第百十二話 デビュー曲の披露
「私達のデビュー曲は”恋するいちごぱんつ”です」
「「えーっ」」
リリナがデビュー曲のタイトルを伝えるとファン達は驚きの声をあげる。
そしてすぐに黙り込んで隣の人達とヒソヒソ話をはじめた。
「”恋するいちごぱんつ”だなんて”ぱんつの歌”なの?」
「清純派のリリナちゃんからそんな台詞を聞くなんて」
「喜ぶべきなのか、迷うべきなのか反応に困る」
私が想像していた通りの反応をファン達は見せる。
”恋するいちごぱんつ”なんて言葉を聞けば誰もが”ぱんつの歌”だと思うのだ。
私もそれが狙いでこの曲名をつけたのだけれどインパクトが強すぎたみたいだ。
リリナがこれまでに歌って来た”きっと もっと ずっと”は正統派の歌だったからギャップがあり過ぎだ。
何がどう変化をして”恋するいちごぱんつ”になったのか理解できないでいるのだろう。
すると、見かねたセレーネがリリナのフォローに回った。
「曲名は”恋するいちごぱんつ”ですけれどちゃんとした恋愛の歌ですわ。主人公の少女が”いちごぱんつ”を履いていると言う設定なだけです。なので安心して聴いてください」
「何で”いちごぱんつ”を履いているんだ。普通の恋愛の歌でもよかったんじゃないか」
「リリナちゃんのイメージと合わないよ」
「清純派をウリにしていたリリナちゃんのイメージが崩れるわ」
セレーネの説明を聞いてもリリナファン達は納得していない。
これまでリリナが築き上げて来た清純派のイメージを崩したくないのだろう。
しかし、私に言わせたらそれは間違いなのだ。
いくら清純派のアイドルだからと言って清純派の歌ばかり歌っていたら成長できない。
がらりとイメージを変えるような曲にチャレンジすることもリリナの成長に繋がるのだ。
私が作詞作曲をした”恋するいちごぱんつ”はまさにその曲なのだ。
「”恋するいちごぱんつ”は楽しい楽曲だよ。みんなも聴けば気に入るわ」
それまで黙っていたルイミンがファン達に向けて言葉を加えた。
「そうです。”恋するいちごぱんつ”はとても楽しい楽曲なんです。だから、みなさんも気に入ると思います」
「リリナちゃん、口で説明するよりも聴いてもらった方が早いですわ」
リリナとセレーネ、ルイミンはお互いにアイコンタクトを送るとそれぞれの場所に立つ。
そして一呼吸を置いてからリリナが声高に叫んだ。
「いちごぱんつ、 めちゃ最好!」
すると、会場は一瞬静寂に包まれてそれをかき消すかのようにイントロが流れはじめた。
イントロ部分は後撮りしたリリナとセレーネとルイミンの歌声が入っている。
(PAPAPA PAPAPAN)×2
(CHUCHUCHU CHUCHUCHU)×2
PAPAPAとCHUCHUCHUの繰り返しだ。
リズミカルな曲調になっているのでノリやすい。
戸惑っていたファン達も体を揺らしながら音にノッていた。
そしてイントロが終わるとAメロに入って行く。
担当していたのはリリナで練習のように歌ってみせた。
「青い空 光る太陽 心躍らせ 歩いて行く♪」
「夏の風 香る温もり いつもの道を 右に曲がる♪」
さんざん繰り返して練習したから一音も外していない。
さすがは歌い慣れているリリナだけのことはある。
「舞い踊る 足取り軽く 踵ならしてツーステップ♪」
「手を伸ばし 掴む花びら ほのかにかすむいちご色♪」
次のパートはルイミンが担当した。
はじめてだから少し声が上ずっていたけれどギリギリのところで抑えていた。
カラオケで歌うのとは全然違うからただならない緊張感を持っていたのだろう。
それなのにこれだけで抑えられたのだから褒めてあげるべきだ。
そして曲調が変わるとBメロに移る。
この部分はセレーネが担当していた。
「すれ違う キミの横顔を見て 何度立ち止まったことだろう♪」
「胸の奥が キュンと高鳴って ドキドキとワクワクを連れて来た♪」
セレーネは表現力が高いから主人公の気持ちをダイレクトに歌い上げている。
とかく”キュン”のところは歌い方を変えてより強調していた。
それもガイドボーカルのルイがやっていたことだ。
私がルイに歌ってもらう時に誇張してもらったのだ。
普通に音を合わせて歌っているだけでは気持ちは伝わらない。
強調するところは強調してメリハリをつけないと気持ちは表現できないのだ。
これもそれも”アニ☆プラ”の推し活をして来た賜物だ。
そしてさらに転調してサビがはじまる。
この部分が私が伝えたいことだから何度も繰り返して練習してもらった。
ここはパート分けせずに3人で声を揃えて歌ってもらうことにした。
「「恋の隠し味は いちごぱんつ めちゃカワイくて めちゃキュートで めちゃ最高 (CHU!)♪」」
「「誰もが好きになる いちごぱんつ めちゃ甘すぎて めちゃトロけて めちゃ最上 (CHU!)♪」」
語尾にある”CHU!”の部分はファン達といっしょに叫んでもらうことにしてある。
難しい合いの手ではないからはじめてのファン達にも言いやすい言葉になっている。
ただ、はじめて披露する楽曲なのでファン達は何も発せずに歌に聴き入っていた。
「ちょめちょめ」 (改めてこうしてサビを聴いてみると”ぱんつの歌”のように思えてしまうわ)
あながちリリナ達が拒否していたのもなんとなくだかわかる気がする。
まあ、でもノリのいい曲に仕上がっているからみんなで楽しめればいい。
間奏ではファン達も”アイッアイッ”といいながら曲にノッていた。
1番を通して聴いたからどこで合いの手を入れたらいいのかわかっただろう。
2番のAメロも1番の通りリリナとルイミンが担当していた。
「深い海 沈む太陽 胸トキメかせ 泳いで行く♪」
「夜の星 祈る初恋 未來の橋を 左に曲がる♪」
2番は1番よりも少し時間を進めて未来のことを描いていた。
情景も昼間ではなく夜を描いて1番とは変化をつけてある。
聴いている人の頭の中に情景が描ければ大成功だ。
「夢見てた いつでも私 予想外のシチュエーション♪」
「好きだから こうなることを 願っていたのいつまでも♪」
リリナ達も繰り返し練習をしていたから歌詞の意味も覚えている。
でないとただの音だけになってしまう。
そうなったら歌ではなくなるのだ。
「重なり合う 唇を動かして 何度見つめ合ったことだろう♪」
「幸せを 心から感じて トキメキと愛しさを連れて来た♪」
それを一番心得ていたのはセレーネだ。
楽しい曲でありながらしっとりさせるところはしっとり歌い分けている。
とかく2番は少し大人びたストーリーにしてあるからある程度色気は必要なのだ。
ここでも私の采配が功を奏したようだ。
そして楽曲は2番のサビへと入る。
「キミの好きなものも いちごぱんつ めちゃセクシーで めちゃエッチで めちゃ最萌 (CHU!)♪」
「知っているから見て いちばぱんつ めちゃ気まずくて めちゃ熱くて めちゃ最熱 (CHU!)♪」
今度はファン達も最後の”CHU!”のところで合いの手を入れていた。
私が想定した通りにファン達が盛り上がってくれるので嬉しい気持ちになる。
作詞をしていた時からファン達の合いの手をどこで入れるのか考えていた。
やっぱりサビが一番盛り上がるからサビに入れたのだ。
再び曲は間奏に入り”PAPAPA”と”CHUCHUCHU”を繰り返す。
(PAPAPA PAPAPAN)×2
(CHUCHUCHU CHUCHUCHU)×2
ここでもファン達は後撮りしたリリナ達の声に合わせて合いの手を入れていた。
間奏の後は最後のサビへと移る。
ここでDメロを挟むこともありだったがやめておいた。
それは間奏で”PAPAPA”と”CHUCHUCHU”を入れていたからだ。
間奏が終わると転調して最後のサビがはじまる。
「恋の隠し味は いちごぱんつ めちゃカワイくて めちゃキュートで めちゃ最高 (CHU!)♪」
「誰もが好きになる いちごぱんつ めちゃ甘すぎて めちゃトロけて めちゃ最上 (CHU!)♪」
最初は1番のサビからだ。
サビを繰り返すことでより強調させる。
そして場を作ったところで最後のサビだ。
「勝負ぱんつはいつも いちごぱんつ めちゃラブリーで めちゃ素敵で めちゃ最強 (CHU!)♪」
「みんなが好きだから いちごぱんつ めちゃ美味しくて めちゃ大人で めちゃ最好 (CHU!)♪」
言いたかったことの中でも一番言いたかったことだ。
結局、私は”いちごぱんつが大好き”だってことを伝えたかった。
”ぱんつの歌”じゃないと言って来たけれど”ぱんつの歌”なのだ。
けれど、ノッていたファン達も歌っていたリリナ達も楽しんでくれたのが幸いだ。
”ぱんつの歌”だけれど恥ずかしがらずに盛り上がってくれたら成功だ。
「ちょめちょめ」 (これで”ファニ☆プラ”のイメージはファン達の心に強く刻まれたはずよ)
なんて言ったってデビュー曲が”ぱんつの歌”なのだから。
これも私の狙い通りの展開だ。
無名のアイドルグループがデビューをするのだからそれなりにインパクトは必要だ。
最初にどれだけファン達に衝撃を与えられるかで今後の活動方針も変わって来るのだ。
楽曲が終わるとリリナ達もファン達もやり切った感に包まれていた。
「最後まで聴いてくれてありがとう」
「楽しかったですわ」
「もう、みんな最高!」
あれだけ緊張していたルイミンもすっかりほぐれていた。
リリナ達とデビュー曲を歌い上げたことで安心したのだろう。
それに思いのほかファン達が盛り上がってくれたから嬉しかったのだ。
「ちょめちょめ」 (もう、どこから見てもルイミンはアイドルね)
恥かしくないぐらいルイミンはアイドルになり切っていた。
「それじゃあメンバー紹介をします。私がリーダーのリリナです」
「「ウォー、リリナ―ッ最高!」」
リリナが挨拶をするとリリナファン達が地響きのような声を出す。
会場に集まっている人達の半分ぐらいはリリナファンだからだ。
おまけに普段から叫び慣れているから声も通りやすい。
さすがはリリナファンだけのことはある。
「私はセレーネです。レイヤーと兼任しているけれどアイドル活動も手を抜きませんわ」
今度は叫び声の代わりに瞬くようにシャッター音が鳴り響く。
セレーネファン達がここぞとばかりにカメラのシャッターを切ったのだ。
それはまさにスキャンダルに集まったマスコミのような激しさだ。
会場の片側だけフラッシュが光っているので異様な光景になっていた。
「ちょめちょめ」 (今度からカメラの持ち込みは禁止にしようかしら)
ステージは一段高くなっているからパンチラとか狙われてしまうかもしれない。
そこまで衣裳のスカートは短くないけれど女子の太ももで興奮する男子もいるのだ。
その辺はセレーネは慣れているけれど今後の課題にしておいた方がいいだろう。
「私はルイミンだよ。普段は推し活部をしているよ」
「ルイミン、ガンバ」
ルイミンの挨拶に大多数のファンは反応しなかったが推し活部の仲間は声援をくれた。
それだけでもルイミンは救われたようで満面の笑みを浮かべて喜んでいた。
「ちょめちょめ」 (ルイミンはこれからが楽しみだわ。アイドル活動を続けて行けばファンもできるだろうしね)
私の一推しのメンバーだから人気が出てほしいものだ。
「応援ありがとう。次は質問タイムに移ります。トークタイムもよかったのですけれど、私達のことをもっと知ってもらいたいから質問タイムにしました。質問のある人は挙手をしてください」
リリナがそう説明をするとファン達は一斉に挙手をした。
会場にいるほぼすべてのファン達が手を挙げているのですごい光景だ。
まるで地面からキノコが生えているような感じになっている。
リリナは会場を見回しながら質問してくれるファンをひとり選ぶ。
「なら、手前の右側にいる黒いTシャツの方にします」
リリナが質問するファンを選ぶとスタッフがその相手を探す。
そして身をかがめて駆け寄ると持って来たマイクを差し出した。
「コウスケって言います。リリナちゃんに質問なんだけど、何がきっかけでグループになったのか教えてください」
「質問ありがとうございます、コウスケさん。それでは質問に答えますね」
リリナは立ち上がってコウスケの名前を呼んだ。
これだけでもファンとしたら嬉しいことだ。
憧れのアイドルが自分の名前を呼んでくれるのだ。
しかも下の名前でだ。
もし、私が”ななブー”から”マコちゃん”なんて呼んでもらったら昇天してしまうだろう。
それほどまでにファンにとっては嬉しいことだ。
「私達がグループになったのはプロデューサーきっかけです。私が”ナコリリ”をやめてから悩んでいる時にルイミンちゃんが心配してくれたんです。ルイミンちゃんはプロデューサーとお知り合いでしたのでプロデューサーのアイデアでグループになったんです。納得いただけましたか」
「はい、ありがとうございます」
包み隠さずにリリナが丁寧に質問に答えるとコウスケもすぐに納得してくれた。
ファンの立場からしたら何がきっかけでグループになったのか知りたいところだ。
とかくリリナはひとりで活動をしていたし、”ナコリリ”もやったから疑問に持っていたのだろう。
結局、”ナコリリ”は伝説のグループになってしまったが。
「では、次に質問のある方は挙手をしてください」
リリナがちゃんと答えてくれるとわかったのでセレーネファン達も挙手をしはじめた。
リリナはステージの反対側にいた髪の毛の長い女子を指名した。
「アイカと言います。リリナさんはアイドルですし、セレーネさんはレイヤーですし、みんな経歴がバラバラなのにグループになることに心配はなかったのですか?」
「お答えしますね。正直言ってすごく心配でした。アイドル活動をしたことのない人達と組んでちゃんとやって行けるか不安はありました。ただ、別の見方をすれば二人とも私にはない魅力を持った人達です。なので、いっしょに活動をすれば相乗効果を発揮できると思いました。今日、3人でデビューできたことを嬉しく思っています」
リリナはまたまた優等生の回答をする。
自分がその時に感じていた不安をファン達に伝えたのだ。
セレーネやルイミンを目の前にして中々言えないことだ。
リリナが不安を感じていたなんて知ればセレーネもルイミンもがっかりしてしまう。
だけど、リリナが正直に胸の内を開いたことで逆に結束が強まった。
「では、これからも3人で活動を続けて行くんですか」
「すみません。質問はひとりひとつにしてください」
アイカが次の質問をしようとしたところでスタッフが制止した。
「では、質問タイムを続けたいと思います。次に質問のある方は挙手をしてください」
その言葉を受けてファン達が一斉に手を挙げる。
その様子を眺めながらリリナは今度はセレーネファンの中から質問者を選んだ。
「ヨシユキです。辞めて行ったナコルにかける言葉があるとしたら何ですか?」
「”頑張ってください”のひと言です。ナコルさんは私のところから去って行きましたがアイドルになることを辞めた訳ではありません。別れる時にアイドルになることを誓ってくれました。ですから、どこかでアイドル活動を続けているかもしれません」
「ちょめちょめ」 (なかなかエグイ質問をするわね。さすがはセレーネのファンだわ)
自分が推しているセレーネではないからツッコんだ質問ができるのだろう。
その質問なのにすんなりと答えてしまうリリナも腰が座っている。
本当にそう思っているから胸の内を明かせたらしい。
ただ、ナコルにイジメられていたルイミンは複雑な顔をしていた。
せっかくリリナを取り戻せたのに、ナコルがアイドルになろうとしているからだ。
ルイミンからしてみたらいじめっ子がアイドルになってはいけないと思っている。
人を傷つけるような人間がみんなが憧れるアイドルになってはいけないのだ。
「ありがとうございました」
「では、次の質問はありますか」
リリナは今度は平等にルイミンの推し活部の仲間を指名した。
「推し活部のミキコです。次に発表する楽曲はどんな曲にしようと思っているんですか?」
「それはプロデューサー次第です。私達は楽曲制作に携わっていないので楽曲制作はプロデューサーに一任しています。できれば今度は”ぱんつの歌”でないことを祈るだけですね」
「ちょめちょめ」 (やっぱり気にしていたのね)
まあ、デビュー曲が”ぱんつの歌”なのだから仕方ないけれど。
けど、リリナ達はことあるごとに”ぱんつの歌”を歌わなければならないのだ。
なんて言ったってデビュー曲なのだから。
その後も質問をする人を選んでその質問に真摯に答えた。
おかげで会場に集まったファン達の認識も少しだけ変えることができた。
ただ、そう思ってくれたのは根っからのファンだけであってアンチは違っていた。
発言権を持つなり際どい質問をして来た。
「レイヤーがアイドルをやるなんてど言うつもりでしょうか。レイヤーはレイヤーでしかなくそれ以上にもそれ以下にもなれないはずです」
「私への質問ですね。なら、お答えします」
「セレーネさん」
「大丈夫よ。私は今でもレイヤーを辞めたつもりはありません。アイドル活動をはじめたのも新しい可能性を開けると思ったからです」
セレーネはアンチの際どい質問にも真摯に答える。
「随分と都合のいい言い分ですね。そもそもレイヤーとアイドルを兼任することは禁止されているはずです」
「質問はひとりひとつにしてください」
続けざまにアンチが質問をして来たのでスタッフが制止した。
しかし、セレーネはその質問にも答えてみせた。
「確かに表向きは2つの部活を兼任することは禁止されています。ですが、半年に限定すれば2つの部活を兼任することは許されているんです」
「あっちもやり、こっちもやりで。あなたは何になりたいんですか」
「もちろんトップのレイヤーですわ」
セレーネがはっきりと答えたのでアンチは黙り込んだ。
「では、他に質問のある方は挙手をしてください」
その後も発言権の得たアンチはセレーネをターゲットにした。
「あなたはアイドル活動をした時点でレイヤーではないですよね。レイヤーの名前が汚れるからレイヤーを辞めてください」
「それはできませんわ。私はアイドル活動をしていてもレイヤーであることは忘れていません。それに兼任をしているのでレイヤー活動もしています」
「随分と傲慢な人なのですね。こんな人がみんなから注目されているレイヤーだなんて信じたくもありません」
「発言は質問だけにしてください」
アンチは容赦もなくセレーネを否定するような言葉を吐く。
スタッフが制止してもマイクを手放すことなく続けざまに発言をしようとする。
これでは質問タイムと言うよりも苦情タイムになってしまっていた。
「それでは質問タイムはこれまでにしたいと思います。みなさん、ありがとうございました」
「おい、まだ俺は質問をしてないぞ。勝手に辞めるんじゃねぇ」
「そうだそうだ。質問タイムを続けろ」
「都合が悪くなったから逃げたのね」
見かねたリリナが質問タイムを終わらせるとアンチが文句を言いはじめた。
その辛辣な暴言にリリナ達は心を痛めた。
ファンと距離を近づけるためにはじめたのに予想もしていなかった展開になったからだ。
これでは場が荒れるだけで誰もいい気持にはなれない。
すると、セレーネのファン達がセレーネを擁護しはじめた。
「おい、お前ら。勝手なことを言っているんじゃねぇ。セレーネはちゃんと答えだだろう」
「あなた達の際どい質問にも真摯に答えたじゃない。それ以上、何を求めているの」
「お前らみたいなのがいるから荷物検査が厳しくなるんだ。帰れ」
「「帰れ、帰れ、帰れ、帰れ」」
セレーネのファン達は声を揃えて”帰れコール”をはじめる。
その声はうねりのようになりながら会場に響き渡った。
「お前らは騙されているんだ。いい加減に気づけよ」
「セレーネは自分に都合のいいことを言っているだけよ」
「お前らファンを騙して、自分を偽って。レイヤーの名を汚しているんだ」
それでもアンチは発言を辞めずにことごとくセレーネを否定する。
すっかり会場は荒れてしまい収集がつかなくなっていた。
「みなさん、落ち着いてください。これは討論じゃないんです。ケンカはやめてください」
「うるせーんだよ。そもそもお前がセレーネを受け入れたことが問題なんだ。今すぐに辞めさせろ」
「リリナちゃん。相手にしちゃダメだよ。あいつらは言いたいことだけ言っているんだから」
「でも、これじゃあ路上ライブがめちゃくちゃになってしまいます」
リリナは不安げな表情をしながら会場を見つめている。
もう、こうなってしまえば誰にも止めることはできないだろう。
すると、誰かがステージに上がって来てリリナのマイクをはぎ取った。
「あ~ぁ、これじゃあせっかくの路上ライブが台無しね。でも、ワクワクして来る」
「喋るウサギ?」
喋るウサギは会場を見渡しながら胸を躍らせる。
「あなたは誰ですか?」
「私?私は名プロデューサーのアーヤよ」
アーヤは少し誇らしげにしながら自慢をして来た。
「マコ、いるんでしょう。出て来なさい」
「ちょめちょめ」 (アーヤのやつ、私を名指しで指名するなんてどう言うつもりよ)
私はステージ脇からアーヤの様子を見つめながら様子をうかがう。
ここで指名された通り出て行くのがいいのか見極めたかったからだ。