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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

その日全てが美しかった(日本語版)

作者: 鱈井 元衡

私が韓国語で書いた「그날 모든 것이 아름다웠다」(https://ncode.syosetu.com/n6714ie/)の自訳です。

 雲一つもない真っ青な空。

 地獄の炎で乗った先に茶褐色に荒れ果てた地。

 ある日、すべてが美しかった。


 2056年 日本



 旭日旗を背景にした暗い部屋の中に軍服を着た男一人が本を読みながら小さな椅子に座っていた。

 近くに別の一人。 男の苦しそうな気づきを心配して覗く。

 この男は仕事の成果を報告しに来たのだ。 ところが、司令官は──そうだ、本を読む男はその人の相関であり司令官である──まだ話を始めることを許していないだろう。

 いや、気づきもある。 司令官は自己定義を確認しようと呼んだのだ。

 初めて着た人は司令官だった。

「『春はあけぼの』。これはどういう意味だ?」

 司令官は本に目を向けたまま尋ねた。

 副官は答えた。

「枕草子の冒頭です。自然の美しさを褒める言葉です」

「いや、『すべて殺せ』という意味だ。お前は文学を学んだのに知らなかったのか?」

 司令官は自分の言葉に何の疑いも持たないようだ。 悪意は本当になかった。

 森本は遠い昔の作家を握ったので古典文学のタイトルなどいくらでも知っていた。しかるに、周囲の人間はそれがなぜ役に立つのかと言いながら笑ってきたが。

 司令官は再び静かな声で聞いた。

「計画は問題ないか?」

「はい、司令官。全て順調です。しかし……」

 副官はしばらく躊躇した後、低い声で話した。

「被爆した都市の復興はまだ始まっておらず、戦争が終わったとも知らず、民は恐れています」

 不可能だ。 もうそれを図る政治家がいないから。 その事件の時全部死んでしまった。

「心配しないで、森本。私たちの旭日君は永遠に日本を戻す。私たちも我が国も決して消えない」

 司令官、いや、石原純介、この国の王は静かに笑った。 弱い笑いを。

 実際の年齢よりはるかに古い、みすぼらしい病人のような素顔。この国を脅かす様々な敵をあまりに憎んだせいで誰かを優しく扱う自我も理性も消えたようだ。

 こんなにも情けない人だったろうか。

 森本野秀夫は上官の昔の姿を思い出そうとした。


 崩れた通りには人はどこにも見えず、復興しようとした跡もなかった。 時々凄惨にも炭のように変わった遺体が死んだ姿をそのまま残していた。

 人間はそれを見てもまた怒りも悲しみもしない。

 そんなのはもうどうでもよかったから。

 東京が核爆弾のために滅びた後、首都は西の立川に移ったが、地獄への使者がここも探そうと息を殺していた。

 まさにここも地獄になるだろう。 そんな絶望が日本の全土を覆っていた。 それでみんなが酔ってしまう。

 愛国心という劇薬に。


 今日、日本では死の言葉を聞くことができない日はない。

<疲れた一ヶ月>から一部の人間は隣の敵を憎み、ある国の人を襲うように殺した。

 愛する家族や賛美を失った人が彼らを殺した国の人の前に静かになるのだろうか?

 淳介が施行した売国分子排除法も善良だった人々を殺戮に導いた。

 市民は、この法律が選んだ者を殺さなければならず、その命令に従った人も排除対象となる。

 ひょっとしたらすでに、この法律で犠牲になった方が多いかもしれない。

 すでに戦争は終わったが、平和は訪れなかった。

 あまりにも多くの人が殺されたにもかかわらず、淳介の心は全く安心してに見えなかった。

 森本は自分に尋ねた。


 いつになったら本物の平安は訪れるのか?


 そして、ぞっとする。


 一人しかいなくなるまで?


 急に急いで一人の兵士が入ってくると言った。

「司令官!」

 森本はすでにその人の運命に気づいた。

「抗議デモが市庁舎に進んでいます。朝鮮半島から来た難民船を砲撃したことを批判しています」

 刹那に、

「銃撃しろ」

 兵士は慌てて、

「いえ、なりません! はっきり確認しました。誰も武器を持っていません。子供もいるんですよ!?」

 しばらくすると、淳介は悪魔の表情で兵士を倒してみた。

「…太田おおた3尉を処刑しろ」

 急いで男たちが集まってすぐに兵士の体を握った。 兵士はそれでも試みた。

「理想を忘れてしまったのですか? あなたは日本を良くするために金木統合幕僚長に従ったのではないですか!?」

 すると、かっとした淳介は、人間のような獣になっていた。

「黙れ、売国分子が! 私は国だ。国に逆らうのか?」

「司令官、あなたに人の心は…」

 森本に馬の終わりは聞こえなかった。


 昔は森本もこの男のように偉丈夫ますらおだった言葉だ。 なのに、あまりにも救いがたい現実を見てきたせいで、短い時間で乾いた木のように憔悴してしまった。


 兵士たちが消えた後、石原は喉が潰れるように叫んだ。

「日本に日本人だけがいればいい。いや、……この世に住む民族は日本人だけでいい!!」

 淳介は人間のような顔で笑った。

 森本は何もしなかった。

 ただ新しい青い空を眺め、この呵呵大笑が終わるまで耐えた。

 そして咳。 激しく弱い咳。

 医師によると、石原純介は気管支炎を患っているという。 見た目は怖い人間なのに、本当は弱い、か細い男だ。 ここで淳介を殺すのは簡単だが、それでどうなる? 新しい石原純介が現れるだけなのに。


 この世界では生きることは賢明な道ではない。

 爆発で死んでいたらどれだけ良かっただろう。 死を集めながら生き残り、万人ははるかにひどい最後を迎えなければならない。

 立川にはそんな人間しかいない。

 蠅の群れが飢えて死んだ遺体の周りを飛んで、カラスが裂いて食べに下っては白骨に変える。

 それでも誰もが生き残るためにお互いを助けようとするどころか自分より弱い者を襲い、奪われるだけだ。 外国の侵略を防ぐように叫びながら国内の強盗や殺人も止められない。

 政府の政策がそれを推進しているようだ。

 なぜならこの国では昔から自己責任論が盛んだ。 ひどく悪くなる社会を変えて向き合う人を冷笑した。

 芸術も、文学も、アニメも漫画も人には優しい心を育てることができなかったようだ。

 弱肉強食。 買えなくてもそれは自分のこと。

 社会に並んで苦しんだ末にやると、その人が悪く社会が悪いわけではない。

 誰も助けに行く必要はない。 社会正義なんて放っても構わない。

 この最悪の結果はこれだ。

 その原因は民の努力が足りなかったためだ。

 森本はそれが間違った考えだと思っていた。 しかし、知っているとどうだ? もっと絶望するだけ。ならば何もしないほうがいい。


 森本は再び目の前に広がる世界に回る。

 叫び声を精一杯守った後に、いつの間に我に返った淳介は静かに語った。

「私は敬太様を殺したことを後悔しなかった。私はあのお方の意志に従ってここにいるから」

 安雄は論争しても無駄だと思うようになった。

 ああ、この男は現実を見ることができません。

「お前はもう行っていい。売国分子リストを整理しろ。私は九州にある艦隊の再編について話し合うべきだからな」

 心の中で嘆いた。 こんなことを繰り返すなんてもう必要ないのに。


 森本は長い廊下を歩き始めた。 やはり直す部分を放っておいてほこりがついた汚れた空間だった。

 その時、ついに横に大きな音が聞こえてきた。

 通りからそびえたつビルから凛とした女性の声。

「愛国週間です!我が国を脅かす敵を殺しましょう!」

「永遠の我が国のために祈りましょう。救世主石原純介万歳!」

 治安を民には戦争が終わったということは知らなかった。 ところで実は誰でも知っているのに。

 ビルはしばらく国歌を流した。 こんなところで聴く国歌よりも醜い歌があるのか?

 かすんだガラス窓を通して彼は街並を眺めた。

 遠くに並んだ建物から伸びてきちんと浮かんだ旗。 隣国を憎むよう扇動する汚い言葉を載せた吊り幕。

 少し前は誰も見られなかった光景。

 希望を持つにはそれしかなかった。 そして再び森本は自ら嘲笑した。 私は罪人です。 死ななければならぬ悪人だ。 それでも森本は罪悪感を消すように考えた。

 しかし、すべてが自分の罪ではない。 祖先が考え間違えたためだ。 長い間積み重ねた恨みと憎しみは、日本だけでなく全世界を押しつぶそうとしている。

 森本は自分の執務室に戻った。 淳介がいる部屋のように暗かった。 政府機関として作られた建物ではないので当然だが。 旗と肖像画、不要な箱や食器棚でいっぱいの憂鬱で狭い部屋だった。

 嫌な音がどこからでも聞こえてきた。 壁が薄い粗末な建物だからだ。 ここまで及ぶ不快な音に耳をふさぎ、森本はこの責任を民衆に押し付けることにした。 彼らは愚かだ。 そんな民衆が歴史を作るだと?

 それからあのアナウンスが聞こえなくなると机の上に積もった書類に読めば、その悪法に従って一般市民の殺害を許すサインをした。

 これは政治というのか? まるで子供の遊びだ。

 その作業も終わると、森本は慰め者に昼寝をした。 ともかく、世界に捨てられたこの国では終わりを待つしかしないから。

 どこかで銃声と悲鳴が聞こえる。

 外にはそそり立つ日章旗がはためき、この島に死んだ人の血を飲んで真っ赤な太陽を上げている。



 その日、すべてが美しかった。

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