第九十四話 脱退
段ボールハウスに戻って来てから私は悩んでいた。
このまま”ナコリリ”を続けるか、辞めるかの狭間で揺れている。
気持の上ではこれ以上、”ナコリリ”を続けて行く自信がない。
我慢して”ナコリリ”を続けたとしても私を応援してくれるファンはいないのだ。
「これが現実よね。はぁー」
大きな重いため息が体の中から押し出されて来る。
風邪を引いた時のような体の重たさが気力を奪う。
「なぁ、ナコルねぇ。路上ライブの練習をしなくていいのか」
「そんな気力が湧いてこないわ」
「そんなのじゃ、いつまで経ってもうまくならないぞ」
「ならないぞ」
私の様子を見てサムが声をかけて来た。
相変らずアンはサムの語尾をおうむ返ししている。
「私は今、大事なことを考えているの。ひとりにして」
「大事なことって俺達よりもか」
「よりもか」
「そうよ。とっても大事なことなの」
「わかったよ。その代りバイトの時間までだからな」
「だからな」
「アン、行くぞ」
「うん」
私の言わんことを理解したのかサムはアンを連れて出て行った。
「”ナコリリ”を辞めたらサム達のことも考えないといけないわ」
今はいっしょに暮しているから路上ライブの時も手伝ってもらっている。
サム達からしてみたらお手伝いと言うよりもお仕事の一環だ。
もし、私が”ナコリリ”を辞めたらサム達の仕事もなくなってしまう。
そればかりでなく、ここから出て行かないといけなくなるだろう。
「サム達のことはどうするのが一番いいのだろう」
やっぱり孤児だから孤児院とか教会とかに預けるべきか。
引き取ってくれる親もいないのだから同じ仲間がいる場所の方がいいはずだ。
最初は戸惑うかもしれないが、仲間ができれば寂しい思いをしなくてもすむ。
それに温かい食事も摂れるだろうし、温かい布団で寝られるのだ。
この段ボールハウスで丸くなって集まっているよりもいいはずだ。
「けど、どうやって切り出そうかな……」
いきなり”孤児院へ行きなさい”と言っても納得しないだろう。
サム達のことだから私といっしょにいるとワガママを言うはずだ。
贅沢な暮らしはしていないけれど何とか3人で暮らしている。
貧しいけれどいっしょにいることが楽しいから苦にもなっていない。
それなのに”この暮らしを終わらせる”と言っても納得できないだろう。
「リリナちゃんにお願いしてサム達を引き取ってもらおうかな」
それも一案だが結果は同じだろう。
サム達は孤児院に連れて行かれるのがオチだ。
セントヴィルテール女学院の生徒にもなれないのだから。
私は不意にアーヤからもらった名刺を見つめた。
「アーヤのところへ連れて行こうかな」
アイドルプロデューサーをやっているぐらいだから何とかしてもらえるかもしれない。
だけどアーヤの事務所に保育所はないだろうからサム達がどうなるかわからない。
もし、孤児院に連れて行かれてしまったらサム達に申し訳が立たない。
「はぁー。うまいアイデアが思いつかないわ」
酷いことかもしれないけれどサム達に内緒で出て行くのもアリだ。
一時は私のことを恨むだろうが自由を手にできる。
その後はアンと2人で幸せになれる方法を考えればいいのだ。
「それがいい。今まで稼いだお金は置いて行ってあげよう」
私がそう納得するとサムとアンが戻って来た。
「ナコルねぇ、バイトの時間だぞ」
「だぞ」
「もう、そんな時間。今、行くわ」
私は考えることを止めてサム達と飲食店のバイトへ向かった。
バイトの終わりにサム達と別れてセントヴィルテール女学院までやって来た。
もちろん、リリナちゃんに”ナコリリ”の脱退を伝えるためだ。
そのままの姿だとバレてしまうのでメガネに鼻のついたパーティーグッズで変装している。
傍から見たら実に怪しい人物に見られていることだろう。
私を見たセントヴィルテール女学院の生徒はコソコソと逃げて行ってしまった。
「何なのよ、あの態度。私が何か悪いことでもしたと言うの」
私は沸き上がる不満を辺りにまき散らしながら憂さを晴らす。
自分の姿を見ていないから文句が出るけれど実際に見たら変わるかもしれない。
何せ私服のままでパーティーグッズを身につけた怪しげな姿をしているのだから。
「そんなことはいいわ。他人にどう見られても平気だし。それよりも、リリナちゃんを呼んでもらわないと」
私は辺りをキョロキョロと見回しながら校門の近くにいる生徒を探す。
ちょうど学校が終わった頃なので下校している生徒がちらほら見かける。
みんながみんな部活動をしている訳じゃないので暇を持て余している生徒もいるのだ。
私はギャル部だったけれど部活をしていたのは最初の3日だけで後は遊んでいた。
だから、学校が終われば街へすっ飛んで行って買い食いしたり、ショッピングしたりしていた。
それだけのお金をどこから調達していたのかは言わないでおこう。
どうせ私の犯した過去の過ちが並ぶだけだからだ。
「ねぇ、ちょっと。そこの人。アイドル部のリリナちゃんを呼んでくれない」
「ご、ごめんなさい。急いでいるので」
声をかけた女子生徒が私の顔を見ると逃げるように立ち去って行く。
”急いでいる”とは言ったけれど、それは建前で私から逃げたかったのだろう。
まあ、気持ちはわからないでもないけれど少しぐらい足を止めてくれてもいいはずだ。
別に私はカツアゲをしようとしている訳じゃないのだから。
「ねぇ、アイドル部の……」
「ごめんなさい」
「何よ。まだ何も言っていないじゃない。ムカつく」
出て来る人、出て来る人に声をかけてみたが誰も足を止めてくれない。
みんな同じリアクションをしながら駆け足で逃げるように立ち去って行った。
「全く。これじゃあ無駄に時間ばかりが過ぎるだけだわ」
私はパーティーグッズの下から目を光らせながら下校して行く生徒を睨みつける。
この姿で足を止めてもらえないならば素顔を晒すしかない。
私がナコルだとわかればみんなビビッて足を止めるはずだ。
正体がバレるのは避けたいのだが背に腹は代えられない。
私は学院からひとりで出て来た女子生徒の前に立ちはだかる。
「ねぇ、ちょっと。アイドル部のリリナちゃんを呼んでほしいんだけど」
「す、すいません。急いでいるので」
「逃げるんじゃないわよ。私を誰だと思っているの」
「ゲッ。いじめっこのナコル」
思い切って私がパーティーグッズのメガネを外すと女子生徒は驚きの顔を浮かべながら固まる。
捕まりたくない相手に捕まった時のような何とも言えない表情を浮かべていた。
「私のことを知っているなら話が早いわ」
「ひぃっ、いじめないでください」
「別にあなたをいじめる訳じゃないわよ」
「じゃあ、何ですか」
「アイドル部のリリナちゃんを呼んで来てほしいの」
「アイドル部のリリナちゃん?」
女子生徒は要領を得ていないのかきょとんとした顔を浮かべる。
いじめっこの私がアイドル部のリリナちゃんに用があるなんて想像できないのだろう。
「そうよ。アイドル部のリリナちゃんよ」
「リリナちゃんにどんな用なんですか」
「あなたには関係ないじゃない」
「もしかして、リリナちゃんをいじめるんですか?」
「バカを言わないで。私はリリナちゃんに話があるだけよ」
「……」
そう説明しても女子生徒は私の言葉を信じてくれない。
私が本気でリリナちゃんのことをいじめると思っているようだ。
「わかったでしょ。早くリリナちゃんを呼んで来て」
「でも……」
「早く呼びに行かないとあなたをいじめるわよ」
「ひぃっ」
私が”いじめ”をチラつかせると女子生徒は青い顔をしながら学校へ戻って行った。
私の築いた”いじめっこ”のイメージは相当なものになっているようだ。
自慢できるブランドじゃないけれど使いようによっては使えることがわかった。
今度から言うことを聞かない奴には”いじめ”をチラつかせて従わせるのがいいだろう。
「何を見ているんだよ」
「ひぃっ」
私を物珍しそうにチラ見していた女子生徒達に睨みを利かせて追い払う。
その姿はまるで蜘蛛の子を散らした時のような光景だった。
「全く、根性のない奴ばかりだぜ」
すっかり”いじめっこ”を出したので言葉遣いも昔に戻ってしまった。
でも、この方が本当の私らしいから肩の荷が下りたような気がした。
それから10分ほど校門の前で待っていると女子生徒とリリナちゃんがやって来た。
「ナコルちゃん。どうしたの」
「実はリリナちゃんに話したいことがあるんだ」
「案内をありがとうございました」
「私はこれで。さようなら」
私が用があることを伝えるとリリナちゃんは気を利かせて女子生徒を帰らせた。
「ここじゃあ、何だから公園へ行こう」
「わかりました」
と言うことで私はリリナちゃんといっしょに静かな公園へと向かった。
「……」
「……」
なんて切り出していいのかわからない。
私とリリナちゃんは黙ったままブランコに座っている。
「あ、あのさ」
「何でしょう」
「い、いや。何でもない」
「そうですか」
昨日まではあたり前のように向き合って話していたのに今はぎこちない。
脱退を伝えることが悪いように思えて来て口を閉ざすのだ。
ただ、リリナちゃんの方はいつもの調子で耳を傾けている。
すると、状況を察したリリナちゃんの方から口を開いた。
「ナコルちゃん。私に話があるんでしょう。聞かせてください」
「うん……そう」
「言いにくいことなんですか?」
「言いにくいって言えば言いにくいかな」
「ナコルちゃんが何を言っても驚きません。話してください」
リリナちゃんは純粋な眼差しを向けながら私に答えを求めて来る。
その顔を見ていたら私が話そうとしていることが余計に悪いことのように思えて来る。
だけど、このまま黙っていても何も変わらないので私は覚悟を決めて話すことにした。
「リリナちゃん。”ナコリリ”から脱退したいんだ」
「脱退?」
「リリナちゃんは”ナコリリ”なんてやっていなくても人気があるから以前のようにひとりで活動した方がいいと思うんだ。その方がファンも喜ぶだろうし」
「ナコルちゃん。本当にそう思っているんですか」
私が話をするとリリナちゃんはキリッと顔つきを変えて質問して来た。
「そう思ってる」
「ナコルちゃんの口からそんな言葉を聞くなんてショックです。せっかく”ナコリリ”としてスタートを切ったのに脱退したいだなんて」
「もう、決めたことなのよ」
「ナコルちゃん、思い出してください。アイドルになりたくて私に声をかけて来たのでしょう。それが何で脱退になるんですか」
「リリナちゃんには悪いと思っている。だけど、もう決めたことなの」
「わかりません。私にはわかりません。せっかくナコルちゃんとアイドル活動をして行けると思っていたのに」
私がどんな言葉を投げかけても今のリリナちゃんには届かない。
リリナちゃんは私の言葉が信じられずにひとり動揺を浮かべていた。
まあ、リリナちゃんが言うように私の方からリリナちゃんに声をかけたのだ。
それなのに”ナコリリ”を脱退をしたいだなんて自分勝手過ぎると思う。
だけど、これ以上、リリナちゃんと”ナコリリ”を続けて行く自信がない。
もう、決めたことだから変わらないけどリリナちゃんをまともに見れない。
それは私の中に罪悪感がたっぷりと溢れているからだろう。
「それについては謝るよ。自分勝手だと思っている」
「なら、何で考えを改めてくれないんですか。悪いと思っているなら脱退を止める選択肢もあるはずです」
「それはできない」
いくらリリナちゃんのお願いと言われても脱退を取り下げるつもりはない。
もう、私の中では終わったことだから後戻りはできないのだ。
「理由を聞かせてください。ナコルちゃんがその決断に至った経緯は何ですか」
「……わかったよ。本当のことを話すよ」
これ以上、リリナちゃんを誤魔化すことはできない。
私がいい訳を並べたところで納得はしてくれないだろう。
それならば素直に胸の内を話してしまった方がいい。
その後でどうなるかわからないけれど仕方がないのだ。
「この前、”ナコリリ”の路上ライブをして気づいたんだ。ファンのみんなはリリナちゃんだけを応援していて私がいても気にも止めていない。重大発表の時は私のことも応援してくれるって言っていたけれど蓋を開ければ全く違ったのよ」
「それはまだナコルちゃんのことが認知されていないからではないですか」
「それも少しはあるだろうけどファン達にとって大切なのはリリナちゃんだけなの。わざわざ”ナコリリ”として私といっしょに活動をしなくても、以前のようにリリナちゃんがひとりで活動しているだけでファン達は満足なのよ」
「それが脱退の理由なんですか」
「そうだよ。私はもう、心が折れているのでこれ以上、”ナコリリ”として活動ができない。だから、脱退するんだ」
「グスン。ナコルちゃんがそんな風に思っていたなんて気づきませんでした。私、ナコルちゃんといっしょに活動できることが楽しくて浮かれていたんですね。私の知らないところでナコルちゃんは傷ついて泣いていた。それなのに気づけないなんてパートナー失格です」
私の本音を聞いてリリナちゃんは涙を流して反省の弁を述べる。
それはリリナちゃんの立場から見たら”ナコリリ”がうまく行っていると思えたからだ。
私からしてみたらリリナちゃんは雲の上の人だから尊き存在だ。
だから、私のことで涙を流すなんて申訳がなくてたまらない。
別にリリナちゃんは何も悪いことをしていないのだから涙しなくてもいい。
元は私がワガママを言ってリリナちゃんとアイドル活動をしたいとお願いしたことがはじまりだ。
私がワガママを言っていなかったらリリナちゃんはリリナちゃんのままでいられたのだ。
「リリナちゃんはぜんぜん悪くないよ。悪いのは全部、私なの」
「そんなことはありません。ナコルちゃんは悪くありません」
「丁寧な言葉を使ってアイドルになろうとしたことが間違いなんだ。元の私はこんな口調だ」
「ナコルちゃんがどんな言葉を使ってもナコルちゃんです」
「ありがとう。そう言ってくれるのはリリナちゃんだけだよ」
それとサムとアンだけかな。
私がどんな言葉を使っても受け入れてくれるのはその3人だけだ。
他の連中は私が詐欺をしていたと罵って馬鹿にするだろう。
今までそう言う扱いを受けて来たからわかるのだ。
「ナコルちゃん。これからどうするんですか?アイドルまで辞めてしまうのですか?」
「私は……」
リリナちゃんの質問に答えようとしたがすぐに言葉が出て来なかった。
アーヤのところに厄介になって別のアイドルになるだなんて言えない。
それはリリナちゃんとライバルになることだから余計に躊躇ったのだ。
アーヤがどんなアイドルをプロデュースするのかはわからないから迂闊なことは言えない。
だけど、全く嘘をつくのも気が引けるからほのめかす程度に話しておこうと思う。
「アイドルは辞めないよ。だって、私にはやることがあるからな」
「それを聞いて安心しました。ナコルちゃんがどんなアイドルになっても応援します」
「ライバルになるかもしれないな」
「その方が楽しいです。私も負けませんから」
「クスッ。ハハハハ」
「キャハハハ」
「私達、いいライバルになれるな」
「ナコルちゃんに笑顔が戻ってよかったです」
ようやく私とリリナちゃんは心を通わせたので二人で安堵する。
”ナコリリ”として活動して来たのにぎこちないなんて悲し過ぎる。
すごく短い間だったけれど私とリリナちゃんの想いはひとつだったのだ。
「リリナちゃん。今までありがとう」
「こちらこそ」
「じゃあ、私、行くから」
「また会いましょうね」
とりあえずわだかまりが消えてよかった。
リリナちゃんともめたままでさよならなんてできないから。
私はリリナちゃんと気持ちよく別れることができた。
「リリナちゃんならひとりでも大丈夫だ。問題は私だな。本当にアーヤに頼めばアイドルになれるのか心配だ」
もしアイドルになれなかったら私に帰る場所はない。
リリナちゃんにも合せる顔がないから消えるしかないだろう。
夢半ばで消えるなんて避けたいところだが、その道しか残されていない。
「とりあえず日を改めてアーヤの事務所を尋ねてみよう」
私は今後の予定を考えながら段ボールハウスに戻って来た。
「ただいま~」
「どこに行っていたんだよ、ナコルねぇ」
「どこって。野暮用よ」
「野暮用ってな。俺達はナコルねぇがバイト終わりにすっ飛んで行ったから心配していたんだぞ。何か悪いことに巻き込まれたんじゃないかって」
「心配のし過ぎよ。私がそんなヘマする訳ないじゃない」
「いや、ナコルねぇだから心配なんだ。どこへ行っていたのか教えろ」
幼いサムにも信用されていないなんて私は惨め過ぎる。
心配してくれるのはありがたいが度が過ぎるのはごめんだ。
「リリナちゃんのところよ。今後のことで話があったの」
「本当か。もしかして俺達をクビにしようとしている訳じゃないよな」
「そんな訳ないじゃない。サム達は私の大切なメンバーよ」
「信じていいんだな」
「あたり前じゃない。何をそんなに勘ぐっているの」
「ナコルねぇの机の上にたくさんのお金が置いてあったから」
そのことをサムに指摘されてハッとしてしまう。
”ナコリリ”を辞めることにしたからサム達の今後のことを考えていた。
私にできることはお金を用意することだけだから今まで稼いだお金を数えていたのだ。
「それはサムとアンの将来のことを考えて貯金をしようかと思っていたのよ」
「貯金?貯金って何だ?」
「貯金は銀行にお金を預けることよ。長い間、預けておけば利子もつくから増えるのよ」
「働いていないのにお金が増えるのか。スゲー」
「スゲー」
まあ、利子と言っても微々たるものだからないのと変わりないが。
王都ダンデールの銀行では1年に1%の利子がつくことになっている。
だから銀貨1枚預ければ1年後には銅貨1枚の利子がつくのだ。
「サムもアンも大きくなったら学校へ通わないといけないからね」
「俺達も学校へ通えるのか?」
「あたり前じゃない。学校へ通って立派な大人になるのよ」
「学校は給食が出るのか?」
「もちろん給食があるわよ。毎日、美味しい給食を食べられるのよ」
「うわぁ~、スゲー。アン、給食があるってよ」
「スゲー」
実際にサムとアンを学校へ通わせられるほどお金は溜まっていない。
だから、サムとアンを学校へ通わせるためには私が稼がないといけないのだ。
サムとアンにはいろいろ助けてもらったから、ぜひ学校へ行かせてあげたい。
そのためにも私はアイドルになってたくさんのお金を稼ぐ必要がある。
ルイを病院に通わせるお金を稼ぐついでなのでいっしょに稼ぐつもりだ。
そのためにも私はアイドルにならなければならない。
「アイドルになってバンバン稼いでやる」
「ん?なんか言った?」
「何でもない。それより晩ごはんを食べに行くよ」
「うおぉぉぉー、飯か。今日は何を食べるんだ?」
「今日は出店でラーメンを食べるよ」
「聞いたか、アン。ラーメンだってよ」
「ラーメン、すき」
今夜は奮発してラーメンを食べに行くことにした。
3人でひとつでなく、ひとりひとつだ。
私の中でこれが最後の晩餐になるだろう。
明日の朝になったら私はひとりで出て行くつもりだ。
その方がサム達のためになるからそう決めたのだった。