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 砂を蹴りつけながら、目まぐるしくボールが動き回る。

 自分をマークする多くの人間をすり抜け、相手陣地に入り込んだ少年の背後で、大きな声が聞こえる。

「止めろ―!」

 今やクライマックスを迎えたサッカーの練習試合に、一点差まで追いついた赤いユニフォーム、聖山高校と書かれたチームの少年が、器用に相手を避けつつゴールポストに向かってボールを蹴り込む。

 ほぼフリー状態だったため、ゴール前を守るキーパーの少年が背後のゴールポストを守るために横へととんだ。

 だが、少しばかりキーパーの少年の手が届かない位置で、ボールはそのままゴールポスト内へと入り込む。

 チームメイトからは安堵が。対峙していた相手方からは、絶望の吐息が漏れたのはほぼ同時だ。

「日野くーん!すっごーい!」

 終了の鋭いホイッスルが鳴り響くや、フィールドに設えてある観覧席で試合を見ていた少女達は、黄色い悲鳴をあげて少年の雄姿を褒め称える。

 媚びに満ちたそれらは、同性からすれば垂涎ものに等しいのだが、少年にとってはそうではない。

 五月蠅そうな表情で少女達の声をやり過ごす少年の背中に、苦笑を帯びた声がかけられた。

(たかし)、お疲れ」

佐久間(さくま)か」

 癖のない黒髪を鬱陶しげに掻き上げ、流れる汗をユニフォームで乱雑に拭いながら、少年、日野崇は背後を振り向く。

 整った造作だが、やや目つきがきつく、どこか人を食ったような雰囲気が見え隠れしているため、誰からとも無く反感を買ってもおかしくはない人物に見える。だが、意思と生気に満ちあふれた瞳によって、それらは軽く撥ね除けられていた。

 そんな少年に、佐久間と呼ばれた少年は声に安堵を滲ませながら話しかけてきた。

「いやー助かった。また矢沢の連中に負けるんかと思うと、腹立ってな」

「だからって、オレを呼ぶか?レギュラー入れれば良かっただろうが」

 やや鋭い目線でそう問いかければ、佐久間颯太は引きつった笑いであらぬ方向へと視線を向けた。

 どうやら崇を助っ人に頼んだ事で、サッカー部の部員、それも外されたレギュラー陣から文句が出ていることは、間違いの無い事だというのはその態度で丸わかりだ。

 その証拠に、勝ったとはいえ、正式な部員でもない崇が出しゃばるのを歓迎していないのは、ベンチや観覧席で見ていた部員の表情や空気からも判断出来る。

「お疲れ様です」

 ボードを持ったマネージャーらしき少女が近づいてくると、あからさまに佐久間の顔が緩まり、ぺこりと崇に頭を下げた少女は軽く首を傾けて佐久間と崇とを見遣った。

 どうかしたのか、と問いかけないあたりは、一応空気を読んでの事だろう。

 試合記録を書き込んだボードを佐久間に渡し、少女は感謝の籠もった声を上げて崇を見上げた。

「ありがとうございます。佐久間さん、無茶言ったみたいで。

 本当に申し訳ありませんでした」

「……いや」

「でも、ほんとに助かりました。

 今回スタメンがちょっと怪我人多くて、日野さんクラスの人間じゃ無きゃ、うち負けてたかもしれないんですよね」

「スタメン以外の連中使えばよかったんじゃねぇのか」

「それが、まぁ、色々あって」

 少し困ったように笑った少女だが、ベンチから声がかけらると慌てて頭を下げてそちらに走っていく。

 それを見送り、崇はちらりと相好を崩している佐久間の顔を一瞥した。

「お前の彼女か?」

「え!いや、分かるか?やっぱ」

「お前の態度見てればな」

「崇、取るなよ」

「お前なぁ」

 半ば以上本気の声音に、崇は呆れたように肩を竦めた。

 さっさとこの場から離れるか、と思った時だ。観覧席の上から崇を呼ぶ声が聞こえた。

「おーい日野ー。お客さんだぜー」

 そちらに視線を向けた崇が、思わず頭を抱えそうになる。

 明らかに聖山(せいざん)高校の制服ではない少女が勢いよく手を振っているのが、それなりに離れている崇達の眼にもはっきりと映し出された。

 濃い臙脂色のスカーフが特徴的なブレザー姿の少女の姿を見て、佐久間が軽く口笛を吹いた。

「矢沢の中等部じゃねぇか。知り合いか?」

「あぁ」

「たっかーしちゃーん!」

 そんな二人の会話など聞こえていない少女は、明るく大きな声で崇を呼びつける。

 苦虫を噛みつぶした顔でそちらに駆け寄った崇が、ニコニコと笑っている少女の腕を取ると、勢いよくフィールドから離れるべく足を踏み出した。

 蹈鞴を踏む事無く崇の後をついてくる少女が、不思議そうに崇に問いかけてきた。

「何?どしたの、崇ちゃん?」

「めぐみ、お前なぁ」

「だって、迎えに行くって行ったじゃん、朝」

「だからって態々目立つ事するんじゃねぇ!」

 ただでさえ自分の周りの女子生徒達は、虎視眈々と彼女の座を狙っているのを崇は知っているのだ。

 そこに他校の親しげな女子が現れたらどうなるのか……。

 考えるだけで頭が痛くなる状況になるのは、目にせずとも分かってしまう。

 無論それは、この幼馴染みもよく分かっている事実だ。にもかかわらず、この少女は、相手が突っかかってくることを楽しみにしており、わざわざ火に油どころか灯油をぶちまけるようなことを平気でやらかすのだから、どうしようもないといえばどうしようもない性分の持ち主といえよう。

 性格が悪い、などというレベルではない。悪質もここまで来れば立派だと感心すればよいのか、それともそれをどうにかして修正した方がよいのだろうか。

 どちらにしろ、崇の手に余ることなので放っておいているのだが、幼馴染みであるこの少女、瀬尾野(せおの)めぐみから言わせれば、崇も十分に人が悪い、ということになるらしい。

 めぐみほどじゃねぇ、と噛みついてはみるが、第三者にとっては、似たり寄ったりの性格なのは確かだ、という結論に至ってしまう。無論それを二人にいえば、揃って否定はするのだが、異口同音、という言葉がそっくりにそのまま当てはまるような口調で反論するのだから、どちらもどちらということになるだろう。

 なんとか人気のない場所までめぐみを連れてくると、崇は苛立ちを隠そうともせずに怒鳴りつけた。

「ここで待ってろ!いいな!」

「何で?」

「何でって、お前なぁ……少しはオレの立場も考えろ!」

「そんなの、あたしに関係ないじゃん」

「めーぐーみー」

 怒りのあまり、崇の両の拳がめぐみのこめかみをえぐるような形で押さえつけられる。

「いったーい!痛い、痛いって!崇ちゃん、痛いってば!」

「うるせぇ!」

 めぐみの悲鳴じみた声を一刀両断し、崇は腕の更に力を込め始めた。

 それを感じ取ったのだろう。めぐみがジタバタと腕を回し、崇の攻撃から逃れるために身体をよじらせる。

 傍目から見ればじゃれ合いにしか見えないのだが、第三者の視線を受けることも無いため、馬鹿馬鹿しい攻防に発展する気配を見せ始めていた。

 そんな二人の動きが止まったのは、近付く気配を感じ取ったからだ。

「お、いたいた。

 崇ー、呼んでるぜー」

「わあった!今行く!

 めぐみ、いいか、ここにいろ」

 佐久間の間延びした声に応えた後、崇は低く押し殺した声でそう告げる。

 むっとしたように唇を突き出しながらも、不承不承めぐみが頷くのをしっかりと確認すして、崇は急いで呼びに来た佐久間の方向へと走り出した。

 めぐみと崇を交互に見やり、幾分か心配そうに佐久間が声をかける。

「いいのか?」

「……佐久間、オレは機嫌が悪い。少し黙ってろ」

 今まで見たことのない不機嫌さを表した崇の姿に、佐久間は幾分か驚いたように崇を見つめた。

 だが、すぐさま用件を思い出したのか、佐久間も慌てて校舎近くから遠ざかり、部員達が集まる輪の中へと戻る。ようやく戻った崇と呼びに行った佐久間の姿に、マネージャーの少女がほっとしたように肩を落とした。

「わりぃ、加納(かのう)

「いいですよ。でも……日野さん、今の娘、もしかしたら瀬尾野めぐみさん、ですか?」

「誰だそいつ?」

 加納の疑問に、佐久間が不思議そうに眼を瞬かせる。

 え、と、加納が大きく眼を見開き、きょろきょろと辺りを見回した後、そっとした声で佐久間に説明した。

「瀬尾野めぐみさん、知らないんですか。有名人ですよ。なにせ」

「指揮者瀬尾野正和とヴァイオリニストの佐々木綾子の娘だ。

 あいつ自身天才ピアニストと呼ばれて、このところ有頂天になってる大馬鹿だよ」

 素っ気なく説明した崇に、胡乱げな視線を佐久間が送る。

 何故そんな有名人と知り合いなのか、と、佐久間だけではなく加納までもが説明を求めるような視線を送りつけてきた。

 それを鬱陶しく感じたのか、辟易したように崇が言葉を綴る。

「ガキの頃からの近所づきあいだ。それくらい知らんほうがおかしいだろ」

「へー、お前、そんな有名人と幼なじみなのか。

 ってか、加納は何でんな有名人知ってるんだ?」

「有名ですよ、本当に。矢沢学園中等部のピアニストの話しは。

 それに、私もピアノをやってますし」

 照れたように笑いながら、加納は佐久間にそう説明する。だが、ふと何かに気付いたように観覧席側に視線を向けた。

 それを追うようにして顔を向けた佐久間と崇だが、二人の目にはこれといった異常は見当たらずに、そのままの目線を加納によこす。

 たじろいだように身体を震わせる加納に、佐久間は柔らかな口調で尋ねた。

「どうした?」

「……えっと、あの……」

 言いずらそうに、加納は二人の顔を交互に見やり、まるで言葉を探すようにして小さな声で話し出した。

「……彼女達が、すごい顔で校舎方向に行ったような気がして」

「彼女達って、日野の追っ掛けか?」

 小さく頷いた加納の姿を見、佐久間が慌てたようにして、先ほどまで黄色い声を上げていた少女達の姿を探す。だが、加納の言ったとおりに少女達の姿は影も形もない。

 慌てて崇を見やった佐久間だが、すでに踵を返してフィールドから遠ざかるその背中を確認すると、顔を顰めて溜息を吐き出した。

「危ねぇな、あいつら」

「え?」

 複数形の心配に、加納が小首を傾ける。

 この場合危ないのは、瀬尾野めぐみという少女のはずだ。なのに、何故佐久間は彼女ではなく、追っ掛け達の心配をしたのだろう。

「結構崇のやつ、頭に血が上りやすいんだ」

「そうなんですか?」

「そうなんだよ。

 しっかし、ただでさえ機嫌が悪りぃのになぁ」

 はぁ、と重い溜息を吐き出した後、佐久間は苦々しい笑みを口元に刻みつけた。

 先ほどから苛立たしい空気を放っていた崇だ。もしもめぐみに何かあったら、それこそ何をしでかすか分からない。

「まぁ、あいつがぶち切れないことを祈るしかないな」

「はぁ……」

 佐久間の言葉に、加納はなんとも言いがたい口調でそう返事をかえした。




                ☆ ☆ ☆




 自分よりも数十センチは高い背丈を持つ少女達に囲まれながらも、瀬尾野めぐみは臆するどころか、どこか楽しげに自分の周りを見回した。

 長い、腰以上はある絹糸のような見事な黒髪と、対照的に抜けるような白くきめ細かな肌。目鼻立ちも綺麗に整い、どこか『人形』めいた細工と見た目をしているが、それは生き生きとした瞳によって打ち崩されている。

 そんな年下の少女に、崇の追っ掛けを実質上取り仕切っている少女は、憎々しげに見下ろしながら、めぐみに向けてその怒りを隠すことなくぶつけてきた。

「あんた、日野君とどういう関係よ」

 一瞬意味をつかみ損ねたように、めぐみはきょとんと眼を見開く。

 そんな仕草すらもが可愛らしいが、どうやら彼女達にはそれすらも怒りを増幅させるだけであったようだ。

 少女達の苛立ちと怒りが膨れあがる中でも、めぐみは恐れなど全くないらしく、マイペースな調子で少女達を眺めた。

「崇ちゃんとの関係、ねぇ」

 ふむ、と考え込んだめぐみの様子に、リーダー格らしい少女が威嚇のために壁を叩き付けた。

 存外大きく響いたその音に、うるさそうにめぐみは眉を潜める。

「何で他校生がこんなところにまで来てるのか、って聞いてるのよ!」

 めぐみが『崇ちゃん』と呼んだことが気に障ったのだろう。少女達の顔が一様に険しくなっている。

 自分達が勝手にあこがれている人物に、少女達からみればこんなちんけなガキを相手にしているだけでも苛立つというのに、双方ともに気安く名前を呼ぶ間柄だというのが気にくわない。

 こんなガキに、崇をとられるのは我慢ならない。

 それが彼女達の偽らざる本心だ。

「別に、ただの幼なじみで、ここまで迎えに来ただけですけど」

「ただのですって!どこの世界に幼なじみをここまで迎えに来る奴がいるのよ!」

「どこの世界って、ここにいるじゃないですか」

 にっこりと、極上の笑みをめぐみは浮かべてみせる。

 可愛らしい少女がそんな表情をするのだ。普通ならば見ほれてしまうだろそれだが、少女達の逆鱗に触れるには十分すぎた。

 それどころか、火に油を注ぐように、めぐみががらりと口調を変えると、連発で少女達に言葉を放ちはじめた。

「あたしが、いつどこで何をしようと勝手じゃない。それで誰かに迷惑かけるわけでもないし、あんた達にも関係のないことじゃないの。

 それとも、崇ちゃんに頼まれたとか?まぁ、そんなこと万に一つもないだろうけど。あんた達、勝手に崇ちゃんに纏わり付いたあげくに、崇ちゃんのためー、とか考えて、自分たちの行動を美化どころか正当化してんじゃない?こんな最低行為をしてるって自覚がないわけ?」

 一気にそう言い放っためぐみに、少女達は一瞬ぽかんとした顔つきになるが、言われた内容が頭に入ってくるや、顔を赤くしてめぐみを包囲する輪を縮めた。

「何勝手言ってんのよ!このガキ!」

「偉そうなことばっかり言うじゃないのさ、ガキのくせに」

「ガキガキって、やってることはガキ以下のことしてるって自覚がないなら、一度幼稚園からやり直したらどう」

 少女達の眉尻がその言葉に跳ね上がる。

 それを確認し、めぐみは小馬鹿にしたように口の端を軽くつり上げた。

「笑わせないでよ。さいってーをさいってーて言って何が悪いわけ。

 頼まれもしないのに独断で動いて、それも一人じゃ駄目だからってんでつるんで脅しにかかる。タチの悪い不良じゃあるまいし、自分のやっていることぐらい責任もって一人でやる努力もないんじゃぁ、最低って言われても仕方ないでしょ。

 だいたい、崇ちゃんにかまってもらえないからって、あたしをはけ口にしないでほしいわよね、小心者さん達」

 痛いところを突かれたのか、少女達は鼻白む。

 可愛らしいといって過言ではない容貌を持ちながらも、その口から飛び出してくる言葉は、辛辣どころか毒舌と言っても良いほど過激なものばかりだ。

 言葉で言い返せない分、少女達の顔が怒りで赤く染まっていく。その様を眺めながらも少女達の雰囲気を意にも返さぬように、めぐみは自慢の長い髪をパサリと後ろにたなびかせた。

「このガキ!ふざけるのもいい加減にしなさいよ!」

 リーダー格の少女が怒声とともに右手を振りかざし、めぐみの頬を狙ってそれを振り下ろす。

 だがそれは、ぱしん、と乾いた音を立て、めぐみの頬の手前で止まっていた。

 簡単に少女の手首を捕まえ、心底呆れたと言わんばかりの溜息をつくと、めぐみは軽蔑しきった眼で少女を見つめた。

「そんなんであたしを殴れるなんて……甘く見ないでほしいわよね」

「なっ!」

 かっとなった少女が、思わず怒りのためにめぐみを睨み付けたが、その顔を見た途端息を飲み込む。

 深く澄んだ瞳。それが強く鋭い眼光で、まっすぐに少女を見据えていた。

 威圧される。それは、この年代の少女が持てるようなものではない。

 いつの間にか離されていた手を摩りながら、少女達は一歩後ろに下がりめぐみを見つめていた。

 何かを、言わなければ。

 だがいったい何を言えば、この少女に対抗出来るのだろう。

 力業に出ることも、言葉の暴力も、この少女には関係ない。いや、むしろそこまでやったとしても、この少女はたじろぎもせず堂々とこの場に立っていただろう。

「あんた……」

「めぐみ!」

 突如割って入った声に、少女達はびくりと身体をすくませる。

 恐る恐ると言った風情でそちらに視線を向けた少女達は、この場を一番見られたくない人物に見られたことで小さなパニックに襲われた。

「ひ、日野君、あの、その……」

 焦りと怯えが半々に混ざった声音に頓着することなく、崇は少女達に近づいていく。

 少しばかりばつが悪そうな顔で崇を迎えためぐみだが、怒りの気配を隠すことのない幼なじみの様子にすぐさま憮然とした表情を浮かべて言葉を連ねた。

「まだ、なーんにもしてないからね」

「おまっ、なぁ!」

「それに、勝手にこの人達がつるんできたんだよ。あたし、全然悪くないじゃん」

 ふんぞり返るようにしてそう言い放っためぐみの言葉に、崇は苦々しい表情でめぐみを見つめた。

 確かに、めぐみを取り巻く少女達は何もしていないのは見ても分かる。が、問題点はそんなことではない。

 どうにか怒りをこらえ、崇は短く言葉を放った。

「行くぞ」

 少女達の視線など全く気にもとめず、崇は踵を返してその場から歩き出す。

 慌てたようにめぐみは少女達をかき分け、すぐさまその後を追うために走り出した。

 ぴったりと横にたどり着いためぐみに、崇は射殺さんばかりの鋭い眼光でめぐみを見下ろした。

「お前なぁ……まだ中坊だろうが!少しは自重して行動しろ!」

「崇ちゃんが一人にするのが悪いんじゃない!

 だいたい!あの人達は崇ちゃんの追っかけでしょ!そういう人達の面倒くらい見られなくてどうすんの!」

「オレのせいかよっ!」

「あったり前でしょ!」

「オレはお前の面倒で手一杯だ!」

「何よそれ!あたしがいつ崇ちゃんにめーわくかけたのよ!」

「いつもかけてんだろうが!」

 売り言葉に買い言葉。もしくは、低レベルな子供の口げんか。

 傍から見ればそうとしか見えない睨み合いは、校内で見る崇やめぐみを見ている者がいれば、ぽかんと口を開けて二人の行動を眺めていただろう。

 その証拠に、崇を探しに来た佐久間もまた、呆気にとられたように二人を交互に見つめていた。

「んで、なんでここまで来たんだよ」

「今日、おばぁちゃんがいないから、崇ちゃんの家で夕食取るように言われたの。

 聞いてない?」

 そういえば、そんなことを朝出かける前に、母に言われたような記憶がする。

 いつものことだと右から左に聞き流したのが悪かったのか。崇は乱暴に前髪を引っかき回して、深く息を吸い込んだ。

「ここで待ってろ。今度はぜってぇ動くんじゃねぇぞ、分かったな」

「ほいほーい」

 なんとも楽天的なめぐみの返答に、崇はズキズキと痛む頭を抱えたまま迎えに来た佐久間とともにその場から離れた。

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