1.ラブレター
あぁ僕はどうしても憧れてしまったのだ。自分とは間反対の自信満々で、尊大で偉大な人に。
「お、タクトまたラブレター貰ったの?今度は誰からよ。」
「サクラという名前らしいな。まあ誰かは知らぬが。」
「え、あの二組のサクラさん!?めっちゃ可愛い人でこの学校でも有名だぞ!?」
「知らん。なぜ俺がいちいち人の名前を覚えてないといけないんだ。くだらん」
嘘だ。俺、いや「僕」はサクラという人間を知っている。水曜日の3限、美術の授業で僕に積極的に喋りかけてくれた優しい人だ。
じゃあなんで知らないふりをするのかって?だってこれで僕が他クラスのサクラさんを知ってたら、元から興味があったことを証明するみたいでなんかダサいじゃないか。そんなこと「俺」には合わない。
…それにサクラさんのことはたった1限だけの授業の繋がりなのに覚えているのに、もし他の人のことは覚えていないとかだったら不公平だし悲しいじゃないか。僕は人の顔を覚えるのが苦手なんだ。だったらすごく仲の良い人以外は知らないことにした方がある種の公平性はあると思うんだ。
それにしてもサクラさんが学校でも有名なのは今初めて知ったな。確かにすごく可愛い人だった。喋りかけてくれた時は化けの皮が剥がれないように無表情を貫いていたが、心臓ばくばくしたもん。
そんな人からのラブレターだ。嬉しくないわけがない。もし今自分の部屋で一人だったら、奇声をあげて謎のダンスをし始めるくらいには嬉しい。
いや待て、これをラブレターと決めつけるのは早計かな?もしかしたら嘘告白して反応を楽しむドッキリかもしれないし、美人局の可能性もある。「貴方に伝えたいことがあります。放課後体育館裏に来てください」とあるから告白だと思いたいけど…
もしこれで嘘告白とかだったらウッキウキで来た僕が馬鹿みたいだし、明日からみんなから馬鹿にされてる未来は見えてる。あんまり期待せずに行こう。
とりあえず、放課後までに嘘告白だったときと美人局だったときの反応、いざ行ってみたらガタイのいい男に囲まれたときの反応と何を言うかを想定してから行かないと。
…ほんとに告白だったときに「俺」が言いそうなことも一応考えておこう。
「好きです。付き合ってください!」
え、告白キタコレ!良かったー嘘告白とかじゃなくて。まあ僕が午後の授業中に必死に考えた「ドッキリされたときに「俺」が言いそうなセリフ集」が無駄になっちゃったけどそれはそれ。嬉しいものは嬉しい。
「ほう?一応理由を聞かせてもらえるか?」
「えっとタクトくんがかっこいいというのはもちろん…」
そっかあ。かっこいいところかあ。僕には正反対な言葉だ。確かに「俺」ははたから見たらかっこいいかもしれない。
身長は180cmと高いほうだし細身だからスタイルも良く見える。顔に関しても化粧したりしてるから自分的にはかっこいいと思っている。だから「俺はかっこいい」と普段から言っている。
でも僕のかっこいいはあくまで「絶対値」的な話で「相対的」な話ではないんだ。
みんなが使うような「他の人と比べてかっこいい」ということじゃなくて、「かっこよくなる努力をしていて、今の自分が自分にできるかっこよさの限界値だから自分にしてはかっこいい」というだけなんだ。
ほんとにかっこいい人は生まれた時からかっこいい人のことを言うんだろうし、僕みたいなあとから身につけた「かっこいい」はきっとサクラさんのいう「かっこいい人」というご希望には添えそうにない。
「私がクラスのノートを職員室に持って行っているときに代わりに持っていってくれたりする優しさかな。」
「優しさ」というのもそうだ。もしかしたら僕は他の人から見たら優しい人と見られてるのかもしれない。勉強でわからないことがあったら教えてあげられるし、女の子がなにか重いものを運んでいたら率先して僕が運ぶようにする。
でもそれをするのは僕にメリットがあるからしているだけだ。僕がそれをすることによって得られるものと失うものを天秤にかけて、得られるものの方が大きいと判断しただけの話。
僕が他の人に勉強を教えるのは、「俺」は頭が良いんだぞとひけらかして承認欲求を満たしたいだけだし、女の子が重いものを運んでいたら僕が変わるというのはワンチャンあるんじゃないか!?という下心ゆえだ。つまり自分のことしか考えてないのだ。
ああでも自分のことしか考えていないことが悪いとは全く思っていない。最終的には全人類自分のことしか考えていないというのが僕の結論だ。だから他人のためにやっていると吹聴する人は僕の最も嫌いな人種といえる。
その上で、僕が考える「優しい人」というのは他人を助けること自体が自分にとって幸せなことと考えられる人だと思う。僕みたいに、親切にすることを手段としている人じゃなくて、目的としている人のことを優しいというのだろう。
「そうか、理解した。」
「えっと返事を聞いても良いかな?」
だから返事は決まっている。
「悪いがお前と付き合うことはできない。」
「そもそもこの俺とお前が釣り合うとでも思ったか?」
そうだ。僕とサクラさんでは釣り合わない。僕はサクラさん考えているようなかっこいい人でも、優しい人でもない。サクラさんに告白してもらったのはとても嬉しい。できることなら付き合いたい。でもそれはかなえられないなしだろう。
サクラさんは素晴らしい人だ。いつも笑顔だし、とても純粋で人望もある。勿論見た目も「他人と比べて」可愛い人だ。こんな素敵な人は僕なんかとは釣り合わない。
「もっといえば俺とお前は合わない。」
そう言わず付き合ってみれば良い、という意見もあるだろう。だけどそれは無理な話なのだ。「俺」はかっこいい。見た目もそうだがいつも自信満々であり続けている。そんな「俺」を好きになった人と付き合うとどうなると思う?「俺」の本質、「僕」を見たらドン引くだろうさ。
デートをするにしても僕が引っ張っていかなければならない。どんなに色々調べてもどこ行けばいいかもわからず、常に不安を抱えながら彼女と過ごさなければならないのだ。メンタルがどんどんすり減っていくのっが目に見えている。それを幸せとは言わないだろう。
そう。僕は傷つくのが怖いのだ。「俺」を好きになってくれた人が「僕」を嫌いになるのがとても怖い。「所詮こんなものなのか」と見下されるのが怖い。結局僕は自分のことで精いっぱいのダメなやつなんです。
だから僕はサクラさんとは付き合えない。
「故にもう一度言っておこう」
こんな偽りだらけの僕を好きにさせてごめんなさい。
「俺はお前とは付き合わん」
「こんなくだらないこと、お前もさっさと忘れるがよい」
僕のことなんていくらでも嫌ってくれていいから、別の恋があなたを幸せにすることを僕は祈る。
「ごめんなさい。私はあなたを諦めることはできない。」
、、、、、は?