表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/56

033_冷たい再会


 巡察のための準備を整え、侍従頭が迎えに来たのが卯月(うづき)の下旬。


 スサノオだけが向かうものと思い込んでいたあたしは、世話役も同行すると知り多いに慌てた。


 まあ、旅支度する程の物がある訳じゃないので、主に気持ちの面で。


 離れの生活に、すっかり慣れたせいかもしれない。


 あたしには里で暮らしていたよりも快適で、そして穏やかな日々だったからね。


 ただ、()()に用いている物を壺以外持ってくることを厳命されたことには、少々首を傾げたけど……。


 竹垣の扉を開けスサノオと一緒に外へ出れば、半年近く前に見た立派な庭が、春の色に変わり広がっていた。


 特に目を引いたのは、整然と咲き誇る紫色の藤の花。


 庭の小道へ沿うように植えられたそれは、春の柔らかな陽射しと相まって、夢幻の世界へと(いざな)っているかのようだった。


 しかしそんな一時は、門の前で待ち受ける御当主様の姿を見て泡沫(うたかた)の如く消え去る。


 まだ距離はあるんに、伝わってくる威圧感が凄い。


 無意識に唾を飲み、腹を括って進もうとするあたしの袖を、スサノオが掴む。


「どうしました?」


 外向きの言葉遣いで尋ねると、スサノオは足を止めじっとどこかを見詰めていた。


 視線の先を追うと、そこにはどことなくスサノオに似た、長い黒髪の美しい少女が立っていた。


 黒の装いは御当主様やスサノオと一緒だけど、スサノオと違い銀糸で家紋が刺繍されている。


 御当主様は、金糸の家紋。


 スサノオだけ、家紋がない。


 スサノオが御当主様の子供だと、あたしは本人から聞いた。


 だとすれば、家紋のある衣を許されたあの少女も……。


 そう心の中で思っていると、スサノオの視線に気付いたのか、少女がゆったりとした足取りでこちらへ近付いてきた。


 背丈はあたしと変わらない。


 ただその容姿はスサノオと違い、中性的ではなく明らかに女性的。


 幼さこそ残るものの、切長の目に細い眉、少し厚めの唇が蠱惑(こわく)さを醸し出している。


 そして何より違うのが、額から生える二本の角。


「お久しぶりです、()()()。まだ生きていらしたんですね」


「……ツクヨミ」


 ツクヨミと呼ばれた少女が、棘のある言葉をぶつけてくる。


「そういえば、近頃刀術を習い始めたと世話役が(さえず)っていました。いまだ妖術を使えないくせにその無駄な努力、頭が下がります」


 細めた目に侮蔑の色を濃くし、薄ら笑いを浮かべながら、最後だけ敬うような台詞で締める。


 御当主様は、何も言わない。


 似たような扱いは、あたしも里で受けたことがある。


 けどあからさまにスサノオが(さげす)まれる光景は、自分の時以上に怒りを覚えた。


 感情の赴くまま、一言物申そうとした刹那。


 スサノオがあたしの袖を強く引き、首を横に振った。


「何も言い返さないとは……やはり一族の恥晒し。この巡察の間、不用意に牛車から出ないでください。家名に泥を塗られては困りますから」


 そう言い残し、ツクヨミが元の場所へと戻って行く。


 スサノオは、少し間を置いてからツクヨミの後を置い、御当主様の許へ向かった。


 離れ際、小さな声で『ありがとう』と言い残し……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ