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いしんでんしん

作者: 初月・龍尖

 ぼくの部屋には古い端末がある。

 本体色は黒くダイヤルは丸い。

 ダイヤルを回すたびにジーコジーコと独特の音がしてそれがなんとなくぼくに癒しを与えてくれる。

 毎日飽きもせずにぼくはダイヤルを回す。

 ある日ふと思い浮かんだ番号で回した時にそれは起こった。

 りりりりり、とイヤホンの奥から音が鳴ったのだ。

 それはあり得ない事だ。

 だってこの端末はどことも接続されていない骨董品なのだから。

 はじめてそれが起きた時は驚いてしまってイヤホンを投げるように端末へ置いた。

 一日一度ダイヤルを回す。

 イヤホンの奥で鳴るりりりと言う音へと当たる確率が上がってきた。

 ある時、気まぐれ、ほんの小さな興味でイヤホンを置かずに待ってみた。

 チン、と遠くから音がして「もしもし」と聞こえた。

 ぼくはあわててイヤホンを端末へと置いた。

 その日から正体のわからない相手との交流が始まった。

 

 ジーコ、ジーコとダイヤルを回し少し待つ。

 りりり、りりりと鳴り、少ししてチンと音がする。

「もしもし」

「もしもし、今日もよろしくお願いします」

「いえいえ、わたくしこそよろしくお願い」

 そこから他愛もない世間話を十分くらいしてイヤホンを置く。

 数を重ねる毎にぼくの中にゆっくりと溜まってゆくものがあった。

 何枚ものフィルターを重ねたような相手に強い興味を持ってしまった。

 これは、いわゆる恋なのだろうか。

 見えない相手に恋焦がれる。

 理想のみが先走った恋。

 叶うはずのない恋。

 そんなぼくの想いの壁を打ち破ったのは相手の方からだった。

 

 何十回と重ねた端末越しの逢瀬。

 りりり、りりりといつもと違い何度も、何度も鳴るベルの音。

 チン、と繋がった瞬間ぼくの目の前には星空が広がっていた。

 目の前には黒い端末。

 ぼくの手には黒いイヤホン。

 視線を上げると漆黒の闇の中でぼくと同じように黒いイヤホンを持った存在が真っ直ぐこちらを見ていた。

 イヤホンから聞こえるのか、それとも、直接聞こえるのかわからないけれどいつもの何重もかけられたフィルター越しでない声が聞こえそれは、笑った。

 瞬間、ぼくは堕ちた。

 耳に押し付けたイヤホンにぼくは吸い込まれて消えた。

 そして感じた、想いヒトとひとつになったんだと。

 溢れんばかりの幸福感に包まれてぼくは眠った。

 そして、新しい風と成った。

 

 

 

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