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第百二話 友達のカタチ

ルイのおかげでたんまりと儲けることができた。

稼いだお金は全て電子マネーに替えてもらった。

そのお金で”アニ☆プラ”グッズや”ななブー”グッズを買い漁った。

おかげでブラック会員まで昇格で来た。


ブラック会員になるとさまざまな面で優遇される。

ライブのチケットを買うときは優先的にいい席を選べる。

グッズを買うときにも優遇されて限定グッズなどを買えるのだ。

それよりも嬉しいのが推しとチャットで話せる抽選に応募できる得点だ。

部外者が入らないので二人っきりの時間を過ごせる。

私がブラック会員になったのもそれが狙いだ。


(これで”ななブー”は私のものだわ。グフフフ)


私はだらしのない顔をしながら妄想に浸っていた。


「ちょめ太郎、また、エッチなことを考えているんでしょう」

「ちょめちょめ」 (ハッ。ミク、いたの?)

「私がいちゃマズかった?」

「ちょめちょめ」 (別にそう言う訳じゃないけど)


今度から妄想をするときは人がいない場所にしよう。

あらぬ疑いを持たれたら言い訳をするのが面倒だからだ。


ミクとはそれなりに付き合いは長いけれどまだまだ私のことを知らない。

私を見ればエッチなことを考えていると思っているようで大きな誤解をしたままだ。

そもそもエッチなのは私ではなく”ちょめジイ”なのだ。


「ねぇ、ちょめ太郎。久しぶりに精霊の森へ行かない」

「ちょめちょめ」 (また、”おぼこぼさま”を探すの?)

「うん。このところルイにつきっきりだったからね。たまには冒険のお話をしてあげたいの」

「ちょめちょめ」 (ミクはほんと妹想いの優しいお姉ちゃんね)


でも、どうしようか。

ルイのおかげでたんまり稼いだから暇を持て余してる。

気になるのは”アニ☆プラ”の追加メンバーの発表だけど、まだまだ時間がかかりそうだ。


ミクといっしょに精霊の森へ行くのもいいけれど、久しぶりに王都へ行ってみたい。


「どうする、ちょめ太郎」

「ちょめちょめ」 (私はパスしておくわ。ミク、ひとりで行って来て)

「わかった。ちょめ太郎は用事があるみたいだから仕方ないね」

「ちょめちょめ」 (いっしょに行けなくてごめんね。次は付き合うからさ)


ミクは私の返事を聞くと荷物を持って部屋を出て行った。


(なんか、悪いことしちゃったかな……でも、王都も気になるのよね)


誰かが私を呼んでいるような気がするから王都へ行きたいのだ。

虫の知らせってやつかもしれないけれど悪いことでないことを祈る。


私は転移の指輪を取り出して指輪に魔力を注ぎ込んだ。

すると、床に魔法陣が浮かび上がり私を眩い光で包み込んだ。


(うっ……)


周りの変化に気づいて静かに目を開けると王都の景色が広がった。


「ちょめちょめ」 (転移する時は場所を選んだ方がよさそうだわ)


私がいたのは人通りの多い大通りの真ん中だった。

ちょうど馬車が上を通ったので周りの人達には気づかれなかった。


「ちょめちょめ」 (さてと、どこへ行こうかしら)


王都へ来たのは例の”ぱんつ消失事件”以来だから久しぶりだ。

あの時はセントヴィルテール女学院だけだったから、もっと間隔が空いている。

おかげで王都の地理を忘れてしまった。


「ちょめちょめ」 (とりあえず気の向くまま、風の吹くまま歩くか)


目的があって王都へ来た訳じゃないから目指すところがない。

だからフラフラと歩き回って王都の景色を満喫するのがいいだろう。


ここ最近、スマホばっかりしていたから王都の景色が新鮮だ。

目に映るものが輝いて見えて、私の心を満たしてくれる。


「ちょめちょめ」 (せっかく異世界にいるんだからスマホばっかりじゃもったいないわ)


私は大通りを横に逸れて細い道を歩いて行く。

その先には緑豊かな公園が広がっていた。


「ちょめちょめ」 (あれ?ここって来たことがあるような気がする……)


記憶が曖昧なので確かじゃないが感覚的に覚えている。

大きな広場の中央に噴水があって、傍の柱に時計がかかっている。

遊具は隅の方にあって、幼い子供を連れた家族で賑わっているのだ。


「ちょめちょめ」 (やっぱり、ここへ来たことがある。確か……)


私が公園の噴水のところで物思いに更けていると誰かに呼ばれた。


「ちょめ助じゃん。こんなところで何をしているの」

「ちょめちょめ」 (その声は……)


声のした方に振り返ると目の前にルイミンが立っていた。

学校帰りなのか大きなリュックを背中に背負っている。


「久しぶりだね。元気してた」

「ちょめちょめ」 (ルイミン、会いたかったよ)

「うわぁっ。ちょめ助、痛いよ」

「ちょめちょめ」 (だって嬉しいんだもん)


私は感激のあまりルイミンの胸に飛び込んでいた。

その拍子にルイミンは尻もちをついてしまい痛そうにしていた。


「ちょめ助ってば、大げさなんだから」

「ちょめちょめ」 (で、何をしてたの?)

「切り替えはやーっ」


不意をついた私のボケにルイミンはそっこーでツッコミを入れる。


「私はシュークリームの美味しい喫茶店へ行くところよ」

「ちょめちょめ」 (行きたい、行きたい。私も連れて行って)

「そんなに近づかないでよ。よだれがついちゃう」

「ちょめちょめ」 (だって、だって、だって。食べたいんだもん)


ルイミンの口から出た美味しいスイーツに思わず目が眩んでしまう。

だらしのない顔をしながらいっぱい涎を垂らしてルイミンに迫った。


「わかったよ。いっしょに行こう」

「ちょめちょめ」 (やったー!神さま仏さまルイミンさま、あざーす)

「随分と見ないうちにちょめ助変わったね」

「ちょめちょめ」 (そうかな。私はいつも通りだと思うけど)

「ううん。変わったよ。前はもっと、こう自分のことしか考えていなかったかな」

「ちょめちょめ」 (なら、ミクやルイをいっしょに生活するようになったからかもね)


はじめはそうでもなかったが今やミクの家の家族の一員になっている。

私の席はちゃんと用意されていて私用の食器や寝具まである。

さすがに部屋はミクといっしょだけれど、家族の一員と言って過言でない。


「ちょめ助も良い出会いをしたのね」

「ちょめちょめ」 (ちょめ助もってルイミンも何かいいことあったの?)

「うん。でも、それはお茶をしながら話すね」


私達がお喋りしている間にシュークリームの美味しい喫茶店に着いた。

外観はこ洒落ていて喫茶店って言うよりファッションショップのようだ。

その外に30人ぐらいのお客の長蛇の列ができていた。


「ちょめちょめ」 (時間がかかりそう)

「大丈夫だよ。優待券があるから」

「ちょめちょめ」 (優待券なんてルイミンは株主なの?)

「違うよ。お店のマスターも昔、推し活部をしてて、私が推し活部だって言ったら優待券をもらったんだ」

「ちょめちょめ」 (同じ穴の貉なのね。納得、納得)


私達は行列には並ばずに喫茶店の中へ入って行ってスタッフに優待券を見せる。

すると、スタッフはニッコリと笑って私達をテーブルまで案内してくれた。


「すごい混んでるね」

「ちょめちょめ」 (行列に並んでいたら1時間は待たされたでしょうね)

「ちょめ助は何にする?」

「ちょめちょめ」 (いろいろあるのね。どれにしようかな)


メニューにはみ出すほどシュークリームの写真が記載されている。

シュークリームの美味しい喫茶店だからシュークリームを推している。

他にもケーキとかパフェとか喫茶店でよくある品は取り揃えてあった。


「私はもう決まったよ」

「ちょめちょめ」 (何にするの?)

「この季節限定のブルーベリーたっぷりのダブルクリームのシュークリームよ」

「ちょめちょめ」 (さすが女子~。女子って季節限定とかに弱いのよね)


季節限定とかお買い得とか半額に弱いのはすべておばさん根性から来るものだ。

女子はとかくお得が好きだからお得ばかり選んでいるうちにいつの間にかおばさんになっている。

女子に生まれた以上避けることができない道なのだけどおばさんにはなりたくない。


「ちょめ助も同じでいいよね」

「ちょめちょめ」 (私も同じのでいい)

「ドリンクはウーロン茶だよ」

「ちょめちょめ」 (甘いのばかりだと口の中が渋滞しちゃうからね)


メニューが決まるとルイミンはスタッフを呼びつける。

そしてシュークリームとウーロン茶を注文するとスタッフが厨房へ戻って行った。


「少し時間がかかるかもよ」

「ちょめちょめ」 (いいよ、そのぐらい待つ)


美味しいものにありつけるなら多少時間が長くても文句はない。

それよりもメニュー票に掲載されていたシュークリームの方が気になる。

シュークリームの断面の写真だったのだけどたっぷりのクリームとその中につぶつぶのブルーベリーがたくさん混ざっていて、いかにも美味しそうなシュークリームだった。

おまけにダブルクリームだからブルーベリーのクリームとカスタードクリームが溢れんばかりにはみ出ていた。

言葉にしているだけでも涎が出て来るぐらいだ。


「ちょめ助、よだれが垂れているよ」

「ちょめちょめ」 (ハッ、いかんいかん)


このところだらしのない顔をしてしまうから注意しないといけない。

それは嬉しいことがたくさんあるからなので幸せと言うことだ。

ちょめ虫に転生した時は絶望を抱いていたけれど今はまっさらだ。

案外、普通の人に転生するよりもちょめ虫になった方がよかったのかもしれない。


「ちょめ助、最近は何をしてたの?」

「ちょめちょめ」 (私はミクの家でやっかいになっていたぐらいかな)

「ミクって、あのいつもいっしょにいる子?」

「ちょめちょめ」 (そうだよ。とてもかわいくて優しい子よ)

「ふ~ん。ちょめ助、いいお友達を見つけたね」


ミクはお友達と言うよりも妹って感じに思っている。

見た目はミクのペットのように見えるかもしれないけれど私の方が年上だ。

あんなことやこんなことなどミクの知らないこともたくさん知っている。


「ちょめちょめ」 (ルイミンは何をしてたの?)

「私は嬉しいことがあったよ」

「ちょめちょめ」 (なになに?)

「ナコルが”ナコリリ”を脱退したんだ」

「ちょめちょめ」 (えーっ!マジ?)

「マジもマジよ。おかげでリリナちゃんは元のリリナちゃんに戻れたよ」


俄かにも信じがたいがルイミンが言うのだから本当のことなのだろう。

あれだけアイドルになりたがっていたナコルが脱退を選ぶなんて何かあったのだろうか。

その真相は知ることはできないがルイミンはとても嬉しそうにしていた。


「ちょめちょめ」 (なんでナコルは”ナコリリ”を辞めたのよ)

「リリナちゃんから聞いた話だと路上ライブの時に誰にも相手にされなかったことが原因みたい」

「ちょめちょめ」 (そんなことぐらいで辞めるの。自分からアイドルになりたいって言ったんでしょう)

「いじめっ子だから根性がないんじゃない。弱い者には強いけど強い者には弱いのよ」

「ちょめちょめ」 (それにしたって)

「いいのよ、あんな奴のことなんか心配しなくて。どうせまたギャルに戻っていじめをはじめるんだから」


ナコルが路上ライブでファン達に相手にされなかったのはまだ無名だからだ。

当然、リリナちゃんの方が有名だからナコルに見向きもしなくても不思議じゃない。

それくらいはじめる前からわかっていたはずだ。

ルイミンの言う通りいじめっ子は根性がないのかもしれない。


「ちょめちょめ」 (ナコルってどうしようもない奴なんだね)

「きっとリリナちゃんの力を使ってのし上がろうとしていたのよ。できっこないのに」

「ちょめちょめ」 (ちょっとは変わったかと思っていたけど全然、変わっていなかったんだね)

「ナコルは性根から腐っているから何をしても変わることはできないよ」


人の性格は直らないと言われるようにナコルの人格も変えることができないようだ。

ルイと出会って改心したかと思っていたけれど所詮、いじめっ子はいじめっ子なのだ。

やっぱりルイに近づいたのもルイを信用させて味方につけようとしたからかもしれない。

そうすればひとりじゃなくなるから不安を抱かなくてすむからだろう。


「ちょめちょめ」 (で、そのナコルはどこへ行ったの?)

「知らな~い。どうせ昔の仲間を呼び出してタカっているんじゃない」


ナコルはセントヴィルテール女学院を退学になっているから帰る場所がない。

まだ王都にいるみたいだから田舎の実家には戻っていないはずだ。

となるとルイミンの言うように昔の仲間を頼っていそうだ。

まあ、そんなこと私が心配することもないけど。


「ちょめちょめ」 (リリナちゃんはどうしたの?)

「うん。そのことなんだけど……」


私がリリナちゃんのことを聞こうとするとルイミンの顔が急に暗くなった。


「ちょめちょめ」 (なんかあった?)

「実はリリナちゃんから直々にいっしょにアイドルをしないか誘われたの」

「ちょめちょめ」 (えーっ、ほんと!よかったじゃん!)

「よくないよ。私はリリナちゃんを応援していることが好きなの。別にアイドルになんてなりたくないわ」

「ちょめちょめ」 (そうは言うけどさ、もったいないじゃん。アイドルになれば誰よりも近くでリリナちゃんを見ていられるのよ。そんなチャンスは滅多にないよ)

「それはそうだけどさ。ちょめ太郎も推しがいるなら私の気持わかるでしょう。私にとってリリナちゃんは雲の上の人なの。それなのに地べたを這いずく回っている私がリリナちゃんと同じ場所に立つなんて許されないことなのよ」


まさにルイミンの言葉はアイドルそのものを具現化している。

アイドルはそもそも偶像と言う意味だ。

人々から崇拝される人を現しているからルイミンにとってのリリナちゃんはまさにアイドルなのだ。


私にとって”ななブー”はアイドルだからルイミンの気持ちがよくわかる。

ただ、私はルイミンと違って強欲だからアイドルになれるならなりたい。

そして誰よりも近くで”ななブー”を感じて私だけのものにしたいのだ。


「ちょめちょめ」 (けど、もったいないよな~。リリナちゃんがルイミンを誘ったと言うことはルイミンの魅力をリリナちゃんが認めたってことよ。リリナちゃんの目から見てルイミンはアイドルになれるから誘ったんだよ)

「そりゃ、私だってリリナちゃんから誘われた時は嬉しかったよ。ただ、私はリリナちゃんを応援していたいの。ファンのみんなといっしょに」

「ちょめちょめ」 (まあ、ルイミンがそこまで言うならもう何も言わないけどさ。やっぱりね)

「じゃあ、ちょめ助は私がアイドルになればいいと思ったの?」

「ちょめちょめ」 (そう言う道もあるってことよ)

「私はナコルの二の舞にはなりたくないわ」


ルイミンの心配もそこにあったようだ。

あまりにリリナちゃんが有名だからルイミンがアイドルになってもナコルと同じことになる可能性が高い。

初ステージでそんなことになればナコルでないけれど心が折れてしまう。

そうなったら立ち直ることができなくなってしまうだろう。


「ちょめちょめ」 (リリナちゃんのバリューが大きいから心配になるわよね)

「私になんてアイドルは向かないのよ。それよりも推し活をしていた方が楽しいわ」

「ちょめちょめ」 (それが一番かもね。ルイミンから推し活を取ったら何も残らないものね)

「ちょめ助。それって悪口?だったら私も言うわよ」

「ちょめちょめ」 (何をよ)

「ちょめ助が、この前、学校であった”ぱんつ消失事件”に関与しているって言いふらすわよ」

「ちょめちょめ」 (なっ、な、何よ、藪から棒に。わ、私がそんなことをする訳ないでしょう)

「あっ、動揺した。ちょめ助ってわかりやすい」


私のあげ足をとってルイミンは満足気な顔を浮かべる。


どこから私が”ぱんつ消失事件”に関与しているのか知ったのかわからないが恐ろしい。

もし、警察の手が私のところまで及んだら、私は”変態ぱんつ泥棒”として逮捕されるてしまう。

そして前代未聞の事件だから新聞が取り上げて、この世界の人々の目にさらされるのだ。

そうなったら私の人生も終わりだ。

たとえちょめ虫が1000年生きられても私は後ろ指さされながら生きなければならない。

そんな人生辛すぎて耐えられないだろう。


「ちょめちょめ」 (ルイミン、約束して。私は”ぱんつ泥棒”をした訳じゃないけれど他の人には話さないでね)

「わかってるよ。ちょめ助と私は親友だからね」

「ちょめちょめ」 (ありがとう、心の友よ)


私はどこかで聞いたことのある台詞を吐いてルイミンにすり寄った。


「それはいいんだけど、リリナちゃんのことが気になるんだ」

「ちょめちょめ」 (リリナちゃん?)

「リリナちゃん、”ナコリリ”が解散してひとりになったでしょう。だから、寂しいんじゃないかと思ってさ」

「ちょめちょめ」 (どうだろう)

「私を誘ったのもそれが背景にあるんじゃないかと思ってさ」

「ちょめちょめ」 (う~ん。あるかも)


私はちょめ虫になった寂しさを感じなかったがミク達といっしょに暮らすようになってからは変わった。

ミクとルイがいないだけで寂しさを感じる。

だから、ミクの家に戻る時にはお土産を買って行くつもりだ。


「リリナちゃん、かわいそう」

「ちょめちょめ」 (なら、ルイミンがアイドルになってあげるべきよ。そうしたらリリナちゃんも喜ぶよ)

「だから、私はリリナちゃんを応援している方が好きなの」

「ちょめちょめ」 (だけど、困っているリリナちゃんを助けるためだよ)

「それを言わないでよ。私だって悩んでいるんだから」


ルイミンは眉毛をへの字にして難しそうな顔を浮かべた。


困っているリリナちゃんを助けるならばルイミンがアイドルになるべきだ。

ただ、それだとルイミンの信念を曲げることになってしまう。

ファンである以上、最後までファンでいたい気持ちはわかる。

だけど、これはルイミンにとってもチャンスなのだ。


「ちょめちょめ」 (ルイミン、自分の可能性を信じてみたら)

「それはアイドルになれってこと?」

「ちょめちょめ」 (リリナちゃんが誘うくらいだからルイミンは十分にポテンシャルを持っているってことだよ)

「でもな~、私の信念を曲げないといけないから」

「ちょめちょめ」 (自分の信念とリリナちゃんとどっちが大事なの)

「そりゃ、リリナちゃんだけど……でもな」


私が迫ってもルイミンは二の足を踏んでいて前に進もうとしない。

そんな姿を見ていたら何だか腹が立って来た。


「ちょめちょめ」 (ルイミン、甘えるのもいい加減にしな。チャンスは待ってはくれないのよ)

「怒んないでよ。私だって真剣に考えているんだよ」

「ちょめちょめ」 (今は考えるときじゃないわ。動くときなのよ)

「そう言われてもね」

「ちょめちょめ」 (私の世界に、こんな言葉があるわ。”迷わず行けよ、行けばわかるさ”って。今のルイミンにピッタリの言葉じゃない)

「ちょめ助の田舎の村長さんが言った言葉なの?」

「ちょめちょめ」 (伝説のレスラーの言葉よ)

「レスラー?」

「ちょめちょめ」 (とにかく偉い人よ)

「ふ~ん」


せっかく私がありがたい言葉を紹介したのにルイミンに刺さっていない。

つまらなそうにウーロン茶のストローを回しながら氷の音を立てている。

やっぱり名言を言った本人を知らないとあまり響かないのかもしれない。


「ちょめちょめ」 (ルイミンも罰あたりね)

「だって知らないんだもん」

「ちょめちょめ」 (知らなくてもこういう時はありがたく受け取っておくべきよ)

「そこまで言うなら、ちょめ助がしてよ」

「ちょめちょめ」 (何を?)

「リリナちゃんを助けることだよ」

「ちょめちょめ」 (えっ、それって私にアイドルをやれってこと?)

「そんな訳ないじゃん。バカは休み休み言って」


ルイミンは私の言葉を聞いて冷ややかな視線を向ける。

それはまるでゴミ虫を見るときのような無機質なものだった。


「ちょめちょめ」 (じゃあ、私に何をやれって言うのよ)

「リリナちゃんのパートナーを見つけることよ」

「ちょめちょめ」 (私が?)

「ちょめ助しかいないでしょう」


それはそうだ。

ルイミンと話をしているのは私だけなのだから。

だけど、リリナちゃんとパートナーを探す提案は安請け合いできない。

それはリリナちゃんの将来を決めることにもなるからだ。

変な奴を紹介して失敗したらみんな私の責任になってしまう。


「ちょめちょめ」 (私はパス。そんな大事はごめんよ)

「じゃあ、どうするの。このままじゃリリナちゃんずっとアイドル活動をしないかもよ」

「ちょめちょめ」 (別に私には関係ないわ。私は”ななブー”推しだから)

「ちょめ助って血も通っていない虫だったのね。親友として悲しいわ。グスン」

「ちょめちょめ」 (ちょっと、泣かなくてもいいじゃない)

「だって、ちょめ助が意地悪をするんだもん」


ルイミンは泣きながらハンカチを取り出して鼻をかむ。

あてつけかのように、そのハンカチを私のテーブルの前に置いた。


「ちょめちょめ」 (わかったわよ。私がなんとかすればいいんでしょう)

「本当にいいの?」

「ちょめちょめ」 (大事な親友のお願いだからね)

「さっすが、ちょめ助。だから、好き」

「ちょめちょめ」 (ちょっと、顔を押しつけないでよ。鼻水がつくじゃない)

「いいの、いいの」


すっかり、ご機嫌になったルイミンは嬉しさのあまり私に飛びつく。

ルイミンの鼻から垂れている鼻水が私の前を行ったり来たりしていた。


「ちょめちょめ」 (けど、どうしようかしら。リリナちゃんのパートナー探しだなんて)


”アニ☆プラ”みたいにファン投票をするのもアリだ。

ただ、そのためにはリリナちゃんとパートナーを組みたい人を探さないといけない。


いずれにせよ、これからが大変になりそうだ。


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