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053_死合


 庭の中央に移動させられたあたしの左側にスサノオが、右側にはツクヨミが立っていた。


 青ざめた顔のスサノオに対し、ツクヨミは今直ぐでも始めたいのか、興奮気味に顔を赤くしている。


 兄妹で殺し合うことを、何とも思っていないようだ。


 スサノオは、きっと苦しんでいるだろう。


 自分のことより、どちらが勝ってもあたしが命を奪うことに違いはなから……。


 それが自惚れでないと、今のあたしには断言できる。


 四年も一緒に暮らしていたのだ。


 伊達に側で見詰め続けていない。


 スサノオの()()を、察する程に。


 あたしの()()が、強くなる程に。


「これを機に次へ至るか、あるいは……」


 意味深な言葉を呟く、御当主様。


 しかしそれを疑問に思う間も無く、死合が始まる。


 事前に教えられた(うた)を、示し合わせたように口にするスサノオとツクヨミ。



 ““忘るべし””


  ““その身に宿る””


   ““(とうと)きを””


    ““己が(しろ)にと””


      ““命ずるままに””



 五節の言葉を詠い終え、


「「鬼道之破、心操!!」」


 発動した鬼道が、あたしの頭を締め付ける。


「っ!」


 御当主様の時と違い、襲ってくる吐き気と痛み。


 力量の違いによるものかは分からないけど、これはきつい。


 スサノオに心配かけぬよう平静を装おうとしたけど、状態は少しずつ悪くなっている。


 それも、最悪の方向へ……。


 体調だけなら、気合いで我慢できる。


 けど、鬼道の効果には逆らえなかった。


 体が向きを変え、一歩一歩足を進ませる。


 痛みを堪えるような表情の、スサノオの許へ。


 これは最初から、スサノオにとって分の悪い死合。


 ツクヨミの言う通り、スサノオは今も妖術や鬼道を使えない。


 四年もの間、侍従頭やメイに教わる傍ら毎日術の練習もしていたけど、発動することはただの一度もなかった。


 拳を握り締め天を仰ぐ姿に、胸が痛んだのを今でも鮮明に思い出せる。


 現実は厳しく、努力が実を結ぶとは限らない。


 それでも、残るものはある。


 妖力の無いあたしにもはっきりと分かる程、スサノオが纏う妖力は増えていた。


 いつの日か、その力が花開くことを夢見たけど……ここまでか。


 踏み止まるべくツクヨミの鬼道に抗ってみたものの、歩みを遅くするので精一杯。


 距離は着実に縮まり、ついにはスサノオの眼前に到った。


「クシナ……」


 目に焼き付けようとするかのごとく、黒い瞳が瞬きすらせずあたしを見詰めている。

 

 これが最期だと、言わんばかりに。


 両手で握った短刀を、あたしが振り上げる。

 

 苦悩の色が濃くなる、スサノオ。


 自分ではなく、あたしのことを想って……。


「ごめんね」


 ぽつりと、溢す。


 かつて交わした、側にいるという約束は守れそうにない。


 ツクヨミの鬼道に敢えて逆らわず、短刀を振り下ろす。


 そしてツクヨミが勝利を確信し、気を緩めた一瞬の隙にありったけの意志を込め、あたしは切っ先の向きを変え、自分の胸へ突き立てた……。


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