちょめ」 (くぅ~、悔しいけれどこれ以上はバラされたくはないわ。でも、アーヤの思い通りにもなりたくない)
「へぇ~、マコも頑固じゃない。いいわ、もっとスゴイ秘密をバラしちゃうから」
「ちょめちょめ」 (止めてよ、卑怯よ。人の秘密を話しちゃうやつなんか豆腐の角に頭をぶつければいいのよ)
アーヤが面白おかしく話すので会場にいたファン達も耳を傾けている。
アーヤは弁が立つからどんな話でも面白く聞えてしまうのだ。
「これはマコがまだ小学生だった頃の話なんだけど。授業中におトイレに行きたくなって我慢していたらおならが出ちゃったの。その瞬間に実がいっしょに出ちゃってぱんつがうんこまみれになったの。そうしたら後ろに座っていた同級生の男子が”うんこ臭い”って騒ぎ出したわ。誰が犯人なのか犯人探しがはじまって授業は止まったわ。そして、その男子はマコが犯人だと言い出したの。マコはあまりの恥ずかしさでおしっこも漏らしちゃったのよね」
「ちょめちょめ」 (あれは仕方なかったのよ。私がまだ幼かったから。授業中にトイレに行くなんて暴挙はできないほど真面目だったのよ。誰にでもこのぐらいの経験はあるわ)
「その後、ついたあだ名が”うんこ漏らしのマコ”だったのよね」
「ちょめちょめ」 (酷い。酷すぎるわ。私の過去の汚点をバラすなんて)
恥かしい過去をさらされて苦い感情が込み上げて来る。
あの頃の情景がフラッシュバックして嫌な気分になった。
何だかお尻がムズムズして来ておならが出てしまいそうだ。
「面白いでしょう。みんなもっと笑ってあげて。そうすればマコも救われるわ」
「ガハハハ。”うんこ漏らし”だってよ。ハズ―ッ」
「女子なのに最悪だね。一生ものの傷だわ」
「きっと小学生の間は”うんこ漏らし”って呼ばれていたんだわ」
アーヤが煽るので会場にいたファン達は私を馬鹿にしはじめた。
ただ、あながち外れてもいないから何も言い返せない。
”うんこ漏らし”と言うあだ名も中学生になったら消えたのだから。
「どう、マコ。これで出て来る気になったわよね」
「ちょめちょめ」 (私が躊躇っていたばかりに余計なことも話されちゃったわ。恥かし過ぎて出て行かれない)
すると、黙ってアーヤの様子を見ていたルイミンが口を開いた。
「あなたのやっていることってイジメよね。ちょめ助にどんな過去があるのか知らないけれど私の大切な友達なんだから」
「あら、あなた。マコの友達なの?」
「そうだよ。悪い」
「かわいそうね。”うんこ漏らし”の友達なんてみんな”うんこ漏らし”よ」
ルイミンが私のことを”大切な友達”と言っているのにアーヤは容赦がない。
昔のあだ名を持ち出して来てルイミンまで”うんこ漏らし”だと言い切った。
「あなたの程度が知れてますわ。人を馬鹿にすることしかできないなんて憐れ過ぎます」
「セレーネさんの言う通りです。ちょめ助くんの過去に何があったとしても私達はお友達です」
「あはっ、キレイな友情ごっこね。だけど、マコの過去は変えることができないのよ」
セレーネやリリナが不憫に思ってもアーヤは何も受け入れない。
とことんまで私を馬鹿にして、おまけにルイミン達も否定した。
「それより、マコ。さっきの歌ってマコが作ったのよね?」
アーヤが話を変えて来たので私は少し安心をする。
もう、これ以上、秘密をバラされることはないと思ったからだ。
「”ぱんつの歌”でしょう。マコらしいわ」
アーヤは私のことを受け入れたのかそんなことを振って来る。
しかし、それは大きな間違いでアーヤはことごとく馬鹿にする。
「そんな恥ずかしい歌を作ってよく平気でいられるわね。しかも、お友達に歌わせたんでしょう。とんだ変態ぶりを晒しているわね」
「ちょめちょめ」 (一瞬だけど、アーヤを信じた私が間違っていたわ。あの、アーヤが私と認める訳ないもの)
「自分が過去に恥ずかしい体験をしたからって、お友達まで辱めるなんてね。マコじゃないとできないわ。もしかして歌を聴きながら興奮していた?」
「ちょめちょめ」 (私はそこまで変態じゃない)
変態なのはちょめジイであって私じゃない。
”カワイ子ちゃんのぱんつ”を集めているのもちょめジイから命令されているからだ。
けっして私が”カワイ子ちゃんのぱんつ”を好きな訳じゃない。
「どうせ曲もAIに作らせたのでしょう。マコに作曲センスなんてないしね」
「ちょめちょめ」 (それは否定しないわ。本当のことだもの)
本来であれば作曲も自分でしないといけない。
だけど、音楽スキルがないからできないのだ。
だから苦肉の策でAIに作曲させたのだ。
でも、微調整はしているから完全にAI任せと言う訳じゃない。
「”ぱんつの歌”を作って、それをお友達に歌わせて。マコは何がしたいの?」
「ちょめちょめ」 (それはもちろんリリナ達をメジャーにしたいのよ)
「推し活しかしたことのないやつになんかにアイドルなんてプロデュースできないわ。今すぐ止めなさい」
「ちょめちょめ」 (そんなの私の勝手でしょう。アーヤに文句を言われる筋合いはないわ)
私はステージの脇でひとり言を呟きながら反論する。
その声はアーヤに届いていないけれど今はいいのだ。
私は推し活しかしたことがないけれど誰よりも”ななブー”を見て来た。
だから、どうやって”アニ☆プラ”がメジャーになって行ったのか知っている。
まだ、日本国内だけれど”アニ☆プラ”は有名な声優アイドルグループなのだ。
「負け犬はどうあがいても負け犬なのよ」
「ちょめちょめ」 (私はまだ誰にも負けていない。まだ、はじまったばかりだもの)
「マコ、いい加減に姿を見せなさい。隠れているだけじゃ負け犬よ」
そこまでアーヤに言われてしまったので私はステージに上がって行った。
「あれが噂のマコなの。随分と小さいのね」
「初めて見た。あれは虫なの?」
「キノコのようにも見えるけれど緑色だしな」
「けど、”うんこ漏らし”のイメージとピッタリだわ」
そんなファン達の心ない言葉が会場から聞こえて来る。
だけど、私は真っすぐ見据えてアーヤの前に立った。
「相変わらず醜い姿ね」
「ちょめちょめ」 (仕方ないじゃない。ちょめジイの趣味だもの)
「おまけに喋れないなんて、どんな設定よ」
「ちょめちょめ」 (文句ならちょめジイに言って。私だって苦労しているんだから)
私がちょめ虫になったのもみんなちょめジイのせいなのだ。
アーヤが喋れるウサギなのに私は喋れないちょめ虫だなんて差別もいいところだ。
きっとアーヤを召喚しても”カワイ子ちゃんのぱんつ”を集められなかったから反省したのだろう。
そのせいで私はこんなにも苦労している。
「ちょめちょめ」 (で、アーヤは私に何の用なの。わざわざ馬鹿にしに来た訳じゃないでしょう)
「何を言っているのかわからないけれどいいわ。マコと勝負をしようと思って来たのよ」
「ちょめちょめ」 (勝負って何よ。私と喧嘩でもするつもり?)
「実は私もアイドルをプロデュースしているの。だから、アイドルバトルを申し込むわ」
アーヤの口から予想もしていない言葉を聞いて私は驚いてしまう。
アーヤがアイドルをプロデュースしていることもそうだがアイドルバトルもそうだ。
はじめて聞く言葉だったから一瞬耳を疑ってしまった。
「ちょめちょめ」 (アイドルバトルって何よ?)
「ルールは簡単よ。お互いのプロデュースしているグループが歌を歌ってファン投票で勝負を決めるのよ。マコ達はもう歌い終わったから私のプロデュースしているアイドルグループが歌を歌うだけよ」
「ちょめちょめ」 (簡単なルールじゃない。だけど、いいの。ここは私達のホームよ)
「その顔だと私達のことを心配しているようね。けど、余計なお世話だわ」
アーヤはアウェイだと言うのに全く怯んでいない。
それよりも自信に満ち溢れていて眩しかった。
「ちょめちょめ」 (随分と余裕があるじゃない。どんなグループなのよ)
「知りたい?なら、紹介するわ。みんなステージに集まって」
アーヤがそう声をかけると数名の女子達がステージに上がって来た。
みんな黒を基調としたゴシック調の衣裳を着ていてカッコカワイイ。
見るからにギャルを意識しているのか髪の毛も金髪で揃えていた。
メンバーは全部で9人もいたので迫力があった。
「ちょめちょめ」 (随分と大所帯なのね)
「最近の流行りを抑えているからね」
「ちょめちょめ」 (で、グループ名はなんて言うのよ)
「グループ名は”ROSE”よ。カッコイイでしょう」
確かにカッコイイ。
純粋なカワイイ路線ではなくカッコカワイイ路線で攻めるようだ。
「ちょめちょめ」 (けど、問題は歌よね。いくらビジュアルやグループ名がよくても歌がダメだったらアウトよ)
「私を誰だと思っているの。マコと違って音楽センスはあるから」
「ちょめちょめ」 (くぅー、悔しいけれど反論できない)
アーヤは幼い頃からピアノを習っていたので音楽センスはピカイチだ。
クラッシックからはじめたらしく、ジャズから現代音楽までマスターしている。
おまけにどんな楽器でもすぐに覚えてしまうから死角なしだ。
実家もお金持ちでお屋敷のような家に住んでいる。
庶民の家で生まれた私には想像もできないほどの暮らしぶりだ。
「曲名は”ギャルズ”よ。カッコいでしょう」
「ちょめちょめ」 (”ギャルズ”?それって言葉を流行らせたいだけじゃない)
「納得がいっていないようね。あまりの斬新さに言葉も出ない?」
「ちょめちょめ」 (アーヤの思惑が見てとれて呆れているだけよ)
とかくギャルと言う生き物は新し言葉を流行らせようとする。
やたらと略語を使って仲間内でしかわからない言葉を使いたがる。
その言葉が流行っているかのように普段使いしているからメディアも取り上げる。
けっして世の中で流行っている訳じゃなくギャルの間でしか流行っていないのだ。
「まあ、曲を聴けばわかるわ。ゴリゴリのアイドルの曲じゃなくてラップだから」
「ちょめちょめ」 (ラップで攻めるの?)
確かにラップは需要がある。
最近の流行りの韓流アイドルグループも楽曲の中にラップを組み入れている。
楽曲のイメージがガラリと変わるから、あたり前の手法として使われている。
おまけにカワイイアイドル達がラップを歌うことでカッコイイイメージができあがるのだ。
すると、”ROSE”のメンバーを見ていたリリナが驚きの声を上げた。
「ナコルちゃん!」
「えっ?ナコル?」
リリナちゃんはナコルのところへ駆け寄るとナコルの手を取った。
「約束通りアイドルになったんだね」
「えっ、まあ、そうなるかな」
「ナコルちゃんならなれると思っていたよ」
「ありがとう」
リリナに認められてナコルは少し困った表情を浮かべる。
それは自分のワガママで”ナコリリ”を脱退したからだ。
本来であればリリナに合せる顔などない。
だけど、こんな形で再開したことはある意味、運命だろう。
「ナコル?なんであいつがアイドルなんてやっているのよ。アイドルになるのを辞めたんじゃないの」
「ルイミンさん。ナコルって元ギャル部の部長をやっていた人?」
「そうよ。ギャル部を3日で辞めていじめっ子に成り下がったクズよ」
「何か因縁がありそうね」
ルイミンが声を荒げているのでセレーネは状況を察した。
「リリナちゃん。そんな裏切り者と仲良くしちゃいけないよ。あいつはリリナちゃんを裏切ったんだ」
「ルイミンちゃん。私は裏切られたとは思っていません。ナコルちゃんは別の道を進んだのです」
「騙されちゃダメだよ。そいつは別のアイドルになってリリナちゃんをつぶしに来たんだ」
「考えすぎですよ、ルイミンちゃん。ナコルちゃんはそんな人じゃありません」
ルイミンとリリナの言葉は平行線をたどる。
ナコルにイジメられていたルイミンとしてはナコルを受け入れることができないのだろう。
いじめっ子がアイドルになるなんてあってはならないことだ。
たとえギャルアイドルだとしても認めてはいけない。
「リリナちゃんはナコルに洗脳されているの?あいつは極悪非道のいじめっ子だよ」
「ルイミンちゃんの言う通り、ナコルちゃんはかつていじめっ子だったかもしれません。だけど、生まれ変わってアイドルになったんです。なら、認めてあげないといけないんです」
「私は絶対に認めない。たとえナコルが生まれ変わったとしても受け入れちゃダメなんだ」
「ルイミンちゃん……」
ルイミンの考えは揺るがないようだ。
裏を返せばそれだけいじめられたからだろう。
ルイミンの心の中には深い傷があるのだ。
「ちょめちょめ」 (アーヤも物好きね。あのナコルを加入させるなんて)
「ナコルには可能性があるのよ。正統派のアイドルにはなれないかもしれないけれどね」
「ちょめちょめ」 (随分と自信があるのね。私なら絶対に拒否するけどね)
「まあ、私はマコと違って実力があるからね。どんな子でもアイドルにさせることができるわ」
アーヤの自信がどこから来るのかわからない。
アイドルをプロデュースした経験もないのにも関わらず。
それだけ”ROSE”の仕上がりに満足をしているのかもしれない。
「ちょめちょめ」 (それだけ自信があるなら歌ってもらおうじゃない)
「いいわ。けど、ここはアウェイだから場を温めてからね」
そう言うとアーヤはステージの前に移動する。
そして会場を見回しながらマイクパフォーマンスをはじめた。
「お前ら、いいか。これからアイドルバトルをはじめるぜ!」
「「……」」
アーヤが突然、乱暴な言葉を使って叫んだのでファン達は目を丸くしている。
一体何が起きたのか理解できなくて状況を見極めようとしていた。
「おい、寝ぼけているのか。もう、朝だぞ。目を覚ませ!」
「「おぉっ……」
「聞えねーぞ。腹から来いや!」
ようやくファン達は言葉を発したが驚き交じりで声が小さい。
アーヤのテンションに、まだついて行けてないようだ。
「おいおいおい、冗談じゃねーぞ。お前らは何をしにここまで来たんだ。えぇっ!」
「ちょめちょめ」 (おい、アーヤ。ケンカを売ってどうするのよ。ファン達が驚いているじゃない)
「ちょめちょめ、うるせーんだよ。外野は黙ってそこで見てろ!」
「ちょめちょめ」 (なっ……)
アーヤは何かに憑りつかれたように激しいマイクパフォーマンスをしている。
会場を温めると言ったけれど逆に会場は静まり返ってしまった。
「まったく。さっきの元気はどうした。ついてるものはついているんだろう」
「ちょめちょめ」 (何?ここへ来て下ネタ。ファンの中には女子もいるのよ)
あまりにファン達が黙り込んでいるのでアーヤはルールの説明をはじめる。
「これからな、アイドルバトルをするんだ。ルールは簡単だ。気に入った方のアイドルグループに投票をすればいいんだ。わかったか!」
「アイドルバトルだってさ」
「面白そうじゃない」
「でも、結果は見えているけどな」
ようやくルールを理解してファン達は反応を見せはじめる。
「そうよね。私達、リリナちゃんファンだし。もちろん”ファニ☆プラ”に投票するわ」
「セレーネさんを負けさせるわけにはいかない。俺も”ファニ☆プラ”に投票するぞ」
だけど、アイドルバトルをする前から結果が見えていた。
「ちょめちょめ」 (やるだけ無駄なんじゃない。ファン達はああ言っているわよ)
「おい、お前ら。ただのファン投票じゃないんだ。どっちの楽曲が気に入ったのかで決めるんだ。あくまで楽曲で決めるんだぞ!」
「楽曲だってよ」
「たとえ楽曲だったとしても”ファニ☆プラ”に決まりよ」
「”ぱんつの歌”なんてそうそう歌えるものじゃないしな」
「”ぱんつの歌”を越える楽曲なんてないわ」
あくまで会場にいるファン達は”ファニ☆プラ”に投票するつもりでいる。
私の作った”恋するいちごぱんつ”がファン達の心に刺さっているようだ。
「ちょめちょめ」 (アーヤ。もう、白旗をあげなさい。私の勝ちは決まりよ)
「なら、私が作った”ギャルズ”を聴いてみろ。絶対に”ROSE”に投票するはずだ!」
「”ギャルズ”なんて言われてもわからないわ」
「ギャルがいっぱいるってことじゃないのか」
「そうだな。”ROSE”はみんなギャルだし」
アーヤは自分の楽曲を薦めるがファン達の反応はまちまちだ。
ファン達が言うように”ギャルズ”なんて言葉はないから理解できないのだろう。
明らかにネーミングミスだ。
「ちょめちょめ」 (もう止めなさい、アーヤ。虚しくなるだけよ)
「勝手に結果を決めるんじゃねぇ。まだ、アイドルバトルははじまっていないぞ!」
「ちょめちょめ」 (だから、ファン達の気持ちを変えることはできないのよ。根っからの”ファニ☆プラ”のファンだからね)
「ククク。おもしれ―じゃねーか。そうでないとアイドルバトルじゃねーぇ。”ROSE”が変えてやるよ。お前らのファンの心をな!」
私にはアーヤが強がりを言っているようにしか聞こえない。
ここに集まっているファンは根っからのリリナちゃんファンとセレーネファンなのだ。
たとえアーヤがどんな楽曲を引っ提げて来たとしてもファン達の気持は変わらない。
リリナやセレーネを裏切ることなどできないからだ。
「お前ら、準備はいいか!」
「……」
「どうした。ビビッて声も出ねぇーのか!」
「オー」
「聞えねーぞ!お前らの本気を見せてみろ!」
「「オー!」」
アーヤのしつこいマイクパフォーマンスに会場にいたファン達も反応する。
どことなくノッていると言うより投げやりな感じの叫び声のように聞えた。
「ようやく温まって来たか。けど、まだまだ足りないぞ!」
「「オーッ!」」
「もっともっと!」
「「オーッ!」
「会場を震わせて見せろ!」
「「オォーッ!」」
だんだんとファン達の叫び声も大きくなって少しだけ会場が震えた。
「よし。やればできるじゃねーか。気に入ったぜ」
「ちょめちょめ」 (何をひとりで満足しているのよ。ファン達は呆れているだけよ)
「じゃあ、もう一度、ルールを説明するぞ。2つのグループの楽曲を聴いて、気に入った方に投票するんだぞ」
「ちょめちょめ」 (だから、アーヤの負けは決まっているのよ。私に敵う訳ないじゃない)
結果が見えている勝負ほどつまらないものはない。
これから茶番を見せられるだけだから退屈だ。
「ちょめちょめ」 (ふわぁ~、早く終わらせてよね)
私は大きな欠伸をしながらアーヤを挑発した。
だけど、アーヤは全く気にもとめていない。
私のことなど無視してアイドルバトルの開始を告げた。
「準備はいいな!アイドルバトルゥゥゥゥゥー、レディィィィーゴォォォォォッ!」
「ちょめちょめ」 (あれ?その掛け声、どこかで聞いたことある)
確か……”Gガンドム”で。