046_血の役目
円陣を組み、無闇に倒さず防御へ専念することで、あたし達は一息つくことができた。
外周に居る人は忙しそうだけど、妖術の援護もあり、突破される心配はなさそう。
「これまでの戦いから、彼奴らは死なず、倒せば更に力を増して復活することが分かった。解せぬのは、その力の源よ。根や幹と繋がっている訳でもなく、どこから力を得ているのか……さすがは第四階梯、畜生道の魔物よな」
御当主様が、顔に笑みを浮かべ敵を称賛する。
これは、まだ余裕がありそうだと頼もしく思えばいいのかな?
それとも依然として対処方も分からぬ相手に、どうすればいいのかと頭を抱えるべき??
判断しかねていると、御当主様が更に続けた。
「力の出処は不明だが、倒す際に他の魔犬の動きが鈍くなるのを確認しておる。しかもこの場にいる全てに」
「でしたら一度に全て屠ることができれば、あるいは?」
側に控えていたツクヨミの問いに、御当主様が頷く。
「それで倒せぬのなら、次はこの土地そのものを何とかする必要があろうな」
土地そのものをどうにかって、可能なんだろうか。
あっ、前に泥田坊との会話で都長が小山を消滅させたとか言っていたっけ。
途方もない話に、上手く想像できないけど。
「見たところ、倒れた際の影響が彼奴らに出るのではごく僅か。ゆえに、攻撃は儂とツクヨミの鬼道で行う。他の者は現状を維持せよ」
「「「はっ!」」」
戦いを続けながらの即答に、御当主様が満足気に頷く。
「儂が十五、残りは任せる」
「分かりました」
「機は合わせてやる。だがその前に、スサノオ」
重要な役を任され嬉しいのか、上気するツクヨミの頬。
それが、スサノオの名を聞いた瞬間すっと冷める。
「魔犬の強さに偏りがある。お前の血で弱らせ、ツクヨミを援護せよ」
「そんな、お兄様に頼らずとも私だけでっ!?」
反論するツクヨミが、御当主様の一睨みに冷や汗を浮かべ押し黙る。
「彼奴らは第四階梯、万全を期す。ゆえに常であれば薄めて用いるが、此度はそのまま使え。よいな」
念押しに、
「はい……」
ツクヨミが悔しそうに返事をする。
それを聞き、あたしは訳が分からなかった。
血で弱らせる?
一体何を言っているのかと思い、不意にブンブクさんが魔物へ投げ付けた赤黒い液体のことが脳裏を過ぎった。
赤黒い、液体……まさか。
そういえば、以前侍従頭が口にしていた。
スサノオから血を採るのは、ツルギ家と御国のために必要なことだと。
その目的が、魔物へ対処するためだったなんて……。
愕然とするあたしに、思いがけず御当主様から声が掛かった。
「クシナといったか。お前はスサノオの血を採り次第、兵に託せ」
有無を言わせぬ口調と、ツクヨミへ向けられたのと同等な圧を前に、あたしはただ頭を下げることしかできなかった。
今週もお付き合い頂き、ありがとうございました。
この物語は、あと二週で完結となります。
引き続きお読み頂けましたら、幸いです。




