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短編(ホラー系)

かわりもの


 ───では、ひとまず私の話を聞いてからどうなされるかをご判断ください。




 これは私と友人の話なのですがね。


 ああまあ、そんなこと仰らずにとにかく聞いてくださいな。お母さん、聞けば分かりますから。


 かつて私が子どもであった頃、と言っても中学生の時の話ですが、仲の良い友人がおりましてね。

 親の都合で引っ越してきた私に話しかけてくれて、クラスに馴染むきっかけをくれたのです。


 サッカー部のAは中々の悪ガキでよく授業をサボって保健室で寝ていました。

 柔道部のYは代々続く神社の子なんですが、顔が広いやつでしてね。先輩とかから聞いた話をよくしていました。


 そんな2人とつるんでよく遊びました。

 懐かしい日々です。



 さて、中学2年の夏にYがあることを言い出したんですよ。

 肝試しをしよう、と。


 Yは神社で育ったと言うのに不信心な奴で、神様とか幽霊とかそういう超常的なものはいないと思っていたんです。

 なので、いないことを証明するんだって言っていましたよ。


 Aも乗り気でしてね。彼は折角だから夜に行こうと言ったんです。そっちの方が雰囲気あるからというのが理由でした。


 私はあまり行きたくありませんでしたが、そこで1人だけ行かないと言うのは無理でした。


 3人で予定を合わせて、8月の10日に行くことにしました。Aと私はともかく、Yは神社の手伝いとかがありましたから。

 さすがにお盆の最中は止めましたよ。


 行き先は庄野のお屋敷です。

 この辺りで肝試しが出来るのは、神社かお屋敷くらいしかありませんでしたからね。



 ああ、ご存じないですか。

 引っ越されてきたのですから無理もないです。

 ほら、田んぼの中にポツンと一軒だけ大きなお屋敷が建っていますでしょう。

 あそこは昔、庄野さんが住んでいた場所でしてね。今も庄野のお屋敷と呼ばれているんです。


 ええ、そうです。あの藪に囲われた所ですね。

 文化財になったんで、取り壊されずに残ってるんです。


 肝試しが出来ると言っても、庄野のお屋敷に特に曰くがあるわけではありません。

 事故とか事件が起きたなんてことはなく、幽霊が出るという話も無い、古くて大きなだけの空き家です。



 今思えば、そんな場所に行ったところで幽霊がいないことの証明にはならないでしょうけど、当時の私たちは本気でした。

 使いきりカメラに軍手、懐中電灯を用意して、夜中にこっそり家を抜け出してお屋敷へと向かいました。

 Aは心霊写真を撮る気満々でね、Yは撮れっこないと笑ってましたけど。


 Aの家が一番近くだったので、その近くで落ち合い、3人で歩いていきました。


 夜中に町を出歩くなんて体験は初めてでしたから、それまで憂鬱だった私も気持ちが高揚するのを感じました。

 もちろん、AもYも盛り上がっていましたよ。


 私たちは月明かりの下、ワイワイと話しながら歩きました。

 田んぼの辺りまで行けば、少々騒いでも周りに家なんてありませんから。

 下らないことを話しましたよ。誰それは同じクラスの子が好きだとか、宿題が終わらないだとか、他愛ない雑談をしました。


 そうやって楽しみながらお屋敷に行きましたが、そんな気持ちは長く続きませんでした。



 門の前に立った時のことをよく覚えています。


 夜中とは言え8月ですから、蒸し暑かったはずなのですが、いきなりすぅっと寒くなったのですよ。

 風が吹いたわけでもないのに藪はガサガサと音を立てていて、敷地をぐるりと囲む立ち入り禁止のロープは誰が触れるでもなくゆらゆらと上下に揺れていました。

 何と形容したものか、とにかく不気味でおかしいのです。


 それを感じたのはどうやら私だけではなく、AもYも同じタイミングで静かになりました。

 私たちは互いに顔を見合わせ誰が止めようと言い出すかを探りました。

 ですが、結局誰も中止を言い出さずにお屋敷へと踏み入ることになりました。


 ……あの時が、最後のチャンスだったのかもしれませんね。



 ロープを跨いで敷地に入った私たちは、それまでとは打って変わって口を一文字に閉ざし、そろそろと動きました。

 懐中電灯の明かりを消して、月明かりを頼りにお屋敷の玄関を目指したのです。


 なぜ明かりを消したのか。


 はっきりした答えはないのですが、多分、見つからないようにしたんですよ。

 まあ、意味はありませんでしたが。


 虫の声もまるで聞こえず、しんと静まり返った庭先を歩くと、砂利を踏む足音がやけに大きく響いて私の心に焦りをもたらしました。

 それはAとYも一緒のようであったことは、音が鳴る度にビクリと震える姿で分かりました。


 玄関に辿り着くだけでどれだけの時間を要したことか。そうだったんじゃないかい?


 ようやっと戸の前に立った時、私たち3人は滝のような汗を流していました。

 それでもう帰れば良いものを、中へと入ろうとなったのです。

 まだ幽霊に会ったわけでもなく、さりとて玄関の前で帰ったのでは格好がつかないですからね。強がったわけです。


 でも誰も引き戸を開けたがらず、お互いに顔を見合わせて戸を開ける役割を押し付けあった結果、言い出しっぺのYが最初に踏む込むことになりましてね。


 Yは身体の震えを抑えて玄関の戸を開けようとしましたが、戸は全く動きませんでした。

 初めは軽く力を入れていた彼も、次第に力を強めていき、最後には腰を落としてめいっぱい引いていたのですが、それでも開きませんでした。


 一旦、戸から離れて3人でこれはおかしいぞと顔を見合わせていると、誰も触れていないにも関わらずスルスルと引き戸が開きました。

 Aと私は幽霊の仕業だと震えあがりましたが、Yは誰かの悪戯だと思ったらしく、怒りながら中へと踏み入って行きました。

 私たち2人はその後をしぶしぶ追いかけて、お屋敷の中へと入りました。


 玄関から入ると中は土間でしてね、結構な広さがありました。

 ガランとしていて寒気がしましたよ。

 入って左手には大きな和室が、正面にはそれよりも少し小さな和室が、右側には炊事場がありました。

 Yは一瞬迷う素振りを見せてから、左の和室に上がっていきました。

 靴を履いたままで行くのは抵抗がありましたが、Aに逃げる時裸足だと外の砂利が痛いと言われて靴のまま追いかけました。


 Yは、どこだとか誰だとか大きな声で言いながら手当たり次第に襖を開けていきました。

 押し入れや天袋まで、そんなところに人がいるわけない場所まで執拗にです。


 思えばあの時点で既に、Yはおかしくなっていたのでしょう。


 障子も引き戸も全部開け放して進むYは、ある場所で止まりました。


 薄々お察しのことでしょう。



 仏間の前ですよ。



 そこで何かを見つけたように固まるYに追いついた私たちは、彼を引っ張って戻ろうとしました。

 ですが、2人がかりで抑えてもそれを無理やりに振りほどいて、Yは仏壇に手をかけました。

 私はまさかと思いましたよ。


 しかしYは躊躇いなく、閉まっていた仏壇の戸を開けました。



 ……いや、中は空っぽでしたよ。


 位牌の類いはお寺で供養されてましたし、お札が貼ってあるとかもありません。だよね?



 それでまあ、帰ろうとなりました。

 Yも仏壇を開けた後はいやに大人しくなりまして、3人で黙ってお屋敷を出ました。

 ただ、仏壇を閉めることはしましたが、Yが開けて回った障子や襖を閉める気力までは湧かずにそのままにして帰りました。


 それからは、どうしてかお屋敷に忍び込んだことがバレて叱られたり、夜間の出歩きを禁じられたりしました。

 夏の苦い思い出です。





 はい?

 今の話の意味ですか?


 ……そうですか。

 そちらの子はお分かりのようですよ。





 ───ああ、そうでした。

 まだ、自己紹介をしておりませんでしたね。

 当社の宮司の、湯川と申します。



ご高覧くださりありがとうございます。

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