17:金曜日 夜 その4
クソ
人生はクソッタレだと思った瞬間=5年前突然始まった戦争/足が動かないと宣告された日/そして今=リンは金髪筋肉なジュンを抱えあげてLED輝く繁華街を歩いていた。
機械化義足/軍事規格の出力=一定上負荷がかかると人工筋肉の収縮力が向上/リンは仕組みを理解はしていないが男性アスリート並みの脚力で大柄なジュンを抱えあげる=ファイアマンズキャリー。
クソ
筋肉どーてい野郎と思っていたケン=総務の林ちゃんとその女友達を連れて夜の街へ消えた。3件目に行くかカラオケに行くか/あんなにモテるとは思わなかった。そういえば林ちゃんは筋肉フェチ=もちろんその友人も同類。
クソ
リンは呪詛を振りまいた。
イケると思った=細身の良い顔立ちの男に狙いをつけるもすぐにそっけない素振りに/なのに、バージンのでこちゃんはチャラ男に手を引かれてどこかへ行ってしまった/ゲーゲーやってた金髪野郎を介抱しているすきに。
「クソ、どいつもこいつも見る目がない■■■野郎ばかり」男たちの人選を頼んだジュンに呪詛を向ける。「こんなに、かわいい、あたしが、さそって、やったのに! 乗ってこない」
酔いつぶれていたジュンだったが薄目を開けた。
「そら、隊長に乗ってヤるのは犯罪っぽくなるからでしょ。あ、でも俺、隊長に乗ってるっすね、アハハハ、あ、ちょ、揺らさないで、胃が裏返るっす」
「だまれパツキン」
「俺、けっこう守備範囲が広いっす。あ、戦闘訓練じゃないっすよ。でも、隊長の『ほら見て、あたしのシックスパック。堅いでしょ』あれは無いっすわ。シックスパックのロリっすよ。キャラ設定盛りすぎっす。あははは」
リン=逡巡/駅前&繁華街の暗渠とドブ川/ここにこいつを投げ捨てて帰ろうか。海に流れ着く頃には正気に戻ってるだろう。
クソ
リンは小さくジャンプしてジュンを抱え直す=大人として/隊長としての責任を果たさないと。
「あした、上段蹴りで頭蓋を割ってやるから覚悟しなさい」
リンはファイアマンズキャリーのままごった返する繁華街を歩いた。小&大の組み合わせに周囲の酔客も道を空けてくれる。
2本の道が1本に合流する地点/新横浜駅のロータリーが見えてきた/人混みに紛れて見覚えのある人物×2。リンの大好きな人がライバルをおんぶしている/コリジョンコースを避けるためにリンは歩調を緩めた。
安堵=でこちゃんは無事だった/アドバイスした通りいい男を確保している。
「悔しいなぁ」
クソ
人生はクソッタレだと思った瞬間=5年前突然始まった戦争/足が動かないと宣告された日/そして今=リンは金髪野郎を担いで涙を拭いている。
「あれぇ~隊長、もしかして泣いてます? お持ち帰りされなくてショックですねーあ、俺はお持ち帰りしないので安心してください」
決定事項=上段蹴りと頭蓋割り。
リンは目をぎゅっとつむって涙を払った。
「でもねー、俺っちは隊長に感謝してるんスよ」ジュンはぐらぐらと揺れながら朦々と話した。「5年前、常磐が保安部員を募集してたとき、隊長は説明会の会場入口でためらってた俺っちのケツを文字通り叩いて励ましてくれたじゃないっすか。あれーもしかして忘れちゃったんですか」
忘れるわけがない───半年で機械化義足の適合訓練を終えて説明会に参加した/新しい仲間に会えた/あのとき病院の窓際から見た魔法使いにも会えた=あたしの希望の象徴。
「実は、ニシさんは俺っちの命の恩人なんすよ。まあ、当の本人は忙しすぎて覚えてなかったっぽいですけど。この仕事を始めて、毎度のこと危険な目にあって彼女もできないし。でも俺っちはこの仕事が好きだし、隊長はニシさんと一緒になって幸せになって欲しいっす。だってふたりとも俺の恩人なんっすから。まじでまじで、隊長のこと応援しているんで」
余計なお世話だ、まったく。