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030_冬の夜


 お腹いっぱい餅を食べた、その日の夜。

 

 雲のない夜は、空の冷たい空気が容赦なく地上へ降りてくる。


 ここより北にある里程ではなくとも、その寒さは中々堪える。


 あたしは土間にある(むしろ)を体へぎゅっと巻き付け、眠気の訪れをじっと待ていた。


 繰り返す深い呼吸へ、意識を向ける。


 その意識すら曖昧になりかけた、微睡みの刹那。


 不意に、微かな足音が響いた。


 目だけを上へ向けると、暗がりの中に小柄な影がぼうっと浮かんでいる。


 今夜の月は、折れそうな程に細い三日月。

 

 けど冬の澄み切った空気の中、細やかな光でも明るさとしては十分だ。


「どうしたの? スサノオ」


 筵を退けて体を起こし、影の主へと声を掛ける。


 逃げ出した暖気に震えそうになる体は、意志の力で抑え込んだ。


「そこ さむいよね」

 

「温かくはないけど、平気だよ」


 嘘偽りなく、そう答える。


 ただ当然のように伝えたことが、逆にスサノオの何かに触れたらしい。


 俯き、握る拳を微かに震わせている。


「スサノオ??」


 心配になり伸ばし掛けた手を、途中でスサノオに掴まれた。


「こっち」

 

「えっ、スサノオ!?」


 引っ張られるまま、土間から上がり連れて行かれたのは、スサノオの布団。


 スサノオは掛け布団を捲ると、ぽふぽふと叩いた。


 眠れず、寝物語でも語れというのだろうか。


 大人しく座りながら、母から知識として叩き込まれた物語を記憶の中から掘り起こす。


 けど、あたしの予想をスサノオは見事に覆してくれた。


「ねよ いっしょに」


「はっ?」

 

 ちょっと待って、今何と言った??


 意図を理解し切れず、呆けた顔を晒すあたしにスサノオが続ける。


「ここ さむくない」


「ああ……」


 スサノオは、あたしのことを案じてくれたんだ。


 ひょっとすると、以前から。


 支え合うような暮らし方に、慣れてきたのは事実。


 でもさすがにどどっ、同衾(どうきん)はまずいんじゃないだろうか?


 いや、疑う余地もなくまずい。


 たとえ健全なものだとして、スサノオの幼気(いたいけ)な容姿はある意味危険だ。

 

 そして侍従頭にばれたら、もっと危険だ。


「だめ?」


「ぐっ!」


 感情の起伏が少ない分、物寂しい夜にくらうスサノオの上目遣いの威力は絶大だった。


 一緒に暮らし色々慣れてきたけど、これだけは別。


 理性と感情がぶつかり合い、出した結論は布団の隣にスサノオの半纏(はんてん)を敷き寝るというもの。


 幸い半纏は二枚あり、上下に並べれば小柄なあたしは十分収まる。


 スサノオは不満気だったけど、筵よりずっと温かいと伝えなんとか納得してもらった。

 

 やれやれ、とんだ冬の夜になった……。


 でも半纏の温かさは格別で、体はいつでも寝れる状態に。


 一方、頭は冴えていた。


 どうしよう、全く眠くならない。


 理由は分かっている。


 この状況を、意識してしまっているからだ。


 それでも目を閉じていれば、自然と眠気が訪れるはず……。


 里山で獣に襲われ逃げ帰った日の夜なども、そうしていれば昂った心が静まり、いつの間にか朝を迎えていたものだ。


 なのに思わぬ()()が登場し、驚きに目を見開いてしまった。


 深夜の刺客は、隣の布団から伸ばされたスサノオの手だった……。


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