052_儀式
四年ぶりに見る御当主様は、衰えを感じさせないどころか、より威圧感が増していた。
大柄な体は引き絞られ、捩じり上げた荒縄のような印象を受ける。
対してツクヨミは、目を見張る程の美人へと変貌していた。
濡羽色の髪は腰まで伸び、凹凸のはっきりとした体は、服の上からでも色気を隠し切れていない。
艶然と微笑む唇には紅がさされ、切長の潤んだ瞳は見る者を否応なく惹き付ける。
同性のあたしでこれなら、異性が目にしたら狂い求めてしまうのではないだろうか。
少し不安になりちらっとスサノオを見たけれど、表情を固くするばかりで狂う様子はない。
まあ、双子の妹だしね。
変なところでほっとするあたしを他所に、会話が続けられる。
「お兄様とは四年ぶりにお会いしましたが、未だ鬼道はもとより、妖術の一つも使えないとか……わたしく、ツルギ家の者として恥ずかしさを禁じ得ません。けれど、片角の咎者なら、仕方がないのかもしれませんね。その無能ぶりも」
「なっ!」
あんまりな言い方に身を乗り出し、それをスサノオに止められた。
どうして、という言葉ごとその落ち着いた瞳に。
上げかけた腰を戻したところに、御当主様が唐突に告げた。
「ツルギ家は代々、元服に際し子を見定めきた。その力と、資質を」
独白のようでいて、言葉を発することを許さぬ口調。
静かな圧力が、呼吸一つするのも難しくさせる。
それはツクヨミも同様のようで、苦しそうに胸を押さえていた。
「これよりお前達を試す……鬼道之破、心操」
「「「っ!?」」」
刹那、頭の中を何か悍ましいものが駆け巡った。
それはほんの一瞬の出来事で、気のせいかと思ったけど……。
「体が、動かない?」
「クシナっ!」
「お父様!?」
しかも、これはどうやらあたしにだけ起きているのではないらしい。
隣にいるスサノオが心配そうに叫ぶけど、横目でこちらを見るのが精一杯のようだった。
片や、ツクヨミは取り繕う余裕もなく動揺していた。
「これが鬼道之序に次ぐ、破の力。対象を縛り、操る」
ツクヨミの声に反応も見せず、御当主様が淡々と続ける。
そして告げた力を示すように、あたしの体は自分の意志と関係なく動き、スサノオから血を採るために使う短刀を持って来させられた。
「死合え。ただし、武器は操ったこの者に限る」
御当主様は、何を言っているのだろう……。
スサノオへ情を抱いていないのは、分かる。
それでも、兄妹で殺し合わせるなんて……。
加えてそのための武器が、どうやらあたし。
あたしを操り、相手を殺せと。
誰かを手に掛けるなんて、したくない。
しかも、相手がスサノオだったとしたら……。
最悪の光景が、脳裏を過る。
血の気が引き、この場から逃げたいと思ったけど体は言うことを聞いてくれず。
無情にも、その時は刻一刻と近付いていた。




