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054_別離


 積もり始めた雪を散らし、クシナが倒れる。


 その光景は、夢を見ているかのようだった。


 飛び切りの、悪い夢を。


 しかし夢でないことを示ように、白い雪が溢れる血に赤く、赤く染まっていく。


「クシナ クシナ!」 

 

 名を叫び、必死にもがく。


 父の鬼道に縛られた体は、抵抗を許さず動かない。


 でも、そんなの構うものか。


 手足が千切れようと、ここで動かずにどうする。


 痛みを堪え、全身に力を込めた。


 体の内側から響く、ぶちぶちと何かが切れる音。


 歯を食い縛りなおも抗っていると、僅かに体を動かすことができた。


 倒れたクシナとの距離が、少しだけ縮まる。


 そのことが、更なる力となった。

 

 クシナへ近付く程力が湧き、体は自由を取り戻していく。


 身を屈め血塗(ちまみ)れのクシナを抱き起こす頃には、鬼道の呪縛から完全に逃れていた。


 一方で、逃れられない現実が突き付けられる。


 短刀は、クシナの胸に深々と刺さっていた。


 明らかな致命傷。


 助かる見込みは、ない。


 どうして、こんな真似を……。


 頭では分かっている、クシナのを想いを。


 けれど、僕の想いとは違う。


 僕はクシナを犠牲にしてまで生きたいと思わないし、思えない。


 それなのに…………。


 気が付けば、涙が溢れクシナの顔を濡らしていた。


 それが呼び水になったのか、(おもむろ)にクシナの瞼が開く。


 紅い瞳が僕の姿を捉えると、伸ばされた震える手がそっと頬に触れ……落ちる。


 冷たくなった手を宙で掴むと、クシナは微かに微笑み、色をなくした唇で声なき言葉を(つづ)った。


 

 “生きて、スサノオ”



 最期にそう告げ、クシナの瞳から光が消える。


 死という、残酷な現実を残して。


 僕は押し寄せる悲しみに耐え切れず……。


「うっ うあああぁぁぁ!!!」

 

 生まれて初めて激情に駆られ、慟哭(どうこく)した。


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